ドラマダイジェスト

連続テレビ小説「カーネーション」第20回「誇り」【第4週】

あらすじ

糸子(尾野真千子)は根岸(財前直見)に洋裁を教わりたいと頼み込む。根岸が心斎橋に開いたミシン教室に喜んで向かうが、その内容は簡単すぎた。本格的に学びたい糸子だが、そこまでは無理だと断られる。帰り道で出会った貞子(十朱幸代)は、ミシンを買ってやると言うが、善作(小林薫)が許さないと糸子は断る。その時、人気歌舞伎役者の中村春太郎(小泉孝太郎)を見かける。女たらしの春太郎の連れは、糸子がよく知る娘で…。

20ネタバレ

木之元電キ店

(感嘆の声)

根岸「はい これで スカートの完成です。 いかがでしょう?」

(歓声)

根岸「おうちに ミシンが1台あれば 本当に いろんなものを すぐに縫う事ができるんですよ。」

「へえ~!」

「なんぼしますん?」

根岸「1台200円です。」

「高っ!」

根岸「でも もちろん 月賦もききますよ。」

(ざわめき)

糸子「あの すんません!」

根岸「はい。」

糸子「小原糸子といいます。 うちに洋裁を教えて下さい!」

節子「先生 この子 さっき お父ちゃん 来てた 小原さんとこの子です。」

根岸「ああ ミシンを お使いになる?」

糸子「使えます ミシン使えます。 パッチ縫えます。 アッパッパも縫えるんです!」

根岸「そう。 あ ちょっと 待って。 明日からは 心斎橋で 今日のような教室を開くの。 ぜひ いらして。」

糸子「は…。 おおきに! 行きます! 絶対 行きます。」

小原家

子供部屋

<あんな人に洋裁 習えるなんや 夢みたいや>

居間

妹達「行ってきま~す!」

千代 ハル「行っちょいで~!」

善作「今日は どこ回んねん?」

糸子「今日は 心斎橋行く。」

善作「心斎橋?」

糸子「うん。」

善作「アホか! 心斎橋なんぞ 行くな!」

糸子「何で?」

善作「若い娘が1人で行くとこやない!」

糸子「そやけどな 心斎橋でな ミシンを こないする…。」

ハル「そうや 糸子 木之元さんとこに ミシンの売り子が来ちゃったんえ。」

善作「あら 売り子とちゃう。 先生や。」

ハル「先生? 教える人け? 何か知らんけどな けばけばしい格好して けったいな かがとの高い 草履 履いて のっしのっし そこ歩きよったわ。」

糸子「おばあちゃん 草履ちゃう 靴や。」

ハル「何や 知らんけど あんな品のない女の 何が面白いか 知らんけどな 人 わんさか集まって ほんまもう みんな しょうもないもんに みんな 飛びつきよんやさかい。」

糸子「おばあ…。」

善作「ひがむな よう知りもせんくせに!」

ハル「ひがんでへんわ 何も。」

善作「ひがんでるやないかい。」

ハル「ひがんでんのは あんたやろ? 木之元がどうちゃら こうちゃら いっつも ぼろかすに 言うてるやないか。」

善作「アホか ひがんでへんわい。」

<こら ほんまの事は 言えんな。 行ってきま~す>

スティンガーミシン教室

(鐘の音)

糸子「あった。 これや」

<うわ~ ようけ 人 来てんな。 けど こん中やったら うちが一番 ミシン使えるんとちゃうか。 何せ 3年も パッチ屋で修業したんやさかいな>

糸子「うわ~!」

<ミシンや>

根岸「皆様 こんにちは!」

「こんにちは!」

根岸「ようこそ スティンガーミシンの ミシン教室へ お越し下さいました。 講師の根岸でございます。 どうぞ よろしく お願いいたします。」

(拍手)

根岸「それでは お名前を呼ばれた方は ミシンの前に お座りください。 山本ウメ様。」

山本「はい。」

根岸「そちらのミシンを お使い下さい。」

山本「はい。」

根岸「近藤ヨシ子様。」

近藤「はい。」

根岸「では そちらのミシンを。」

山本「ちょっと あんた どいて!」

根岸「山岸リエ様。」

山岸「はい。」

根岸「では こちらのミシンを。 日高ハツ様。」

日高「はい!」

根岸「では そちらのミシンをお使い下さい。 あらかじめ お断り申し上げておきますが 本教室は ミシンを買われた お客様の ためのものでございますので そのほかのお客様は ミシンを お使いになる事ができません。 私の説明を お聞き頂くだけになります事 どうぞ お許し下さいませ。」

糸子「え~。」

根岸「さあ それでは 始めます。 皆様 ミシンをご覧下さい。 この丸いところ これを はずみ車といいます。」

「先生!」

根岸「どうぞ。」

「どんな字ぃですか?」

根岸「はずみは ひらがなで 車は 漢字です。 はずみ車を 手前に回して 踏み板を踏むと…。」

<嘘? そんなとこからなんか?>

根岸「間に入れて こうして…。 バネに通してから…。」

<結局 その日ぃは 糸の通し方で終わりました>

「今日の これができたら もう何でも縫えるやんか!」

根岸「はい それでは いきますよ。 はずみ車を回して踏む。」

「ちょっと! いや難しいね!」

「いや 難しいね とっても これ。」

根岸「これは 慣れるまで 練習するしかないんです。 いいですか もう一度いきますよ はい 回して…。」

<次の日ぃは ペダルの踏み方で 終わりました>

(歓声)

根岸「そのまま まっすぐ 布を送っていきます。 ああ いいですね!」

<今日は 直線縫いの しかたで 終わりそうです。 この調子やと ほんまの洋裁なんか いつになるんやろうなあ>

「先生 さようなら!」

根岸「さようなら!」

糸子「あの。」

根岸「はい。」

糸子「すんません。 洋裁は いつごろ 教えて もらえるようになりますか?」

根岸「え?」

糸子「うち ミシンは もう使えるさかい 洋服の作り方 教わりたいんです。」

根岸「そう。 ミシンは どこで習ったの?」

糸子「パッチ屋です。 3年間いてました。」

根岸「そうねえ なら確かに この教室では物足りないでしょう。」

糸子「はい。」

根岸「でも ごめんなさい。 私は 東京からミシンの講師として ここに呼ばれてるので 教室では あれ以上の事は お教えできないの。」

糸子「え? 洋裁は教えて もらえへんのですか?」

根岸「簡単なスカートなら縫えるように なるわよ。」

糸子「うちは 簡単じゃないやつが 縫えるようになりたいんです。 ほんまの洋裁を 勉強したいんです。」

根岸「それは この教室では 教えられないわ。」

糸子「何でですか?」

根岸「この教室はね ミシンを買われたお客様に 使い方を お教えするためのものなの。 お客様に 合わせない訳には いかないわ。」

糸子「え~。」

道中

貞子「あれ? 糸子やんか?」

勇「ほんまや。」

貞子「糸子! 糸子!」

糸子「人… 人違いです!」

貞子「ちょっと 何 言うとん。 あんた 何しとんの? 1人か?」

パーラー・浪漫堂

貞子「ウフフ! それで逃げたんかいな?」

糸子「なあ 頼むさかい うちに 心斎橋で会うた事 お父ちゃんに言わんといてな。」

貞子「言うかいな そんなもん。 心配せんと はよ お食べ。 溶けてまうよ。」

糸子「おおきに。 恩に着るわ おばあちゃん。」

貞子「せやけどな あんたこそ 私らに会うた事 家に言うたらあかんよ。 今日 ないしょの あいびきやもんね。」

糸子「ないしょ? 何で?」

勇「僕 欲しい模型があってな。 心斎橋にしか売ってへんねやんか。 で おばあちゃんに言うたら 一緒に来て買うてくれる事に なってんけどな。 パパとか おじいちゃんには ないしょにしてんねん。」

貞子「私が勝手に 孫に物 買うたら 怒るんよ。 パパも おじいちゃんも。」

糸子「ふ~ん。」

貞子「そやけど そのミシン屋さんは 残念やなあ。」

糸子「そうやねん。」

貞子「先生は ミシンだけやのうて 洋裁も教えとってなんやろ?」

糸子「うん。 東京やったらな 洋裁専門の学校があってな そこでは 本格的な事も 教えてんやて。 けど 大阪では まだまだ そこまでの授業は でけへんて。 まずは もっと ミシンが広まってからやないと 無理なんやて。」

貞子「そしたら ミシン 買うて 個人授業つけてもらいぃな。」

糸子「え?」

貞子「そやから ミシン 買うやろ? ほんでな『うちは 洋裁がしとうて ミシン 買います。 買うたがぎりは きちんと 洋服が作れるようになるまで 教えてもらわな困ります』て言うんや。」

糸子「おばあちゃん。」

貞子「何や。」

糸子「ミシンなんか うちに買える訳ないやん。」

貞子「買うたるがな。」

糸子「えっ?」

貞子「買うたる 買うたる! ミシンぐらい なんぼでも おばあちゃん 買うたるで。」

糸子「ほんま?」

貞子「うん 今から行こうか! そのミシンや どこなん?」

糸子「そこ ほんの そこや。」

勇「あかん あかんて おばあちゃん。 また おばあちゃん そんな勝手したら おじいちゃん 怒ってまうて。」

貞子「ふん! ええやんか 私の お金やねんから。」

糸子「けど うちも よう考えたら そんな ミシンなんか 買うてもうても お父ちゃん怒って 家に置かしてくれへんかもしれん。」

貞子「はあ~ どこの男も 何で こんなに みみっちいんやろ!」

糸子「けど おばあちゃん うち お父ちゃんに頼んでみる。」

貞子「何て?」

糸子「そやから 全部 ほんまの事 言うて おばあちゃんに ミシン買うてもらうん 許して下さいって。」

勇「それが ええで。」

糸子「根性入れて頼んでみる。 ええて言わしちゃるよって 待っててな おばあちゃん。」

貞子「うん。」

糸子「ここの店 前 おじいちゃんにも 連れてきてもうた。」

貞子「そら 心斎橋ゆうたら この店が一番やもん。」

勇「うん 初めて来たけど なかなか ええ店やなあ。」

貞子「大きい声では言われへんけどな 有名人も よう来とんで。」

勇「ほんま?」

貞子「うん。」

勇「あ… あれ。」

糸子「え? 何 何?」

貞子「誰かおった?」

勇「あそこに おんの 中村春太郎ちゃう?」

貞子「あ! ほんまや 春太郎や。」

糸子「誰 誰? 春太郎て。」

貞子「歌舞伎の若手役者や。」

糸子「歌舞伎役者? あれか? あの人か?」

貞子「また こないだと ちゃう子 連れとる。 あの若い子も あんなタラシに ころっといかれてしもうて アホやなあ。 どうせ すぐに 泣かされるに決まっとんね。」

春太郎「そろそろ行くわ。 何や 要らんで金なんか。」

奈津「え?」

春太郎「あとで付き人が 払いにくるさかい。 ほな 僕 帰るわ。」

「おおきに! ありがとうございます!

「毎度おおきに! 春太郎様 またのお越しを!」

糸子「奈津…。」

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