ドラマダイジェスト

連続テレビ小説「カーネーション」第51回「いつも想う」【第9週】

あらすじ

昭和15年秋、いよいよ統制が厳しくなり、糸子(尾野真千子)の洋装店も金額に上限が設けられてしまう。しかし糸子は、もうけを度外視してオシャレな服を作り、代金の代わりに野菜などの食料をもらうことが増えていく。問題は、やんちゃな次女の直子で、預け先の手を焼かせて断わられてしまう。仕事がはかどらない糸子を善作(小林薫)が呼び出し、困っている問屋から販売禁止のぜいたくな生地を買い取ってやれという話をする。

51ネタバレ

お菓子屋

糸子「こんにちは!」

「いらっしゃ~い。」

糸子「あ… なあ 栗まんじゅうは?」

「ああ 栗まんじゅうなんか もう 置いてへん。」

糸子「えっ? きんつばは? ようかんは?!」

「そんなもんも もう このごろは さっぱり 置かれへんようになって こんだけや。」

糸子「ええ? う~ん…。 ほな この大福 あるだけ。」

「おおきに。」

<国民から 栗まんじゅうまで 取り上げるような みみっちい事で 日本は ほんまに 戦争なんか 勝てるんか?!>

小原家

オハラ洋装店

糸子「栗まんじゅうぐらいな 好きなだけ食わせろっちゅうや。 その程度の度量も のうて 何が 大東亜共栄圏の盟主や。 アホらしい。 国民 搾り上げる事 ばっかし 考えよってからに。 ええかげんにせえちゅうや!」

昌子「先生 声が おっきいです。」

糸子「うん?」

静子「しょっ引かれるで 姉ちゃん。」

糸子「せやかて 思えへんか? うちらは 戦争なんか始めてもらわんかて 十分 機嫌よう 暮らしちゃったんや。 あっ 中村君!」

中村「はい。」

糸子「これ 男の人らで 食べ!」

中村「あっ 頂きます。」

糸子「昌ちゃん 2階へ お茶 持っていっちゃって。」

昌子「はい。」

糸子「うん! よっしゃ 仕事!」

2階 仕事場

勝「おう!『成都 敵中着陸に成功した』やて。」

<今年の7月に 七・七禁令が出て 100円以上の洋服を売ったら あかん事になりました。 上等や! 受けて立っちゃる! うちは 100円以下で できるかぎりの ええ服を ばんばん こさえちゃりました>

オハラ洋装店

大山「いや~ ちょっと~! ほんまに ええんけ? ほら ちょっと見てみいなあ。 うち 別嬪に見えるやろ?」

糸子「アハハハ! まあまあ この続きは 家で なんぼでも うっとりして。」

大山「そやな!」

糸子「うん。 あっちで お勘定 さしてもらうわ。 静子。」

大山「おおきに。 待たせてしもたなあ!」

客「小原さん これ 食べて。」

糸子「いや~ ええ色やなあ!」

客「こないだ あんなええ服 こさえてもうたさかい。」

糸子「いや~ うれしいわ! うっとこ みんな 大好きや。」

客「ほんま あんな安してもうたら うちらは 助かるけど 店 潰さんといてや。 柿くらいしか うちは あげられへんけどな。」

糸子「おおきに。 心配してもうて。」

居間

糸子「いや~! ほれ!」

昌子「先生。」

糸子「うん?」

昌子「なんぼ何でも むちゃです。」

糸子「何が?」

昌子「30円の服に 15円の生地 使て こんな 仕立てを きっちり やってたんでは 利益なんか 全然 出ません。 先月のワンピース1着当たりの利益 何ぼか 知ってますか? 2円です。 スカートは 80銭。 ブラウスは30銭。」

糸子「えっ? 30銭も あったん?!」

昌子「『30銭も』ちゃいます。『30銭しか』です! そら お客に喜んでもらうんも 大事です。 けど こんだけ繁盛して こんだけ働いて これしか儲からんちゅうのは 間違うてます。」

糸子「ええやんか そんで。」

昌子「ええ事 ありません!」

糸子「その分 柿やら 何やら もろてるやろ? うちが 縫い子の子らに ひもじい思い さしてるか? さしてへんやろ?」

昌子「手土産に 柿が もらえるちゅうんと 店の経営ちゅうんは そもそも 話が ちゃう!」

糸子「今は ええんやて そんで! 今は その… うん… あれじょ… あの… お国の非常時やろ。 そんな 店の儲けやら そんな細かい事 言うてたら いかんねん! 儲けは のうても お客さんに喜んでもらう。 そうする事で うちらも お国のためになるんや。 うん!」

(笑い声)

糸子「何や?」

勝「また 適当な事 言うてるで。」

静子「昼間 言うてたんと 全然ちゃうやん。 昼間は『栗まんじゅうも 食えんような国 勝てる訳ない』言うちゃったで。」

糸子「いや そんな… 適当な事 言うて…。」

(直子の泣き声)

糸子「あ…。」

(直子の泣き声)

玄関

吉田「ちょっと! 明日から もう よう預からんわ 直ちゃんは。」

(ため息)

糸子「はれ~ 何? ちょっとまた やんちゃした?」

吉田「やんちゃどころの騒ぎと ちゃうで あんた。 どこの猛獣 連れてきたんかちゅうほど 家ん中 グチャグチャになってしもたわ。」

糸子「まあ~ 堪忍なあ~。」

吉田「うっとこも いろんな子 預かってきたけど 直ちゃんは 桁が外れてるわ。 ほとほと降参や。」

糸子「あっ ちょっと待って! これ! これ 柿! 持って帰って。 な!」

吉田「いや ええわ。 とにかく 直ちゃんは 今日かぎり。 もう勘弁して。」

糸子「まあ そない言わんと。 いやいや ちょっと! なあ たまねぎは? なあ ちょっと! あんた! ちょっと! 米は? なあ! ちょっと待って! ちょっと! あああ もう!」

(カラスの鳴き声)

善作「ほいじょっと~! いやいやいや うちも 優子で 手ぇいっぱいや!」

優子「汚い 直子! こっち来な!」

(泣き声)

糸子「なあ 頼むわ。 さっき 吉田の おばちゃんにも断られたとこで もう いよいよ 直子 預かってもらえるとこ 無くなってしもたんやし。」

善作「吉田の おばはんは 何ちゅうちゃった?」

糸子「『やんどころの騒ぎ ちゃう。 猛獣や』て。」

善作「ハハハ 猛獣け!」

糸子「笑てる場合 ちゃうやん! あの子 いちゃったら ほんま 仕事にならへんやて。」

善作「まあ また 新しいとこ探せ。 お前なあ 優子かて 大概 わしら苦労してんやぞ。 これは おとなしい分 とにかく病気するさかいなあ。」

糸子「お父ちゃんらが 甘やかし過ぎてんや。 ちょっとは 寒いとこや暑いとこ ほったらかして 鍛えちゃらな あかんやて!」

善作「アホぬかせ! かわいい孫を ほったらかしなんか できるか! かわいそうに。 なあ~ 優子ちゃん!」

優子「うん?」

善作「ほな おじいちゃん 帰るよって また 明日な!」

優子「うん! さいなら~!」

善作「さいなら~!」

糸子「もう!」

居間

<今 縫い子は 昌ちゃん含めて4人が 住み込みで働いてるよって 夜は みんなで代わりばんこに 子守りが できるものの…>

勝「お~い 糸子! お前も はよ食べよ!」

糸子「うん。」

(泣き声)

<昼間は さすがに 誰も 猛獣の相手をしてる余裕は ありません>

(泣き声)

糸子「もう どないしよう…。」

2階 寝室

(たたく音)

昌子「イテッ! イテッ… イテテテッ! あ~ もう! 直ちゃん?!」

居間

(電話の呼び鈴)

糸子「よいしょ! はいはい。 はい 小原洋装店… あっ お父ちゃん…。 ああ… そやけどな 何で うちは 子供なんか 産んでしもたんやろ思てな~。 うん そんな簡単に見つからんて 預かってくれるとこなんか。」

(直子の泣き声)

糸子「えっ? ええ話? おっ?」

生地屋

糸子「あ… こんにちは!」

善作「ええよ!」

河瀬「あっ どうも。」

<『ええ話がある』ちゅうから てっきり 直子の預け先でも 見つけてくれたんか思たら 全然違て 商売の話でした>

善作「はい よち よちと!」

(泣き声)

<この人は お父ちゃんの知り合いで 生地問屋の大将です>

河瀬「これなんや。 ほれ ここに1本だけ 金糸が入ってますやろ?」

糸子「はあ。」

河瀬「これで この生地は ぜいたく品やちゅう事で 販売禁止を食ろてしもたんやし。」

糸子「えっ こんだけで? たった1本だけですやん。」

河瀬「いや せやけど そういう指定を受けてしもたら どないも でけへんやし。 けど これ モノは ええやろ?」

糸子「うん 上等です! ちょっと前やったら うちも こんなん よう使てました。 ワンピースでも スカートでも 何でも いける。 こんなんが 一番都合が ええんですわ。」

善作「お前 買うちゃれよ。」

糸子「えっ うちが?」

善作「うん。 大将 困ってんや。 これと同じもんがな 蔵に 山ほどあんねん。 これ 全部 売れんとなったら 店 えらいこっちゃ。」

河瀬「正直 もう 首くくらんと あかんやわ。」

糸子「ふ~ん。」

善作「こんだけや。 こんだけ どないか隠したら 使えるやろ。 モノは ええねん。 客かて 喜びよんで。」

糸子「分かりました。」

河瀬「えっ?!」

糸子「とりあえず 1反もろて 何ぞ こさえてみます。」

河瀬「そうけ! なんとかなるか?!」

糸子「やってみます。」

河瀬「おおきに! いや せめて 半分でも 買うてもうたら わしの首も なんとかなるさかい。 あっ 頼む! このとおりや!」

糸子「ところで 大将。」

河瀬「えっ?」

糸子「お宅に 子守りでける人 いてませんか?」

河瀬「子守り?」

小原家

玄関前

糸子「ヘヘッ! ほう!」

木岡「よう 糸ちゃん! えらい うれしそうやな! 何ぞ ええ事あったんけ?」

糸子「そやねん! 直子 預かってくれる人 見つかってん!」

木岡「ほらまた 気の毒なこっちゃのう!」

糸子「何やて? かわいいやろ? うちの子。」

木岡「いや かわ…。」

美代「かわいいけどな うちには近づけんといてな。 売りもんが あるよって!」

3人「ふふ~ん。」

糸子「へ~い! フフフフ…。」

(犬のほえる声)

居間

糸子「あ~ 昌ちゃん。 はい はい!」
(泣き声)

糸子「ちょっと頼むわ。 はい!」

(泣き声)

昌子「ベロベロバ~!」

玄関

糸子「あ~あ…。」

「大将に言われて お守りしちゃったんやけど 直子ちゃんが なんぼ言うても うちのおさげ 引っ張ってくるし ひっかいてくる。」

糸子「ああ… 堪忍なあ。 あっ おばあちゃん! 何か こう 甘いもんでも ないけ?

ハル「えっ 甘いもん?」

糸子「うん。」

ハル「ないわ。 どないしょ?」

糸子「いや どないかしてよ!」

ハル「勝さん! ちょっと! 勝さんて!」

オハラ洋装店

糸子「どないかなる。 絶対に 何か方法があるはずや…。」

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