ドラマダイジェスト

連続テレビ小説「カーネーション」第63回「切なる願い」【第11週】

あらすじ

貞子(十朱幸代)のモンペは、最高級の大島の着物から作ったものだった。確かに“モンペでも女性がオシャレをしたい気持ちは同じだ”と、糸子(尾野真千子)は一張羅からモンペを作り、着物に戻せる作り方を考え始める。縫い子たちと研究を重ね、モンペ作りの教室を開いたところ、最初の客はサエ(黒谷友香)だった。サエをはじめ女たちは、鮮やかな着物に大胆にハサミを入れてモンペを作る。オハラ洋装店はにぎやかさに包まれる。

63ネタバレ

小原家

玄関前

糸子「おばあちゃん。」

貞子「え?」

糸子「そのモンペ… 何?」

貞子「えっ ああ これか? フフッ ええやろ? 大島や。」

糸子「大島?!」

貞子「私の持っとう大島の中でも いっちばん ええやつ モンペに したったんや。」

糸子「何 何で?! 何で よりによって そんな ええもん モンペなんかにしたん?」

貞子「そら その方が 着る時 ちょっとでも うれしいやろ?」

糸子「あっ そやけど… もったいないと 思わなんだ?」

貞子「ええんや。 モンペみたいな 辛気くさいもんこそ 上等な生地で こさえな あかんのや。 そやないと はよ死んでしまう。」

糸子「死んでまう?」

貞子「あんなあ 辛気くさいゆうんはな ばかにしたら あかんでえ。 おっそろしいほど 寿命を縮めるんや。 あんんたも 年 取ったら 分かる。」

(笑い声)

2階 寝室

(小鳥の鳴き声)

糸子「よっしゃ! よっしゃ よっしゃ!」

座敷

ハル「何や?」

糸子「お父ちゃん ちょっと我慢してや。」

善作「はひ ふんねん? はぶい!(何 すんねん? 寒い!)」

糸子「この部屋 よどみきってもうてるさかい ちょっと たまってるもん 吹き飛ばそ。」

ハル「寒い~ 寒い!」

糸子「辛気くさいんは 寿命を縮めるんやて おばあちゃん。」

<どんより 灰色やった目の前が 一気に晴れてました>

糸子「はあ~ 気持ち ええなあ!」

(布団をたたく音)

オハラ洋装店

糸子「りんちゃん。」

りん「は~い。」

糸子「ちょっ ちょっ。」

りん「はい。」

糸子「あんたな 今日から 縫い子の仕事 せんでええさかい 赤ん坊の世話 しちゃって。」

りん「はあ?」

糸子「衣料切符の点数も 上がってしもて しばらくは お客さんも少ないよって 縫い子1人 抜けたかて かめへん。」

りん「はあ。」

糸子「優子も直子も よう なついとるとこ 見ると あんたは 子守りが上手や。」

りん「はあ。」

糸子「頼むで!」

りん「はい。」

糸子「うん。」

寝室

優子「りんちゃん 見て!」

りん「うん? まあ 優ちゃん上手やんかあ。」

居間

昌子「着物を モンペにですか?!」

糸子「そや モンペや。 おばあちゃんの話 聞いて うち 目ぇから 鱗 落ちたわ。 モンペこそええ生地で こさえんならん。 ほんま そのとおりじょ。 息子や旦那の出征ちゅうたら やっぱし 一張羅で 見送っちゃりたいもんや。 結婚式かて 葬式かて そうや。」

糸子「お上は モンペを 正装と認めるやら しょうもない お触れ 出しよったけど 女は 内心 そんなん 認めてもうたかて 何も うれしないて思てるわ。 やっぱし 女は おしゃれが でけてこそ 元気も出るもんや。」

静子「せやけど そら おばあちゃんは お金持ちやさかい 大島でも 潰せるけど…。」

昌子「やっぱし 普通は もったいのうて そんな一張羅を モンペになんか ようしませんよ。」

糸子「そうや! そこや。 けど そら もう二度と 着物に戻せんて 思てるからやろ?」

昌子「モンペて 着物に戻せるんですか?」

糸子「分からん。」

昌子「何や…。」

静子「何や…。」

糸子「いや せやから それを 今から うちで 考えたろっちゅうてんや。」

昌子「はあ…。」

糸子「要は モンペにすんのに どう バラしたら ええかや。 どないしたら 着物に 一番 ハサミ 入れんで済むかや。 それを考え出せたら また お客さん 店に呼べる。 やっぱし あんなけ 衣料切符 上げられてしもたら しばらくは 新しい服なんか 誰も よう作らんやろ。 これからは『新しいモンペの作り方 教えます』ちゅうて また お客さん 店に呼ぶんや。 ええか お客の流れちゅうんは 止まってしもたら しまいや。 絶対 止めたら あかんもんなんや。」

2階 寝室

糸子「せや せや!」

台所

糸子「忘れるとこやった。 イヒヒヒ。 頂きます。 ふん… うまい…。」

<今どき こんなもん どこにも 売ってへん。 きっと おじいちゃんとこの コックさんが 粉と 砂糖と 何かと 何かで こさえてくれたんです。 おじいちゃん おばあちゃん コックさん おおきに。 糸子は 頑張ります。 見ててや>

台所

<おじいちゃんらのお見舞いが よっぽど効いたんか 次の日ぃから おばあちゃんが 起きてこれるようになりました>

オハラ洋装店

<うちらは 新しいモンペの研究を始めました>

糸子「ここで切ったら どないなる?」

昌子「う~ん。 いや そしたら 今度 つなげる時に 困りますわ。」

静子「ほな…。 こうは?」

糸子「う~ん。 いや 分かった。 いや これをやな…。」

昌子「痛っ! いった~。」

糸子「直子! あんた 何で 下に降りてきてんの? りんちゃんは? えっ? りんちゃん? りんちゃん? 何してんや? あんた 寝てん ちゃうやろな?!」

2階 寝室

<せやけど まあ とりあえず 子守りも どないかなってます>

座敷

(小鳥の鳴き声)

一同『はあ~ ええわ~! 格好いい! ええわ~!』

オハラ洋装店

「すてき! これ ほんまに 着物に戻せるんですか?」

糸子「戻せる。 これかて うちの一張羅やさかいな。」

「うちの姉ちゃん 絶対 知りたがるわ。 今度 結婚式 呼ばれてて モンペで 行かんならんの ほんま 残念がってたんです。」

糸子「せやろ! そう そういう時のための モンペやさかいな!」

昌子「先生 ウインドーに 大きい貼り紙しましょ。『新しい おしゃれなモンペの作り方 教えます』。」

糸子「せやな!」

静子「『着物に戻せます』も 書かな!」

糸子「せやなあ! せやせや 書こう書こう。」

玄関前

「はよ はよ~! ほら!」

<そうして 新しいモンペ教室が 始まりました。>

オハラ洋装店

<そうして 新しいモンペ教室が 始まりました。 また オハラ洋装店が 何や 始めよったちゅうんで 注目こそ されるもんの 何でも 新しい事ちゅうんは そない すぐに 受け入れられる訳やない。 第1回目のお客さんは 8人 定員のところ5人。 けど おもろい事に その5人は そろいもそろって…>

サエ「こんにちは~!」

<そう この手の人らでした>

昌子「ああ! サエさん いらっしゃい。 どうぞ どうぞ!」

サエ「はい! これ お代。」

昌子「おおきに!」

サエ「糸ちゃんは?」

昌子「すぐ来ます。」

<若うて 元気いっぱい。 新しいもん好きの おしゃれ好き>

サエ「こんにちは。」

4人「こんにちは。」

<ほんで ごっつい負けん気 強い ほんな こんなで うちが出てった時には 恐ろしいほど 場が冷えきってました>

糸子「…という事で ほんで 着物をバラしたら。」

<せやけど いったん 話を始めたら ごっつい熱心 しかも 大胆。 どんな ええ着物にも どんどん ハサミ 入れていきます>

糸子「ちょ ちょっ! ちょ ちょっ!」

サエ「へえ?」

糸子「あんた もうちょっと 丁寧に ハサミ 入れな 間違うたら えらいこっちゃで!」

サエ「ほうか?」

糸子「うん。 ああ もう いがんでるわ。 ほれ ほれ!」

「ちょっと 貸し あんた!」

サエ「何すんよ?!」

「見てられへんわ! こんな ええ着物やのに ガッタガタやんか!」

(からすの鳴き声)

サエ「ええやん 柄が ええやろ!」

「似合うてる?」

「やっぱりなあ。 でも あんたのも ええよ。」

<最初 あんだけ ツンケンしちゃったくせに 終わり頃には すっかり仲ようなって…>

「色が ええな。」

「ほんまやな。」

「その色も ええなあ。」

サエ「ちょっと あんたの ええやん!」

「そんな事ないって! それより やっぱり モノが ええと ちゃうなあ!」

サエ「あかん あかん! うちは 手ぇが雑やよって。 見て! こっから 早速 綻びてる!」

(笑い声)

サエ「あんたのんが よっぽど 上等に見えるわ!」

「そんなん 分かれへんわ!」

昌子「あそこ。」

糸子「綻びてきた。」

サエ「うまいわ~。 めっちゃ ええわ。」

「だって こんなん…。」

サエ「雑やて…。」

(笑い声)

「いいって! モンペにしてんのが ええやん。」

「いや 柄が ええから。」

(笑い声)

糸子「雑やさかいな。」

サエ「ちょっと。 せっかく こんなええモンペ はいてんやし このまま みんなで どっか 行けへん?」

4人「いや~ 行こ 行こ!」

サエ「糸ちゃんも 行こよ?」

糸子「うちが 行けるかいな この忙しいのに。」

サエ「うん しょうもな~。」

昌子「ほな うちが 行きましょか?」

糸子「何でやねん?!」

(笑い声)

糸子「まあ せいぜい あちこち 見せびらかして うちの宣伝 してきてな!」

サエ「うん。 そら 任しといて! ほな おおきにな!」

4人「おおきに!」

糸子「おおきに!」

玄関前

糸子「おおきに!」

昌子「おおきに!」

「けど おしゃれしたかて どこ 行くんよ? 今どき。」

「若い男なんか どこにも いてへんで!」

サエ「ええやん 別に 男がいてんでも。」

「だけど あんで」

「どこ?」

「どこ?」

糸子「たっくましいなあ!」

昌子「何や… 日本は 戦争 勝てる気ぃ してきました。」

糸子「うん。 うちも そんな気ぃ すら!」

2人「フフフフッ。」

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