あらすじ
大正13年9月。岸和田だんじり祭の日の朝、11歳の小原糸子(二宮星)は、出かける父・善作(小林薫)を元気いっぱいに見送る。母・千代(麻生祐未)、祖母ハル(正司照枝)たちと子どもたちが待ち構えるなか、だんじりがやって来る。近所の青年・泰蔵(須賀貴匡)が務める「大工方(だいくがた)」が、だんじりの上で舞う姿に糸子は憧れを募らせる。いつもの生活が始まっても、糸子の頭の中は、だんじりのことでいっぱいで…。
1回ネタバレ
大阪府岸和田市
大正13年(1924年)9月 早朝
「おはようございま~す!」
「おはようございま~す!」
「おはようございま~す!」
「おはようございま~す!」
小原家
小原呉服店
(戸の開く音)
男達「おはようございま~す!」
小原善作「おう おはよう!」
小原千代「おはようさん。」
小原ハル「おはようさん。」
寝室
小原糸子<まだ 真っ暗やん。 こんなはよから お父ちゃん どこ 行くんやろ? 何か あったかなあ? 今日… 今日… あ!>
糸子「だんじりや! だんじりや! だんじりの日ぃや!」
小原呉服店
糸子「だんじりや だんじりや! だんじりや だんじりや! おとうちゃん おはよう!」
善作「おう 起きたんか。 早いのう。」
糸子「だんじりやさかい!」
「おはよう! 糸ちゃん。」
糸子「おはようさん!」
「糸子 おはよう。」
糸子「おはよう!」
「まあま あんた ええ恰好してらし。」
「おはよう。」
善作「ほたら 行こけ!」
「よっしゃ! ほな 行ってきます!」
3人「行ってらっしゃ~い!」
糸子「お父ちゃん 気ぃ付けてな!」
「あ~あ!」
玄関前
糸子「行ってらっしゃい! お父ちゃん 気ぃ付けてな! 行ってらっしゃい! 行ってらっしゃ~い! お父ちゃん 行ってらっしゃ~い! 気ぃ付けてな! 行ってらっしゃい! お父ちゃん 行ってらっしゃい!」
居間
糸子『時は大正 岸和田に 生まれた一人の女の子 名前を小原糸子と申します。 着物の時代に ドレスに出会い 夢みて 愛して かけぬけた これは その おはなし』
神社
<だんじりは 岸和田の 年に一度のお祭りで その日は みんな 朝から 大忙しです>
(かしわ手)
<町の男の人らぁは だんじりを曳きにいきます>
小原家
台所
<女の人らぁは ごちそうを ようさん ようさん こさえます>
ハル「ほれ 鍋 煮上がってらし。」
千代「へえ。 あれ? おしゃもじ どこやったかいな?」
居間
糸子「はよ食べ! はよ食べな だんじり 来てまうで!」
安岡玉枝「おはようさん ごめんよお。」
糸子「あ 安岡のおばちゃん。」
玉枝「おはようさん。」
糸子「おはようさん。」
玉枝「ほれ 『おはよう』言わんけ。」
ハル「はれ~ おはようさん。」
玉枝「おばちゃん こない早うに すまんよお。 何や もう 家に おっても 気ぃがせいてよお 何も 手ぇつかへんよって 来てしもたんやし。」
ハル「どや? 泰蔵ちゃん あんじょう 出ていったけ?」
玉枝「はあ…。 『お母ちゃんは 何も心配すな』って 言うちゃったんやけどよお…。」
<泰蔵にいちゃんは おばちゃんとこの長男さんで 今年初めて 大屋根で 大工方をやります>
善作「泰蔵! 屋根 任せたで。」
安岡泰蔵「はい!」
<大工方ちゅうんは だんじりの 屋根の上で 合図を出す 一番恰好ようて 一番危ない役です>
小原家
ベランダ
糸子「おばちゃん こっち こっち! おばちゃん ここ 座り! だんじりが 一番よう見えるさかい。」
玉枝「はあ…。」
糸子「どないしたん?」
玉枝「糸ちゃん…。 おばちゃん もう 昨日から 全然 寝てへんねん。」
糸子「何で?」
玉枝「泰蔵の事が 心配で心配でなあ。 そら もう 初めての大屋根やろ。 だんじりから 落ちんちゃうかあ 下手こいて 恥かくんちゃうかあて… はあ…。」
町中
♬~(お囃子)
「行こか~! 行け~!」
「ソーリャ! ソーリャ! ソーリャ! ソーリャ!」
小原家
玄関前
安岡勘助「ソーリャ! ソーリャ!」
糸子「あ~ はよ 来えへんかな~ だんじり。」
勘助「ソーリャ! ソーリャ! ソーリャ!」
<泰蔵にいちゃんの弟の勘助は うちと同じ尋常小学校の5年生で>
勘助「わいに兄ちゃん 大工方やんねんぞ。」
糸子「知ってるわ。」
<弱いくせに すぐ威張りたがります>
勘助「恰好ええやろ。 羨ましいやろ。 わいは 大工方の弟やさかいよお お前も これからは もうちょい わいの言う事 聞かな あきまへんで。 イテ!」
糸子「アホか! 調子 乗んな!」
勘助「何すんねん?」
糸子「恰好ええんは お前の兄ちゃんだけじゃ。 お前は ただのスカタンやんけ!」
勘助「け…。」
♬~(お囃子)
糸子「あっ!」
「通るぞ 下がれ!」
台所
糸子「来た! 来た! お母ちゃん だんじり 来たで!」
ハル「ちょちょちょちょ…。」
千代「あああ~。」
ベランダ
玉枝「来た… う~ どないしよう。」
♬~(お囃子)
ハル「どれ? どこ?」
♬~(お囃子)
糸子「来た!」
「ソーリャ! ソーリャ! ソーリャ! ソーリャ!」
♬~(お囃子)
「ソーリャ! ソーリャ! ソーリャ! ソーリャ!」
♬~(お囃子)
(拍手と歓声)
糸子「うわ~!」
「ソーリャ! ソーリャ! ソーリャ! ソーリャ!」
「ソーリャ! ソーリャ! ソーリャ! ソーリャ! ソーリャ! ソーリャ! ソーリャ! ソーリャ!」
糸子「ソーリャ! ソーリャ!」
「ソーリャ! ソーリャ! ソーリャ! ソーリャ! ソーリャ! ソーリャ! ソーリャ! ソーリャ!」
「ソーリャ! ソーリャ! ソーリャ! ソーリャ!」
「ソーリャ! ソーリャ! ソーリャ! ソーリャ!」
(だんじりの走る音)
糸子「泰蔵にいちゃ~ん! うわ~! 恰好ええ 泰蔵にいちゃ~ん!」
勘助「兄ちゃ~ん!」
糸子「恰好ええ! 泰蔵兄ちゃん 恰好ええ!」
勘助「兄ちゃん 兄ちゃん!」
「ソーリャ! ソーリャ! ソーリャ! ソーリャ!」
ハル「泰蔵ちゃん 立派やんか。 立派やな~。」
玉枝「う~ん。」
ハル「はれ? 玉枝さん!」
<おばちゃんは 自分でも知らん間に ずっと 息を止めちゃったそうです>
糸子「大丈夫?」
♬~(お囃子)
<夜になったら 今度は 子供らが だんじりを曳かせてもらう番です>
「糸子~!」
「糸子姉ちゃ~ん。」
「泰蔵ちゃん!」
「立派やったで。」
糸子「恰好ええなあ。 うちも 大きなったら 絶対 大工方になっちゃるでえ。」
勘助「アホか。 女が大工方になんか なれるか。 あ イテテテテ… 痛いやん!」
「エンヤー ソーリャ! エンヤー ソーリャ!」
<ほんまは うちも あっこに乗りたかったけど 女の子やからって 乗らせてもらえませんでした>
「エンヤー ソーリャ! エンヤー ソーリャ!」
居間
「ほら 早く早く。」
「おうおうおう。」
善作♬『よも尽きじ』
「すんません。」
善作♬『よも尽きじ』
木岡保男「善ちゃん もうええよって 早う飲めえや。」
奥中宗次郎「誰も 聴いてへなん。」
「うまいわ この水ナス。 奥さん。 あんたんとこの水ナス 上手に漬けてはるよ。 なあ。」
千代「あ どうも…。」
一同「あ ああ~。」
千代「すんません すんません。」
玄関
玉枝「ええて 歩くて もう。」
「おう 泰蔵! よかったね~。」
泰蔵「おおきに。」
ハル「気ぃ付けて。」
千代「気ぃ付けて。」
糸子「気ぃ付けて。」
泰蔵「おおきに。」
玉枝「お世話かけました おおきに。 ええて 歩くて。」
泰蔵「ええて。」
玉枝「何で くたびれてるあんたに うちが おんぶされんと あかんねん。」
泰蔵「ええて。」
善作「あ あ 泰蔵! 御苦労やったの~ ハハハ 気ぃ付けよ~。」
「ようやったな 今日は。」
玉枝「おおきに。」
善作「へっ よかった よかった。」
寝室
千代「糸子。」
<だんじりが終わってしもたら また 普通の日が始まります>
千代「糸子!」
糸子「へっ?」
千代「もう みんな 起きとるで。」
<お父ちゃんは いつもの呉服屋に戻ります>
<おばあちゃんも ごちそうを こさえません>
居間
糸子「おばあちゃん! うちの目刺しだけ 小さい! なあ おばあちゃん。 うちの目刺し もっと大きいやつにしてよ~!」
善作「じゃかましい! ちいちゃいの 大きいの 文句 言わんと 食え! また 誰やねん ええ?! こんなとこ ちょろ~っと開けてんのは。 きちんと閉めんかい!」
糸子「へえ!」
善作「こら 糸子! お前 足で 何ちゅう事 さらすねん! ほんまに 行儀の悪い子じゃ。 ええ? その足か? その足か? お前。 えい こら!」
糸子「堪忍!」
善作「しばいたるわ!」
千代「どないしたん?」
善作「待て こら! 待て こら!」
糸子「堪忍!」
善作「バシッやぞ!」
糸子「堪忍!」
町中
<吉田奈津は ここらで一番の料理屋の娘で 学校に 毎日ちゃう着物を着てきます>
糸子「待て~!」
「堪忍!」
<うちは 呉服屋の娘やけど 着物は 毎日おんなしです>
糸子「かえる いじめたやろ? このかえる いじめたら うちが 承知せえへんど! 待て~! 待て~! あっ…。」
糸子「泰蔵にいちゃん おはようさん!」
泰蔵「おう。」
糸子「なっちゃるでえ うちも 大工方に。」
<うちの頭ん中は 今 着物より 勉強より だんじりの事で いっぱいです>