ドラマダイジェスト

連続テレビ小説「カーネーション」第54回「いつも想う」【第9週】

あらすじ

昭和16年7月、女性のオシャレを排除しようとする流れに玉枝(濱田マリ)らの安岡髪結い店は苦しんでいた。糸子(尾野真千子)のオハラ洋装店は相変わらずの繁盛だが、勝(駿河太郎)の仕事は減っている。ある日、勘助(尾上寛之)が戦地から戻ってくると分かり、善作(小林薫)らも大喜び。糸子は、はりきって歓迎会の準備を進めた。しかし歓迎会に勘助は現れず、祭りにも来ないことを不審に思った糸子は直接訪ねることにする。

54ネタバレ

安岡家

玄関前

子供達♬『はげた頭に 毛が3本』

子供達♬『ああ 恥ずかしや 恥ずかしや パーマネントは やめましょう』

玉枝「こりゃあ! ちぇい! があ~! ほんまに ごんたくれが!」

居間

「今のうちや。 言わせといちゃり。」

玉枝「えっ!」

「ごんたくれも あと10年したら パーマネントの別嬪 追いかけ回さな あかんよう なんやさかい。」

玉枝「そうか?」

<『おしゃれは 非国民の する事や』ちゅう風潮は 日に日に 強まってきてました。 せやけど その非国民が 毎日 わんさかと押し寄せてくれる おかげで 店は 相変わらずの繁盛です>

小原家

オハラ洋装店

「ブラウスも作ってもらおうかな思て。」

糸子「いつでも言うてや。」

<2階は ますます 仕事が減ってるようでした。 男の人は ほんまに 背広を作れへんようになって 国民服の注文が それも ポツポツしか 入りません>

吉田屋

座敷

(笑い声)

(ざわめき)

♬『金毘羅船々 追手に帆かけて シュラ シュ シュ シュ』

<また うまい事 でけてるもんで 戦争で儲からへんようになった 大将が おれば… 一人で儲かりまくってる 大将も おり…>

靖「徳利 あと10本 持ってきて!」

木岡「あと10本や!」

靖「頼むで~!」

奈津「へえ あと10本。」

靖「もう一回 いきまひょか。」

「せ~の!」

芸子♬『金毘羅船々』

<『そういう時は 気前よう おごり ありがたく おごられるんが 仁義っちゅうもんや』とばかりに 商店街の男連中が このごろ 遊んでばっかし いてます>

廊下

軍人達♬『手柄たてずに 死なりょうか 進軍ラッパ』

<吉田屋も 吉田屋で 軍需景気っちゅうもんに 大いに あずかってるんも ほんまの事でした>

(ざわめき)

(談笑)

座敷

「あ~ いけるんけ? いけるんけ?」

「おお~!」

「いや~! かめへん!」

「すんませんな。」

「ほんま あれ おおきにな!」

奈津「ちょっと あんた!」

康夫「ああ!」

奈津「何やってんの? 調子よう お客さんに交じって!」

勝「まあまあ 女将! 堪忍しちゃあってよ~! 大将も たまには 息抜きせな なあ!」

康夫「なあ!」

「かめへんて。 大将が飲んだら 飲んだ分だけ やっさんが 払うてくれんのやさかい。 ほんだけ 店かて 儲かるちゅうこっちゃ。 なあ!」

康夫「せや! わしは 店 儲からしちゃろ思て 飲んでんや。」

奈津「はあ?!」

康夫「言… 言うたった! わし ふだん こんなん怖て 絶対 よう 言わんのに!」

「おもろい!」

「ああ よう言うた!」

勝「よっしゃ! よう言うた! よう言うた!」

康夫「ああ!」

勝「飲んだれ! のう!」

康夫「おう おう!」

(閉める音)

「おおっ 怖!」

安岡家

居間

(小鳥の鳴き声)

八重子「お母さん…。」

玉枝「う~ん?」

八重子「もう やめよか?」

玉枝「何をや?」

八重子「パーマネント。 子供らも 学校で いろいろ 言われてるみたいやし。 うちが パーマネント始めたばっかりに みんなに つらい思いさしてんのが 申し訳のうて…。」

玉枝「アホか?! あんた まだ そんな 甘っちょろい事 言うてんけ?! パーマネントやめて どないして この店 続けていくんよ? また 髪結いだけに戻れると 思てんのけ?」

八重子「すんません…。」

玉枝「店一軒 守るゆうんは 大変な事や。 大変で当たり前なんや。 ええ時も あれば つらい時も ある! ええ時に 調子 乗んのも あかんけど つらい時に くじけんのも あかんねん! よう 覚えとき。」

八重子「はい…。」

配達員「安岡さん 電報です!」

玉枝「はい! どうも!」

配達員「はい。」

玉枝「ご苦労さんです。」

配達員「おおきに。」

玉枝「ああ…。」

八重子「えっ?」

玉枝「勘助からや!」

八重子「えっ?!」

玉枝「勘助が… 帰ってくるて!」

八重子「ほんまですか? お母さん!」

玉枝「帰ってくる! 勘助が 帰ってくる!」

井戸

善作「ほうけ! 勘助 帰ってきよんのけ? いつや?」

糸子「来週の水曜やて!」

善作「水曜? ほな お前 再来週のだんじり 曳けるやないか。 よかったな!」

糸子「なあ! ほんま よかったな!」

善作「おい! こら 飲まなんならんな!」

木之元「飲まんならん! ぱあ~っとの!」

(笑い声)

木岡「吉田屋 行くけ? また 靖に言うて 竹の間で 芸子6人や!」

善作「アホやな。 やっさん 勘助の事 知らんがな。」

木岡「ああ。」

糸子「やっさんて 誰?」

木岡「いや わしの弟や。 アハハッ。 ちっこい縫製工場 やっちゃったんが 軍服で ごっつい儲けてんねん。」

糸子「あ~! いっつも その やっさんに たかってんけ?」

善作「こら!『たかる』ちゅうな お前。 人聞きの悪い事 言うな! こらな 男同士の仁義の話じゃ。」

木之元「おう!」

糸子「せやけど 勘助も 知らん人に 宴会 開いてもうても 何やろ。 出征ん時みたいに うちで やろうや!」

小原家

居間

千代「はい どうぞ!」

木之元「これは うまそうだ!」

ハル「はい はい!」

木岡「おう すんませんなあ。」

糸子「あっ 八重子さん。 はよ来な もう おっちゃんら 飲み始めてもうてんで。 勘助 まだ帰ってきてへんの? えっ? うん? まだ 帰ってきてへんちゅう事? それとも 帰ってきてるちゅう事?」

台所

八重子「こんばんは~!」

糸子「やっと来た~!」

ハル「ちょっと待って。 ちょっと待って。」

糸子「勘助は?」

八重子「あ~ それがな 勘助ちゃん ちょっと おなかの調子が悪いらして 今日は… 遠慮さしてもらうって。」

一同「え~?!」

八重子「すんません。」

ハル「どないしたん?」

八重子「大した事ないんやし。 何か 分からんけど 帰り道に おなかでも壊したんとちゃうかの。」

ハル「はあ! 久しぶりの日本が うれしいて 目につくもん 片っ端から食べて 帰ってきたん ちゃうか?」

八重子「多分 それやと思いますわ。 すみません 皆さん。」

糸子「もう! 何やってんや あいつ! せっかく 店まで はよ閉めて 待っちゃったのに!」

八重子「堪忍なあ ほんまに。」

糸子「『治ったら いの一番に わび入れに来い』ちゅうて 言うといて!」

八重子「言うとく! ちゃんと言うとくで。」

居間

善作「何を食うて そんな 腹なんか壊しとんねん。」

泰蔵「ほんま すんません。」

八重子「ありがとうございます。」

泰蔵「皆さんも ほんま すんませんでした!」

木之元「ほんま アホや あいつは。」

<結局 その日ぃは 泰蔵兄ちゃんと八重子さんが 顔を出しただけで 勘助と おばちゃんは 来ませんでした>

ハル「人の事 なあ!」

<それから 何日たっても 勘助は 店を のぞきに来るどころか 祭りにさえ 顔を出しませんでした>

オハラ洋装店

(お囃子)

糸子「何でやろ?」

安岡家

居間

糸子「こんにちは!」

玉枝「あ…。」

八重子「糸ちゃん いらっしゃい。」

糸子「食べさしちゃろ思て 買うてきた。 いてる?」

玉枝「うん いてんで。 上がっちゃって。」

糸子「ほな お邪魔します。」

勘助の部屋

勘助「久しぶりやのう。」

糸子「何や… 手ぇも足も ちゃんと ついてるやんか。 あんまり 顔 見せへんさかい どえらい事に なってもうてるんか 思たわ。 心配するやろ? 顔 見せに来んかい あんた! うちらが どんだけ楽しみに 待っちょった 思てんよ? 聞いてんか?!」

勘助「手ぇも足も 残ってるけどなあ…。」

糸子「えっ?」

勘助「もっと…。 無くなったわ。」

糸子「何がや?」

勘助「心…。」

糸子「心?」

居間

糸子「また 来るよって。 お邪魔しました。」

玉枝「うん。」

八重子「またなあ。」

小原家

オハラ洋装店

八重子「多分 勘助ちゃん 戦争で よっぽどの目ぇ 見たんや。 本人が言うように 心を無くしてしもたんやと思う。」

糸子「はあ? 何や それ。 何や それ! もう 戻ってけえへんの? その 心ちゅうもんは。」

八重子「戻ってくる… って 信じたいと思てるよ。 うちも お母さんも 泰蔵さんも…。 やっと 自分のうちで ゆっくり 眠れて… お義母さんの作った御飯 食べてるうちに… また 元の勘助ちゃんに…。」

糸子「戻るわ! 絶対 戻るわ! こんなん 大げさに考えたら あかん! あの へたれが 戦争なんかに 行かされてしもたさかい ちょっと ぼ~っと なってしもたんや! すぐ戻る。 すぐ戻るわ 八重子さん!」

<大きい声で言いながら 誰よりも うちが そう思いたかったんです>

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