ドラマダイジェスト

連続テレビ小説「カーネーション」第19回「誇り」【第4週】

あらすじ

桝谷パッチ店を辞めさせられた糸子(尾野真千子)。落胆している糸子に、善作(小林薫)は「早く次の働き口を探せ」と言う。しかし仕事は、なかなか見つからない。ある日、岸和田に洋服を着た美しい女性が現れた。根岸良子(財前直見)というミシンの販売員で、東京のメーカーから派遣されて営業に来たのだ。根岸は、木之元電キ店の店先で実演販売をすることに。糸子は根岸の美貌や、掲げる洋服を目を輝かせて見つめる。

19ネタバレ

枡谷パッチ店

昭和5年(1930)

仕事場

枡谷「ほんま すまんねんけど…。 店 辞めてくれへんか。」

糸子「え?」

枡谷「すまん。」

糸子「何で? 何でですか? ミシン? ミシン使い過ぎですか?」

枡谷「いやいや そんなんと…。」

糸子「すんません 気付かんと! すぐ やめます。 そんな 店に迷惑かけてまで アッパッパなんか 作らんでええんや…。」

枡谷「ちゃう! ちゃうんや! そこ 座り。 不況って 知ってるか?」

糸子「…はあ。 何や 世の中が みんな もうからんようになるやつ…。」

枡谷「うん。 今 その不況ちゅうのが 大変なんや。 うちの店も 正直 かなり しんどなってもうてる。 誰かの給料 削らんと やっていけんところまで 来とんや。 けど 所帯持ちの男は 辞めさせられへん。 順番から言うたら 悪いけど お前になってまうんや。 すまん!」

<誰も 悪ない>

玄関

糸子「お世話になりました…。」

枡谷「ご苦労さん。」

さよ「堪忍なあ…。」

<誰も 悪ない>

小原家

居間

善作「クビ?」

糸子「うん。 けどな… 店は 悪いないねん。 不況なんや。 しゃあないねん。」

千代「そうやなあ。 そら そうや。」

<そう言うてくれたんは お母ちゃんだけで>

千代「偉かった。 よう頑張ったなあ。」

<お父ちゃんと おばあちゃんは 他の事を考えてるみたいでした>

千代「偉かった 偉かった。 うん。」

<何の事を考えてたかとゆうと 家計の事です>

小原呉服店

善作「ええか 一日も早う 雇うてもらえるとこ 見つけえ。」

糸子「はあ。」

善作「お前 何で わしが 女学校やめさせて パッチ屋で働かせたったか 分かるか?」

糸子「それは… うちが 本気やったさかい…?」

善作「ちゃう!」

糸子「え?」

善作「金が ないからや。」

糸子「ええ?!」

善作「ええな? お前も もう いっちょまえの働き手や。 こうなったら お父ちゃんも 腹を割って話したろ。」

糸子「ええわ。」

善作「お前が考えてる以上にな うちは 苦しいねん。 お前が 女学校やめて 学費が浮いたから 静子が 女学校 行けるようなった。 パッチ屋で働いて 給料が入ったから 清子も行けるようになった。」

アッパッパが売れたから 来年 光子も 行けるようになってる。 これで 給料 アッパッパも のうなったら どうなる? 清子と光子が 行かれへんようになる…。」

善作「そや! そないやん。」

町中

糸子「ミシン 使えます! 何でもします!」

「うちは 雇えんわ。」

糸子「頼んます! 雑用でも何でも しますよって!」

「あかん あかん。 他 探し。 おっちゃん 忙しいんや。」

木之元電キ店

善作「ハッハッハッハッハ…。」

木之元「分かった。 分かったど。 これや。 王手!」

「やあ~!」

善作「これが 見えへんかっちゅうのや!」

木之元「ちょちょちょちょ… ちょっと。」

小原家

玄関前

千代「あっ 糸子! ん? 何? 何や 若い男の人が 訪ねて来てんで。」

糸子「若い男の人? 誰?」

千代「いや あんた そういう人なんか?」

糸子「どういう人?」

千代「いや~ あんた もう!」

小原呉服店

糸子「山口さん?!」

山口「よう!」

糸子「どないしたんですか?」

山口「え あ… 見舞いや。」

糸子「見舞い?」

山口「お前 クビなってんて?」

糸子「おちょくりに来たんですか?」

山口「そんな… そういう訳ちゃうがな。」

千代「ちょい 糸子。」

糸子「何?」

千代「外で お話ししといで。」

糸子「え?」

千代「お父ちゃん 見つかったら また ややこしいさかいな。」

糸子「え?」

町中

山口「あんなあ 大将なあ。」

糸子「はあ。」

山口「ほんまは お前やのうて わしを クビにしたかったんやと思うで。」

糸子「はあ?」

山口「絶対そうや。 お前の方が わしより 仕事できるしな。」

糸子「そんな事… ない思うけど。」

山口「そやのに お前がクビになりよった。 え? これ どうゆうこっちゃ!」

糸子「知らんがな!」

山口「女やからやで。」

糸子「え…。」

山口「男のわしより お前の方が クビにしやすかったんや。」

糸子「そら そうかもしれん。」

山口「お~い 悔しがれや お前 もっと!」

糸子「はあ?」

山口「お前の方が わしより 仕事できんのに 女やからちゅうだけで 先 クビになったんやで?!」

糸子「分かってますわ。 そんな しつこう言われんかて!」

<何が言いたいんじゃ こいつ!>

山口「負けんなや。」

糸子「はい。」

山口「ほなな。」

糸子「あの…。」

山口「ん?」

糸子「ひょっとして それ 言いに来てくれたんですか?」

山口「ちゃう!」

小原家

子供部屋

<今まで 新聞なんか よう読んだ事もなかったけど その日ぃだけでも 不況の字は 36個もありました>>

糸子「だあ! あ~。 こんなん 夜 読んだら あかん。 朝 読もう。 朝! だあ!」

居間

妹達「おはようさん。」

善作「おう。」

糸子「あんたら もう学校か?」

静子「そうや。 昨日で 夏休み 終わりやもん。」

糸子「そうか…。」

静子「うん。」

善作「ほな いただきま~す。」

一同「いただきま~す。」

<夏も終わって これからは アッパッパも もう売れんようになります。 はよ どないか せな>

糸子「今日は 夏木町の方 行こう思てんねん。」

善作「ほうか。」

糸子「うん。 行ってきます。」

ハル「うん。 行っちょいで。」

千代「行っちょいで。」

糸子「行ってきます。」

千代「気ぃ付けて。」

町中

(ハイヒールの靴音)

小原家

小原呉服店

木之元「毎度! 糸ちゃん いてるか?」

善作「おらん。」

木之元「何や どこ 行ったんよ? パッチ屋 クビになったん ちゃうん?」

善作「新しい仕事 探しに行ってんや。」

木之元「ははあ~。」

善作「あのな 世の中の人ちゅうのはな そんな お前みたいに ヘラヘラ ヘラヘラしてへんねん。」

木之元「ふ~ん ほうかあ。 せっかく 気晴らしに ええもん 見せちゃろ思たんやけどんなあ。」

善作「ちょっと待て!」

木之元「あ?」

木之元電キ店

木之元「先生 どないですか?」

根岸「あら お帰りなさい。」

木之元「はい。」

根岸「いかがでしょう? ミシン ここに 置いてみたんですけれど。」

木之元「ほう なるほど。 ええんちゃいますか~!」

根岸「フフッ 私が ここに座って お客様が こちら側。 私が こう ミシンを使って お見せしますでしょう。 あ その時は 奥様にも いろいろ お手伝い頂いて よろしいでしょうか?」

節子「えっ うちですか?」

木之元「そらもう! なんぼでも 使うちゃって下さい。」

根岸「助かりますわ! よろしくお願い致します。」

木之元「あ 先生。 小原さんとこの 嬢ちゃんも ミシン 使えますんやで。」

根岸「えっ? まあ お嬢様 おいくつなんですの?」

善作「え? あ はい 16に… え? …17やったかな?」

根岸「まあ 17歳。 偉いわ 若いのに。 洋裁に 興味をお持ちなんですの?」

木之元「いや 先生 小原さんとこは 呉服屋やさかい 洋裁は ご法度…。」

善作「要らん事 言うな。」

根岸「おうちが 呉服屋さんでしたら 将来 ますます有望ですね。 お嬢様 いいお着物 たくさん見て お育ちになってるでしょうから。」

善作「そら そうですわ。 目ぇだけは 肥えさせたつもりです。」

根岸「私は 洋裁の勉強ばかり してまいりましたでしょう。 ですから 着物の方は まだまだ これからなんです。 着物だけじゃありませんわ。 日本舞踊に お能 謡 習いたい事が たくさんで 困っております。」

善作「謡?」

木之元「謡ですか? ほんなら 先生 小原さんに 教えてもろたら よろしいやん。」

根岸「え?」

木之元「小原さん 謡の先生 やってますんやで。」

根岸「まあ 本当ですか?」

善作「はい やっております。 そら よかったら うち 来て下さい。 うち そ そ そ… そこですねん。」

根岸「うれしいわ そんなふうに言って下さって。」

(ミシンの音)

<その日 根岸先生のミシンの実演販売は 夕方5時まで やったそうです>

「うわ~ すごいね~。」

<トボトボ帰ってきたうちが たどりついたんは もう終わり ほんの15分前のとこでした>

「えらいスイスイ 簡単に やってはるけどな。」

「東京の洋裁の先生やって。」

「はあ~ さすがにハイカラやなあ。」

「東京に人やって…。」

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