ドラマダイジェスト

連続テレビ小説「カーネーション」第60回「秘密」【第10週】

あらすじ

善作(小林薫)は勝(駿河太郎)の連隊を訪ねたが会うことはできなかった。糸子(尾野真千子)は歳暮として、野菜を近所に配ることにし、そのなかに、そっと安岡家を加える。勝が日本を離れたと知って間もなく、澤田(三島ゆり子)らが訪ねてきて、勝のミシンを資源として供出するように糸子に迫る。死んで国の役に立てという言葉に糸子は激怒し、その夜は隣にいない勝を愛しく思う。しかし階下では善作に大変なことが起きていた。

60ネタバレ

小原家

オハラ洋装店

<昭和17年の年の暮れ お父ちゃんは ほんまに馬場の37連隊まで 出かけていきました。 けど 結局 勝さんとの面会は 許されへんかったそうです>

善作「会わしてもらえなんだ。」

(ミシンの音)

善作「クッソ~ ほんまに もう 軍隊ちゅう所は 情のない所やで。 う~ さぶっ。 あっ 優ちゃん! おじいちゃん 帰ってきたでえ。 これ お土産や!」

優子「お帰り! おじいちゃん。」

善作「ヘヘッ 食べよ 食べよ。」

優子「おいしそう。」

居間

糸子「ここ 大根 もう1本 足しちゃって それ ちいちゃいさかい。 ええか? 家の奥に 通して もうてから 中身 出すんやで。 あんまり 人目についたら ようないさかいな。」

縫い子達「はい。」

ハル「ほなな そ~っとやで。」

木之元電キ店

♬~(ラジオ『愛国行進曲』)

糸子「こんにちは!」

節子「ああ…。 おとうちゃん。 おとうちゃん!」

木之元「はい ごめんなさい。」

節子「糸ちゃん。」

木之元「おお 糸ちゃん。 どないしたん?」

糸子「これ。」

木之元「うん? 何?」

糸子「これ。」

木之元「うん? おお?!」

糸子「歳暮! 今年も 世話になったさかいな。」

木之元「うわ~ 助かるわ~ もう おおきになあ!」

糸子「お煮しめと雑煮ぐらい 出来るだけ 入れといたさかい ええ正月 迎えてや。」

木之元「おおきになあ。 節ちゃん こんなに もう…。」

糸子「何ぞ おもろいもんでも 入ってないんけ?」

木之元「さっぱりや。 もう 金属は 供出で 取られるばっかしやしな。 あっ 懐中電灯 要らんけ? ヘヘヘヘヘッ いざっちゅう時に ようさん あったら ええでえ。」

糸子「要らんわ。 全然 おもろない。」

木之元「確かに おもろうは ない。」

糸子「もうええわ。 ほな よいお年を!」

木之元「おう。 よう お年を。 おおきにな!」

節子「糸ちゃん! 糸ちゃん!」

糸子「どないしたん?」

節子「これ。 懐炉や。 油 入れて 火ぃ付けたら ぬくなるよって。 使て。」

糸子「ええの?」

節子「いっつも もらうばっかしやさかいな。」

糸子「おおきに。 ほんま 寒いさかいなあ ごっつい うれしいわ!」

節子「ええ年をな。」

糸子「よいお年を。」

小原家

オハラ洋装店

「そやけど せっかくの正月に せめて 肌着ぐらいは 新しいの 着せちゃりたいやろ?」

糸子「そら そうや! 肌着が新しいだけでも 気ぃが 全然ちゃうわ。」

「うん。」

糸子「はい!」

「おおきに。 ほな また来るわ!」

糸子「おおきに。」

「ええお年を。」

糸子「ええお年を。」

「あっ ええお年を~。」

りん「ええお年を。 ただいま帰りました。」

糸子「あっ… あんた 安岡髪結い店 ちゃんと分かったか?」

りん「はい 分かりました。」

糸子「あんじょう受け取ってもうたか?」

りん「はい このとおりです。」

糸子「誰に渡したん?」

りん「女の人です 背ぇ高い。」

糸子「八重子さんか。」

りん「先生に『くれぐれも お礼 言うといて』て 言うてました。」

糸子「男は おらんかったか?」

りん「男の人?」

糸子「うちと 同い年ぐらいの ひょろっとした 顔のなまっちろい…。」

りん「さあ 見てません。」

糸子「ほうか…。」

りん「背の高い女の人と おばさんだけでした。 おばさんとは 何も しゃべりませんでした。」

<よかった。 ちょっと安心やな>

居間

<受け取ってさえくれたんやったら この正月には 雑煮が食べられてるやろ。 お煮しめも きんとんも こさえられるだけ 野菜かて 入れといた>

昌子「先生。」

糸子「ほな 頂きます!」

一同「頂きます!」

「うわ~ おいしそう!」

善作「餅ぐらい 食えてんのかなあ…。」

ハル「勝さんけ?」

善作「うん。」

千代「そら これから しっかり戦うて もらわんと あかんやさかい お雑煮ぐらい た~んと食べさして くれるんと ちゃいますか?」

善作「ふん。 お前な… 軍隊ちゅうのは そんな甘いもんと ちゃうんやど。」

(小鳥の鳴き声)

<年が明けて 電気やら ガスやら いろんな規制が ますます厳しなりました>

優子「おじいちゃん 何? それ。」

善作「これなあ 懐炉ちゅうてな…。」

<2軒の家に 散らばってるより 1軒に おった方が 何かと節約なるちゅうて お父ちゃんらは うちで 寝起きするようになりました。 まあ その方が 子守かて してもらえるよって うちにとっても 都合がええ>

善作「これはなあ 危ないさかいな 優ちゃん 絶対 触ったら あかんで。」

優子「は~い! 優ちゃん 触らへん。」

善作「よっしゃ!」

オハラ洋装店

木之元「よう! 糸ちゃん。」

糸子「ああ いらっしゃい。 お父ちゃん。 木之元のおっちゃん。」

木之元「いや まあ… 糸ちゃんに 言いに来たんやけどな。」

糸子「えっ?」

善作「どないしたんや?」

木之元「昨日な…。」

善作「うん。」

木之元「勝君 大陸へ渡ったて。」

<『どうせ 浮気しちゃあた旦那や』ちゅう気持ちと『そやけど うちが 何ぼ 家族 ほったらかして 仕事したかて 文句の一つも言わへんかった。 あんな優しい人は いてへんで』ちゅう気持ちと『いや ほんなもん 自分が遊ぶんに 都合よかっただけや。 けど そこまで 腹黒い人やないはずや』。 一日中 ほんなんが 頭ん中で グルグル グルグル…。 出征してしもて 悲しさやら 心配やら ない事はないけど 他で グルグルし過ぎて そこまで 気ぃが いけへんちゅうんは ええんか 悪いんか…>

澤田「ごめんください!」

糸子「はい。 どうも…。」

澤田「小原さん。 この度は ご主人の出征 誠に おめでとうございます!」

3人「おめでとうございます!」

糸子「どうも おおきに。」

「で あの ご主人なんですけど。」

糸子「はい。 2階で 紳士服のご商売 してましたね?」

「ご自分のミシンで 縫製もしてたと 聞きました。」

糸子「はあ そうですけど。」

「という事は そのミシン 今は 使われてない ゆう事ですね?」

糸子「あ… いや 使てます。 あれは 要るんです。 供出できません。」

澤田「小原さん 今は お国の非常時です。」

糸子「それは 分かってます。」

「そら ミシンかて 2台あったら 便利かもしれません。 けど 1台でも どうにか なるはずです。 もともとは ご主人だけが 使うてたもんでしょう?」

糸子「そうですけど 戦争から 帰ってきた時に あれが なかったら 主人は 仕事が でけへんようになります! 勝手に供出する事はできません!」

澤田「はあ?『帰ってきた時』? 小原さん。 お宅 まだ そんな低い意識で この聖戦に臨んでるんですか?!」

糸子「はあ?」

澤田「いやしくも 日本の妻 夫を 戦地に送り出したら 潔く 遺骨になって帰ってくるのを 願うべきやないんですか?! 死んで お国の役に立ってこそ 旦那さんの値打ち ちゅうもんです!」

糸子「何? 何 この…?!」

澤田「何ですの? ちょっと!」

善作「まあまあ… あとで よう言うて 聞かせますよって 今日のところは…。」

昌子「ご苦労さんでした。」

澤田「ほな おおきに。 失礼しました!」

「行きましょ。」

(せきこみ)

糸子「くそ…! 何が 死んでこその値打ちじゃ!」

<悔しいて 寝つけませんでした>

千代「おとうちゃん まだ起きてるんですか?」

善作「うん。 何や… 目ぇが さえてなあ。」

千代「寒ないですか?」

善作「うん。」

2階 寝室

<大きい ぬくい背中 笑たり しゃべったりする顔 心。 それが 全部 骨になってこその 値打ちや ちゅうんか。 こんだけのもんを 石炭みたいに ボンボン燃やして 日本は 一体 何が欲しいちゅうねん>

糸子「戦争て 何やねん?」

<ああ あかん。 考えた あかん。 はあ~ 寝よ 寝よ! どうせ 浮気してた旦那や。 浮気やで 浮気…>

居間

善作「あっ!」

2階 寝室

(爆発音)

糸子「何?」

千代『きゃあああ!』

糸子「どうないしたんや?!」

居間

糸子「どないしたん?!」

千代「きゃ~ おとうちゃん!」

ハル「善作 大丈夫か?!」

千代「きゃ~! おとうちゃん!」

糸子「お父ちゃん! お父ちゃん!」

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