あらすじ
糸子(尾野真千子)と勝(駿河太郎)は、直子を勝の弟夫婦に預けることに。後ろ髪を引かれる思いで店に戻った2人だが、直子が気になってしかたがない。ついに夜通し歩いて様子を見に行くが、ようやく慣れたところだからと断られ思い直す。それからの糸子は懸命に仕事をし、年末までに大量の布を使い切り、ようやく大みそかに直子を迎えに行く。正月、オハラ洋装店の服で着飾った女性であふれる神社で糸子は喜びもひとしおだった。
53回ネタバレ
小原家
オハラ洋装店
勝「うちの弟んとこ 頼もか。」
糸子「え?」
勝「明日 連れてって 大みそかに 迎えに来るちゅうて。 な?」
(小鳥の鳴き声)
川本家
居間
亘「ほなら うちには 女中らも いてるよって どないかしよう。」
勝「ほんまけ?」
糸子「おおきに。」
亘「困った時は お互いさまや。 うちも ちっこい坊主が 2人もいてるさかい かいらしい赤ん坊が いちゃったら 喜びよるやろ。」
糸子「すんません 暮れの忙しい時に。」
<勝さんのいう 弟んとこちゅうのは 生まれ育った実家の事で 今は 弟の亘さんが 継いでます>
亘「お母ちゃん。」
母「うん。」
亘「兄ちゃんら 来たで。」
母「まあ 来たんけ。」
<この弟さんを 見てたら 何で 勝さんが 家を継がんと うちに婿に来たんか よう分かる気がします。 どこから どう見ても 兄ちゃんより 上等で 跡取りに ふさわしい>
寝室
<寝てる直子は おとなしいて かわいいて 置いていくんが 妙に ふびんになります>
玄関
糸子「ほな よろしゅう お願いします。」
亘「気ぃ付けて。」
勝「うん。」
(直子の泣き声)
糸子「起きた。」
「お母ちゃんの顔 見たら よう離れんように なんちゃうか。」
(泣き声)
勝「そや 会わん方がええ。」
(泣き声)
糸子「ちょっと辛抱しといて。 済んだら すぐ迎えに来るよって。」
小原家
オハラ洋装店
(ため息)
<耳の奥に 直子の泣き声が こびりついて 取れませんでした>
玄関
善作「ただいま~! 優ちゃんのお帰りやで~!」
糸子「お帰り。」
ハル「お帰り!」
善作「ほれ 優ちゃん お母ちゃんに話しちゃり。 今日は 何 見に行ったんやったかいな。」
優子「歌舞伎!」
善作「そやなあ。 そんで 優ちゃんは 誰が 気に入ったんやったかいなあ?」
優子「春太郎!」
糸子「何やて? ちょっと見せてみ!」
善作「ええ芝居やったで。 脂の乗りきった役者ちゅうのは こういう事 言うんやろな。」
糸子「お父ちゃん! 子供に 何 見せてんよ?」
善作「ああ?」
糸子「春太郎なんか 見せんといてよ!」
善作「春太郎の何が悪いで?」
居間
優子「『腹は大きな肝っ玉あ~』。」
(笑い声)
中村「優ちゃん 途中で飽きんと 最後まで見たんけ?」
優子「うん。」
中村「ふ~ん。 偉いなあ。」
昌子「中村春太郎ちゅうたら 有名なタラシやろ。」
清子「タラシかどうか知らんけど いっとき よう 雑誌 載っちゃったな。」
静子「こないだ 結婚したさかい もう タラシと ちゃうんちゃう?」
昌子「は? 役者が結婚したくらいで タラシやめへんわ。」
糸子「直子 御飯 食べてるやろか。」
<近所の預けてる時は 仕事中に思い出す事なんか いっぺんも なかったのに。 今度は 直子の事を 5秒と忘れていられません>
オハラ洋装店
昌子「先生! 先生!」
糸子「ん?」
昌子「聞いてました? 今の うちの話。」
糸子「聞いてなかった。」
昌子「もう!」
2階 仕事場
<それは 勝さんも 同じやったようで>
(ため息)
オハラ洋装店
<とうとう 3日目の夜>
糸子「どこ行くん?」
勝「直子の顔 見てくる。」
糸子「今から?」
勝「パッと 顔 見るだけや。 今夜中には 戻る。」
糸子「うちも行く。」
川本家
玄関
(吹雪の音)
糸子「直子! 直子!」
(戸をたたく音)
勝「お~い! お~い!」
(戸をたたく音)
勝「お~い! 開けてくれ!」
糸子「ひょっとして? な! これ 直子が…?」
亘「どちらさん?」
勝「俺や 勝や!」
亘「兄ちゃん? どないしたん?」
勝「ちょっとな。 直子の顔 見に来たんや。」
亘「今 ちょうど寝ついたとこや。」
勝「ほな ちょっと寝顔だけでも。」
亘「いや…。 ようやっと 直ちゃんも 慣れてきたとこや。 万が一にも 目ぇ覚まして 親の顔なんか見てしもたら『元の木阿弥』で また手ぇ つけられへんようなら…。 すまんけど 今日は このまま帰ってくれ。」
(吹雪の音)
山道
糸子「きゃっ!」
(泣き声)
<この 万年 上機嫌の人が 泣いてます 人の親んなるっちゅうんは 何や どっか哀れな事なんやなあ>
小原家
居間
静子「で 結局 昨日 何時に帰ってきたん?」
糸子「昨日ちゃう 今朝の4時や。」
昌子「何で 大将だけ ここ 霜焼け なってんやろ? 先生 どうもなってへんのに。」
勝「ふん? 何でやろな?」
<あんた だらだら 涙 流しとったからや>
オハラ洋装店
(小鳥の鳴き声)
河瀬「正真正銘 こんで売り切りや。 やあ ほんまにおおきにな あんた。 恩に着るで!」
糸子「はいはい。」
河瀬「まさか 売り切れるとは 思わんかったえけどなあ。 はあ~ こんで なんとか 年越せら。 ハハハ! よいしょっと!」
糸子「ちょっと大将!」
河瀬「え?」
糸子「また すぐ そこに お客さん 来るんやさかい 生地置いたら さっさと帰ってや。」
河瀬「ハハハ! さすが繁盛してる店は 言う事がちゃうのう!」
糸子「忙しいんや! まだそんだけの生地 大みそかまでに 服にせんならんやさかい!」
河瀬「はいはい。 ほな 失礼するわ。 ほんまにおおきにな。 おおきに!」
糸子「おおきに!」
<そっから うちは もう 夜も ほとんど寝られんと 御飯だけは しっかり食べて>
糸子「はあ~ でけた!>
山道
(鳥の鳴き声)
糸子「直ちゃん! 直ちゃん! 直子! 直子! おいで!」
勝「直子! わしも。 ちょ わしも代わってくれ!」
糸子「嫌や。」
勝「ね…。」
神社
<やっと 正月が来ました>
勝「はい。」
糸子「はい。」
勝「直ちゃん。」
糸子「ん?」
勝「綿あめ 買うちゃろか?」
糸子「あら 綿あめ…。」
優子「優ちゃんも いる!」
(笑い声)
勝「分かった 分かった。 また おった。」
糸子「よっしゃ! こんで8人目。」
<せっかく 家族で めかしたさかい 家族写真ちゅうのを 撮ってもらいました>
小原家
玄関前
奥中「はい笑って そうそうそう!」
糸子「え~! ええか?」
奥中「ほな いくで! はい ここ見て!」
優子「もう 直子 うるさい!」
(シャッター音)
糸子「あ? あ もう撮ってしもたやん。」
奥中「もう一回な。」
勝「いいですか?」
奥中「直ちゃん! あらら!」