あらすじ
八重子(田丸麻紀)が、糸子(尾野真千子)と玉枝(濱田マリ)の間をとりなすが、糸子は追い返してしまう。内心落ち込んでいた糸子だが、昌子(玄覺悠子)のしったで目が覚め、家族のため仕事に専念すると誓う。昭和17年、衣料品売買には切符が必要となり、善作(小林薫)が来て整理を手伝うようになる。2人の娘に手を焼きつつも仕事に励む糸子は3人目を妊娠中。一方、勝(駿河太郎)は夜釣りと称して出歩くことが増えていた。
56回ネタバレ
小原家
玄関前
玉枝「世の中ちゅうのはな みんなが あんたみたいに 強い訳ちゃうんや。 みんな もっと弱いんや。」
八重子「おはようさん。」
(小鳥の鳴き声)
井戸
八重子「お母さんの事 堪忍しちゃってな。 正直 うっとこの店 戦争 始まってから かなり しんどなっててな。 その上に 勘助ちゃんが あんなん なって…。 お母さん ほんまに 笑わへんようになってしもて。 このごろは うちらなんかにも つら当たる事が 多いんやし。」
八重子「けど もともとの根ぇは あんな ええ人やさかい 今は ぐっと こらえちゃらな あかん。 この しんどいんを越えたら また あの優しいお母さんに 戻ってくれる。 そう思うようにしてんやし。」
糸子「そやけど…。 うちは お宅らの 身内と ちゃうさかい。」
八重子「え?」
糸子「辛抱する筋合いないわ。」
八重子「糸ちゃん…。」
糸子「おばちゃんな…。 多分 うちが店 繁盛させてんのが 目障りなんや。 うちが 勘助の世話 焼くんも うっとうして しゃあないんや。『あんたは毒や。 頼むから 近づかんといてくれ』て…。」
糸子「おばちゃんが うちに そない言うたんや。 うちが堪忍するかどうかの 話ちゃう。『近づくな』って 言われたんやさかい うちは 金輪際 使づかへん。 ほな そろそろ お客さん 来るよって。」
小原家
2階 座敷
<アホか 八重子さんに当たって どないすんねん>
(泣き声)
糸子「あんたまで お母ちゃん嫌いか。」
(泣き声)
糸子「堪忍な。 何やっても うっとうしいお母ちゃんで。」
オハラ洋装店
昌子「もう! 先生 どこ行ったんや この忙しいのに。 大将! 先生 知りませんか?」
勝「おお 上に いてんで。」
昌子「上?」
勝「うん。」
昌子「何やってるんですか?」
勝「何や フテてら。」
昌子「フテてる?」
勝「うん。」
昌子「何で?」
勝「まあ そっとしといちゃれ。」
昌子「無理です! お客さんが待ってんのに! 先生!」
2階 座敷
昌子「何してるんですか? 2月からは 衣料切符が始まって 自由に商売でけへんように なるさかい その前に 受けられるだけ 仕事 受けとこっちゅうちゃったん 先生 ちゃうんですか?」
糸子「ええやん もう。 うちが儲けたら 他が儲かれへんさかいな。 うちが稼がんのが 世のためなんや。」
昌子「はあ! 何を ふぬけた事 言うてるんですか! うっとこは もう縫い子が 7人も働いてんや! 7軒分の生活が かかってんや! 何が 稼がへんのが 世のためや? うちらは どないなるんですか! 寝ぼけんのも 大概にして下さ~い!」
(落ちる音)
オハラ洋装店
糸子「あ イデデデデ!」
勝「大丈夫?」
静子「大丈夫? 姉ちゃん!」
糸子「ああ。 ああ~! あ~。 ああ~。」
(首の骨の鳴る音)
糸子「ああ~! あ~! おおきに! 目ぇ覚めたわ。」
糸子「すんません お待たせして。」
「もう! びっくりするがな! 大丈夫け?」
糸子「大丈夫や!」
<昌ちゃんの言うとおりです。 うちには 家族がおる。 7人の縫い子を抱えてる。 ようさんのお客さんを 待たせてる。 どんだけ憎まれようが 負ける訳には いけへんねん>
安岡家
玄関前
(カラスの鳴き声)
<さいなら。 もう二度と 来えへんよって>
道中
糸子「悪いけどな うちは負けへん。 戦争にも 貧乏にも 勝って勝って 勝ちまくるんや。 嫌いたかったら 嫌たらええ。 なんぼでも 嫌てくれ!」
(泣き声)
小原家
オハラ洋装店
<清子と光子が それぞれ 勤め先をクビになったので うちで 雇う事になりました。 せやさかい 今 店に 縫い子は 9人 そのうちの男の子ら2人は 相変わらず 2階の紳士服の 注文がないよって ほとんど ずっと 1階の仕事を手伝わせてます。 あともう1人 新しく 店の手伝いをしてくれるように なった人があります>
善作「あ~ 暑いのう!」
糸子「いらっしゃい!」
<お父ちゃんです>
糸子「はい。 ほな 頼むわ。」
善作「うん。」
大山「こんにちは!」
糸子「いらっしゃい!」
大山「暑いなあ!」
糸子「なあ 暑いな!」
<この2月から 衣料の買い物には 全部 この切符が いるようになりました>
糸子「ほな 切符8点と4円80銭… やけど4円でええわ。」
大山「ほんまに? うれしいわ。 おおきになあ!」
糸子「いいえ。」
大山「ほな はい切符。」
糸子「はい。 お父ちゃん 8点。」
善作「8点な。 はい。」
糸子「おおきに!」
<月末には お客さんから もろた切符を 帳面に貼って 配給所に申告します。 要は ここに貼られた分だけを 次にも仕入れる事が できる訳やけど 運のええ事に 組合が この配給委員を 勝さんに やらせてくれたよって>
勝「ただいま!」
糸子「お帰り。」
勝「デシン 多めに仕入れるようにしといた。」
糸子「ほんま? おおきに。 ようできたな?」
勝「いや デシンなんか 高い割に 点数 少ないさかい 逆に 余ってら。」
勝「人絹の方が安い 点数も多いし よう売れる。」
糸子「そやねんけどな うち 人絹 嫌いやし。」
勝「うん?」
糸子「安うても どうせ お客さんが 着てるうちに あかんように なってしまうわ。 あかんて分かってるもんを 薦める気ぃには なれへんねん。」
井戸
(笑い声)
美代「優ちゃん 絵上手やし。」
「ほんまや 天才やな。」
(笑い声)
美代「直ちゃん!」
優子「ちょっと 直子 何すんよ?」
美代「こらこらこら!」
優子「あかん こら!」
「もう~!」
美代「姉ちゃんばっかり 褒められたら 直ちゃんも 気ぃ悪いもんなあ。」
糸子「優子 直子 そろそろ うち 入り。」
優子「ふん!」
糸子「こら 優子! これ!」
(泣き声)
「あ~あ!」
糸子「はいはい よし泣かんでええ。 もう泣かんでええ。
<あ それから うちの おなかには また新しい子ぉがおります>
糸子「フフフ! おおきに。 さいなら!」
「はい さいなら!」
小原家
玄関前
糸子「はれ? 出かけるんけ?」
勝「おう!」
糸子「どこへ?」
勝「うん。 釣りや。 夜釣りに誘われててな。」
糸子「へえ~。」
勝「ほな。」
糸子「気ぃ付けて。」
糸子「どないしたん?」
昌子「夜釣り?」
糸子「え?」
昌子「先生 ほんまに 夜釣りで ええんですか?」
糸子「何が?」
昌子「よう考えて下さい。 大将が 一体 何を釣りに行ってんのか。 先生。」
糸子「面倒くさい。」
昌子「面倒くさい?」
糸子「夜釣りや言うてんやさかい 夜釣りでええやんか。」
<面倒くさいっちゅうんも 何やけど まあ 正直 どうでもええ。 そんな事よりも 昨日の仕入れ 今日の注文 今月の損益 家族の健康。 戦争は この先 どないなるんか 考えんとあかん事が 多すぎて いちいち 勘ぐってる暇なんか ないっちゅうんが ほんまのとこでした。>
<勝さんのええとこは どんだけ 1階が繁盛しちゃあっても ひがまへん 妬まへん ほっといても 上機嫌。 とにかく カサ高ないっちゅうだけで うちには 十分 都合のええ旦那や そう思てました>
オハラ洋装店
糸子「う~ あ~! うん…。 あ…。 あ 直子は?」
勝「ああ 寝た。」
糸子「はは どおりで静かやな。」
勝「なあ。」
糸子「うん?」
勝「たまには…。 歌舞伎でも 見せちゃろか。」
糸子「え? 歌舞伎?」
勝「うん。 行こうよ 一緒に。」