ドラマダイジェスト

連続テレビ小説「カーネーション」第69回「薄れゆく希望」【第12週】

あらすじ

大日本婦人会の澤田(三島ゆり子)がやって来て、モンペ教室を閉め、ミシンを供出するように糸子(尾野真千子)に迫る。思い悩むうちに、かつて善作(小林薫)の世話になったという、軍需工場でもうけている男性の話を思い出した糸子は、軍需品を縫えば供出を免れることに思い至り、大急ぎでその縫製の手はずを整え、ミシンは事無きを得る。その過程を振り返り、結局は善作に助けられたのかと、不思議な感慨を覚える糸子だった。

69ネタバレ

小原家

玄関前

(掃く音)

糸子「あ おはようさん!」

「おはようさん!」

糸子「あっ 山内さん!」

山内「ああ!」

糸子「こないだは お香典 ようさん もうてしもて ほんま おおきに。」

山内「そんなん ええんよ。 それより お母ちゃん ちょっとは 元気になったんかいな?」

糸子「おおきに。 おかげさんで だいぶ。」

山内「おばあちゃんは どない?」

糸子「おばあちゃんなあ… まだ ちょっと… なかなかやな。」

山内「ほんまあ。『はよ元気になってや』言うといて。」

糸子「言うときます。 ほんま おおきに。」

山内「また 店 寄らしてもらうよってな。」

糸子「はい どうぞ よろしゅう。」

山内「ほな。」

<世間をなめたらあかんちゅう事を 知って うちの頭は これまでより よう下がるように なりました。 ほんで…>

糸子「こら!」

2人「はい。」

糸子「あんたら 何 ボサッとしてんや! 今の うちのお客さんや! あんたらも 頭 下げんと あかんやろ?」

トメ「あ… はい。」

幸子「すんません。」

糸子「はい!」

幸子「はい。」

<ますます うちのもんに ガミガミ 言うようになりました。 ほんでも 心配したほど うわさは 商売には響かんと モンペ教室も再開したら すぐに お客さんが戻ってきてくれました>

オハラ洋装店

客「ほんまに おいしいねん。 炊いても おいしいしな ほんで ほれ ほれほれ これも 漬物にしても おいしいでえ。」

昌子「分かりました。 ほな まあ どうぞ!」

客「まあ ほんまに! おおきにや! 堪忍な! 次は 絶対 お金 持ってくるさかいね!」

昌子「そうして下さい。 お願いします。」

糸子「つつましい生活の中でも 少しでも 皆さんに おしゃれを楽しんでもらいたい そういう訳で この『おしゃれモンペ』の作り方を 考えてみました。 今日は どうぞ 皆さん よう覚えて 帰って下さい。」

(拍手)

糸子「ほな 始めさしてもらいます! どうぞ ほな 出してもらえますか。」

澤田「ごめんください!」

2人「ごめんください!」

(舌打ち)

<いや… 待て 待て。 この おばはんらかて『世間』や。 世間とは うまい事やらなあかん ちゅう事を うちは よ~う勉強したとこや>

糸子「ご苦労さんです! ちょっと すんません。 今日は 何ですか?」

澤田「大政翼賛会が おしゃれモンペに 警告! この お国の非常時に チャラチャラしたモンペ 作って 喜んでる 不届き者は どうも お宅だけらや ないようです。 とうとう 大政翼賛会が 婦人会に こんな警告を出しました。『モンペは ボロギレで作れ!』。」

澤田「小原さん うちら 何べんも お宅に 銃後においての正しい心構え 説いてきました。 今 この日本で おしゃれなんかに のぼせ上がってる暇が どこに あるんですか! 自分だけは 戦争と 何も関係ないような顔をして。 お宅の このミシン 供出してもらいます。 明日 頂きに参りますさかい。 戦地では 兵隊さん達が 命を懸けて 戦うてるんです! ミシンかて こんな所で 何の価値も ない事に 使われるぐらいなら 銃なり 弾なりになった方が よっぽど うれしいちゅうもんや。 はい! 奥の人らにも チラシ配って!」

2人「はい!」

澤田「教室は 中止! すぐ帰ってもらいなさい!」

糸子「待って下さい! お客さんには うちから よう 頭 下げさして もらいますよって お宅らは どうぞ お帰り下さい。 ええから はよ帰ってんか! ご苦労さんでした。」

居間

昌子「『ええから はよ帰ってんか!』。」

静子 清子「こわ~!」

昌子「どこの親分や…。」

光子「さすが 糸子姉ちゃんやな!」

昌子「ほんま。 あんたらの姉ちゃん どっかで修業した事 あるんちゃうか。 素人ちゃうで あのドス。」

静子「ないと思うけどなあ…。」

清子「いや 分からへんでえ。」

光子「うちらが 知らんだけでなあ。」

昌子「せやけど… ほんまに ミシン 取られてしもたら 店 どない なるんやろか…。 えらいこっちゃなあ…。」

オハラ洋装店

糸子「嫌や…。 絶対 嫌や。」

<これを取られる訳には いかん。 これは 大事な大事な生活の糧やし。 お父ちゃんが うちのために 反物を売り払ってまで 買うてくれたもんや なあ お父ちゃん… うち どないしたら ええんやろ>

居間

糸子「お父ちゃん… 教えて。」

<なあ 教えてえや お父ちゃん。 どないしたら ええんよ>

(柱時計の時報)

(ため息)

(足音)

糸子「せや! 優子 散髪しよ!」

優子「散髪?」

糸子「うん。 せや せや 忘れてた。 もう おじいちゃん いてへんやさかい あんたの髪 切ったかて ええんや。 おいで! はい こっち こっち!」

廊下

優子「変や! 嫌や! こんなん 嫌や!」

糸子「変ちゃうて。 かわいらしいて。」

優子「お母ちゃん 何で こんなんしたん?! こんなん 絶対 変や!」

糸子「変ちゃうて。 おばちゃんらに 聞いてきてみ ほな。」

居間

優子「なあ! 変やろ?」

静子「優ちゃん 何も 変ちゃうよ! へえ~ かわいらしいやんなあ。」

光子「うん! かわいらしいで。」

清子「似合うてるよ。」

静子「えっ どないしたん?」

オハラ洋装店

優子「なあ! 変やろ?」

昌子「変ちゃうで 優ちゃん。 かわいらしいでえ!」

「かわいらしい かわいらしい!」

昌子「あららら! かわいらしい かわいらしい!」

3人「かわいらしい! ああ…。」

木岡履物店

木岡「おう!」

美代「はれ 優ちゃん! 散髪したん?」

木岡「ハハハッ! かいらしいのう!」

優子「優ちゃんの頭 変やろ?」

美代「変とちゃうで。 かいらしいで。」

優子「変や!」

木岡「善ちゃんの孫や。」

靖「ほな あの 洋裁屋の お嬢ちゃんの子け?」

木岡「せや。」

靖「こないだ 葬式でのう あのお嬢ちゃんに『洋裁屋 苦しなったら いつでも仕事 下ろすさかい 言うてきてや』ちゅうて 言うてもうたんやけどなあ。 余計な事やったんやろか?」

木岡「余計な事あるかいな。 今 商売ちゅうたら どこも しんどいもんや。 そら 洋裁屋かて 楽ちゃうど。」

靖「なあ お母ちゃんに言うといてや。」

優子「何を?」

靖「うん…『こないだ 軍服屋の おっちゃんが 邪魔したな』て。 なっ! うん?」

小原家

オハラ洋装店

(からすの鳴き声)

優子「ただいま。」

(からすの鳴き声)

優子「ただいま!」

糸子「あ… やっぱし かわいらしいで その頭のんが。」

優子「軍服屋なおっちゃんがな。」

糸子「うん?」

優子「『こないだ 邪魔したな』って 言うちゃった。」

糸子「ふ~ん… 軍服屋のおっちゃんなあ。 軍服屋のおっちゃん まだ 隣に いてんけ?」

優子「うん。」

糸子「その手が あったがな!」

木岡履物店

(犬のほえる声)

糸子「こんにちは!」

木岡「糸ちゃん?!」

靖「な… 何や?」

糸子「ぐん…。」

靖「はあ?」

糸子「ぐん… 軍服。」

靖「うん?」

糸子「軍服! 軍服 作らして下さい!」

靖「はあ?」

糸子「軍服!」

小原家

オハラ洋装店

(犬のほえる声)

澤田「ごめんください!」

2人「ごめんください!」

糸子「ご苦労さんです。」

澤田「ミシン 頂きに来ました!」

昌子「今日から うっとこ 軍隊さんの もんを 作る事になりました。」

3人「えっ?」

昌子「お国のために ミシンを使えて 幸せな事です。 ちっこい所帯ですよって どんだけ お役に立てるか 分かりませんけども せいぜい 頑張らせてもらいます。」

澤田「ご苦労さんです! せいぜい 頑張って下さい!」

「ご苦労さんです。」

居間

<お父ちゃん… ミシン どないかなりそうです。 お父ちゃんが 教えてくれへんさかうち 自分で どないかしてんで>

回想

糸子「軍服! 軍服 作らして下さい! ぐん… 軍服!」

優子「軍服屋のおっちゃんがな…。」

糸子「その手が あったがな!」

靖「お母ちゃんに言うといてや。」

優子「変や!」

木岡「かいらしいのう!」

糸子「おばちゃんらに聞いてきてみ。」

優子「こんなん 絶対 変や!」

糸子「優子 散髪しよ!」

優子「散髪?」

(柱時計の時報)

回想終了

(柱時計の時報)

<やっぱし… お父ちゃんか>

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