あらすじ
糸子(尾野真千子)が臨月を過ごすことになった松坂家では、家業の紡績工場が軍需品を作らざるを得なくなり清三郎(宝田明)や貞子(十朱幸代)が苦慮していた。店が気になる糸子は、こっそり抜け出して様子を見に行くが、電車の中で陣痛が始まってしまう。道中出会った木之元(甲本雅裕)に助けられ自宅に担ぎ込まれるが、難産で苦しむ。勝(駿河太郎)、善作(小林薫)、千代(麻生祐未)らが心配する中、次女の直子が誕生する。
50回ネタバレ
松坂家
リビング
(ラジオの戦局のニュース)
ラジオ♬『勝って来るぞと勇ましく ちかって故郷を出たからは 手柄たてずに』
(スイッチを切る音)
(せみの鳴き声)
♬~(レコード)
(ため息)
糸子「暇や。」
正一「そやけど お母さん もう これは 時間の問題です。 近いうちに 紡績は みんな 軍需品を作る工場になるか それが嫌やったら 合併か どっちかを選ばな あかんようになる。 お母さんが 何ぼ むくれても もう どないにも避けられん事に。」
貞子「むくれてない! 分かったわ 私でも…。 子供みたいな言い方せんといて!」
正一「やっぱり これまで うちが 必死で守ってきた この松坂紡績ゆう名は なんぼ お国のためやゆうたかて そんな簡単に やすやすと 捨てられるもんと違う。 どないかして…。」
絹江「パパ。」
(ため息)
正一「軍の衣料品作る工場としてでも 生き残りさえしたら 機械かて ある程度は 残せる。 そしたら 戦争が終わった時 早い時期に また生産 再開できる可能性かて あります。」
清三郎「うん! まあ それが現実的やな。 うん。」
正一「はい。」
清三郎「なあ 正一。 松坂紡績は もう お前のもんや。 お前の思うように やったらええ。 うん。」
正一「ありがとう。」
貞子「私は 嫌や。 何でや? 何で 松坂紡績が 軍服なんか作らな あかんのや? そんな事したら おじい様 お父様の申し訳が立てへん。『しょうもない事しよって』言うて お墓の中で お泣きになるわ。」
清三郎「なあ 貞子。 ええか? これが 時局ちゅうもんや。 うん。 そら お父様も お分かり下さる。」
貞子「あなたは 養子やから そんな簡単な事 言えるんです。」
(泣き声)
清三郎「貞子!」
正一「お母さん!」
(泣き声)
貞子「軍服なんか 嫌いや! あんなカメムシみたいな 不っ細工なもん うちの会社は 死んでも作りません!」
(泣き声)
廊下
<おばあちゃんらの無念さは うちには痛いほど分かりました ちっこいうちとて いつまでも 安穏としてられる訳やない 店の事が気になって しゃありませんでした>
糸子「よう探してみ! 絶対 2反あるはずやて。 もう ちゃんと全部 隠しといてや。 ああ ほなな。 もう 頼んないな。」
糸子「あれ? どこ行くん?」
貞子「あ 今から みんなで 会社 行ってくるからな。 何かあったら 女中らに言うたらええから。 な!」
糸子「分かった。 行ってらっしゃい!」
貞子「行ってきます。」
糸子「行ってらっしゃい! 行ってらっしゃい。」
清三郎「はい 行ってきます。 気ぃ付けや。」
糸子「うん。 行ってらっしゃい!」
清三郎「はい。」
リビング
糸子「あのな。」
女中「はい。」
糸子「うち 今から ちょっと部屋で 休むよって。」
女中「はあ。」
糸子「起こさんといてな 多分 夜まで ずっと寝るさかい。 おばあちゃんら 帰ってきても そない言うといてな。」
女中「分かりました。」
糸子「ほな。」
玄関
<ちょっと 店 見てくるだけや。 堪忍な>
電車
(電車の走行音)
<あれ?>
道中
(鼻歌)
木之元「え? 糸ちゃん。 エヘヘヘ! どないしたんや? 神戸 行ったんちゃうんけ?」
糸子「おっちゃん。」
木之元「あ… あれ? どないしたん? ん?」
岸和田商店街
木之元「どいて! どいてや! 陣痛や~!」
<ほんまに うちは 何回 おんなし事 やってんや>
小原家
オハラ洋裁店
勝「すんません 小原です。 あの うちのが 陣痛 始まってもて!」
昌子「2階の荷物どかして! 布団 敷いて!」
「はい!」
勝「そう 神戸 行っちゃった はずなんですけど 何か 近所で 陣痛 始まってるとこ 木之元さんが 見つけてくれて。 すぐ来て下さい! 頼んます!」
木之元「産婆さん 迎えに行こか?」
勝「すんません 頼んます!」
居間
(うめく声)
糸子「何や 優子ん時と違てな。」
静子「ん?」
糸子「おんなじ痛みが ずっと あんねん。 優子ん時は もっと どんどん どんどん強なって 早なったのにな。」
ハル「な…。」
糸子「うん?」
ハル「陣痛 いつ始まったん?」
糸子「う~ん。 2時半ごろや。」
ハル「4時間か…。」
糸子「よっぽどのゴテが 産まれてくるんやろか。」
ハル「ハハハ!」
糸子「あ~ いて…。」
(うめく声)
善作「ええこっちゃないかい これは 男が出てくるな。 そないゴテてるちゅう事は 男に決まってら。」
勝「はあ~。 ええですね。 息子かあ。」
善作「めでたいのう!」
2階 寝室
(うめく声)
居間
善作「10時か。 8時間やな。」
勝「えらい かかりますね。」
善作「あんまし かかると 子が出てくる前に 母親の方が参ってまうど。」
勝「えっ? お母さん!」
善作「な… 何や?」
千代「糸子が…。」
善作「糸子が どないしたんや?!」
千代「スルメ 持ってきてて。」
勝「ス… スルメ?」
千代「おなか すいてんのに 食べられへんさかい せめて スルメしゃぶっとくて。 かわいそうに!」
(犬のほえる声)
2階 寝室
(息む声)
(柱時計の時報)
居間
善作「わしは こうなったら 男でも女でも かめへん。 母親と子供が 無事でおってくれたら そんでええ。」
勝「僕かて産まれてさえくれたら 何でもええです。 犬の子でも 猿の子でも 何でも育てます!」
善作「そやな! 無事でおってくれたら 猿でもええな。」
2階 寝室
(息む声)
(産声)
居間
善作「産まれた!」
2人「産まれた!」
(笑い声)
勝「産まれた!」
善作「産まれたがな~! 産まれた 産まれた! 飲んでる場合かい お前!」
善作「ほう! 女の子か かいらしいのう。」
千代「ほんま かいらしいなあ!」
ハル「ヘヘ! かいらしいか? 猿みたいやんか。」
勝「フフフ! そら さっき僕が猿の子でも 育てる言うてもうたさかい。」
善作「せや わしも ついな 女の子でも 何でもええ 言うたさかい。 神さんが怒って こんな猿みたいな顔にしたんや。」
<失礼やな>
2階 寝室
貞子「ああ かわいい かわいい!」
糸子「ほんま ほんま堪忍な 心配かけて。」
貞子「ええって もう。 辛気くさい顔しんな。 こんな かいらしい赤ん坊が 元気に産まれたんや。」
清三郎「お手柄や。 大手柄や! わしらの宝が また増えた。」
貞子「宝や 宝や 子宝や!」
清三郎「ありがたいこっちゃ。 わしらは こんだけ 宝に恵まれとんや。 少々のもん無くしても なあ 何も怖がる事はない。」
安岡家
居間
(小鳥の鳴き声)
玉枝「名前どないしたん?」
糸子「直子。」
玉枝「へえ 直子。」
糸子「産まれてくる時に えらいゴテよったさかい 素直な子ぉに育つようにちゅうて 素直の直子。」
玉枝「へえ~ 直子ちゃん。」
八重子「直子ちゃん! かいらしい!」
玉枝「あ せや 勘助から 葉書 来たで!」
糸子「ああ 見せて。」
玉枝「待っててや。」
<八重子さんは 最近 パーマネントを始めました。 それが えらい評判で このごろは おばちゃんよりも 忙しそうです>
<このごろの勘助の葉書は もう 気色悪いほど 当たり障りのない文面で。 字ぃが 相変わらず 汚いっちゅう事以外 うちの知ってる 勘助やないみたいでした>