ドラマダイジェスト

連続テレビ小説「カーネーション」第30回「私を見て」【第5週】

あらすじ

静子(柳生みゆ)が取ってきた仕事は、一晩でパッチを100枚仕上げるという、とんでもないもの。引き受けた糸子(尾野真千子)に善作(小林薫)は激怒し、家族の手伝いを禁じる。ハル(正司照枝)たちは隙を見て手伝おうとするが、うまくいかない。しかし夜中に居眠りをする糸子に善作は焦り、結局、寝ないように見張ることに。早朝、なんとか仕上がったパッチを点検していた善作は、とんでもないことに気づき、大騒ぎになる。

30ネタバレ

小原家

小原呉服店

静子「こっちです!」

客「ああ こっち。」

糸子「100枚?!」

善作「お前な 仕事ちゅうのは 受けたらええちゅうもんちゃうんやど!」

糸子「今の小原呉服店は 仕事 選べる立場 ちゃうよって。」

善作「何やと?!」

糸子「むちゃな仕事かて 受けていかな 家族7人 食べていかれへん!」

善作「勝手にせえ! 分かった! お前の理屈は よ~う 分かった! ほな しまいまで お前一人で やれ!」

(ミシンの音)

(柱時計の時報)

(ミシンの音)

糸子「あっ!」

居間

善作「何や?」

ハル「何も。」

♬~(ラジオ 浪曲『次郎長伝』)

♬『旅ゆけば 駿河の国に 茶の香り』

<お父ちゃんの言う事は もっともです。 けど うちも間違うてません そやから ええんです。 家族に迷惑かけんと パッチ100枚 仕上げちゃります!>

善作♬『名所古跡の』

(ミシンの音)

(犬のほえる声)

(ミシンの音)

台所

ハル「はよ寝りゃええのにな。 そんなら 手伝うちゃれんのにな。」

千代「お握り…。」

ハル「はよ持ってっちゃり。 はよ!」

千代「おとうちゃん 怒らへんやろか?」

ハル「怒ったかて かめへん! あの食いしん坊の糸子が 御飯も食べんと 仕事したら 死んでまうわ。」

千代「ええっ?!」

(ミシンの音)

小原呉服店

千代「食べや。」

糸子「おおきに。」

千代「はあ…。 こっちは 縫えた分か? 畳んどいたろか?」

糸子「いや まだ アイロンかけんと あかんさかい。」

千代「ほな 上へ持ってって かけといたろ。」

糸子「おおきに。」

善作「こら! 余計な事 すな!」

千代「へえ… すんません。 はあ…。」

(ミシンの音)

子供部屋

静子「うちのせいや。 うちが あんな仕事 取ってきてもうたんが 悪いねん。」

千代「泣きな。 なあ!」

静子「そやけどな うち ほんまに 糸子姉ちゃんの 洋裁の手伝いしたいんや。 百貨店で うちらが作った服を 店員さんが うれしそうに着てるの 見て ほんまに ええ仕事やなと思てん。」

清子「うちも! うちも もっと この仕事したいってた。」

光子「うちも」

静子「そやけどな あんたらも よう覚えときや。 世の中にはな まだ 洋服 着る人が少ないんや。 そやから 糸子姉ちゃんも 洋裁の 仕事 したても でけへんのや。」

千代「なあ 困ったなあ。」

静子「そやから もっと 世の中の人が 洋服を着てくれるようにならんと あかんねん。」

清子「どないしたら ええん?」

静子「お母ちゃん どないしたら ええん?」

千代「なあ… どないしたら ええんやろなあ…。」

小原呉服店

<そのころ 床の下では 熱い闘いが始まってました。 一人で パッチ縫うてる うち。 それを 手伝うてやりたい おばあちゃん>

(ミシンの音)

<『そうは させん』と見張る お父ちゃん おばあちゃんは お父ちゃんが居眠りしよったら すぐに手伝うてくれるつもりで お父ちゃんを ごっつ怖い目で にらみ続けてました>

(柱時計の時報)

<午前1時。 おばあちゃん 案外 あっさり敗退。 喜んだ お父ちゃん。 そやけど ふと見たら… なんと もう 片っぽの敵まで 落ちてもうてるやないですか?!>

善作「(小声で)あ… 糸子。」

<このボケ パッチ どないすんねん?!>

善作「糸子! 糸子! ああ…。」

(たたく音)

(ミシンの音)

善作「ふ~! ああ…。」

(ミシンの音)

(たたく音)

善作「アチチチチッ! アチチッ! アチッ! アチチッ!」

<やっぱし お父ちゃんには かなわんなと思いました ところが… 夜が明ける頃 うちに 挽回の時が やって来ました。 一人で パッチ100枚 縫い上げちゃりました! しかも!>

糸子「はあ~!」

善作「出来たんか?」

糸子「あ… うん 出来ました。」

(せきばらい)

善作「見してみい!」

糸子「へい…。」

<まあ これで この勝負 おあいこっちゅう事で>

善作「お前… 細いのと ちゃうか?」

糸子「えっ? えっ?! えっ そんな事… えっ?」

善作「あっ 足 出んやないか!」

糸子「あっ 嫌! どないしよ? どないしよ?!」

ハル「どど… どないしたん? なあ どないしたん?」

善作「『どないしよ?』や あるかい お前。 おい お前 作り直すしかないやろ!」

糸子「嫌… あ~!」

善作「ばあさん。 千代と子供ら 起こしてくれ! すぐや! すぐ!」

糸子「あ~ どないしよ? ああ…。」

ハル「千代 千代! なあ 静子! ちょっと 起きて!」

善作「おい 千代!」

<結局 飛び起きてきた お母ちゃんと 妹らと お父ちゃん おばあちゃん みんなが手分けして 細すぎるとろこを ほどいてくれて それを うちが縫い直して どないか こないか…>

客「おおきに! よう 間に合わせてくれたなあ!」

糸子「はあ よかったです。」

客「お宅 ほんま 若いのに なんちゅう ええ職人や。 さぞかし この店 これから 繁盛するで!」

糸子「いやいや まだまだ半人前です。」

<勝負 うちのボロ負けですねん>

客「ほんなら これ お代 確かめてよ。」

糸子「おおきに! ほな 失礼します。 はあ?」

客「えっ?」

糸子「これ 何かの間違いちゃいますか?」

客「約束した分やで。」

糸子「約束? どんな約束しましたけ?」

客「せやから 代金は 倍払うて。」

糸子「倍?!」

客「うん… あれ? あっ! ひょっとして わい 昨日 えらい 慌てちゃったよって 初めに言うん 忘れちゃったかもしれんなあ。」

糸子「はあ… いや うちも 代金の事なんか 今の今まで 頭から 飛んでもうてましたわ。」

客「いや ほんまか! アハハハハッ いや~ でも こっちは 初めから そのつもりで 頼んじゃったさかい その金額で。」

糸子「おおきに! こない ようさん おおきに! おおきに!」

居間

糸子「イテッ!」

善作「アホか!」

糸子「何で?」

善作「代金も聞かんと 仕事 受けるて どうゆうこっちゃ?! まだまだ 甘っちょろい。 半人前の商売人やのう! ふん。」

お菓子屋

4人「こんにちは~!」

勘助「いらっしゃい!」

糸子「やっぱし 桜餅やな!」

静子「う~ん… うちも 桜餅にしよ!」

清子「うち みたらし!」

光子「あ~ うち どないしよ?」

勘助「どないしてん? 珍しいやんけ 4人そろて。」

糸子「ふふ~ん! お父ちゃんが お駄賃くれたよって。」

勘助「お駄賃?」

糸子「うん。」

光子「やっぱり うち きんつば!」

勘助「きんつばな。 ほんなら え~と… 桜餅が2個と みたらしと…。」

子供達「にいちゃん 串だんご 頂戴!」

勘助「2個 取りなや。 1個やで。 光ちゃん 何やったかいな?」

光子「うち きんつば!」

勘助「ああ きんつばな。 おっ? こら~! おい! ちょっ ちょっ 糸やん 追っかけてえな!」

糸子「嫌や。 面倒くさい。 自分で行け!」

勘助「えっ もう! あっ こら~!」

小原家

小原呉服店

(ウグイスの鳴き声)

<4月になって…>

(ミシンの音)

<静子が 会社に勤めだしました>

静子「ほな 行ってくるわ。」

ハル「頑張りや 何事も…。」

結局 うちは あんだけ 手伝いたがってた妹一人 雇うてやる事も できませんでした>

静子「行ってきます!」

ハル 千代「行っちょいで!」

<店の中は ますます 何屋か 分からんように なっちゃあって うちも お父ちゃんも まだまだ どっぷり 負け試合中です>

玄関前

「静ちゃん 行ってらっしゃい!」

静子「行ってきます!」

小原呉服店

(ミシンの音)

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