あらすじ
紳士服ロイヤルに、ダンスホールの踊り子・サエ(黒谷友香)が現れ、糸子(尾野真千子)は仰天する。サエはイブニングドレスを注文しにきたのだ。“金に糸目をつけない”というサエに、店主(団時朗)は喜ぶが、任された糸子はイブニングドレスを見たこともない。八重子(田丸麻紀)らにアドバイスを求めたりした末、祖母・貞子(十朱幸代)を頼る。糸子は一方で、最近飲みすぎの善作(小林薫)のふがいなさに寂しさを感じていた。
34回ネタバレ
紳士服・ロイヤル
庭
(せみの鳴き声)
<暑い! 今年の夏は 暑いです>
糸子「ああ 暑い…。」
休憩室
店主「そやから わしは 言うちゃったんや。 うちが いつまでも 岸和田で 田舎もん相手に 服 作ってる訳ないやろ。 そのうち 心斎橋か東京に バ~ンと 店 出さあてよ。」
「さすが 大将!」
店主「ああ ハッハ。 そもそもな わしのおふくろは 東京生まれなんや。」
「そうなんですか?」
店主「ああ そうなんだよ。」
「はあ せやから 大将 そんだけ 洗練されてるんですわ。」
店主「まあ ここだけの話やけどな。」
(笑い声)
サエ「こんにちは。」
店主「は~い! いらっしゃ~い!」
庭
勝「小原さん 小原さん!」
糸子「はい。」
勝「あんた ごっつい客 連れてきたな。」
糸子「はあ?」
勝「ちょっと おいで。 何してん 早く!」
糸子「う~ん。」
店内
店主「ああ 来た来た。」
糸子「ク… クビですか?」
店主「え?」
糸子「クビちゃうんですか?」
店主「何で クビやねん?」
糸子「けど… あの… うち… あの…。 この人 知ってます。」
店主「そら そやろ。 お前から聞いて うちの店 わざわざ 探して来てくれたらしいど。」
糸子「何しに?」
サエ「イブニングドレス 作ってほしいんや。」
糸子「イブニングドレス?」
サエ「そうや。 うちの 一番上等なお客さんがな『岸和田は 後れてるよって いまだに ダンスホールの踊り子も 着物に エプロンや。 けど 東京辺りやったら もう みんな イブニングドレスや』て言うんや。」
店主「そら イブニングドレスの方が ず~っと 見栄え よろしいで。」
サエ「そうなん?」
店主「ええ そら もう。」
サエ「うち 見た事ないんや イブニングドレス。」
店主「あ ああ 何ちゅうか こう ピャ~ッとしたもんですわ。 こう わあ~っとした。」
サエ「ふ~ん。」
店主「ええ。」
サエ「小原。 お前 作れるな? イブニングドレス。」
糸子「はあ イブニングドレス…。」
サエ「ああ こいつは こう見えても 心斎橋百貨店の制服 作るぐらいの 腕 持ってんですんわ。 そやな?」
糸子「はい。 婦人物やったら 一とおりの事は できるつもりです。」
店主「イブニングドレス 作れるやろ?」
糸子「作れます。」
サエ「ほな 頼むわ。 あ さっきも 言うたけど 値段は 少々 高なっても ええよってな。」
店主「おおきに!」
糸子「後ろ 向いて。 勘助の事なんやけど…。」
サエ「え?」
糸子「勘助と もう 会うてへんな?」
サエ「会うてないわ。 あんな子 支配人の言いつけ 破ってまで 会わなあかんほどの男 ちゃうやん。」
糸子「はぁ…。」
サエ「あんたは 余計な事 考えんと ええドレス 作ってくれた そんでええんや。 うちは とにかく それ着て あのお客さん ビックリさせちゃりたんや。 岸和田にかて こんな冴えた踊り子 いてんのかて 見返しちゃりたいんや あの男を!」
糸子「分かった。」
店主「ほな 10円 確かに。」
サエ「前金やさかいな。 もっと かかったら もっと払うし。 とにかく ええもん 作って。」
糸子「はい。」
店主「おおきに! ほな また お知らせしますよってに!」
サエ「さいなら。」
糸子「おおきに。 あのう 大将。 ところで イブニングドレスて どんなもんですか?」
店主「ああ? 知らんのか?!」
糸子「知りません。 見た事もありません。」
店主「ど… どないすんねん?!」
糸子「いや 大将が知ってんと ちゃうんですか?!」
店主「わしが知るか! わしは 紳士服専門じゃ! お前が 知ってるやろ思たんや!」
糸子「うちかて 知りませんやん!」
店主「はあ? 何や? お前。『婦人物やったら 一とおりできる』て あら ホラか?」
糸子「ホラやないです! けど うちが 縫えるんは 洋服でも その… ワンピースやら スカートやらで…。」
店主「知らん! 自分で どないかせえよ。 今更 断る訳にいくかい。 ああ… 行ってしもた。」
安岡家
居間
玉枝「イブニングゆうのは 確か 夕方ちゅう意味やけどなあ。」
糸子「夕方…。 夕方に着るドレス? 黒いんかな?」
玉枝「黒やったら もう夜やさかいな。 もうちょっと 夕焼けみたいな色なんちゃうか?」
糸子「夕焼け…。」
玉枝「うん まあ 八重子に聞いてみい。 そろそろ 戻るやろ。」
糸子「うん。」
八重子「ただいま~。」
玉枝「おお 言うてる間に 帰ってきた。 お帰り。」
糸子「お帰り!」
八重子「あ 糸ちゃん。」
糸子「ちょっと ちょっと。 八重子さん。」
八重子「うん。」
糸子「イブニングドレスて 知ってる?」
八重子「イブニングドレス? イブニングドレスちゅうたら 確か 夜の正装のドレスやろ?」
糸子「夜の正装?」
八重子「うん。」
糸子「どんな形? どんな生地?」
八重子「どないしたん? 今度は イブニングドレス 作るんけ?」
糸子「そうやねん ダンスホールの踊り子さんの 作らなあかんねん。」
八重子「ダンスホールなあ… あ~ 確か こないだ 新聞に載ってたと思うから ちょっと待ってや。 ほら 太郎ちゃん。 太郎ちゃん お父ちゃんとこ 行くよ。 ほれ おいで。 さあ おいで。」
糸子「え~い わ~い…。」
(赤ちゃんの泣き声)
玉枝「あ そうや。 こないだなあ 奈っちゃん 来てんで。」
糸子「え! どんなやった? 元気にしちゃった?」
玉枝「まあ そない落ち込んでるふうも なかったけど やっぱし お父ちゃんは倒れてから ずっと寝込んでんやて。」
糸子「ほんま。 そうか…。」
玉枝「まあ あの子はな 弱いとこ 見せへん子やよって…。」
糸子「ほな 吉田屋は 奈津と お母ちゃんで やってんの?」
玉枝「そやねん。 奈っちゃん 見合いが うまい事いって で 結納も済んでたんやけどな 結婚式は もうちょい先に 延ばすて。」
糸子「はあ?! 結婚話 そんな進んでたん?」
玉枝「え 聞いてへんかったんけ?」
糸子「聞いてへん。」
八重子「ああ あった あった。」
糸子「あ 見せて見せて!」
八重子「あんなあ この『新しい婦人の職業』ちゅう 特集で ダンスホールの踊り子さんが 載ってんやけど…。」
糸子「ああ 普通のドレスやな。」
八重子「うん。」
糸子「やれん事 ないな…。 えっ?!『脚二本で 月に三百円稼ぐというダンサー』。」
玉枝「いや!」
糸子「ああ そやから あの子 あんな羽振り良かったんじょ。」
玉枝「そんな ええの?」
糸子「ごっついでえ。 若いのに 10円 ポ~ン出して『これ 前金やさかい ええもん 作ってくれた もっと払うし』ちゅうて。」
玉枝「うわ~ そんな羽振りのええお客 よう 糸ちゃんとこ 来てくれたな。 どないして知ったんよ?」
糸子「え? あ…。 いや… うん… 何でやろなあ?」
(笑い声)」
糸子「あ 勘助は?」
玉枝「あ 勘助 買い物 行ってくれてる。」
糸子「買い物?」
玉枝「おかげさんで だいぶ反省したみたいでなあ 何やかんや よう手伝うてくれるわ。」
糸子「ほんま。 続いたら ええのにな。」
玉枝「そない続けへんやろけどな。 あの子の事やさかい!」
(笑い声)
小原家
居間
善作♬『よも尽きじ』
木之元電キ店
光子「あ~!(扇風機)」
糸子「うん うん うん 分かった。」
光子「あ~!」
糸子「ほなな…。 やっぱし 神戸のおばあちゃん 持っちゃったわ イブニングドレス。」
3人「へえ~!」
糸子「明日 神戸に 見せてもらいに行ってくる。」
静子 清子「ええ?」
糸子「何や?」
静子「また お父ちゃんに 怒られるで。」
糸子「ふん。 かめへん 怒ったかて。」
静子「え?」
糸子「は~あ…。 このごろ お父ちゃん 酒 飲み過ぎてるよって どなったかて 大して でかい声 出えへんで。」
静子「姉ちゃん…。」
糸子「何や。」
静子「お父ちゃんの事 そんなふうに 言うたら…。」
糸子「ほんまの事や!」
小原家
小原呉服店
<うちが思うに 間違いのう お父ちゃんには ガタがきてます>
ハル「あんた えらい早いな?」
糸子「神戸 行ってくるわ。」
ハル「ん? 神戸 何でまた。」
糸子「ちょっと 仕事の事でな。」
ハル「はあ ほな 気ぃ付けてな。」
糸子「行ってきます。」
ハル「ああ 行っちょいで。」
<奈津のおっちゃんも 倒れたしなあ うちのお父ちゃんも 年 取ったんと 呉服屋が潰れかけてんのと 期待した娘が いまひとつ パッとせえへんのと そら お酒も 飲みたなるか知らんけどなあ…>
松坂家
玄関
糸子「こんにちは~! こんにちは~。」
「ああ 糸子様。 いらっしゃいまし。」
糸子「こんにちは。 おばあちゃんは?」
「ちょっと お部屋で 休んでらっしゃるんです。」
糸子「え? 具合でも悪いん?」
「あ いいえ。 まあ お風邪やと思うんですけど。」
寝室
(せきこみ)
糸子「おばあちゃん! おばあちゃん! どないしたん? 風邪か? 大丈夫か? なあ おばあちゃん! おばあちゃん。 大丈夫…。」
貞子「糸子…。」
糸子「うん?」
貞子「ちょっと… あんたの声 頭に響く…。」
糸子「うん。 エヘヘヘヘ… 堪忍。 エヘヘへ…。」
貞子「ハハハハハ…。」
糸子「はあ~ きれいやなあ! ふ~ん。 そやけど やっぱり難しそうやなあ。」
貞子「それもな 舶来の生地で…。」
(せきこみ)
貞子「はあ… 高かったんやでえ。 ウフフフフ…。」
<『ただの風邪や』て おばあちゃんは言うてたけど 今日は あんだけ好きなお菓子も あんまし食べんと あんまし しゃべりもしませんでした>
岸和田商店街
<あっこの おじいちゃんかて ちょっと前は あっこまで年寄り ちゃうかった。 あっこの おねえちゃんは よう見たら もう おばちゃんや うちらが 大人になった分だけ 大人も 年 取っていくんやな>