あらすじ
善作(小林薫)と清三郎(宝田明)が珍しくそろって、糸子(尾野真千子)を訪ねてくる。ハル(正司照枝)も加わって、“自らは仕立ての腕を持ち小原家に婿に入る”という勝(駿河太郎)を褒め、糸子に結婚を迫る。戸惑う糸子に、八重子(田丸麻紀)は親に従って結婚してよかったと話す。あっという間に祝言の日が決まり、貞子(十朱幸代)が、はりきって婚礼衣装を用意するなど、周囲は盛り上がる。糸子は騒ぎに嫌気がさしていた。
45回ネタバレ
小原家
玄関前
(車のエンジン音)
(クラクション)
(エンジン音)
善作「ああ わしが開けるよって。」
(エンジン音)
木岡「善ちゃん?」
清三郎「おおっ! ハハッ。」
美代「誰や? あれ。」
木岡「知らん…。」
2人「格好ええなあ!」
小原洋裁店
清三郎「ごめんください。」
糸子「は~い。 おじいちゃん!」
清三郎「おう こらまた… アイタッ! こらまた え~ ここの店主は えらい別嬪やなあ。」
糸子「おおきに! 神戸から 来てくれたんけ?」
清三郎「ああ。」
糸子「あっ 何や? どないしたん? 足。」
清三郎「ああ 大した事ない。 ちょっと神経痛でな。 それより 糸子 ほれ!」
糸子「ああ おおきに。 ほな はよ座って! 上がって! おばあちゃ~ん! 神戸のおじいちゃんやで~!」
清三郎「ちょっと。 おい!」
糸子「えっ?」
善作「おう!」
糸子「えっ?!」
<珍しいにも 程があります。 この仲の悪い2人が 一緒に うちに来るやて 一体 どういうこっちゃ? 何が起こったんや?>
居間
ハル「どうぞ。」
清三郎「ああ こりゃ どうも。」
糸子「お父ちゃん。」
善作「うん?」
糸子「誰か 病気なんか?」
善作「はあ?」
糸子「ちゃうんか?」
善作「何じゃらほい。」
清三郎「(せきばらい)あっ 善作君。」
善作「はい!」
清三郎「あ… わしに構わんとな あの 君が どんどん 話 進めてくれ。」
善作「いえいえ 私が そんな… ここは 是非 お父さんから。」
清三郎「いやいや いやいや… 君が 糸子の親父なんやから 君が好きなように話したら ええ。 さあ どうぞ。 いや もう 年寄りは 黙って 聞いとくんが 務めやからね。 ねえ?」
ハル「えっ?」
清三郎「ねえ おかあさん。」
ハル「はい。 ハハハ。」
清三郎「ねえ!」
善作「そんなら 失礼さしてもろて。」
清三郎「はい どうぞ。」
善作「糸子!」
糸子「はい。」
善作「いつまでも 子供や 子供や 思ちゃあったら 早いもんで お前も 今年で もう 2… 何ぼに なってん?」
糸子「21や。」
善作「21! ええ年や。 この春から お前も 商売 始めた ええ時期や。 ここらで いっちょ 身ぃ固め!」
糸子「はあ?」
善作「川本 勝君。 お前も よう知ってるやろ?」
糸子「何や その話か…。」
善作「おろっ! 何やとは 何や!」
糸子「けど お父ちゃん うち まだ 結婚する気ぃなんか これっぽっちも ないねん。 商売かて 始めたとこやし…。」
善作「お前に のうても 向こうは ごっつう あんねん。」
糸子「向こうにあったかて うちには…。」
ハル「なあ 嫌いなんか?」
糸子「いや 嫌いやないけど…。」
善作「それがな ええ男なんや。 素直で 真面目で 曲がった事のない… そやろ?」
糸子「まあ ええ人は ええ人やけど…。」
清三郎「何? 他に 誰か 好きな相手でも おるんか?」
糸子「そんなもん いてへんけど…。」
3人「ほな ええやないか!」
清三郎「ねえ おかあさん。」
ハル「はい。」
清三郎「いや 実はな 糸子。 わしもな 最初 正一から この話 聞いた時には ええ顔 せんかったんや わしは お前を どこぞのな 財閥の跡取りにでも 嫁がせたい 思とったからな。」
ハル「おとうさん!」
清三郎「えっ?」
ハル「糸子に そんんとこ そんな 嫁が務まりますかいな!」
清三郎「正一も 同じ事 言いよりましたよ おかあさん。『まあ 何と言うても 糸子には 洋裁屋という 女だてらに洋裁屋をやるという 大きな夢が あるんやから なあ それを一緒になって こう 支えてくれるような 相手やないと あきません!』て。」
ハル「そうです! そのとおりです!」
善作「お兄さんは 糸子の事を よ~う 分かってくれてます。」
清三郎「まあ その点 勝君やったら ほらもう 申し分ない。 ああ! いや すぐにでも あなた『婿に 入ってくれる』言うとんですわ。」
ハル「ありがたい事で。」
清三郎「ありがたいこっですわ。 ええ! まあ なあ 勝君が紳士物 そして 糸子が婦人物 あんた 夫婦そろって 洋裁やれるとなったら 店の評判も上がるやろ。 いや それだけやないでえ。 客の幅も ぐ~っと広がるでえ。 うん!」
小原洋裁店
客「こんにちは!」
糸子「は~い!」
客「こないだ頼んじゃった ブラウスやけど。」
糸子「あっ ちょっと待って下さい。」
居間
清三郎「年は 糸子の何個 上や?」
善作「2個ですわ。」
清三郎「2個。 そら ええ!」
<いつの間にか 大人らは この結婚話に えらい 乗り気に なってるようでした>
河原
(小鳥の鳴き声)
<そやけど…>
(小鳥の鳴き声)
<そんな事 急に言われたかてなあ… うちは まだ 店の事で 頭いっぱいやのに…>
(小鳥の鳴き声)
勘助♬『丘を越えて 行こうよ 真澄の空は 朗らかに晴れて 楽しい こころ』
糸子「この しゃべりが! このボケ! 人の話 どんだけ しゃべりまくってんじゃ?! 待て!」
勘助「ああ~!」
糸子「待て!」
安岡家
玄関前
勘助「ソーリャ ソーリャ ソーリャ ソーリャ!」
居間
八重子「そうけえ…。」
糸子「うん…。」
八重子「けど うちも そんなんやったやで。」
糸子「えっ?」
八重子「うちも 美容師に なりたかったさかい まだまだ 嫁には行きたないやら そんな事ば~っかり 言うちゃあったら 親が 勝手に 結婚 決めてきてしもたんや。」
糸子「泰蔵にいちゃんと?」
八重子「そう。『ここは ほら 家が髪結い屋やし 嫁が美容師やりたがったところで 旦那も文句も言えへんはずや。 こんな ええ話はない』ちゅうて どんどん 話が進められて 気が付いたら 祝言の日ぃまで 決まっちゃあって。」
糸子「はあ~ そやったん!」
八重子「そやから 祝言の日ぃに 初めて 泰蔵さんの顔 見たんやで うち。」
糸子「へえ~。」
八重子「けど 今 思たら 親の言うとおりやっと。 おかげさんで 毎日 好きな仕事も さしてもろてるし 泰蔵さんにも 文句 いっぺんも 言われた事ないしなあ。 確かに こんな ええ話は なかったわ。 無理やりにでも 結婚さしてもろて ほんまに ありがたかったと思てる。」
<八重子さんから そんな話 されてしもて…>
小原家
玄関
千代「あっ 糸子!」
<何か また 早合点したらしい お母ちゃんから…>
千代「こないだの あの人やろ? 間違いないわ あの人やったら。 おめでとう! お母ちゃん うれしいわあ!」
<ほんまに うれしそうに そう言われてしもたら…>
糸子「うん… おおきに…。」
千代「ほんまに よかったあ!」
<それから あっちゅう間に 祝言の日取りが決まって…>
座敷
善作「♬『高砂』(せきばらい)た… たた…。」
<お父ちゃんは 早速『高砂』の練習を始めました>
松坂家
廊下
貞子「おばあちゃんはな 一番上等なやつ あんたに着せたりたいねん。 そやけどな おじいちゃんらがな…『相手の家との 釣り合いがあるから 中くらいのんに しとけ』って 言うんや!」
糸子『おばあちゃん。 うちも 花嫁衣裳なんか 安いやつで かめへんて。 一日だけの事なんやし。』
貞子「何や? あんたまで そんな事 言うんか?! おばあちゃんの事 邪魔にするんかいな?!」
糸子「いやいや 邪魔になんか してへんけどな。 う~ん… そんな上等なんは うちには合わへんし…。」
貞子「合わん事ない! 大事な 大事な 孫娘に しゃっちい花嫁衣裳 着せなあかんのやったら 私は 今日まで 何のために生きてきたんや?!」
木之元電キ店
糸子「大げさやて…。」
木之元「前のやつ 善ちゃん 持っていてまいよったやろ? これ これ! 新しいの バ~ン! 買うときよ!」
糸子「いや… 今 そんなお金 ないよって。」
木之元「ほんなもん 旦那に ねだったら ええんやし。 かわいい嫁さんに『なあ 電気扇 買うてよ』ちゅうて ねだられたら 断る男なんぞ いてるかいや!『おう! 買うちゃるやないけ! 何ぼじゃ?!』『まあ おとうちゃん』。」
<人が結婚するちゅうだけで 何や 周りが 急に おかしなってます>
木之元「わあ~!」
小原家
小原洋裁店
美代「あれ! お帰り!」
糸子「ただいま。」
美代「フフフッ 聞いたで! 祝言の日 決まったんやてえ。」
糸子「うん…。」
「花嫁衣裳 どんなん すんのん?」
美代「なあ!」
「ほれ!」
糸子「まだ 決めてへん。」
美代「あ~!」
ハル「神戸のおばあちゃんが 買うてくれんやで。 うちと違て 金持ちやさかいなあ さぞかし 豪勢なこっちゃで!」
美代「へえ~!」
「楽しみやなあ~。」
ハル「うん!」
<何や! みんなして 急に ニヤニヤ ニヤニヤ ニヤニヤ!>
「糸ちゃん おめでとう!」
「おめでとう!」
(ため息)
糸子「イタッ!」
ハル「『おおきに』言わんけ! 何 ブスッとしてんよ。」
糸子「ほっといてくれたら ええのに。」
ハル「はあ?」
糸子「結婚 決まったちゅうだけで えらい さらしもんじょ。」
ハル「さらしもん?」
糸子「みんな うちの顔 見ちゃ ニタニタ ニタニタ!」
ハル「みんな 喜んでくれてんやし! ありがとう 思わんけ! ほんまに 親父に似て ひがみ根性 強いんやさかい…。」
糸子「ひがんでへんわ! 気色悪いだけや!」
(ため息)
糸子「何じゃ こら! うちは 見せもん ちゃうど!」
(足音)
<祝言が近づくにつれて 事は ひどなる一方で…>
玄関前
「糸ちゃん どうや? お支度 でけたけ?」
糸子「おかげさんで。」
「そうけえ!」
「糸ちゃん 花嫁衣裳 見せてな!」
「見せてな!」
「見せてな!」
糸子「ああ 分かった。」
<そんなこんなに 大概 嫌気が さしちゃあったせいか…>
糸子「あの~… 何か 御用ですか?」
「あっ! あんた この店の人け?」
糸子「はあ…。」
「あんな 頼みたい仕事が あんやしょ! ちょっと その むちゃな話なんやけどな そやけど 受けてもうたら ほんまに助かんよ! もうあと あんたんとこしか ないんやし。 このとおりよ! このとおり!」
<久しぶりに 人の必死な顔っちゅうもんを 見た気ぃがしました>