あらすじ
糸子(尾野真千子)がパッチ屋に来て半年。相変わらず雑用で終わる毎日。しかし皆が帰った夜、ミシンを使えるのが至福の時だ。まもなくパッチの裁断を教わり始めた糸子だが、祖父・清三郎(宝田明)が偵察に来て、その厳しさに衝撃を受ける。清三郎は糸子を高級パーラーに連れ出し、パッチ屋を辞めて自分の紡績工場で好きなだけミシンを使うように誘う。4月、奈津(栗山千明)の思いをよそに、泰蔵(須賀貴匡)の祝言が行われる。
16回ネタバレ
枡谷パッチ店
昭和3年(1928)
休憩室
(ウグイスの鳴き声)
さよ「ちょっと! 糸ちゃん 今の聞いた?」
糸子「ん?」
さよ「ウグイス! ウグイス 鳴いたで 今!」
糸子「へえ~ ウグイス?」
さよ「うん。 どこに いてんねやろ? 庭かの?」
糸子「ごちそうさんでした!」
仕事場
<春になりました。 うちのパッチ屋修業も あっちゅう間に半年が過ぎました>
坂本「おい それ済んだら 金物屋 行って これ 買うてこい。」
糸子「へえ。」
田中「こら! これ しもとかんかい!」
糸子「へえ すんません!」
<毎日 怒られてる間に終わります>
夜
(ミシンの音)
(漬物を勢いよくかむ音)
山口「やっかましいわ!」
糸子「え?」
山口「はぁ~。 くっそ 腹 減った!」
糸子「えっ もう ええんですか?」
山口「お前な その きったない手で ミシン 触んなよ!」
糸子「分かってます。 お疲れさんでした。」
<遊んでるミシンで思いっきし遊べる。 うちの一番好きな時間です>
糸子「どれ 縫おうかなあ。」
木之元電キ店
妹達「早く早く! ここ ここ!」
糸子「やあ ほんまや~。 何や これ?」
静子「姉ちゃん これ ほんまに 歌 歌うんか 聞いてみて。
光子「聞いて 聞いて。」
清子「うん 聞いて。」
糸子「すんませ~ん。」
<木之元のおっちゃんは 電気屋を始めてから ほんまに お嫁さんを もろたんやけど そのお嫁さんが 何や怖いよって 前みたいに気楽に 店に 入られへんようになりました>
糸子「あの… これ ほんまに歌うん?」
(ねじを巻く音)
♬~(オルゴール)
糸子「歌てるなあ!」
「わあ~ 歌てる!」
木之元「いらっしゃい! なっ ええやろ? それ。 な?」
糸子「おもろいなあ おっちゃん。 これも 電気なん?」
木之元「いや それ 電気ちゅうねん。 オルゴールちゅうんや。」
糸子「これも 電気 違うん?」
木之元「うん。」
糸子「いつ 電気 置くん?」
木之元「電気なあ おっちゃんも はよ置きたいんやけどな やっぱしどれもこれも 高いさかいな なかなか 手ぇ出えへんやし。」
糸子「あれは? あの… ラジオ!」
木之元「ラジオか! そやねん! ラジオも置いたろ 思てんやけど 高いさかいなあ。」
<木之元のおっちゃんの 電気店には まだ 電気は 一個も置かれてません。 小原呉服店はとゆうと…>
小原家
小原呉服店
善作「この とんぼ柄も かいらしい。」
<もうかってもないけど いよいよ 畳まんならん ちゅうほどでもないらしい>
<うちが働きだしてから 1個 変わったんは…>
玄関前
糸子「あ お父ちゃん 集金?」
善作「せや。」
糸子「うち 行こか?」
善作「アホか 誰やと思てんねん。」
<お父ちゃんが 自分で 集金に行くようになった事です>
枡谷パッチ店
玄関前
(クラクション)
仕事場
田中「小原!」
糸子「へえ!」
田中「昼から 裁ち 教えるで。」
糸子「えっ 裁ち! ほんまですか?」
田中「おう。」
山口「そら ちょっと早すぎるんと ちゃいます?」
坂本「何がや?」
山口「いやいや 2年目のわしが つい こないだから やっと 教えてもうてるとこやのに 何で こいつが もう 裁ち…。」
(たたく音)
山口「痛い!」
田中「そら お前の頑張りが 足りてへんのじゃ。」
山口「え? 痛い!」
田中「小原かて ボンクラなりに お前よりは 頑張ってるちゅうこっちゃ。 せこい妬み事 言うてる暇あったら 努力せんかい 努力!」
(たたく音)
山口「お前 何 笑ってんねん?!」
玄関前
仕事場
田中「はさみ 浮いてる!」
糸子「はい。」
田中「まっすぐ まっすぐ…。 まっすぐ。」
(たたく音)
糸子「痛…!」
田中「何回 言わせんねん!」
糸子「はい。」
田中「そう…。 曲がってる!」
(たたく音)
糸子「はい!」
玄関前
清三郎「お~い!」
「はっ。」
清三郎「菓子折り 買うてこい どっか その辺で…。 10個でも20個でも なんぼでもええ ほら はよ急げ!」
「はい!」
清三郎「はぁ…。」
仕事場
さよ「まあまあ まあまあ!」
清三郎「いやいやいや ハッハッハ すんませんな 無理 言いまして。」
枡谷「いえいえ せっかく おじいさんが 会いに来てくれたんやさかい 何ぞ おいしいもんでも 食べさせてもらい。」
糸子「ほんま すんません。 せや うち 水がめんとこに バケツ 置きっぱなしや。」
さよ「かめへん! 山口君に言うとくよって。」
玄関前
清三郎「どうも。 じゃあ 皆さん。 さあ。 では 失礼致します。」
糸子「さいなら。 明日は 朝早く 来ますよって。」
枡谷「よしよし… うん。」
パーラー・浪漫堂
(鐘の音)
(シャンソン)
糸子「ん? フルーツポンチて 何やろう? ん? 3食アイスクリーム? アイスクリームが 3食? え?」
清三郎「すまんけどな フルーツポンチに3食アイス。」
糸子「え どっちも ええの?」
清三郎「おう。 ほかには ええんか?」
糸子「え ど どないしよ! ちょっと待って う~んとね…。 え~っと… この… この…。」
清三郎「うん?」
糸子「ホ… ホ…。」
2人「ホットケーキ。」
糸子「ウフフ… それ!」
清三郎「ハハハハハ…。 ほな ホットケーキも。 私は コーヒーな。」
「かしこまりました。 お待ち下さいまし。」
♬~(シャンソン)
清三郎「フッフッフ どうや うまいか?」
糸子「んま~い!」
清三郎「『んま~い』か?」
糸子「う~ん。」
清三郎「ほうか! ハハハハハ…。」
糸子「あっ ええなあ。 うちも前掛け あんなヒラヒラ つけよかなあ。」
清三郎「で 糸子 どないや?」
糸子「うん?」
清三郎「ほら パッチ屋の修業は。」
糸子「うん ごっつい楽しい!」
清三郎「ほうか…。」
糸子「うん。」
清三郎「う~ん。」
糸子「最初は しんどかったけどな 慣れた。 今日な 初めて 生地の裁ち方 教えてもうてんで。 見てたら 簡単やのに 自分で やったら ごっつ難しいねん。 すぐ ゆがんでしもてな 物差しで ビシッと たたかれてしもうた!」
清三郎「ちょっと 見せてみい。」
糸子「うん そんな大した事ない。 ウフフフ…。」
清三郎「糸子…。」
糸子「ん? 何? おじいちゃん。」
清三郎「おじいちゃんとこ 来えへんか?」
糸子「うん?」
清三郎「いや ミシンなんかな おじいちゃんとこの会社で 山ほど使うとんねん。 お前が そんなに ミシンあるとこで 働きたいんやったら うちで 雇うたる。 な? 神戸 おいで。 おじいちゃんとこ おいで。 ミシンもな 自分が好きな時に 使いたいだけ 使うたらええ。 どや?」
糸子「おおきに おじいちゃん。」
清三郎「ほうか。」
糸子「そやけど… ええわ。」
清三郎「何でや?」
糸子「何でやろな? うちな 勉強になる方がええねん。」
清三郎「勉強?」
糸子「うん。 おじいちゃん うちに 甘いさかいな うち すぐ甘えてしまうと思うねん。そしたら 勉強にならへんやろ。 けど 今の店は 誰も うちに甘ないよって いっつも怒られんように 必死やねん。 しんどいけどな けど 必死でやらんと あかん方が 勉強になると思うねん。 精いっぱい勉強して 一人前 なったら おじいちゃんとこ 行くわ。」
清三郎「お前… お前 誰に似たんや?」
糸子「ん?」
清三郎「親が どっちも あんなにアホやのに 誰に似て そんな偉い事 言うねん 全く。」
糸子「う~ん… おじいちゃん!」
清三郎「そんな… 口まで 上手うなって…。」
糸子「ふ~ん フフフフフッ!」
吉田家
庭
(ウグイスの鳴き声)
志津「奈津! ほれ あんたも ちょっと 挨拶しにおいで。」
奈津「嫌。」
志津「ちょっとだけやさかい おいでって。」
奈津「嫌や。」
志津「何が 嫌なんよ? 勘助ちゃんも 小原さんとこの子も 来てんで。 小学校 一緒やったやろ? ちょろっと 挨拶だけしとき。 ほら おいで。」
奈津「嫌や! 嫌なもんは 嫌なんや! 挨拶なんか うちは 死んでも行けへん!」
(泣き声)
志津「何や? 何 泣いてんよ?」
奈津「嫌や! 嫌や! うちは 嫌や~!」
大広間
志津「よう分からんわ あの子 何 泣く事 あんねん…。」
<4月12日 大安吉日>
<吉田屋の大広間で 泰蔵にいちゃんの祝言が 挙げられました>
善作♬『高砂や この浦船に 帆を上げて』
<春のお天気の ほんまにほんまに ええ日ぃでした>