ドラマダイジェスト

連続テレビ小説「カーネーション」第59回「秘密」【第10週】

あらすじ

写真の女は、歌舞伎座で声をかけてきた勝(駿河太郎)の浮気相手だった。糸子(尾野真千子)は、勝の浮気を知りながら、もう出征したのだからと気にもとめず、面会に訪ねてみようなどと言う善作(小林薫)の態度に激怒する。自分は女として見られておらず、仕事好きだから重宝されたのだと、これまでの勝のすべてを腹立たしく思う糸子。そして糸子は、男たちではなく、珍しく奈津(栗山千明)に話を聞いてもらおうと思い立つ。

59ネタバレ

小原家

2階 座敷

糸子「うち どっかで見た事ある。」

回想

菊乃「あ 小原さん!」

回想終了

糸子「あの人や。 菊乃。」

善作「菊乃。」

糸子「お父ちゃん 知ってんけ?」

善作「あ いやいや いや わしは…。」

(せきばらい)

糸子「何ちゃらいう店や 言うてたで? ワカマツ? わ…。」

善作「わか竹。」

糸子「お父ちゃん 知ってんけ?」

善作「え?」

糸子「なあ 店。 菊乃?」

善作「いやいや そら 知らん。」

糸子「お父ちゃん!」

善作「知らん 知らん 知らん! 知らんがな。」

回想

勝「天満屋!」

<うわ! 何や うまい事 掛け声 かけんなあ!>

勝「やっぱし 赤やな。」

店員「そうですね お顔映りが よろしゅうございます。」

糸子「ほうかの。」

勝「ほな 赤 もらおう。」

店員「おおきに ありがとうございます。」

勝「そのまま 掛けて帰ろか?」

糸子「え? そやけど そんな すぐ使うん もったいないなあ。」

勝「ええて そのまま帰ろう。 値札だけ取っちゃってくれるか。」

店員「はい。」

<この人 女の買い物にも こんな うまい事つきあうんやな。 あの日 うちは あの人の それまで見た事もなかった いろんな顔を知って 平たく言うたら ちょっと ほれ直したんです。 けど よう考えたら そら うちが知らん間に 遊び慣れ しちゃあったちゅうこっちゃ>

勝「ほんでな それと同じもん もう一個あるか?」

店員「はい ございますよ。」

勝「包んでくれ 贈りもんで。」

店員「かしこまりました。」

勝「悪い事してしもたなあ。」

菊乃「小原さん!」

勝「ああ!『堪忍。 お前 今日 来られへんなった ちゅうちゃったさかい。』」

菊乃「『それが急に お座敷なくなったよって 慌てて来たんやけど。』奥さん?」

回想終了

オハラ洋装店

昌子「先生? 気分でも悪いんですか? あれ? 紅は? もう さすん やめたんですか?」

糸子「あんなあ。」

昌子「はい。」

糸子「うちが歌舞伎 見に行った日ぃ あったやろ?」

昌子「はい。」

糸子「あの晩 大将 包み 何個 持っちゃったか 覚えてるけ?」

昌子「はあ?」

糸子「2個ちゃうかったけ? 1個は 大福 もう1個は 百貨店のちゃうかったけ?」

昌子「覚えてませんて。 何なんですか?」

糸子「何や そんな気ぃしてきたんや。 急に。」

<どうせ そんなとこやったんちゃうか>

2階 座敷

<はあ ほんまに別嬪やなあ。 こんな別嬪が好きで 何で うちと結婚したんやろ>

回想

勝「そやから顔 見に来たんや。」

糸子「何で?」

勝「見に来たかったからや。」

勝「ロイヤルで あんたが働いてるとこ見て ええなあ思たんや。 こいつの仕事っぷり ほれぼれすんのう思ちゃったやし。」

回想終了

台所

<要するにや>

ハル「こら あんまり食べなや。」

<うちは女として好かれちゃった 訳ちゃうんや。 ただの稼ぎ手として 見込まれちゃっただけや。 ほっといても 嫁は せっせと稼ぎよる。 そやさかい 自分は なんぼでも 外で別嬪と遊べる。 ほんで うちを 大事にして くれちゃった。 そんだけや>

オハラ洋装店

糸子「ああ 芋 食べ過ぎた。」

昌子「先生 どこ行っちゃったんですか! この年の瀬の忙しい時に さぼってる暇…。」

糸子「分かってる! どうせ うちは仕事しか 能ないよって。 今日から飛ばすで。 うちとした事が ここ何日かで 後れ 取ってしもた。」

昌子「まあ ほんなら安心しますけど。」

善作「よう!」

木之元「毎度!」

昌子「あれ いらっしゃい!」

善作「おい 糸子。」

糸子「何?」

善作「勝君 まだ 大阪にいてるらしいで。」

糸子「え?」

木之元「わしの知り合いに その辺の情報通がいててな。 何でも そいつに聞いたら 教えてくれんやし。 勝君 年明けまでは 内地にいてんやて。」

糸子「へえ…。」

善作「試しに明日 面会に行っちゃろやないか。」

木之元「会わせてもらえるかどうかは 分かれへんけどな。 そやけど 会えたっちゅう奴も いてるらしいで。」

善作「せやで 正月用の餅1個でも 差し入れできたらなあ。」

木之元「いや~ そら 無理ちゃうか さすがになあ。」

糸子「うちは 行けへんで!」

善作「何でや?」

糸子「何でて…。 何でて お父ちゃんこそ 何でや?」

善作「ああ?」

糸子「うちの親父やったら あの婿 何してんやちゅうて もっと 腹立てても ええんちゃうんか!」

善作「ああ…。 ああ あんなもん お前 大した事やないわ。」

糸子「はあ?」

善作「そらな そこに いてんやったらな ちょこっと 小言のひと事でも 言うちゃろかちゅう気にも なるけどやな。 相手は 出征してしもてんやで お前。 これから 大事な戦争に 行かな ならんのに…。」

糸子「関係ないわ そんなもん!」

善作「わめくな! 男の浮気に一つや二つで!」

昌子「う… 浮気?! やっぱし 浮気しちゃったんんですか? 大将!」

木之元「まあまあ けど 糸ちゃん ほんま 男の浮気に一つや二つな。 うわ~!」

<はあ~ 男っちゅうもんは!>

昌子「ちょっと先生!」

<分かった。 よう分かった うちのお父ちゃんも 木之元のおっちゃんも>

玄関前

木岡「よう 糸ちゃん! ええ?」

<木岡のおっちゃんかて 男は みんなで こう言うんや。『男の浮気の一つや二つ どうっちゅうこちゃないよ。 堪忍したれ~』。 どうっちゅう事 あるかないかは 女が決めるんじゃ! 男同士ちゅうんは 何で あんな腐ってんねん! 女同士は そんな甘ったるないで! うちらは もっとな! もっとこう… 何ちゅうか>

吉田屋

控え室

奈津「何や?」

糸子「別に。」

奈津「また何か うちに余計な事を 言いに来たんけ? 誰に聞いたか知らんけどな 旦那が芸子と逃げたくらい うちは 蚊ぁに刺されたほども 気にしてへんねん。」

糸子「逃げた?! 旦那が? ほんまけ? 知らんかった…。」

奈津「ほな 何しに来たんよ? あんた。 何なんや? 用ないんやったら帰りよ。 こっちは 忙しのに。」

糸子「いやいやいや! ちょっと待ってよ!」

奈津「ああ?」

糸子「あんた 菊乃って知ってるけ?」

奈津「菊乃? ああ わか竹のか?」

糸子「知ってんけ?」

奈津「有名や。 別嬪で。」

糸子「ほうか。」

奈津「菊乃が どないしたん?」

糸子「浮気しちゃったんやし。」

奈津「誰が? あんたの旦那け? は! 嘘やろ。」

糸子「ほんまや。」

奈津「あんたの旦那ごときが 菊乃みたいな上玉と。」

糸子「いや ほんまやねんて。」

奈津「あんたの旦那… どんな顔しちゃあったっけ?」

糸子「顔は ともかく 羽振りは よかった思うねん。 うちに たんまり 稼ぎがあるよって。」

奈津「自慢け?」

糸子「自慢な訳ないやろ? 旦那に 浮気されちゃったちゅうのに。」

奈津「ほな 何やねん。」

糸子「何ちゅうか。 うちの周りの男らがな 口そろえて『男の浮気の 一つや二つ どうっちゅう事ない』て言いよったんや。 お父ちゃんとか 近所のおっちゃんとかがな。 急に がっしり 円でも組むみたいに 旦那をかばいよんのが 腹立ったんや。」

糸子「あいつら… 誰かの浮気を どうっちゅう事 ない事にしといたら 自分の浮気も どうっちゅう事 ない事になる 思てんや。 その根性が 気にくわんねん。 みんなで ほんまの事を どないか ねじまげたろちゅうな。 うちらは…。 うちら女は 絶対 そんな事せえへんやんか?」

奈津「知らんわ ほんな事。」

糸子「え?」

奈津「あんたの旦那の浮気やろ? 自分で考えりよ。」

糸子「はあ。」

奈津「しょうもない話に つきあわさんといてんか。 忙しのに。」

糸子「堪忍。」

奈津「ほんで あんたの旦那は 何ちゅうてんよ。」

糸子「それが 出征してしもてな。」

奈津「はあ! なおさら もう どうでもええ話やんか。 しゃきっとしいや!」

<これや。 これでええ。 うちと奈津 女同士は これでええんや>

河原

<目を開けたら 雪が降ってました>

モバイルバージョンを終了