あらすじ
イブニングドレス作りに気が進まない糸子(尾野真千子)だったが、同僚の川本勝(駿河太郎)は、これから踊り子たちが次々ドレスを作るはず、と励ます。まず安い布で試作品を作った糸子は、朝起きてビックリ。千代(麻生祐未)が試作品のドレスを着ていたのだ。千代は優雅に踊ってみせ、直すところを指摘した。仮縫いを何度も繰り返すはずだったが、サエ(黒谷友香)は、そのドレスに大喜びし、そのまま売るように糸子に迫る。
35回ネタバレ
紳士服・ロイヤル
店内
サエ「イブニングドレス 作ってほしいんや。」
糸子「いぶにんぐどれす?」
サエ「前金やさかいな。 もっとかかったら もっと払うし。 とにかく ええもん作って。」
庭
(せみの鳴き声)
勝「こんな暑いのに わざわざ外で食わんでも。 はい。」
糸子「何や 中は 息詰まるよって。 おおきに。」
勝「どないやった? 例の何ちゃらドレス。」
糸子「作ります。」
勝「作れるんけ?」
糸子「はい。 今日から店 早めに 上がらせてもろうて 家で作業する事になりました。」
勝「頑張りや。」
糸子「はあ。」
勝「あれ? どないしたん?」
糸子「え?」
勝「珍しいやんか。 あんたが そんな気ぃ抜けた 返事すんの。」
糸子「ああ。 うちが こんな事 言える立ち場と ちゃうんやけど。」
勝「うん。」
糸子「あのお客さんの服 作んの 気ぃ進みません。」
勝「うん。」
糸子「ちょっと いろいろあって。」
勝「ふ~ん。 いや ほんでも頑張りや!」
糸子「うん。 まあ 仕事やさかい! 手ぇは抜きません。」
勝「せやで。 これ うまい事いったら でっかい仕事になるよって。」
糸子「うん。 まあ あのお客さんやったら また 頼んでくれるかもしれん。」
勝「ちゃう ちゃう!」
糸子「あ?」
勝「あのお客だけと ちゃうよ。 あんた 下手したら ダンスホール中の踊り子が あんたんとこ 注文しに 来るかもしれへんで。」
糸子「はあ…。」
勝「岸和田に ドレス作れる店なんか まだ一軒もないんや。 他の踊り子連中が『うちも!うちも作って~』って押し寄せて そら ごっつい事なんで!」
糸子「そうか! ほんまですね!」
勝「そんぐらいの話やなかったら うちの あの大将が 婦人服なんぞ 受けるかいな。」
糸子「はあ~!」
小原家
子供部屋
<川本さん ええ話してくれました。 おかげで うちの迷いは 吹っ飛びました。 絶対 絶対 成功させちゃります>
ハル「糸子! 御飯やて 何べん呼んだか。 あれれれ? こんなんして ええんか? 神戸のおばあちゃんのやろ これ? こんな バラバラにしてしもうて!」
<うちも初めて作るもんで さすがに不安やさかい まず 仮の安い布で 試しの見本を 作ってみる事にしました>
小原呉服店
(ふすまの開く音)
ハル「こら!」
糸子「え?」
ハル「あんた 今 何時やと思てん?」
糸子「2時?」
ハル「はよ寝り。 その仕事 そない 急ぐ仕事と ちゃうやろ?」
糸子「まあ そらそやけど あと もうちょっと。 ここまで。」
ハル「あかん! ごちゃごちゃ言わんと 寝り! 悪い癖や ほんまに…。」
(ミシンの音)
居間
(せきばらい)
(ミシンの音)
ハル「もう 勝手にせえ。」
<おばあちゃんの 仏の計らいのおかげで その夜 どないか見本が 完成しました>
翌朝
♬~(ラジオ体操)
座敷
糸子「何してんの お母ちゃん?」
千代「あ おはよう!」
静子「お母ちゃん どないしたん?」
千代「糸子 これな。」
糸子「うん。」
千代「このまんまやったら あかんで。」
糸子「え?」
千代「イブニングドレスゆうんはな ほんま 体にこう ピタ~て 合うてへんと あかんもんやねん。」
糸子「うん。」
千代「これは あんた おばあちゃんの型で こさえたやろ?」
糸子「はあ。 型は おばあちゃんので 大きさは お客さんに合わしたんやけど。」
千代「そやけどな 見ときや。」
千代「な 見とった?」
糸子「ええなあ お母ちゃん。」
千代「何や この辺が 引きつっとったやろ?」
糸子「見てなかった そんな。」
千代「何でやのん。」
糸子「この辺?」
千代「そうや 腕上げたら こう引きつる。」
糸子「ほんまやなあ。」
静子「踊り子さんが着るんやったら やっぱし 踊ってる時が 一番よう見える方がええよ。」
糸子「ああ そうやなあ。」
千代「なあ 糸子。」
糸子「え~? うち 踊らんで ええねん。」
千代「ここやで。」
糸子「ああ。」
台所
糸子「なあなあ お母ちゃん。」
千代「ん?」
糸子「そやけど 何で お母ちゃん そんな事 よう知ってんの?」
千代「そんな事?」
糸子「そやから ドレスの事とか。」
千代「ああ 若い頃 よう舞踏会 行ったよってな。」
糸子「え? ほんまけ? ほな イブニングドレスも 知っちゃったん?」
千代「そら 何着か持っとったよってな。」
糸子「はあ? そうやったん。『灯台下暗し』やな。」
千代「あのころの 洋裁師さんゆうたら みんな 異人さんやったわ。 その人が うち 来てくれて。」
糸子「その洋裁師さんてな 体に ピタ~って合わせんの どないしてやっちゃった?」
千代「ああ! う~ん。 忘れたわ。」
糸子「あ~! 何や もう…。」
木之元電キ店
木之元「今年は電気扇が あっちゅう間に 売り切れてしもうたんやし。」
糸子「うん。 ほな何回も 仮縫いし直すっちゅう事?」
貞子『そやそや。 何回も何回も あっち詰め こっち足しゆうて やってくれるわ。』
糸子「へ~ そうか。 分かった おおきに。」
貞子『うん 分かれへん事あったら いつでも電話しいや。』
糸子「それから おばあちゃん。」
貞子『ん?』
糸子「風邪 治った?」
貞子『ああ 治った 治った もう 心配いらんで。』
糸子「おばあちゃん?」
貞子『ん?』
糸子「長生きしてな。」
貞子『うん。 ありがとうな。』
(泣き声)
糸子「あ いや 泣かんでええから。 切るで ほなな?」
糸子「おおきに おっちゃん。」
木之元「へ~い!」
小原家
玄関前
<よっしゃ やっぱし何回も 仮縫いで合わせていくんやな。 ちゅう事は あの子に何回も 会わなあかんのか>
糸子「あ~。」
紳士服・ロイヤル
(せみの鳴き声)
店内
糸子「はい。」
サエ「いや~! ごっつ ええやん これ!」
糸子「そら よかった。」
サエ「あ~! いや~!」
糸子「けど これ 見本やさかい。 今日 もう1回 体と よう合わせてから。」
サエ「いや もうええわ これで。」
糸子「はあ?」
サエ「これ このまんま 売ってくれた そんで ええ。」
糸子「いや こんな生地 ドレス用と ちゃうよって。 イブニングドレスちゅうんは もっと ちゃんと作らんと。」
サエ「ええて言うてるやろ? ごちゃごちゃ言わんと これで売りよ!」
糸子「嫌や。」
サエ「はあ?」
糸子「あんた 最初に 何ぼ かかってもええから ええもん 作ってちゅうたん ちゃうんか?」
サエ「そやから 誰も安うせえとは 言うてへんやんか! これで 高 売ったらええんやろ?」
糸子「こんな安物 高うなんか 売れるかいな! うちの仕事はな 詐欺師ちゃうんや。 洋裁師や!」
サエ「はあ~! 強情やなあ!」
店主「おい 小原!」
糸子「はあ?!」
店主「その… お客さんに 失礼言うなよ。」
糸子「分かってます。 あっち 行ってて下さい!」
店主「そやけど お前。」
サエ「女同士の話なんや 立ち聞きせんといて!」
糸子「あんな あんたかて 玄人やろ?」
サエ「はあ?」
糸子「玄人の踊り子なんやろ? うちは 玄人の洋裁師や。 あんたが ダンスホールの真ん中で 踊った時に 一番よう映えて きれいに見える そういうドレスを作らな あかんやん。 分かるやろ?」
(笑い声)
サエ「アホか。」
糸子「はあ?」
サエ「めでたいなあ あんた。 あんなとこで踊ってる踊り子が そんな立派な 玄人な訳ないやろ? 男とくっついて 適当に踊って 金もらう。 そんだけや。」
糸子「ほな 帰り。」
サエ「えっ?」
糸子「そんな女が着るドレス うちは 作りたない。 うちは 本気で作るんや。 本気で着てもらわな 嫌や。 あんたになんかに 作れへん。 さっさと着替えて 帰って。」