あらすじ
糸子(二宮星)は近所のおばちゃんに神戸から届いたドレスを見せ、そこでアッパッパという洋服なら手軽に作れると聞く。さっそく祖母・ハル(正司照枝)にサラシをもらい、夜中にようやく一着のアッパッパを縫い上げる。大得意の糸子に善作(小林薫)も感心する。以来糸子は裁縫に夢中になり、神戸の祖父・清三郎(宝田明)らに縫った物を送りつける。それから3年後の昭和2年。糸子(尾野真千子)は14歳の女学生になっていた。
6回ネタバレ
木岡家
木岡履物店
木岡保男「『和服に比べて 女性の洋服は 活動にも衛星にも 至極 適当で また 経済的である事は 明らかだ。 国際生活に進みつつある 日本人が 世界的服装である洋裁にまで 行く事は当然である』。 かなわんな! 新聞に こんな事 言うてもろたらな ええ?!」
善作「昔から 日本人は 姫かて 殿かて 着物で 戦うちゃったんじゃ。 何で 今更 洋服に 着替えなあかんねん!」
保男「そや! 靴ちゃうで! わらじで 戦うちょったんじゃ!」
善作「洋服と靴で 武将が 務まるかっちゅうねん。 なあ! やっぱし 着物と わらじじゃい! のう?」
保男「おう そうよ!」
善作「木岡よ。」
保男「うん?」
善作「わしゃな 世間が どない変わろうと関係ないで。 着物は 日本の魂やからね。 誇りを持って 呉服屋やっていくだけじょ!」
保男「善ちゃん… わしかてよ 靴屋なんぞ やれるかいや。 わしゃ 下駄屋に生まれたんや。 下駄屋やるだけや!」
善作「うれしいなあ。 お前から そんな言葉が聞けて。」
保男「わしら 仲間や。 時代 相手に どこまでも 闘うていこよ!」
善作「おう! わしら2人をなめたら 怖いねんぞ~!」
保男「あかんど~!」
町中
木岡美代「へえ~! 見て これ!」
「いやいや うちも ちょっと 見せて 見せて。」
美代「裏 どないなってんの? かいらしいなあ。」
「いや これ あんた 帯 付いてるやん。」
美代「ほんまや 着物と一緒やな。 帯で留めるようになっちゃあら。」
「こら 珍しいもん 見せてもろた。 おおきに!」
子供達「見せて 見せて!」
糸子「壊れるさかい 触らんといてや! 見るだけやで! 触ったら あかんで!」
「けど 子供やったら こんなん 着ても かいらしけど うちら 着られへんもんなあ。」
美代「ああ そらそうや あんた。 うちら この顔で こんな ヒラヒラしたもん着て 歩いてみいや。 獅子舞やんか!」
「ほんまや!」
「獅子舞! ハハハッ。」
「獅子舞や!」
「せやけど あんた このごろ 心斎橋なんか行ったら よう歩いちゃるで 洋服 着た人。」
美代「ああ 洋服なあ。 まあ アッパッパくらいは うちかて着るけどなあ。」
「アッパッパ あれは涼しいわ~!」
糸子「『アッパッパ』って 何?」
「『アッパッパ』いうたら ほれ 夏になったら このごろ よう着てる人 いてるやろ?」
「洋服や。」
糸子「洋服?! おばちゃん 洋服 持ってんの?」
木岡履物
玄関
善作♬『スットントン スットントンと 通わせて 今更』
木岡履物店
美代「アハハハハ あ~あ!」
3人「こんにちは!」
美代「ああ 待っといてよ。 アッパッパなあ…。 はい!」
糸子「何や これか。」
美代「うん。 これ アッパッパ。 知ってるやろ?」
糸子「知ってる。 おばちゃん着てんの 見た事あるわ。 これも 洋服やったんけ。」
「ほら よう見てみい。 日本の着物と 全然 違うやろ?」
保男「おい! おい!」
美代「うん?」
保男「お茶!
美代「ちょっと待ちいや! 今 お客さんやろ?」
糸子「おばちゃん どないしたん? これ。」
美代「ああ 縫うたんやし。」
糸子「縫うたん! 自分で?」
美代「うん。」
糸子「すごいなあ!」
美代「なんも すごないで。 なあ?」
「簡単やで。 きれ ピャ~ 切って ピャ~ 縫うたら おしまいや。」
糸子「ほんま? うちにも縫える?」
「縫える 縫える。 学校で お裁縫 習てるやろ?」
糸子「習てる!」
美代「あっ あんたんとこ 呉服屋なんやさかい 要らんきれ ようさん あらし。 縫うてみたら ええねん。」
糸子「やってみる!」
美代「うんうん。」
糸子「なあ おばちゃん これ 手本に借りて ええ?」
美代「うん ええよ。 はい!」
「かいらしいなあ。」
「かわいい!」
「なんとかして 着られへんやろか?」
「無理 無理。 あんた もう!」
小原家
小原呉服店
「そら ものは 断然 こっちが ええけどなあ。」
善作「そうですやろ? うちかて 奥さんぐらい 目ぇの利く人やないと こんな 一級品 お出ししませんねんで。」
「けど 値段も一級やんか!」
善作「あ~ イタタタッ 痛いなあ。 そこは それ 勉強させてもらいますがな。」
糸子「ただいま! お父ちゃん 余ってるきれ 頂戴!」
善作「ああ? お母ちゃんに聞き。」
糸子「分かった。」
善作「ああ これこれ お客さんに『こんにちは』言わんかい。」
糸子「こんちは!」
善作「ああ…。」
「こんにちは!」
糸子「お母ちゃん!」
台所
千代「うん?」
糸子「お母ちゃん 余ってるきれ 頂戴。」
千代「余ってるきれ?」
居間
糸子「うわ~! うわっ おばあちゃん これ きれい! あっ これも きれい! あっ これも きれい!」
ハル「きれいでも それは あかん。」
糸子「何で?」
ハル「木綿と違うさかい 肌に合わへん。 じかに着るもんちゃう。」
糸子「ふ~ん…。」
ハル「きれもな 肌に近い方が ええのん。 遠い方が ええのん。 いろいろ あんやし。」
糸子「ふ~ん…。」
ハル「さあ 貸し。」
<うちは 初めて きれの事を おもろいと思いました>
子供部屋
<おばあちゃんは 晒っちゅう きれを うちにくれました。 晒は 古すぎて ちょっと黄色なってるけど かめへん かめへん!>
糸子「ああ…。」
千代「糸子…。 御飯 食べるか? また 明日にし。 な!」
糸子「でけた! うち… 洋服 縫えた!」
居間
善作「おい はよせえよ!」
糸子「待って 待って… よっしゃ ええで!」
2人「せ~の!」
善作「よっ 糸子!」
千代「あらまあ!」
糸子「♬『春よ来い 早く来い』」
4人♬『あるきはじめた みいちゃんが 赤い鼻緒の じょじょはいて おんもへ出たいと 待っている』
<うちが初めて作った アッパッパは ちょっと おかしなとこも あったけど…>
ハル「あら 夏に涼しいで。」
千代「動きやすそうですわ。」
<うちの人らは褒めてくれました。 しまいには お父ちゃんが…>
善作「こら 将来 有望やなあ。 おい 糸子! これからな うっとこの着物 全部 お前が縫うてくれ!」
<そう言うたもんやから うちは ますます 裁縫が好きになって…>
尋常小学校
校庭
勘助「なあ お前も来いて。 ごっつ おもろいとこ あんやて。」
糸子「嫌や! うちは はよ 家 帰って 裁縫すんねん!」
<毎日 針と糸で 好きなもんばっかり 作るようになりました>
勘助「裁縫なんか 何が おもろいねん?」
松坂家
リビング
貞子「糸子から 何や 送ってきた。」
清三郎「なに 糸子から? ほう!」
勇「えっ これ 僕に?」
貞子「うん そう書いてあるわ。『夏になったら 着て下さい』って。」
清三郎「ほんで わしのこれは 何や? ああ そうか。 シャツかいな。」
貞子「『おじいちゃんには ステテコです』って。」
清三郎「ステテコ? あ~ そうか。 こうかいな? アハハハハッ!」
小原家
寝室
糸子「あんた あれ 着れへんけ?」
静子「恥ずかしいさかい。 洋服なんか 着てる人 いてへんし。」
<けど うちが ほんまもんの洋服を 作れるようになんのは まだまだ ず~っと先の事です>
昭和2年(1927)
(鳥の鳴き声)
静子「姉ちゃん! 糸子姉ちゃん! 糸子姉ちゃん!」
糸子「堪忍… あと5分。」
静子「そやけど もう8時やで。」
糸子「ああ 分かってるよ 8時やろ…。 えっ? 8時?! 何で もっと はよ 起こさへんねんな。」
静子「起こしたやん。」
居間
清子 光子♬『ちゃつぼに おわれて トッピンシャン ぬけたら ドンドコショ たわらの ねずみが 米くって チュー』
静子「お待たせ! 行こか。」
2人「うん。」
ハル「糸子 起きたか?」
(足音)
ハル「あっ 起きてんな。 ほな 行ちょいで!」
3人「行ってきま~す!」
子供部屋
糸子「えらいこっちゃ えらいこっちゃ えらいこっちゃ…。 えらいこっちゃ えらいこっちゃ…。」
台所
糸子「えらいこっちゃ えらいこっちゃ えらいこっちゃ。 おはようさん!」
千代「おはよう。 あんた また そんな行儀の悪い事して。 ああ お父ちゃんに 怒られるでえ。」
(せきこみ)
千代「あ~あ もう! ほれ! あ~あ。」
善作「お~い 千代!」
千代「あ… へえ!」
善作「昨日 中村さんから預かった反物 どこや?」
千代「えっ へえ… 確か… ええと… ああ どこやったかな?」
<去年の暮れに 大正天皇が お隠れになり 昭和という新しい時代が 始まりました>
玄関
糸子「行ってきます~!」
「糸ちゃん おはよう!」
糸子「おはようさん!」
「気ぃ付けや!」
糸子「おはようさ~ん!」
<うちは いっちょまえの 女学生になりました>
道中
糸子「あっ 雨や。」
奈津「雨や…。」
糸子「奈津! 奈津! 奈津 傘 入れて。」
奈津「はあ? 嫌や。」
糸子「何でやねん? 入れてえな。」
奈津「嫌やちゅうねん。 何で あんたなんか 入れなあかんよ?」
糸子「入れてえなあ。 入れんか この どケチ!」
奈津「嫌や! 絶対 嫌や! あっ! 糸ちゃん 傘 入り。 ぬれるで。」
糸子「うん…。 泰蔵にいちゃん おはようさん!」
泰蔵「おう!」
糸子「仕事 気ぃ付けてな 雨 降ってるさかい。」
<相変わらず だんじりは 大好きやけど うちの夢は もう 大工方や ありません>