あらすじ
善作(小林薫)が、火鉢に油の瓶を落としたことから火事になり、糸子(尾野真千子)は身重の体も忘れて必死に善作を助け、病院へ運び込む。一命を取りとめたものの、善作は絶対安静を命じられて小原家へ戻ってくる。千代(麻生祐未)や妹たちに頼ることもできず、休む間もなく後片づけを始める糸子だが、陣痛が来て、その夜三女を産む。無事誕生を知って、隣の部屋で寝ていた善作もハル(正司照枝)も安どの涙を流すのだった。
61回ネタバレ
小原家
居間
糸子「どないしたん?!」
千代「きゃ~ おとうちゃん!」
ハル「善作!」
糸子「お父ちゃん!」
千代「おとうちゃん! おとうちゃん!」
善作「あっ ああ ああ~!」
千代「おとうちゃん! おとうちゃん!」
糸子「どいて! 水!」
玄関前
木岡「糸ちゃん? 善ちゃん? どないしたん? あっ! え えらいこっちゃ!」
美代「あ あっ!」
居間
糸子「おっちゃん リヤカー 出して! お父ちゃん 病院 運ぶ! お父ちゃん! お父ちゃん!」
玄関前
木之元「辛抱しいや な!」
木岡「善ちゃん 行くで!」
居間
(千代の悲鳴)
昌子「この布団 早く 外 出して!」
(千代の悲鳴)
病院
廊下
美代「どない?」
木岡「今 診てもうてる。」
美代「ほうか…。 糸ちゃん。 あんた 着替え。」
糸子「え?」
美代「『え?』と ちゃうやん。 この寒いのに そんな びしょびしょで 風邪でも ひいて おなかの子に 障ったら どないすんねん!」
糸子「ほんまや。 びしゃびしゃや。 体 震える思た…。」
美代「はい。」
更衣室
糸子「はあ…。 はあ… 火事 見てもうた…。」
(ドアの開く音)
医務室
木之元「先生 どうですか?」
糸子「どうですか?」
「まあ すぐに 命が どうこうちゅう事は ない。 せやけど やけど自体は かなり ひどい。 首から腹 背中まで 広う やっとるさかいな。 1か月は 絶対安静や。」
糸子「ちゃんと 治りますか?」
「今は まだ何とも言われへん。 とにかく 安静と養生や。」
糸子「はい。 しっかり 看病しますよって 先生 どうか 治しちゃって下さい。 お願いします!」
3人「お願いします!」
「うん… うん。」
糸子「先生…。」
「ん?」
糸子「もう一個 聞いてええですか?」
「何や?」
糸子「妊婦が 火事 見たら おなかの子に あざが できる ちゅうんは ほんまですか?」
「迷信や。」
糸子「うち 火事 見るだけやのうて それ 飛び越えて 火消しまで してしもたんです。」
「医学的に ありえんこっちゃ。」
美代「けど 先生 昔から よう そない言います。」
「せやから 迷信や 言うてるやないか。 余計な心配 させちゃったら あかん! あんたは その体で よう お父ちゃん 助けた。 しょうもない事 気にせんと 元気な子ぉ 産み。 うん?」
小原家
2階 座敷
木之元「わしの腰 わしの腰! 腰 うん ええか ええか?」
2階 寝室
(千代の泣き声)
<勝さんが出征して1か月半 また えらい事が 起こってしまいました>
オハラ洋装店
<せやけど いよいよ うちには しょげてる暇も のうて とにかく はよ 家を直さんならん>
糸子「今と庭の間のガラス戸 あれをな 一日もはよ 直してほしいねん。 寒うて いてられへんさかい。 うん。 見に来てくれる? ほな 待ってますよって。 おおきに。 それから 畳や 畳…。」
居間
糸子「おおきに。」
「うん。」
糸子「ほんま 助かったわ。」
「いや ええねん。」
糸子「うち 年寄り いるしな。 これから 赤ん坊も 産まれるちゅうのに どないしようか 思ちゃったんや。」
「へえ…。」
糸子「あ… ああ…。」
「ん?」
糸子「痛い…。」
「何や?」
糸子「あ~!」
「何や ど どないしたんや?」
糸子「ああ! 陣痛 来てんやし。」
「陣痛?!」
糸子「あ~あ!」
「産婆さん 呼びに行かな あかんやないかな!」
糸子「いや まだ10分置きやって…。」
「大丈夫けえ?!」
糸子「ああ 3人目やよって… 大体 分かんねん。 ああ… いや ほんでも そろそろ 2階 片しとこか。 ああ… ああ! ああ…!」
「大丈夫か?」
糸子「うん。」
「おいおいおい… よいしょ! よいしょ!」
糸子「ああ… おおきに。 ああ…。 ああ… ああ…。 おばあちゃん 寝とくか? 静子~! 2階 布団 敷いちゃって! おばあちゃん 寝かそ!」
静子『は~い!』
糸子「なあ びっくりしたなあ。 けど ちゃんと養生したら また お父ちゃん 元気になるよって。 静子~! おばあちゃんの布団 お父ちゃんの隣に 敷くんやで!」
オハラ洋装店
静子「えっ お父ちゃんの隣?」
糸子「せや。 こっちの部屋 うちが 今から お産で使うさかいな。 う~ん…!」
静子「は? お産? 今から?」
<結局 産婆さんに 来てもらう頃には どないか 戸に 新しいガラスが はまって 畳も 新しいのと 取り替えられて>
糸子「こんにちは。 よろしゅう お願いします。」
「何ぞ あったんけ?」
糸子「ああ ちょっとしたボヤですわ。 あ~ あ ああ 痛い! ああ!」
「今 何分置きや?」
糸子「ああ… 5分。」
「5分?! はよ 布団に寝とかんかいな!」
糸子「いや… あと もうちょっとで あれ 終わりますねん。 ああ!」
2階 廊下
千代「あれ 誰か お客さんか?」
昌子「はあ 産婆さんですわ。」
千代「産婆さん?」
オハラ洋装店
千代「糸子! あ~あ あんた 痛いんか?」
糸子「う~ん…。」
千代「あ~あ あんた そんな はよ 布団に寝とかな。 歩けるか?」
糸子「う~ん かめへん。 お母ちゃんは 今 お父ちゃんの事だけ 見といて。」
千代「いや~ そやけど…。」
糸子「ええから そないして!」
千代「分かった。」
糸子「う~ん…。 う~ん… ああ…。 あ~… あ… うん!」
<何でもかんでも 自分一人の力で やってきたつもりで いちゃあったけど どんだけ 周りに 助けて もうちゃったかっちゅう事が こないなってみて 初めて分かりました>
2階 寝室
<お父ちゃん 勝さん おばあちゃん。 うちなあ…>
糸子「心細いわ…。 うん う~ん! う~ん!」
静子「お姉ちゃん!」
昌子「先生 もうちょっとや!」
糸子「う~ん!」
昌子「もう一息や!」
糸子「う~ん! う~ん う~ん!」
昌子「もうちょっとや~!」
糸子「う~ん!」
(産声)
階段
一同「やった~!」
「シ~ッ!」
座敷
千代「う~ん…?」
(産声)
千代「いや… 産まれたあ ああ!」
善作「い… うう… ああ~!」
寝室
静子「よう産まれてきたなあ。」
昌子「よかった ほんまに よかった…!」
千代「あれ 昌ちゃん あんた 震えてるやんか。」
昌子「そら そうです! うち お産なんか 初めてやさかい!」
静子「うちも…。」
千代「ハハハハ アハハハハ…。 ご苦労さんやったなあ。 ハハハハ。」
糸子「先生。」
「ん?」
糸子「正直に言うて下さい。」
「何をや?」
糸子「うち… 火事 見てしもたんです。」
「アハハハハハ…! あとで 起きて 自分で見てみい。」
座敷
静子「お父ちゃん かいらしい女の子やで。」
糸子「また 女の子やて 思てるやろ。 思てんの?!」
(女達の笑い声)
糸子「静子。 赤ん坊 よう見せちゃって。 女の子や。 見えるか?」
ハル「あれ? へ? 産まれたん? 産まれたんや!」
糸子「産まれたで。 また女の子や。」
ハル「見せて。 見せて 見せて。 ちょっと見せて。 どれ? どれ?」
静子「ほら。」
ハル「ああ~ はれまあ よう産まれてきたなあ。」
<こんな夜に産まれてきた ほんだけで あんた 一生分の手柄やで ちゅう気ぃがしました>