あらすじ
糸子(二宮星)は、舞踏会で見たドレスが目に焼きついて離れず、あこがれを募らせる。一方で、集金先の菓子屋で万引きをした男子をこらしめる。だが、逆に仕返しのケンカを売られ、河原で悪ガキと取っ組み合う。帯の間から、集金したお札が川に流され、あわてて追いかけた糸子は溺れかけるが、泰蔵(須賀貴匡)に助けられる。ずぶぬれで帰った糸子は、「女が男と張り合おうと思うな」と、善作(小林薫)に思いきり頬を殴られる。
4回ネタバレ
洋館
ホール
「(英語で)」
松坂家
玄関
貞子「ええから。 ええから 取っとき。」
千代「そやかて さっき 大きいお金 借りたとこやし…。」
貞子「あれは お父様から。 こっちは 私からやん。 子供らに おだんごでも食べさしたり。」
千代「ほんまあ? おおきに…。 糸子。」
糸子「えっ?」
小原家
小原呉服店
千代「父が 『今度限りやぞ』 言うてました。」
善作「うむ… ご苦労やった。」
千代「いいえ。」
善作「ばあさんに ぜんざい 作らしたさかい 子供らと一緒に食うたらええ。」
千代「ぜんざい? まあ 結構ですわ。」
善作「ああ?」
千代「甘いもん あっちで 山ほど食べましてん…。」
善作「待て!」
千代「わっ…。」
善作「何 ぜいたくな事 言うとんのじゃ! わしが『食え』言うとんのじゃ! ありがたがって 食わんかい!」
千代「へえ!」
善作「もう~!」
千代「ぜん ぜんざい… ぜんざい どこかね?」
子供部屋
(風の音)
<うちは 自分が見たもんが 信じられませんでした。 あのきれいな着物は 何やったんやろ? ほんまに この世のもんやろか? 夢やったんと ちゃうやろか?>
道中
奈津「おはようさん。」
糸子「奈津~! 奈津~!」 なあ うちな 正月に ごっついもん 見てん。 あんたやったら 知ってんちゃうか 思うて 聞きたいんやけどな。」
糸子「ドレス? ドレスちゅうんけ? あの きれいな着物。」
奈津「着物ちゃう。 洋服や。」
糸子「洋服?」
奈津「外国の着物は 洋服ちゅうんや。 あんた 何も知らんねんな。」
糸子「へえ~。」
奈津「うちの店にかて 時々 来るんやで 異人さん。」
糸子「ほんま?! ドレブ 着てる?」
奈津「『ドレブ』ちゃう。 ド~レ~ス。」
糸子「ドレス…。 ドレス 着てる?」
小原家
台所
魚売り『え~ いわし いわし え~ いわしは どうや。』
糸子「ただいま~! 遊んでくら! お芋さんや!」
ハル「食べてから 行き!」
玄関
善作「お~い 糸! 糸! おるか?!」
糸子「へえ!」
団子屋
店主「いつもいつも おおきに。 ヘッヘ。 毎度 おおきに。 寒いさかい 気ぃつけてな。 ほれ あんたも そろそろ帰らな。 おうちの人が心配してるで。」
糸子「おかまいのう。 集金に来てるて 知ってますさかい。」
店主「なんぼ座ってもろても ないもんは ないさかいな 今日のところは 堪忍してもらわなな。」
糸子「はあ…。 けど おっちゃん うちも 手ぶらで帰る訳には いきませんねん。」
店主「…さよけ~。」
「こんにちは~。」
店主「あ いらっしゃい。 ハハハ どうも。 何しましょう?」
勘助「おっちゃん! 串だんご ちょうだい。」
店主「1本やさかいな。 2本取りなや。 あ こっちはね 白あんが 入ってますねん。」
「白あんけ?」
店主「あっちもね 評判がよろしいんです。 あ こら! こら~! おお…。」
「2本 取ったんけ?」
店主「かないまへんわ ごんたどもが もう…。」
糸子「おっちゃん 待っといて!」
店主「えっ?」
糸子「取り返してきたるわ!」
店主「えっ?」
河原
佐藤平吉「イテッ!」
勘助「イテッ! 何すんねん! あ イタッ!」
糸子「やかましいわ こそ泥が!」
団子屋
糸子「よう懲らしめといちゃったで。 あいつら また悪さしよったら いつでも うちに言うてや。」
店主「かなんなあ お嬢ちゃんには。 さすがの おっちゃんも あんたの顔 立てへん訳には いかんようになったな。 払わしてもらいますわ。」
道中
「待ったらんかい!」
糸子「…何や?」
「お前か 小原糸子ちゅうんは。」
糸子「そうや。」
「わいの弟が えらい世話になったらしいな。」
糸子「はあ? 知らんがな。 どれが お前の弟やねん?」
平吉「わいじゃ!」
糸子「何や お前か。 お前 お菓子屋のおっちゃん 困らすなよ。」
「なめとったら 承知せんど!」
糸子「ああ?」
「顔… 貸してもらおうか。」
糸子「すまんな。 うちは忙しいんや。」
「女やからて 大目には見んど。」
糸子「ああ?! 別に 女やからて 逃げるんちゃうわ ボケ! 離せ! 上等や 受けちゃらあ! どこいなと案内しいや!」
河原
(川の流れる音)
(鳥の鳴き声)
「うらああ~っ! うりゃあ!」
糸子「うわ~!」
奈津「ん?」
糸子「うわ~!」
奈津「猿が 何 騒いでんやろ?」
糸子「う~っ!」
「あ~ イタイイタイ! あ~ イテ~!」
糸子「待て~! 待て~!」
「来るな!」
「行け 行け 行け!」
平吉「頑張れ 兄ちゃん! 頑張れ 兄ちゃん! 負けんな 兄ちゃん!」
「何や あれ? 何か 流れていかあ。」
糸子「ああっ! あかん 待って! 待って! 待って!」
平吉「大丈夫け?」
「大丈夫?」
「あっ アホか!」
「戻ってこんかい!」
勘助「糸やん!」
平吉「あいつ 溺れてんで!」
「どないしよ?」
勘助「糸~! 糸 糸~! 糸! 糸~! 糸 糸~! あっ 糸やん 糸! 糸~ 糸やん 糸~ 糸! あ~ 糸 糸やん! 糸やん! 糸やん! 糸~! 糸~ 糸~!」
「おう!」
勘助「糸! 糸やん 糸 糸~!」
「おい おい! これに つかまり!」
勘助「糸~! 糸! 糸 糸 糸~! 糸… 糸~! 糸~! 兄ちゃん!」
小原家
玄関
ハル「まあ そらあ 世話かけたよお! こんな ずぶぬれになって。 堪忍してや!」
泰蔵「すんませんでした。」
ハル「あんた 何 謝るんよ?」
泰蔵「いや うちのが 先に…。 勘助!」
勘助「すんませんでした。」
ハル「ええやん そんなん どうかて! それより 帰って 着物 着替えんと 風邪でも ひいたら えらいこっちゃ。 千代 膝掛けか何か 貸しちゃり!」
千代「へえ!」
泰蔵「いや そこですさかい。 ほな…。」
糸子「お金…。 お金 流れてってしまいました…。」
善作「そんな しょうもない けんか 何で 買うた?」
糸子「女やからて…。 女やからて なめられたなかった。」
(たたく音)
善作「分かったか これが 男の力じゃ! お前に 出せんのか?! 出せへんやろが! お前は どうあがいたかて 女なんじゃ。 女が 男と 張り合うて どないすんじゃい!」
勘助「すんません すんません…。 すんません すんませ… すんません。」
善作「はよ帰れ! 風邪ひくど!」
勘助「すんません。」