ドラマダイジェスト

連続テレビ小説「カーネーション」第68回「薄れゆく希望」【第12週】

あらすじ

善作(小林薫)の通夜と葬式で食料を使い切ってしまい、糸子(尾野真千子)は慌てて縫い子らを買い出しに行かせる。しかし、小原家は闇商売をしているとウワサが立ち、売ってもらえない。洋服作りの礼に食料をもらうため、配給所に行かなかったことが誤解を招いていた。喪が明けるのを待たず、糸子は店を開けるが、今更ながらに世間の恐ろしさを知る。だが千代(麻生祐未)は、晴れやかに妹たちを励まし、小麦粉でだんご汁を作る。

68ネタバレ

小原家

2階 寝室

(小鳥の鳴き声)

<ああ… もう お父ちゃん いてへんのやなあ>

(ふすまの開く音)

清子「糸子姉ちゃん。」

糸子「うん? 何や?」

清子「あんな 朝御飯の事なんやけど。」

台所

糸子「はあ? 米は! はあ!」

清子「町内会のおばちゃんら 全部 使うてしもてたみたいなんや。」

光子「まあ お通夜も お葬式も ようけ お客さん 来てたもんなあ。」

糸子「ほうか…。 その 今朝は この残った米で お粥さんにしよう。 ほな みんなで 分けられるさかい。」

2人「はい。」

糸子「はあ どないしょう。」

オハラ洋装店

昌子「知らんかったんですか 先生。 葬式 出すちゅうんは そうゆう事ですよ。 祭壇こさえるんも お坊さん 呼ぶんも タダやないんです。 お客さんに 料理ふるまう お酒ふるまう そらもう お金かかる事なんです。 せやから 今は みんな どっこも 歩いて 済ませるんです。」

糸子「せやけどなあ。」

昌子「せやから 静ちゃんかて あない お金の心配してたんです。 それを『お金の心配しいてる場合 ちゃうやろ!』ちゅうて たんか 切ったん 先生やないですか!」

糸子「分かってるけどな。」

昌子「先生。」

糸子「うん?」

昌子「今日から 店 開けましょ。」

糸子「ええ? あかん そんなん。」

昌子「しゃあないやないですか!」

糸子「あかん! 初七日まで 開けへんて 決めたんや。」

昌子「そやけど 初七日まで どないして 御飯 食べるんですか?」

糸子「まあ… まあ とりあえず香典。 香典で しのぐ。 これで 買いもん 行かして。」

昌子「そやけど 先生 今はお金があったら ええちゅうもんちゃうんです。 八百屋にしたかて 魚屋にしたかて とにかく 物を 売ってへんのですよ。」

糸子「行ってみんと 分からへんやろ! 今日は あるかもしれへんやんか!」

幸ちゃん! トメちゃん!」

2人「はい!」

糸子「買い出し 行ってきて。」

幸子「はい。」

居間

優子「これ お粥さん?」

千代「そうや。」

優子「お米は? お湯ばっかしや。」

千代「お米がな ちょっと 少なかったんや。」

光子「これから先も ずっと こないな 御飯になるんやろか。」

糸子「せやけど おばあちゃんには ちょうどええで このお粥さん。」

2階 座敷

糸子「よいしょ。 起きれるか? おばあちゃん。」

ハル「起きれる。」

糸子「ほうか。」

ハル「けど 起きたない。」

糸子「はあ?」

ハル「お粥さんなんか 食べとうない。 自分の息子より 長生きしたって 何もええ事ない。」

(窓を開ける糸子)

ハル「こら 開けるな!」

糸子「辛気くさいんは 寿命 縮める。」

ハル「風邪ひく! 殺す気か!」

糸子「長生きしたかて ええ事ない ちゅうたのは おばあちゃんやんか!」

(泣き声)

<5月 こんなええ季節やのに… まあ ロクな事がありません>

オハラ洋装店

(泣き声)

幸子 トメ「ただいま。」

昌子「何や? やっぱし 買えるもん なかったんか?」

(泣き声)

昌子「ほな どないしてん。」

居間

糸子「『うちには 売らん』? どうゆうこっちゃ。」

幸子「せやから『オハラんとこの 縫い子なんかには 売らん』て 言われたんです。」

糸子「何でや?」

昌子「『あんたとこ 闇やってるやろ』て 言われたそうです。」

糸子「はあ? 闇? 何で うちが 闇?」

昌子「さあ。 先生 この際やから はっきり 聞かせてもらいますけど 先生は ほんまに闇商売は。」

糸子「やってへんわ! やるか ほんなもん! うちに 闇なんか でけたら こんな アホみたいに 朝から晩まで働くかいな! 闇やらな あかんくらいやったら あんたらなんか とっとと 里に帰してるわ。 何で あんたらまで食わすために うちが 罪 犯さなあかんねん。」

昌子「はあ すんません。」

糸子「はあ~!」

<結局 喪を明けるんを待たんと 店を開ける事にしました。 そんな けったいなうわさが 立ってんのに じっとなんか してられません。 一日も はよ 誤解を解かんならんのです>

玄関前

(小鳥の鳴き声)

<世間ちゅうもんを うちは なめてたかもしれません>

(走る音)

「バン!」

<うちが思てるより もっともっと 怖いもんなんかもしれません>

台所

糸子「この橋を渡ったら 右手に 市場の入り口が 見えるさかい。」

<買い物は ひとまず 隣町の市場に 行かせる事にしました>

2人「ほな行ってきます。」

糸子「行っちょいで! 気ぃ付けてな。」

幸子「はい。」

清子「行ってらっしゃい!」

居間

清子「あんな。」

糸子「ん?」

清子「こんなん言うたら あれやけど 町内会のおばちゃんらと ちゃうやろか。」

糸子「何が?」

清子「うちが闇やってるとか 言いだしたん。」

光子「うちも そう思う。」

糸子「あんたら めったな事 言うもん ちゃうで。 葬式で どんだけ…。」

光子「せやけど おばちゃんら。」

糸子「何や?」

光子「『うちに こんなに ようさん食べ物 あんの おかしい』て言うてた。」

清子「うちも聞いた。『配給所にもらいに 来てんの 見た事ないのに』て。」

糸子「そんなん。 そんなん そら うちは…。 うちは ようさん あるさかい 遠慮して もらいに 行けへんかったんやないか!」

清子「うちに 怒らんといてよ! うちが 言うたんと ちゃうのに。」

千代「な~あ? 粉あるかいなあ! 粉。」

(千代の鼻歌)

台所

千代「フフフ!」

清子「それから おみそ。」

静子「さすが おばあちゃんやなあ。」

千代「やっぱし 昔の人は 偉いなあ。」

光子「すいとんなんか うちら 思いつけへんもんなあ。」

オハラ洋装店

<配給は遠慮して 行けへんかったんも ほんまや。 けど… やっぱし そんだけとちゃう。 意地もあった。 うちの者を あの列に並ばさん事で うちは 自分を特別やと 思おうとしてた。 自分には そんだけの かい性が あるんやて 思いたかったんや>

糸子「アホやな…。」

(足音)

節子「こんにちは。」

糸子「ああ。 おかげさんで ええ葬式でけました。 ほんま おおきに。」

節子「もう 店 開けてんけ?」

糸子「うん。 その方がええか思てな。」

節子「ふ~ん。」

<おばちゃんも うちが 闇やってるて言うたんやろか>

節子「せや あんな。 明日 野菜の配給があるんやて。」

糸子「おおきに。 回しとくわ。」

節子「あんな。」

糸子「え?」

節子「うち 行くさかい 糸ちゃんも一緒にや。 その 糸ちゃんとこは 食べ物 ようさん あるさかい 行かんでええかも しれへんけど あれやで おいしいで 配給のもんかて。 な? 行かへんか?」

糸子「おおきに。 行くわ… 行くわ。 おおきに。 誘てくれて ほんま おおきに。」

節子「うん。」

糸子「おおきにな。」

節子「うん。」

居間

一同「いただきま~す!」

直子「熱い!」

糸子「う~ん!」

優子「うん おいしい!」

静子「う~ん! おいしいな!」

光子「うちの丸めた だんごやで。」

トメ「うちが買うてきた野菜やで。」

千代「う~ん!」

直子「おいしい! おいしいね。」

糸子「でか!」

優子「うわ!」

糸子「誰や これ?」

昌子「ほんまや!」

清子「うち ちゃうで!」

光子「誰 それ?」

千代「誰や!」

糸子「お母ちゃん ちゃうん?」

千代「知らん!」

優子「何や それ!」

千代「おいしいな!」

玄関前

節子「糸ちゃん!」

糸子「あ!」

節子「おはようさん。」

糸子「おはようさん! ちょっと待ってな。」

糸子「行こか!」

<疑いちゅうもんは いっぺん かかったら そない簡単に 晴れへんのかもしれん>

美代「はれ 糸ちゃん? 配給 行くんけ?」

糸子「うん。」

美代「ほうか。 よし! ほな 一緒に行こ!」

糸子「うん!」

<ほんでも やっていける。 うちを信じてくれる この人らは お父ちゃんが残してくれた 宝物です>

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