あらすじ
泰蔵(須賀貴匡)の出征の日。八重子(田丸麻紀)に頼まれた糸子(尾野真千子)が見送りに向かう傍ら、善作(小林薫)は自ら歩いていくと言い張る。やけどに驚く泰蔵に、善作は偽ることなく、自分で出した火事だと告げる。万歳を叫んだ善作が倒れ、介抱しようとする糸子。そこで糸子は、物陰にたたずむ奈津(栗山千明)の姿を目にする。見送り以来、善作は一層弱ってしまう。糸子は絶対に治すと誓い、仕事と子育てにまい進する。
65回ネタバレ
小原家
オハラ洋装店
八重子「糸ちゃん 一緒に 見送っちゃって もらわれへんやろか?」
糸子「ええの?」
八重子「うちが頼んでるんや。」
糸子「勘助に あんなひどい事 してしもたのに? 八重子さんに あんなひどい事 言うてしもたのに? うちが 泰蔵にいちゃん 見送ってもええの?」
八重子「糸ちゃん あさって来てな。 きっと来てな。 よろしくお願いします!」
(泣き声)
2階 座敷
(からすの鳴き声)
<泰蔵にいちゃんが 出征する事になりました>
玄関前
善作「いらん! ついてくんな!」
千代「せやけど お父ちゃん。」
善作「ま… 待たせたのう ほな行こうけ。」
木岡「へ? リヤカー 乗らんのけ?」
善作「泰蔵の出征じゃ。 わしが リヤカーやら乗ってられるけ!」
木之元「はあ?」
糸子「ええやん もう 自分で歩いて行く ちゅうてんやさかい。 お父ちゃんが 一回 言いだしたら 聞かへんで。」
千代「せやけど 万が一 転びでもしたら。」
木之元「まあ 千代さん わしらも一緒やさかい。」
木岡「万が一ん時は 医者 連れて行くさかい。」
千代「え~?」
木之元「リヤカー 頼ま!」
千代「え~!」
糸子「そやけど お母ちゃん ほんま あんまし大人数で押しかけたら 向こうも 迷惑やよって。 お母ちゃん 心配せんと 家で待っといて。」
千代「う~ん。」
糸子「ほな行ってきます。」
千代「行っちょいで。」
<勘助の時は 何も考えんと ただ日の丸 振って バンザイ バンザイ ちゅうちゃった。 あれから4年がたって 戦争へ行くちゅう事の意味が みんな よう分かってきて。 お父ちゃんが 何で ああまでして 自分の足で 見送らんと いてられへんのか うちにも 分かる気がします>
珈琲店・太鼓
ホール
大工仲間達「頑張って行ってこいよ!」
仲間「手柄あげてこいよ!」
女性「お父ちゃん 格好ええな!」
仲間「めでたいな。 気ぃ付けや。 しっかり頑張ってこい! こっちの事は 心配せんで ええからな。」
八重子「糸ちゃん!」
糸子「よかった 間に合うた! お父ちゃん 間に合うたで! 早う! 早う! 早う!」
泰蔵「糸ちゃん…。」
善作「やかまし! 分かっとるわい!」
泰蔵「どないしたんですか?」
木岡「あの… やけどしよってん。」
木之元「ああ。」
泰蔵「何で?」
木之元「近所で たき火しとった おばあちゃんがな。」
善作「ボヤや。」
泰蔵「ボヤ?」
善作「わしが 自分で出したんや。」
泰蔵「気ぃ付けて下さい。」
善作「お前こそじゃ。 気ぃ付けよ。」
泰蔵「はい。」
玄関前
泰蔵「ほな…。 行ってきます。」
善作「おう。」
木之元「行っちょいで。」
糸子「行ってらっしゃい!」
泰蔵「行ってきます!」
「おう!」
「頑張って…。」
八重子「行ってらっしゃい! 気ぃ付けて! 家の事は 任しといて下さい! 気ぃ付けて。」
泰蔵「母ちゃんを よう助けるんやで。」
子供達「はい。」
泰蔵「ほな。」
善作「安岡泰蔵君! バンザ~イ!」
一同「バンザ~イ! バンザ~イ! バンザ~イ!」
善作「バンザ~イ!」
一同「バンザ~イ! バンザ~イ! バンザ~イ!」
木岡「あ! 善ちゃん! 善ちゃん! 大丈夫か! 息してるか? ちょっと…。」
糸子「奈津…。」
<奈津と八重子さん 余計つらいんは どっちやろな まあ どっちもやろな>
小原家
玄関
木岡「ほら 着いたで。 な!」
千代「お父ちゃん! どないしたん?」
糸子「ちょっとな 頑張りすぎてしもたんや。」
千代「せやから 言うたのに!」
木岡「堪忍やで 千代さん。」
千代「お父ちゃん 大丈夫ですか?」
木岡「中 中… 中 入ろう。 頭 気ぃ付けや。」
2階 座敷
木岡「ゆっくりやで。 ゆっくり!」
木之元「よいしょ! あ! 痛っ!
(千代の泣き声)
<その時 ふと 何でか やけどの時より 今日の方が 悪い事になってしもた 気ぃがしました>
糸子「お母ちゃん 何で泣くん?」
千代「え?」
糸子「泣かんといてよ! 縁起でもない。」
(泣き声)
寝室
(犬のほえる声)
<案の定 弱った体で 無理をした事は 思った以上に お父ちゃんに こたえたようで>
ハル「糸子 糸子。」
糸子「ん?」
ハル「お父ちゃんがな 何や眠れんで う~う~言うてんねん。 ちょっと 見ちゃって。」
糸子「うん? どないしたん?」
座敷
(うなる声)
糸子「お父ちゃん どないしたん? しんどい? かゆい? 痛いんか?」
(うなされる声)
糸子「何やろな。 ここか?」
(うなる声)
病院
医者「疥癬ちゅうやっちゃ。」
糸子「かいせん?」
医者「こら 皮膚科やないとあかん。 紹介状 書いちゃるよって 心斎橋の皮膚科へ 行き。」
糸子「心斎橋?」
医者「遠いけどな まあ しつこい病気やさかい しっかり通うて 治した方がええ。」
糸子「はい。」
医者「体が弱ってもうたら かかるんや。 虫でも病気でも 悪いもんちゅうんは 必ず弱い所へ 寄ってきよるんやな。」
道中
(トンビの鳴き声)
糸子「何 見てんの?」
善作「トンビ。」
(トンビの鳴き声)
糸子「ほんまや。 飛んでるな。 追っかけっこしてる。 あらぁ 親子やな。 もうすぐ ウグイスも鳴くで。」
<大丈夫やで。 うちが 絶対 治したる。 何が何でも また あの元気で やかましい お父ちゃんに 戻しちゃるよってな>
小原家
台所
糸子「疥癬ちゅうんは とにかく 清潔にせんならんよって お父ちゃんの寝巻きと敷布は これから 毎日 お湯で消毒や。」
清子 光子「はい。」
糸子「おかいさん 出来たか?」
光子「おかいさんは 出来たけど いわしが まだとちゃうか。」
清子「あ おばあちゃん 途中で しんどいちゅうて また 寝に行ったよって。」
糸子「おばあちゃん また しんどいて?」
清子「うん。」
糸子「ほな これ あんたらで仕上げ。」
清子「え? でも うちら いわしは ようせん。」
糸子「ようせん ちゃうやろ? あんたら 今まで おばあちゃんの 横で 何 見てたんや。 いつまでも誰かに頼れる思たら 大間違いやで。 あれせえ これせえ言われるの 待ってんと 自分から でける事 どんどん せんかいな!」
2人「はい。」
2階 座敷
(直子と聡子の泣き声)
<起きといてほしい人らは なかなか起きてくれんと>
寝室
(泣き声)
<寝といてほしい人らは なかなか寝てくれへん>
(泣き声)
オハラ洋装店
(からすの鳴き声)
<看病 子供 家事 商売。 どれもこれも この先 どないしたもんか>
八重子「こんにちは!」
太郎「こんにちは!」
糸子「あ いらっしゃい!」
八重子「この間は おおきになあ。」
糸子「いいえ。」
八重子「そこまで買い物 来たさかい ついでに 懐かしいもん 見せよう思て。」
糸子「え?」
八重子「こないだ 押入れ 整理してたら 出てきたんやし。」
糸子「あ~ 覚えてる! 百貨店の制服 作った時に。」
八重子「そうそう!」
糸子「あ~! へえ~! いや~ せや! これこれこれ!」
八重子「これこれ 勘助ちゃんが 何か これが ええちゅうてなあ。」
糸子「せやせや! けど 結局 不採用やったけどな。 懐かしいなあ!」
八重子「懐かしなあ!」
<人が こんな洋服を着れてた頃が 確かにあったのに 今では もう どっか よその国の話のようでした>
糸子「何がよかったんやろな 勘助。」
八重子「何でやろな。」
糸子「ほんまや! いや これこれ! いや~!」
(笑い声)