あらすじ
洋裁の基礎を1週間でたたき込もうと厳しく教える根岸先生(財前直見)に、糸子(尾野真千子)は必死でついていく。その様子は見物に来た勘助(尾上寛之)もたじろぐほどだった。楽しいお別れ会の後、根岸先生は「頑張りなさい」の言葉を糸子に残し去っていく。灯が消えたような小原家に、善作(小林薫)がラジオを買ってくる。2年後、小原呉服店は相変わらず不景気だが、ラジオで糸子はデパートの火災を知り制服作りを思いつく。
24回ネタバレ
町中
根岸「堂々としなさい! 洋服を着て 胸を張って歩くという事を あなたの使命だと思いなさい。」
<洋服を着て 胸を張って歩く それが 根岸先生の 第1日目の授業でした>
小原家
座敷
根岸「洋服作りで 一番大切なのは いわゆる『基本』。 今日からは基本を教えていきます。 聞き逃さないで! 後戻りしてたら 間に合わないわよ。」
糸子「はい!」
根岸「着物は 直線で出来てるけど 洋服は 人体に合わせた 作りになってる。 だから 採寸。 その人の体を 細かく測る事が重要なの。 それができて 初めて その人に 合った 洋服作りができるのよ。」
糸子「はい。」
<それからあとの6日間 うちは 必死でした>
根岸「横幅は 胸囲を半分に割って それに 6cmを足す。」
糸子「胸囲を半分に割って 6cmを足す。」
根岸「つまり 2分の胸囲 足す 6cmって 覚えて。」
糸子「2分の…。」
<必死で 教われるだけの事を 教わろうとしました>
糸子「足す 6cm。」
根岸「6cm。」
善作♬『ざ~ ら~ り~ い~ い』
根岸♬『い~ い あ~ な~ た~ へ~』
♬~(謡)
根岸「駄目! これは 昨日 教えたはずよ。」
糸子「昨日?」
根岸「後戻りしてる暇は ないって 言ったでしょう!」
糸子「すんません。」
根岸「はい やり直し!」
<先生は 厳しかったけど…>
根岸「うん! いいわね。 これが できれば あとは 応用で なんとかなるわ。」
糸子「はあ…。」
根岸「なるの! やってみれば分かるわよ!」
糸子「はい。」
<けど うちと おんなしくらい 必死で 教えられるだけの事を 教えようとしてくれました>
根岸「はい 次は これ!」
小原呉服店
勘助「こんばんは~!」
玉枝「こんばんは~!」
ハル「はれ えらい早いやないか?」
玉枝「あ~ もう 勘助が その別嬪の先生 はよ見たいて 騒ぐよって。 ハハハ。」
勘助「先生は? 先生 どこ?」
ハル「2階や。 ちょっと早いけど もう 始めるか?」
玉枝「うん。」
ハル「勘助 上 行ってな 先生と糸子 呼んできて。『最後の夜やしな 今日は 早めに終わって お別れ会しまひょ』ちゅうて。」
勘助「へい へい! ほな… これ 熱いで。」
玉枝「へえ へえ。」
ハル「それ 何?」
玉枝「これな カレー作ってんやし!」
座敷
勘助「失礼します~! 御飯やで~!」
根岸「駄目! もう 全然 駄目! もう どうするの?! こんなんじゃ 今日でなんて 終われないわよ!」
糸子「すんません。」
根岸「はい やり直し! 何回 同じ事やってるの?!」
糸子「すんません。」
居間
<それでも お別れ会は 30分 遅れただけで ちゃんと始められました>
木之元「ほんで その次に あの~ ビリヤード屋 やりましてん。」
根岸「ビリヤード屋?」
善作「これがまた びっくりするぐらい 客が来んかったんやな。」
根岸「まあ 大変!」
木之元「いや 先生 笑い事ちゃいますんやで。 ほんま いっときは わしも どないしょうか思うぐらい 貧乏で。 もう 嫁もいてへんで。 ハハハ!」
善作「まあまあ この辺の男は そんなのばっかりですわ。 ああ こいつもね 工場 クビになって 今 お菓子屋で働いてますねん。」
根岸「まあ お菓子屋さん!」
勘助「はい。 その… 俺は もう 根性のない あかんたれで。」
<先生を囲んで 最後の夜は ほんまに楽しい楽しい夜でした>
道中
根岸「頑張りなさい。」
糸子「はい。」
根岸「さようなら。」
糸子「さいなら! さいなら! 根岸先生 ありがとうございました。」
小原家
玄関
糸子「ただいま…。」
<根岸先生が おらん家は 灯ぃが消えたみたいで… 売れへん反物と… 季節外れた アッパッパ>
糸子「お父ちゃん…。」
善作「何や?」
糸子「もう アッパッパ しもた方が ええんちゃう?」
善作「やかましい。 買う人が おるかもしれんのじゃ。」
<機嫌の悪い お父ちゃん いつもの事やのに 何でか ますます この家は あかんようなってもうた 気ぃがしました>
座敷
糸子「う~んと…。」
妹達『うわ~ すご~い!』
糸子「うん?」
静子『お姉ちゃ~ん! お姉ちゃん 来て。 すごいで!』
糸子「うん?」
居間
妹達「すごいな~!」
♬~(ラジオ)
糸子「どないしたん?」
妹達「来て 来て!」
♬~(ラジオ)
糸子「いや~ ラジオや!」
♬~(ラジオ)
糸子「うわ~!」
善作「まあ 中古やけどな 買うちゃってん 木之元んとこで。」
糸子「すごい すごい! ラジオや!」
ハル「また こんな 流行もん 買うて。 やかまし やかまし!」
善作「ヘヘヘヘへ!」
<根岸先生と入れ代わりで やって来た ラジオは 最初こそ お父ちゃんが…>
善作「ええか? スイッチ触ってええのは わしだけや。 1日1時間。 分かったな?」
4人「は~い…。」
<…って 怖い顔で言うてたけど そんな決まりは すぐに どっかへ いってもて…>
糸子「あ~あ!」
<朝も…>
ラジオ『5 6 7… 腕を横に! はい』。
善作♬『駿河の』
<昼も…>
善作♬『茶の香り』
ラジオ 落語『頭に しびれが切れたり足の裏に 頭痛がしたりしますのや。』
<夜も…。 一日中 ず~っと ついてるようになりました>
<2年が たちました。 うちは 19になりました。 この冬 小原呉服店は 夏用より ぬくい 冬用アッパッパを売り出しました。 お父ちゃんの思いつきです。 けどまあ これが売れません。 洋服は縫えるようになりました。 けど 岸和田では まだまだ 商売には なりません。 そもそも 洋服を欲しがる人が おらんのです。 そやから このころ うちは 手提げと前掛けばっかしを 縫うてます>
子供部屋
♬~(ラジオ『諸人こぞりて』)
糸子「♬『どないかせな どないかせな ああ どないかせな』 うん?」
居間
善作「ほな 行ってくる。」
千代「はあ 気ぃ付けて。 行ってらっしゃい!」
善作「うん!」
糸子「お父ちゃん どこ行ったん?」
千代「お客さんとこや。」
糸子「しばらく帰ってけえへんやんな?」
千代「さあ どうやろなあ。 こら! お父ちゃんに怒られんで。」
糸子「黙ってたら 分からんへんて。」
ラジオ『本日 午前9時15分ごろ 東京・銀座の百貨店 黒田やで火事があり 買い物客や 店員 13名が死亡。 30名が やけどなど ケガをしました』。
千代「はら~ 怖いなあ。」
ラジオ『消防では 急報を受け…』。
<初め それは 普通の火事のニュースでした>
子供部屋
糸子「あ… また 黒田屋の火事の事や。」
<けど その事件は どういう訳か そのあと もっぱら家庭欄で よう 話題になっていました 不思議に思って 読んでみると…>
糸子「『黒田屋の火事以来 やはり 女店員の制服は 洋服であるべきだという意見が 多いようですが 私も賛成であります』。 うん?『避難の際 やはり 若い女の事とて 裾の乱れが気になり つい ロープを離して 墜落してしまったという 悲惨な例が多かったと聞けば こうした事が繰り返されぬよう 改善を望むばかりです』。 落ち着け… これは 大事な事や。 よう考え。」
小原呉服店
糸子「あっ おばあちゃん 出かけてくる。」
ハル「あれ? 急に どこ行くんや?」
糸子「心斎橋や。」
ハル「心斎橋?!」
糸子「百貨店 探しに行くんや。 行ってきます!」
<うちが たった今 思いついた事を まだ 誰も 思いついてませんように。 岸和田で… 心斎橋で… いや 大阪中で… うちが最初に思いついた人間で ありますように!>
心斎橋百貨店
入口
糸子「あった…。」
<百貨店や!>