ドラマダイジェスト

連続テレビ小説「カーネーション」第67回「薄れゆく希望」【第12週】

あらすじ

危篤を知った糸子(尾野真千子)は隣家に駆け込むが、旅先にいるはずの善作(小林薫)の幻を見たと言われ、死を悟る。3日後、骨つぼを抱えて戻ってきた木之元(甲本雅裕)らを前にし、糸子は世話をかけたとわび、立派な葬式を出すと決意する。通夜でも気丈に振る舞う糸子。だんじりの時の写真を前に、思い出話しに花が咲く。しかし手伝いに来た女性たちは、潤沢にある食料を怪しむ。そうとも知らず改めて善作を思う糸子だった。

67ネタバレ

小原家

玄関前

糸子「お父ちゃん 何て 言うたん?」

美代「『糸子を よろしゅう頼む』て。」

糸子「待って! 行かんといて! お父ちゃん! 待って お父ちゃん! お父ちゃん! 待ってえ! 行かんといて… お父ちゃ~ん!」

玄関

(小鳥のさえずり)

清子「姉ちゃん! 母ちゃん!」

木之元「お父ちゃん… 帰ってきたで。」

(千代の泣き声)

木岡「堪忍やで 千代さん! 堪忍してや~!」

(泣き声)

<温泉旅行に行ったはずの お父ちゃんが お骨になって 戻ってきました>

居間

木岡「上機嫌やったんや 善ちゃん。 なあ?」

木之元「うん。 ほいでも かなり酔うちゃったさかいなあ。 わしも『今 風呂なんか 入ったら 危ないで。 もうちょっと あとにしいや』ちゅうて 止めたんやけど…。

木岡「いや ちょっと待てや。」

木之元「ああ?」

木岡「お前 止めたりなんぞ してへんやないか。」

木之元「止めたわ。」

木岡「ほんまの事 言えや。 わしら3人 さんざん酔うて 何も考えんと 風呂 ついていっただけやないか。」

木之元「わしゃ『止めた』っちゅうんじゃ!」

木岡「嘘つけ~!」

木之元「止めた!」

奥中「ちょっと やめえや!」

糸子「やめて!」

木之元「止めた~!」

(泣き声)

糸子「お父ちゃんが 世話になりました。 元は ちゅうたら うちが持たせた酒や。 うちの失敗や。 おっちゃんらには 迷惑かけて 申し訳ない事でした。」

奥中「糸ちゃん そら ちゃうで!」

木岡「糸ちゃんのせいなんかと 違う!」

昌子「すんません。 先生。 あの~ 町内会長さんが『お葬式は どないしますか?』ちゅうて 聞きに来はりました。」

(泣き声)

糸子「ちゃんと 祭壇 組んで やんで。」

静子「姉ちゃん。 けど そんなお金…。」

糸子「お金の心配なんかしてる場合 ちゃうやろ?! お父ちゃんの葬式やで?! 何があったかて きっちり立派なもん出さな! 出さんで どないすんや?!」

台所

「へえ~ 何で ここだけ こない 食べ物 あんの?! なあ!」

「ちょっと… これ お酒と ちゃう?!」

「いや ほんまや!」

「いや すごいなあ!」

美代「ちょっと! はよせんと お客さん 来てまうで。」

3人「へえ へえ…。」

居間

奥中「おう これこれ。 善ちゃんが 写ってんの 全部 持ってきたんやし。」

木岡「懐かしいのう!」

木之元「ちょ ちょ。」

木岡「善ちゃん ちゅうたら だんじりや。」

木之元「善ちゃんの前梃子 のう~! ごっつ格好よかったんや~。」

奥中「いや~ 見事やった~。」

木之元「若い。」

(談笑)

玄関前

「小原さん! この度は…。」

糸子「はあ… どうも…。」

「あの~ うち 神宮司の娘です。」

糸子「ああ… そら わざわざ おおきに。 まあ どうぞ 入って下さい。」

居間

「小原の おっちゃんには うち 小さい頃から『別嬪さん 別嬪さん』て 呼んでもうちゃったんです。 子供心に『お世辞やわ!』って 思っとったかて 何や やっぱし うれしいて おっちゃん 来るん よう楽しみにしてました。」

台所

「やっぱし 闇やろか?」

「決まってら。 せやないと おかしいやろ。 ここの家だけ こない 食べ物 あんの。」

「そないゆうたら ここに人が 配給所に もらいに来んの 見た事ないわ。」

「うちも。」

(節子の せきばらい)

居間

靖「こん度は 急な事で… 何ちゅうたら ええか…。」

糸子「ああ お父ちゃんが よう ごちそうになったちゅう やっさん!」

靖「ヘヘヘ… ちゃうんや。 世話んなったんは こっちなんやで。 昔 わし 借金で 首 回らんように なった事があってな そん時 お宅のお父ちゃんが そら 親身になって 仕事 かき集めてきてくれたんや。」

糸子「そうでしたか…。」

靖「なあ こんなん言うて 余計な事やったら 堪忍してよ。 わしんとこ 今 工場で 軍服 作っててな 仕事やったら なんぼでも あんやし。 もし この先 洋裁屋の商売が 難儀するような事が あったら いくらでも 仕事 下しちゃるさかい 遠慮せんと 言うてきてや。」

糸子「はい… おおきに。 おおきに!」

(柱時計の時報)

<お父ちゃん みんな ほんまに優しいわ。 お父ちゃんが そんなけ みんなに 優しい しちゃあった ちゅう事やろな おおきにな お父ちゃん>

美代「ああ おおきに おおきに。」

静子「あんな おばちゃん。」

美代「ん?」

静子「糸子姉ちゃんが 言うちゃったんやけどな。」

美代「うん。」

静子「おばちゃん お父ちゃんの幽霊と しゃべったって ほんま?」

光子 清子「幽霊?」

美代「フフッ… おばちゃんも あんなん 初めてやった。」

静子「怖なかったん?」

美代「怖い事 あるかいな。 そん時は 何も知らんかったけど ひょっと見たら あんたらのお父ちゃんが いつもどおり『毎度!』ちゅうて ニコニコしながら 入ってきただけやからなあ。」

節子「え 何て しゃべったんですか?」

美代「小原さんな『いや~ ほんでも 奥さんにも よう 世話になってるなあ』言うさかい まあ 珍しい事 言うわ 思て。」

清子「機嫌とってる。」

静子「幽霊やのにな。」

光子「なあ!」

(3人の笑い声)

美代「『これからも よろしい 頼むで。 うっとこの糸子は とにかく 馬力だけの アホやさかい』。

静子「ほんま そんなん言うたん?」

美代「うん。 とにかく『糸子を頼むで』ばっかし 何回も言うてなあ…。」

静子「そら ほんまに お父ちゃんやなあ。」

美代「うん。 フフフッ。」

静子「お母ちゃん。」

清子 光子「大丈夫?」

千代「まあ こんな遅まで お世話になって…。」

美代「あ いや…。 ゆっくり寝てて ええんやで。」

千代「はあ。 うちは もう十分 寝さしてもらいましたよって どうぞ ちょっと休んで下さい。」

千代「あとは うちが お父ちゃん 見ときますさかい。 はれ 糸子 こんなとこに 寝てしもて…。 寒ないやろか… もう一枚 毛布 掛けとこか。 静子。 毛布 取って。」

節子「疲れてんやなあ 糸ちゃんも。」

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