あらすじ
奈津(栗山千明)の父(鍋島浩)が倒れたと聞き、糸子(尾野真千子)はひそかに心配する。一方、糸子が作った洋服の出来に喜んだ駒子(宮嶋麻衣)を説き伏せ、それを着て通りを歩かせて大得意になる。女性を美しく装わせる喜びを知って舞い上がった糸子は、代金を払おうとする駒子に、次でよいと受け取ろうとしなかった。しかし善作(小林薫)に、洋服の代金はおろか借りた生地代も返せず、商売は慈善事業ではないと一喝され…。
32回ネタバレ
小原家
小原呉服店
糸子「え? 奈津のお父ちゃんが?」
駒子「うん。 今日も お座敷入ってたん 無くなったしな。 やっぱし 結構 大ごとなんかもしれへんわ。」
糸子「奈津。」
駒子「え?」
糸子「奈津 どんなやった? 何か言うちゃった?」
駒子「若女将には 会わへんかってん。 女将が出てきて そう言うちゃっただけで。」
お菓子屋
勘助「ほんで?」
糸子「そやからな 奈津に饅頭でも 持ってっちゃろか思て。」
勘助「いや~ けど そんなん やめといた方が ええんちゃうけ?」
糸子「何で?」
勘助「奈津のこっちゃ そんな時に 糸やんから 饅頭なんか もらいたないやろ?」
糸子「何で そんなん分かんねん?」
勘助「分かるわ。 あいつ 昔から 糸やんと ごっつ張り合うてるやんけ。 饅頭なんか持ってったら 小原の猿が うちの事 哀れみよった うちはもうしまいや ちゅうて 余計 落ち込むで。」
糸子「そやろか。」
勘助「そうやって。」
糸子「ほな あんた 持ってっちゃってよ。」
勘助「俺け?」
糸子「うん。 はい 金やるさかい。」
勘助「は…。 こんだけ?」
糸子「今 ほんま ないねん。」
勘助「こんなん 饅頭1個しか買えへんで。」
糸子「あと あんた足しといて。」
勘助「いやいやいや。 糸やん!」
糸子「頼むで ほなな!」
勘助「いやいや 糸やん!」
小原家
小原呉服店
(ミシンの音)
<勘助の言うてる意味も 分かりました。 奈津には 奈津の意地があるやろ うちが 下手に心配なんか せん方が ええんかもしれへん>
駒子「こんにちは!」
糸子「あ… いらっしゃい! フフフ!」
駒子「回転焼き 買うてきてん。」
糸子「回転焼き!」
駒子「一緒に食べよ思て。」
糸子「やあ~ おおきに! こっちも 出来てんで。 上がって上がって!」
駒子「うん。」
座敷
<お客さんは 生地選ぶんにも 仮縫いにも 自分から よう来てくれました うちらは 何や 友達みたいに 仲良うなりました>
駒子「次 うち こんなん作ろうか。」
糸子「や ええやん。 似合うかな? いや 似合うで。 ウフフフ!」
糸子「いくで。 はい!」
駒子「うわ! 全然ちゃうわ! 前のんと。 形は よう似てんのに こっちのんが ずっとええわ。 顔も ずっと明る見えるし 腰も細見える。 ほんで 脚も! こんな長 見える!」
糸子「うれしいわ そんな喜んでもうて。」
駒子「そら うれしいわ 糸ちゃん。 おおきに。 ほんま… おおきにな。」
糸子「駒ちゃん。 そんな 泣かんかて。」
駒子「うん… けどな ほんまに うれしいねん。 糸ちゃんには 分からへんやろかも しれんけどな。 うちは 芸子やろ。 器量のよしあしで 全部 値打ち 決められてしまうよってな。」
駒子「どんだけ芸 磨こうが 本 読んで勉強しようが 別嬪やなかったら ばかにされても 文句 言われへん。 そうゆう仕事やさかい。 そやから…。 こんな別嬪に見える洋服 作ってくれたんが…。 ほんまに うれしいねん!」
糸子「エヘヘ! うん!」
駒子「うち これ来て しょっちゅう街 歩くわ。」
糸子「うん。」
駒子「お客さんに会うたら 何て 言われるやろ。」
糸子「そら『お! あいつ 洋服 よう似合うて 見違えたわ。 あんな別嬪やったんけ!』って。」
駒子「言われるわ 絶対 言われるわ!」
(笑い声)
糸子「あかん! もう楽しみで 我慢できんなってきた! な! こんまま 外 歩こよ!」
駒子「え?」
糸子「絶対 みんな駒ちゃんの事 見るで。 ごっつ気持ちええで な!」
駒子「けど 今日うち そんなつもり ちゃうかったし。」
糸子「ええやん ええやん! うちに見せてよ みんなが 駒ちゃんに見とれるとこ。」
駒子「ええ~?!」
糸子「な!」
岸和田商店街
<嫌がる駒ちゃんを 言いくるめて 外に出たら やっぱし 街の人らが みんな 見とれてました>
「きれいやな~。」
「美人じゃ。」
<駒ちゃんの背筋も どんどん伸びていって ますます別嬪に見えてきました。 おっちゃん おばちゃん この別嬪が着てる洋服は うちが作ったんやで>
安岡家
居間
糸子「いくで ほっ!」
玉枝「まあ~! しゃれてる事!」
八重子「これやったら 心斎橋 歩いたかて 注目の的ちゃうか? なあ?」
「お宅が作ったん? 洋裁屋さんなん?」
糸子「これこれこれ どうぞ! よろしゅうお願いします。」
玉枝「お願いします。」
道中
駒子「そうや。」
糸子「ん?」
駒子「ようゆわんわ。 うちまだ お金 払てへんやん。 何ぼ?」
糸子「ええわ。」
駒子「えっ?」
糸子「また次 作りにきてくれる ちゅうたやろ?」
駒子「そら言うたけど けど あかんて そんなん。」
糸子「ええねん ほんまに。」
駒子「え!」
糸子「うち 駒ちゃんが 最初の お客さんで ほんま よかった。 ほんまに ええ仕事さしてもうた。 どんなもん作ったら お客さんが喜んでくれんのか お客さんが喜んでくれる ちゅうんが どういう事か ごっつ勉強になった。 あとは 駒ちゃん その服着て どんどん出歩いて。 心斎橋でも新地でも 絶対 恥ずかしないよって。 ほんで 小原洋裁店 どんどん宣伝してくれたら うち そんで十分や。」
駒子「分かった。」
糸子「な!」
駒子「けど 覚えててや。 うちかて借りは 返すよってな。」
糸子「うん おおきに。」
駒子「こっちが おおきにや。」
糸子「フフフ! ほな 気ぃ付けて。」
駒子「ほなな また すぐ行くよって。」
糸子「うん。」
<ごっつ ええ気分でした うちは大物やと思いました。 器のでかい 情の深い 一流の人間やと思いました>
小原家
小原呉服店
糸子「ただいま!」
善作「お! 帰ってきよった。」
糸子「え?」
善作「山本さんや お前 覚えてるか?」
糸子「ああ お父ちゃんの謡の お弟子さんやった?」
山本「そうそう。」
善作「山本さんの お嬢さんが 洋服 頼みたいちゅうて 来てくれたんや。」
糸子「そうですか! おおきに!」
山本「いや 娘がな このごろ 洋服着たい 洋服着たい 言うんやけど 岸和田に 洋裁屋ちゅうもんが ないやろ? 諦めえ ちゅうちゃったんやけど さっき 木之元さんとこで お宅の このチラシ見たよって 寄らしてもうたんやし。」
糸子「任しておいて下さい! 今かて お客さんに ごっつ喜んでもうたとこですわ。」
山本「あ そうか ほな 明日でも 娘 連れて また寄らしてもらうよって。」
糸子「はい よろしゅうお願いします。」
山本「ほな 先生 お邪魔しました。」
善作「おおきに!」
山本「お願いします。」
糸子「おおきに!」
善作「おい 調子ええな。」
糸子「うん やっぱし チラシちゅうんは ばかにでけへんなあ。」
善作「こら 思たよりお モノになるかもしれんのう。 で… お前 結局 今日 何ぼ 集金してきたんや?」
糸子「え?」
善作「今日もうたうち 2円50銭が生地代。 言うたら これは元手や。 残りの金で 次の生地 買わんならん。 残ったんが お前の縫い賃や。 それを どんくらいにするのか ここは よう考えにゃならんのう。 ほんで お前 今日 何ぼ集金したんや? 何ぼやねん?」
糸子「堪忍!」
善作「何や?」
糸子「もうてへんねん。」
善作「へっ?」
<ほんなら まあ そのあとは>
(犬のほえる声)
千代「い… 糸子! あ 糸子!」
ハル「あんた 今度は 何やらかしたんや?」
(泣き声)
<お父ちゃんは 言いました。『お前 どんだけアホなんじゃ 慈善事業でも やってるつもりか? 情けない 情けない 情けない』>
子供部屋
(泣き声)
座敷
千代「まあ 糸子かて まだ ほんの19やさかい。」
善作「アホか! 年なんぞ関係あるか!」
(泣き声)
善作「半人前が やっと モノになったと思たら このざまや!」
<うちの事で お父ちゃんが泣いていました>
善作「情けない!」
(泣き声)
子供部屋
糸子「泣くて…。」