あらすじ
黒田屋百貨店の火事で和服の女性が逃げ遅れたというニュースを聞いた糸子(尾野真千子)は、心斎橋の百貨店に走る。店員の着物姿を確認し、支配人の花村(國村隼)に制服を作らせてほしいと直談判する。自作のワンピースを見せる糸子だが花村は取り合わない。だが、制服はデザインが大切という花村の言葉から、糸子はセンスのよい八重子(田丸麻紀)に相談する。そして一晩で10枚ものスタイル画を仕上げ、翌朝再び花村を訪ねる。
25回ネタバレ
小原家
居間
昭和7年(1932)12月
ラジオ『本日 午前9時15分ごろ 東京・銀座の百貨店 黒田屋で 火事があり 買い物客や店員 13名が死亡 30名が やけどなど けがを負いました』。
<その年の暮れ 東京の百貨店で 火事がありました>
善作「何や? 誰や?! こんなとこ 切り抜いたん。」
ハル「ああ それな さっき 糸子が…。」
回想
糸子「『黒田屋の火事以来 やはり 女店員の制服は 洋服であるべきだという意見が 多いようですが…』。」
<それを読んだ途端 うちの頭には 火ぃが付いたみたいになって>
糸子「あ おばあちゃん 出かけてくる!」
回想終了
心斎橋百貨店
入口
<目指すは 百貨店! うちは まだ 百貨店に 入った事がありません>
糸子「どっから入ろう…。」
「ありがとうございました。」
「いらっしゃいませ。」
「ありがとうございました。」
「ありがとうございました。」
「ありがとうございました。」
「いらっしゃいませ。」
<着物に前掛け。 よし ここも まだ 洋服ちゃう!>
糸子「あの すんません。」
「へえ。」
糸子「うちは 小原糸子といいます。 岸和田で 洋裁屋をやってます。」
「はあ…。」
糸子「お宅の制服の事で 話を持ってきました。 社長さんに 会わせてもらえませんやろか?」
エレベーターホール
(エレベーターの開く合図)
「上へ参ります。 上へ参ります。 上へ参ります。」
階段
「あいにく 社長は 今 おりませんよって 支配人が 承ります。」
糸子「へえ。 おおきに。」
応接室
(ノック)
花村「は~い。」
「お連れしました。」
花村「はい。」
「どうぞ。」
糸子「こんにちは。」
花村「いや どうもどうも。 はい。 あれ?」
糸子「あれ?」
花村「ええと? 洋裁屋の小原さんというのは?」
糸子「うちです。」
花村「お宅?!」
糸子「へえ。」
花村「はいはい…。 はあ はあ はあ…。 それで? 何の御用ですか?」
糸子「お宅の店員さんの制服を うちに作らせてほしいんです。」
花村「はあ?!」
糸子「東京の黒田屋で 火事があってから 店員の制服を 洋服にすべきやちゅう 世論が 高まってます。」
花村「ああ それは 知っております。」
糸子「時代の流れから言うても 百貨店の制服は 洋服になるべきです。 動きやすうて 衛生的で 時代的です。 その新しい制服を うちに作らせてほしいんです。 うちは 東京の根岸良子先生の ご指導を受けました。 腕には自信があります。 例えば これ 見て下さい! ちょっと急いだよって くしゃくしゃやけど…。」
花村「なるほど 分かりました! はいはい!」
糸子「え?」
花村「はい! お帰りは あちら。」
糸子「いや まだ 話 終わってません。」
花村「終わってます。 お宅には 頼みません。」
糸子「何でですか?!」
花村「何でて…。」
糸子「ん?」
花村「ま 確かに そろそろ 制服を変えないかんという声は 店の中からも ぼつぼつ 上がっております。 けどね 百貨店の制服というものは いわば その店の顔みたいなもんや。 新しい制服を作るという事は つまり 店の新しい顔を作るという事です。 お宅に頼む訳には いきません。」
糸子「何で うちには 頼んでもらえへんのですか?」
花村「何でて… そら 当たり前やがな。 ポッと入ってきた どこの誰とも 分からんお嬢さんに そのシワシワの服一枚 見せられただけで 任せられますかいな そんな大事な事を。 そんな甘いもんやない。 実績が ちゃんとあって 信用のおける洋裁屋さんは なんぼでも いはります そっちに頼みます。」
糸子「よう分かりました。」
花村「さいなら。」
糸子「おっしゃるとおりです。 すんませんでした…。」
花村「はい。」
糸子「一個 聞いていいですか?」
花村「短くね。」
糸子「あの… 新しい顔って おっしゃった制服は 何が 一番 大事ですか?」
花村「そら まあ デザインやろね。」
糸子「デザイン。」
花村「うん。 人の顔で言うたら 造作やね。 パッと一見 見て『おっ ええな』と思える デザインの力やね。」
糸子「おおきに!」
花村「ええ。」
糸子「おおきに。」
花村「はい。」
安岡家
玄関
八重子「おおきに~。」
糸子「デザイン! 八重子さん デザイン! デザイン!」
八重子「何や 何やねん?」
糸子「デザイン どないしよう? デザイン!」
八重子「どないした? ちょっと…。」
居間
勘助「なあ 俺 この子がええわ。」
糸子「品がようて 誰にでも似合う…。」
八重子「どない?」
糸子「う~ん。 なあ これは?」
八重子「あ~あ…。」
糸子「あかん?」
八重子「百貨店の制服は もっと ピシッと してなあかんのと ちゃうか? まあ ピシッとしすぎても あかんのやろけどなあ。」
糸子「う~ん 難しなあ。」
八重子「『令嬢世界』より こっちの方で 探した方が ええかも。 うちが作った 切り抜き帳やねんけど…。」
糸子「見せて 見せて! あんたは 見んでええ。『令嬢世界』見とけ。」
勘助「何でやねん? ええやんけ。」
玉枝「糸ちゃ~ん。」
糸子「うん?」
玉枝「御飯 食べてくやろ?」
糸子「いらんいらん。 うち 家で食べるさかい。」
玉枝「う~ん 遠慮しいな。」
糸子「おおきに。」
勘助「なあ これ ええんちゃう? これ ええんちゃう?! なあ…。」
玉枝「ああ?」
勘助「これ ええやんな?」
玉枝「う~ん どれどれ?」
勘助「これ。」
玉枝「ああ ほんまや。 ええやん これ。」
勘助「なあ。」
糸子「ちょっと どれ どれ? 見して 見して。 あ ほんまや!」
八重子「はあ ええなあ!」
糸子「ええわ! ええわ これ!」
八重子「品がええし 誰にでも 似合いそうやわ。」
糸子「うんうん。」
八重子「いけるで 糸ちゃん これやったら。」
糸子「うん!」
八重子「なあ!」
玄関
泰蔵「うわっ。」
糸子「ふがっ!」
泰蔵「あ… お前 今 鼻 打ったやろ? おい ちょっと 見せてみ。」
糸子「大丈夫…。 ほな!」
泰蔵「おい 鼻血 出てんで。」
糸子「ああ… 鼻水や。」
小原家
座敷
(絵を描く音)
<うちは その夜のうちに 絵を10枚 描いて 朝一番に出直しました。 今度こそ信用してもらうんです!>
心斎橋百貨店
入口
(鐘の音)
「おはようございます。」
「いらっしゃいませ。」
「いらっしゃいませ。」
糸子「おはようございます! 昨日は どうも!」
「ど どうも…。 」
糸子「支配人さん 来てますか?」
「ああ 来てますけど…。」
糸子「会わせて下さい。 見てほしいもんが あるんです。」
「はあ… あ え けど…。 すんません 昨日 うち あのあとで 支配人に怒られてしもて…。」
糸子「え?」
「『お宅みたいな人を 簡単に上に案内するな』て 言われしもたんです。」
糸子「何で?」
「すんません…。」
糸子「分かりました。 ほな あっちが 下りてくんの 待ちますわ。」
「へ?」
糸子「あの人かて ず~っと あの部屋に いてる訳 ちゃいますやろ?」
「あ まあ そうですねえ。」
糸子「時々 下りてきて 店 見て回ったりしますやろ?」
「そら します。」
糸子「何時頃 下りてきますか?」
エレベーターホール
「ありがとうございます。 上へ参ります。 上へ参ります。 上へ参ります。」
糸子「は! あの あの! すんません!」
花村「ああ。」
糸子「昨日は おおきに!」
花村「ああ。 あ いやいや どうも こちらこそ。」
糸子「描いてきました!」
花村「はあ?」
糸子「デザイン!」
花村「あっ…。 こんなとこでは 何やから また今度…。」
糸子「あ ちょ ちょ ちょ ちょっと! 見るだけ! パッと見るだけ! ごっつええのが 出来たんです!」
花村「かなんな… もう。」
糸子「どうぞ!」
花村「ふ~ん… あきませんな。」
糸子「あきませんか?」
花村「あきません。」
糸子「どこが? どこが あかんのですか?」
花村「どこが? どこが…。」
糸子「あ ちょ ちょ ちょ ちょっと…。 どこが? どこ… あ ちょ 何が?」
入口
糸子「教えて下さい! 何が あきませんか? 言うて下さい! あかんとこ 直しますさかい!」
花村「ええかげんにしなはれ もう! 甘えたら あかんわ。 何が悪いか それを考えるのは あんたの仕事やろ?」
糸子「はい。 すんません… そうでした。 うちの仕事でした。」
花村「要は 普通なんや。 何が悪いか あんたに 今 聞かれたから ひと言で ズバッと 言うてやろ思て 言えんまま ここまで 歩いてきてしもたがな。」
糸子「はい。」
花村「とゆう事はや そう悪いもんでも ないのかもしれん。 けど ええかゆうたら 決して ええ事はない。 普通なんや。 仮に あんた以外の洋裁屋 10人 集めても 9人までは これぐらい描いてくる。 その程度のものは 要らんとゆう事や。」
糸子「はい。」
花村「はあ スッキリした!」
糸子「おおきに!」
花村「いやいやいや 何でやねんな。 あのな 断ったんやで。 もう持ってきたら あかんよ。 よろしいな!」
<そんなん まともに聞くうちやありません>
糸子「見とれえ…。」