ドラマダイジェスト

連続テレビ小説「カーネーション」第2回「あこがれ」【第1週】

あらすじ

学校で糸子(二宮星)は一生糸で食べていけるようにという名前の由来を話す。担任教師の、将来は嫁として実家の呉服屋を盛りたてろという言葉に、糸子は、だんじりに乗るために大工になりたいと答え、みんなに笑われる。男子とケンカしたあげく、用務員に頭突きをして担任からきつく叱られても、まったくこたえない。父・善作(小林薫)の言いつけで、同級生・吉田奈津(高須瑠香)の家、高級料亭「吉田屋」に集金に行くことに…。

2ネタバレ

町中

糸子「なっちゃるでえ うちも 大工方に。」

小原家

小原呉服店

善作「おい 糸子!」

糸子「はい?」

善作「ちょっと 来てみい。」

糸子「はあ。」

善作「どや この紬 ええやろ? ごつい上物やで」

糸子「うん。」

善作「ほんで この綸子が また ええんやど。 ええなあ この艶。 綸子は 絹やろ。 絹は この艶が肝心なんや。 お前 聞いてんか?」

糸子「へ? へえ 聞いてます。」

善作「こんな 綸子はな 岸和田中 探したって…。」

<うちには まだ 着物の事は よう分かりません>

善作「聞いてんか ちゅうねん。」

尋常小学校

教室

教師「それでは 小原さんから 発表して下さい。」

糸子「『私の名前は 小原糸子です。 糸子という名前は お母さん方の おじいちゃんが 付けてくれました。 意味は 一生 糸で食べていけるように という事やそうです』。」

教師「なるほど。 糸で食べていけるように。 つまり それは どういう事ですか?」

糸子「は?」

教師「糸で 食べていくというのは?」

糸子「分かりません。」

教師「しゃあないですね。 先生が 考えてみましょう。 大阪は 糸に まつわる産業が 盛んな町です。 大津 貝塚 佐野。 岸和田にも 綿の工場が たくさん ありますし 小原さんのおうちも 呉服屋さんですね?」

糸子「はい そうです。」

教師「つまり 将来 あんたも うちの呉服屋を もり立てなはれ。 立派な婿さん もろうて よう仕えなはれ。 おじいさんが 小原さんに願っているのは そんな事やないでしょうか。」

糸子「はあ。」

教師「婿さんに よう努めてもらうためには 小原さんも ええお嫁さんに なれんとあきませんよ。 どうかしましたか?」

糸子「うちは お嫁さんには なりません。」

教師「はあ? では 何になるんですか?」

糸子「はい。 うちは 大工になります!」

教師「はあ?!」

糸子「だんじりで 大工方を やりたいさかい 大工になります。」

(笑い声)

勘助「女のくせに 何 言うてんねん!」

教師「小原さん ふざけるのも 大概にしなさい。」

糸子「ふざけてません!」

教師「修身の授業で 習いませんでしたか? 『女は 常に 男の一歩あとを歩き 男を引き立てる』。 それが 女の役割です。 男と同じ仕事をしようやなんて 考えては あかんのです。」

糸子「何でですか?」

教師「はあ?」

糸子「何で 男と同じ仕事をしたら あかんのですか?」

佐藤平吉「あかんもんは あかんのじゃ!」

教師「佐藤君! あかんものは あかんのです 理由なんか ありません。 そんなもんやと 決まっとるんです。 はい では 次。 澤田君。」

澤田「はい。」

糸子「何?」

吉田奈津「何にも。」

教師「はい では 次 吉田さん。」

奈津「はい。 『私の名前は 吉田奈津です。 うちの家は 吉田屋という 大きな料理屋をやっていて 女将の名前に 代々『津』の字が 付いています。 そやさかい うちのお父さんが うちも 立派な女将になれるように 『奈津』と付けたそうです。 うちは お母さんみたいな 立派な女将になって 婿さんを一流の料理屋の主人に してさしあげたいと思います』。」

小原家

小原呉服店

「ほんま すんませんでしたな ようさん 広げさせてしもて。」

善作「いえいえいえ。 お眼鏡に かないませんでな。」

「また 寄らせてもらうよって ええのあったら 入れといてな。」

善作「また お待ちしとります。」

ハル「着物が売れへんかったら 足袋の一つでも 買わしゃええのに。」

善作「(ため息)」

ハル「昼から 吉田屋へ 集金に行っておいでや。」

善作「ああ?」

ハル「集金や。」

善作「そんな事 分かっとるわい。 分かっとんのじゃ!」

はる「フフッ。 恰好ばっかりつけくさって。 売るんも下手なら 集金も下手。 あない商売に向かん男 何で 呉服屋なんか やってんやろ?」

尋常小学校

校庭

「さいなら。」

「気ぃ付けて 帰りや。 さいなら。」

「あんた 何で この天気に 傘なんか差すのん?」

奈津「はあ。 うちは お父ちゃんに 日焼けせんよう 厳しい言われてますねん。」

「日焼け?」

奈津「『色の白いは 七難隠す』。 吉田屋の女将は べっぴんやないと あかんさかいなあ。」

糸子「待て~! 待て~!」

「ちょっと ちょっと ちょっと…。」

糸子「もっかい言うてみい!」

「な… 何回でも言うちゃらあ! 女のくせに 威張んな! 女は 男の言う事 聞いちゃったら ええんじゃ!」

糸子「くっそ~ 待て~!」

「ちょっと ちょっと 待ちなさい。」

糸子「うらあ~!」

「あ~っ!」

糸子「あ! 堪忍 おっちゃん。 堪忍 おっちゃん! 堪忍!」

小原家

小原呉服店

千代「すんませんでした!」

教師「小原さんは いささか 元気がよすぎます。 もっと 女子生徒らしい振る舞いを おうちの方でも きちんと 教育なさって下さい。」

千代「はあ~。 ほんまに すんません!」

教師「ほんな まあ 今日のところは これで。」

千代「ほんまに あの… お大事になさって下さい。」

千代「すんませんでした。 (ため息) すんません。 はらっ? まあ 糸子!」

糸子「へ?」

千代「あんた 分かってんのん?」

糸子「はあ 分かってます。」

千代「お父ちゃんが帰ってきたら 覚悟しときや。」

糸子「ええ? 言うん? お父ちゃんに。」

千代「そら そうです。 よう おきゅう 据えてもらいます。」

糸子「堪忍 お母ちゃん それだけは 堪忍してえな。」

千代「あきません 観念しなさい!」

ハル「善作には 黙っとき。」

千代「は? けど…。」

ハル「どうせ 今日も 集金できんと 鬼みたいな顔して帰ってきよるで。 そんな時 こんな話 聞かしてみ。 火に油や。 家 燃えてしまうわ。」

糸子「そやな。 そやな おばあちゃん。 お父ちゃん 商売で 苦労してんやもんな。 うちの事なんかで 機嫌悪さしたら 気の毒やな?」

ハル「そうや そうや。」

糸子「はあ~ 一安心や。 ほな 遊んできま~す!」

千代「糸子! こら 糸子!」

<おばあちゃんが言うには このごろは 不景気で 着物が ちょっとも売れません。 その上 お父ちゃんは 集金が 大の苦手なんやそうです。 そんな時は うちに出番が回ってきます>

河川敷

「ソーリャ! ソーリャ! ソーリャ!」

糸子「もっかい 走るで~!」

「え~ もう しんどいよ。」

糸子「もっかいや 行け~!」

「ソーリャ! ソーリャ! ソーリャ!」

千代「糸子! 糸子!」

小原家

居間

善作「ほんまに 人をアホにしくさって。 そない上等な料理屋やったらな 着物の金ぐらい さっさと払わんかいね! ええか? 金もろたらな ここに きちっと入れんやで。」

糸子「はい 分かってます。」

善作「うん。 ほれ つけちゃれ。」

千代「へえ。」

ハル「あんた また 糸子に 集金に行かすんけ? やめときよ こんな子供に。」

善作「しゃあないやろ! 向こうが 払わへんのやさかい!」

千代「うちが行きましょか?」

善作「アホか。 わしが行って 払わんもんを お前が行って 払うか? こういう時はな 子供に行かすのが 一番 効くんじゃ。 どんな がめつい客でも こんな子供を手ぶらで帰すのは 忍びないちゅうて 払いよるもんなんじゃ なあ 糸よ。」

糸子「任しといて! うちが集金に行って 手ぶらで帰った事なんか ないさかい。」

善作「うわ~ 頼もしい! ほんでな 客は 吉田屋ちゅう料理屋や。」

糸子「吉田屋?」

善作「分かるか?」

糸子「吉田奈津や。 同級生のうちや!」

善作「ほんまけ?! せやけど あっこの親父は 手ごわいど。 にったら にったら笑うてな うまい事 かわしよんねん。 お前 よっぽど ここ使うていけよ。」

糸子「うん 分かった。 うち やってみるわ。」

善作「うん。」

吉田家

座敷

♬~(三味線)

吉田志津「はい 腰 決めて。」

♬~(三味線)

志津「トントン! トントン!間が悪いよ。」

♬~(三味線)

志津「お扇子 きれいに!」

♬~(三味線)

奈津「おおきに。」

志津「はい お疲れさん。 あ 犬の散歩 行っときや。」

奈津「はい。」

玄関

糸子「こんにちは~。」

奈津「は~い。 ちょっと待ってな~。 どちらさん? 何や あんた? 何しに来たん?」

糸子「集金や。」

奈津「集金?」

糸子「お父ちゃん いてるか?」

奈津「何で あんたなんかが 集金に来んねん 子供のくせに。」

糸子「ええさかい あんたのお父ちゃん 呼んで。」

奈津「そんな事やったら お勝手へ回り。 ここは 玄関や。」

勝手口

奈津「また 明日 来。」

糸子「はあ? お父ちゃんは?」

奈津「お父ちゃんが そう言うてんねん。 今日は お金 無いて。」

糸子「明日なんか あかん。 今日 払てもらわな!」

奈津「知らんて。 はよ帰りて!」

糸子「ちょっと おっちゃん! うちは 子供の使いと ちゃうねんで! おっちゃ~ん! おっちゃ~ん!」」

奈津「何 言うてんねん。 子供の使いやんか!」

糸子「おっちゃん おっちゃん! わっ!」

奈津「はあ~ うっさい うっさい。」

<うちは 手ぶらで帰った事がありません>

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