ドラマダイジェスト

連続テレビ小説「カーネーション」第55回「秘密」【第10週】

あらすじ

昭和16年12月、太平洋戦争が始まる。糸子(尾野真千子)のもとに国防婦人会の澤田(三島ゆり子)たちがやって来て、モンペを強要する。嫌がっていた糸子だが、その動きやすさを気に入り、戦争中、モンペでもオシャレを忘れない女性がいると実感する。ある日糸子は、戦地から戻って閉じこもっていた勘助(尾上寛之)が仕事に出ているとを知り、サエ(黒谷友香)に会わせ元気づけようとするが、大きなショックを与えてしまう。

55ネタバレ

小原家

居間

(ラジオ チャイム)

ラジオ『臨時ニュースを申し上げます。 臨時ニュースを申し上げます。』

ラジオ『大本営陸海軍部 12月8日 午前6時発表 帝国陸海軍は 今8日未明 西太平洋において アメリカ イギリス軍と 戦闘状態に入れり』。

勝「何やて?!」

昌子「えらいこっちゃ!」

ラジオ『西太平洋において アメリカ イギリス軍と戦闘状態に 入れり』。

糸子「終わるどころか また始まりよった。」

<昭和16年12月8日 大東亜戦争ちゅう戦争が 始まりました>

木之元電キ店

『おい こっちや こっちや はよ来い はよ来い!』

木之元「アメリカさんと戦争するとはのう。 ほんまに勝てるんけ?」

木岡「何 言うとんじゃい! 日本には 連合艦隊かて あるし。」

木之元「あるな。」

<これは あれと一緒やな。 男が 一旦 勝負にのぼせだしたら ちょっとや そっとじゃ 収まれへん>

回想

勘助「あ~ん もう~。」

糸子「へっへ~ん。」

善作「お~い お前ら お父ちゃんらと 一回 代われ。」

糸子「え~ 嫌や! うちら 今 山崩し やってんや。」

善作「ええさかい 一回 代われ。 一回だけや!」

糸子「もう~ 一回だけやで?!」

善作「よ~し よしよしよし…。 今度こそなあ お前 負け酒 飲ましちゃら。」

木之元「へえへえ 言うときや~。」

木岡「善ちゃん 口ばっかし。」

糸子「一回だけやで? 絶対やで?!」

善作「一回だけや 一回だけや。」

木之元「た~ はっは~! まあ こんなもんや~ ハハハハ!」

糸子「終わった?」

奥中「ほな 今度 わしと やろや!」

善作「お~ 来い 来い。」

糸子「え~? 終わるどころか また始まりよった。」

回想終了

糸子「ああ~! 戦争なんか 何が おもろいねん。」

<こっちは はよ まともな 商売したて うずうずしてんや。 勝つなり 負けるなり どっちゃでも ええさかい さっさと終わらんかい!>

澤田「ごめんください!」

一同「ごめんください!」

<い… 今 口に出して 言うたっけ? 頭ん中で 思ただけやっけ?>

一同「おはようございます!」

糸子「お… お… おはようございます。 ご苦労さんです。」

澤田「今朝のニュース お聞きになった事と思います。 いよいよ アメリカ イギリスとの戦争が 始まりました。 我々 女性も 家庭を戦場と心得 銃後の守りに当たりましょう!」

糸子「はい! もちろんです!」

澤田「ところで どうゆう事ですか その格好は?! 何で モンペやないんですか?! この期に及んで まだ 悠長に着物やなんて 不謹慎と言わざるをえません! そんな事では 銃後の守りは 務まりませんよ!」

糸子「ああ~ん!」

昌子「はい 先生 出来ました。」

糸子「えっ? おおきに。」

昌子「せやから『はよ はいといた方が ええですよ』って 言うたのに。」

糸子「『そんな事では 銃後の守りは 務まりませんよ!』。 くそ! あの おばはん 鬼の首でも取ったような顔で ぬかしよって…!」

静子「姉ちゃん! オハラ洋装店の店主が なんちゅう言葉遣いや!」

昌子「先生かて はいたら 絶対 気に入んで。」

糸子「あんなあ 昌ちゃん。 うちは 洋装店やろ。 洋装店には 洋装店の意地 ちゅうもんが あるやろ?! 戦争やからて 何で こんな 不細工なもん はかなあかんねん! そもそもな モンペっちゅう名前が 気に食わん。」

<ちゅうて さんざん 文句 言うてた うちでしたが… いっぺんに モンペが 気に入りました>

2階 座敷

糸子「こら 楽や。」

オハラ洋装店

「中に なんぼでも 重ねてはけるしな。」

糸子「中にな。」

「せやで~。 ちょっと見ちゃって これ。」

糸子「いや!」

「うちの秘めたる おしゃれ魂や。」

糸子「勉強なるわ~。」

「ハハハハハ!」

糸子「ほんまやな『戦争やから』言うて いじけてたら あかんな。 戦争中は 戦争中の おしゃれ魂 見せちゃらんとな。」

「うん そやで 小原さん。 あんたが 頑張らな。」

糸子「ほんまやな。 うん!」

安岡家

居間

玉枝「堪忍なあ いっつも もらうばっかしで…。」

糸子「ううん。 うっとこかて お客さんから もうたもんやし。 このごろは みんな お金 ないさかい 物で 払てくれるようになってな。」

玉枝「おばあちゃんにも よろしい 言うといてな。」

糸子「うん。 あれ? パーマ機 どないしたん?」

八重子「ああ ちょっと 目隠しや。」

糸子「何で?『供出せえ』言われたん?」

八重子「まだ言われてへんけど いずれは せな あかんやろなあ。」

糸子「せやけど 商売道具なんやし 大目に見てもらいよ。 うちかて ミシンやらアイロンやら 鉄のもん なんぼでも あるけど 死んでも 出す気ないで。」

八重子「同じ商売道具でも ミシンとパーマ機は ちょっと ちゃうよ。 パーマはなあ それでのうても 風当り 強いさかい。 女の洋髪なんか 今 日本で一番無駄で アホなもんやと思われてる。」

糸子「いや そんな事。」

八重子「何で 買うてしもたんやろ? あと もうちょっとだけ待って 時代の流れ 見といたよかった。 高い月賦だけが 残ってしもた…。 そやけどな 糸ちゃん 勘助ちゃんな。」

糸子「え?」

八重子「昨日から また お菓子屋さんに 働きに行ってんやで。」

糸子「えっ ほんま?」

八重子「『家で じいっと 籠もっちゃあたかて 余計に 気ぃ ふせぐやろ』ちゅうて 泰蔵さんが勧めたんやし。」

糸子「ほんまけ?! ああ よかった! そうか。」

お菓子屋

<勘助は やっぱし ボ~ッとしちゃあたけど そいいでも 前と おんなしように 菓子屋の店先に 座ってる。 そんだけで ずっとずっと 元気になったように うちには見えました。 それが あんまし うれしかったもんで もっと元気に さしたろて 思てもて>

勘助「ほな また 明日。」

「うん また明日。」

糸子「勘助!」

<ちょっと 先を 急ぎ過ぎたんやと思います>

糸子「寒いし コーヒーでも 飲みに 行かへんか? おごったんで。」

勘助「いや… ええわ。」

糸子「あ いやいや そやけど 待っちゃったんやで あんたと コーヒー 飲みたあて。 な?」

喫茶店・太鼓

糸子「去年の夏か 平吉も 出征しよってな。」

勘助「ふ~ん。」

見送りにも行ったけど あんたん時ほど派手やなかったで。 やっぱし あんたの頃が 一番 派手やったわ。 うん。」

(ドアの開く音)

糸子「あ 来た!」

サエ「ああ 久しぶりやなあ 糸ちゃん!」

糸子「勘助 覚えてるか?」

サエ「覚えてる 覚えてる! なあ 久しぶりやなあ! 戦地 行っちゃってんて? よう無事で 帰ってきたなあ。」

糸子「あんた 今 軍需工場で働いてんやて?」

サエ「そうや。 ダンスホールなんか とっくに 閉鎖されしもたよって 踊り子みんな 今 工場勤めやで。 はあ~ しんど。 ちょっと すんません! コーヒー 頂戴。」

糸子「勘助?」

サエ「どないしたん?」

勘助「うっ…。」

糸子「勘助? 勘助 大丈夫か?!」

サエ「え?」

糸子「ちょっと 子供 見ちゃって。 勘助~!」

道中

(勘助の泣き声)

小原家

居間

昌子「先生? 先生!」

糸子「え?」

昌子「うどん 全部 落ちてますよ。」

糸子「あ…。」

りん「これ 使うて下さい。 どうしたんですか? 先生。」

糸子「お代わり もうてくるわ。 はい 直子。 お父ちゃんに おぶ 飲ましてもらい。」

(戸をたたく音)

勝「誰か 来たで。」

(戸をたたく音)

玄関

糸子「おばちゃん… どないした?」

玉枝「勘助に 何した?」

糸子「え?」

玉枝「糸ちゃん。 あんた 勘助に 何してくれたんや?」

糸子「勘助が どないかしたんか?」

玉枝「さっき 2階から 飛び降りようとしよったわ。」

(雷鳴)

玉枝「やめてくれ!」

糸子「え?」

玉枝「糸ちゃん。 あんた 金輪際 勘助に会わんといてんか?!」

糸子「何で…?」

玉枝「あんなあ 糸ちゃん。 世の中っちゅうのはな みんなが あんたみたいに 強い訳 ちゃうんや。 あんたみたいに 勝ってばっかし おる訳 ちゃうんや。 みんな もっと弱いんや。 もっと負けてんや。 うまい事いかんと 悲しいて 自分が みじめなんも 分かってる。 そやけど 生きていかな いかんさかい どないかこないか やっとんねん。 あんたに そんな気持ち 分かるか? 商売も うまい事いって 家族も みんな元気で 結構なこっちゃな!」

玉枝「あんたにはな… なあんも 分かれへえわ! どないか 働きに出れるよになったのに…。 ここまで うちらが どんだけ 神経すり減らしてきたか あんたには 想像もつけへんやろ?! 今の勘助に あんたのずぶとさは 毒や! 頼むさかい… もう うちには 近づかんといて。」

(雷鳴)

モバイルバージョンを終了