あらすじ
昭和18年9月。戦局が厳しくなり、オハラ洋装店でも庭で野菜を育て、衣料品を手に農家をまわって食料を得るようになった。糸子(尾野真千子)らが軍需品の肌着などを縫う脇で長女・優子は軍事教練ごっこに余念がない。そんな中、優子にせがまれて糸子は映画を見に行くが、戦争の場面ばかりでそろって退屈して出てきてしまう。糸子は暗い子ども時代が続いている娘たちを思い、せめてキレイな絵を描くようにと色鉛筆を買ってやる。
70回ネタバレ
小原家
オハラ洋装店
(ミシンの音)
僧侶『南無阿弥陀仏。』
井戸
りん「あっ うま!」
直子「シ~ッ!」
僧侶『南無阿弥陀仏。』
小原家
玄関前
僧侶「南無阿弥陀仏。」
<お父ちゃんが亡くなった事を 戦地の勝さんに 知らせたあて 何べんも 葉書を送るもんの 勝さんからの便りには 相変わらず『お父さんは お達者ですか?』やら のんきな事が 書いてあります>
オハラ洋装店
(足音)
優子「お母ちゃん ただいま帰りました!」
糸子「お帰り。」
一同「お帰り。」
<国民学校の 熱心な戦争教育のおかげで このごろ 優子は 軍国少女のまねが 大好きです>
2階 寝室
優子「ただいま!」
りん「お帰り 優ちゃん。」
オハラ洋装店
昌子「肌着も 今日中に上がりますよって 明日にでも そろいますよ。」
糸子「ほうか。 ほな 明日 トメちゃんらに また 回らそか。」
優子「お母ちゃん! 優子は お外で 軍事教練をしてきます!」
糸子「あ 行っちょいで。 暑いさかい 朝のうちに 行かせちゃった方が ええで。」
昌子「まあ そうですね。 ほな 朝一番で あの子ら 行かせて…。」
優子「行ってまいります!」
昌子「行っちょいで。」
岸和田商店街
優子「ヤア! ヤア! ヤア! ヤア! ヤア! ヤア! ヤア! ヤア! ヤア! ヤア! ヤア! ヤア!」
優子「うっ!」
「優子さん!」
「優子さん!」
優子「花子さん ミヨさん うちは もう あきません。」
「何を言うてるの!」
「諦めたら あかんよ!」
優子「うちが死んでも 最後の一人まで 戦い抜くて 約束して…。」
「分かった。 最後まで戦い抜くわ。」
優子「よかった。 それを聞いて うちは… 安心して 死ねます。」
「安心して 死んで 優子さん。」
優子「おおきに… うっ…。」
「優子さ~ん!」
「優子さ~ん!」
「優子さ~ん!」
「え~ん え~ん!」
「え~ん え~ん!」
優子「何や 直子?! こっち 見んとき! あっち行きて!」
<このごろは もう 商店街のほとんどの店が閉まり 配給も どんどん減ってきました>
小原家
オハラ洋装店
(ミシンの音)
<今や 食べ物は どないかして 自分らで 手に入れんならんもんです。 うちらは 庭に 野菜を植えたり 肌着や靴下をこさえて お百姓さんを回り 直接 食べ物と 交換してもらうようになりました>
糸子「あんたら 何で うちが 糸子ちゅうか 知ってるか?」
昌子「はあ? 知りません。」
糸子「『一生 糸で食べていけるように』ちゅうて 神戸のおじいちゃんが 付けてくれたんや。」
一同「へえ~。」
糸子「ありがたいこっちゃでえ。 糸ちゅうんは ほんま こないして 潰しが きくさかいな。」
昌子「ほんまですねえ。」
糸子「ほな 行っちょいで 頼むで。」
トメ 佐知子「行ってきます!」
昌子「気ぃ付けや。」
トメ 佐知子「は~い。」
一同「行ってらっしゃい!」
トメ 佐知子「行ってきます!」
2階 座敷
ハル「はあ… はよ 天から お迎え 来んかいな。」
糸子「来るかいな。 まだ こんな お粥さんかて ようさん 食べれんのに。」
ハル「役も立たんのに お粥さんばっかり 食べて…。 長生きして… ふん 迷惑な年寄りやで。」
糸子「お父ちゃんの ひがみ根性は おばあちゃん譲りやってんな。」
ハル「善作が死んでしもて 世の中 戦争ばっかし。 うちら 生きちょったかて 何の楽しい事 あるやら…。 はあ… 死んだ方が ましやで。」
糸子「食べてんがな!」
オハラ洋装店
優子「ただいま お母ちゃん! うち 映画 行きたい!」
糸子「映画? どれどれ…。」
優子「明日 集会場に来るんやて。 花ちゃんも ミヨちゃんも『連れてってもらう』ちゅうてたし。」
糸子「何や 戦争映画やん。」
優子「行きたい! なあ 連れてってや!」
糸子「あかん。」
優子「何で?!」
糸子「お母ちゃん 忙しいんや。」
優子「嫌や! 優ちゃん 映画 行きたい。」
糸子「あかん。」
優子「なあ お母ちゃん うち 映画 行きたい! なあ お母ちゃん!」
糸子「あんた ほな その事 ちゃんと 工場に確認して…。」
優子「なあ お母ちゃん!」
糸子「うるさい! 工場に連絡して ちゃんと確かめときや。」
静子「うん 分かった。」
優子「なあ お母ちゃん。 なあ お母ちゃん うち 映画 行きたい。」
直子「直ちゃんも 映画 行きたい。」
優子「なあ 連れてってよお!」
直子「直ちゃんも 映画 行きたい!」
糸子「うるさい!」
<まあ ほんでも 連れてっちゃる事にしました>
玄関前
3人♬『野道を行けば』
「こんにちは。」
糸子「こんにちは。」
「こんにちは。」
「どこ 行くん?」
糸子「ちょっと そこの集会場。 今日な 映画 やるんやて。」
「へえ~ 行ってらっしゃい。」
糸子「行ってきます~。」
♬『唄をうたえば 靴が鳴る』
集会場
(ざわめき)
糸子「面白いやろか?」
優子「面白いに決まってる! 絶対 絶対 面白いに決まってる!」
糸子「せやろか?」
優子「あ!」
直子「あ!」
糸子「始まった。」
(拍手)
(機関銃の音)
<おもろない…。 兵隊が戦うて ばっかしや>
直子「なあ お母ちゃん 外 行きたい。」
糸子「あ そうか。 ほな お外 出とくか?」
直子「うん。」
糸子「優子。 お母ちゃんら お外 いてるよってな。 すんません。」
2人「いよ~! お~!」
糸子「いでっ… むむむ…。 どないしたん?」
優子「優ちゃんも もう ええ。」
糸子「面白ないか?」
優子「うん。」
糸子「ほな 帰ろか。」
優子「うん 帰ろ 帰ろ。」
小原家
玄関前
優子「優ちゃん もっと楽しいのんが 見たい。」
糸子「う~ん。」
優子「楽しいのんとか きれえな映画が見たい。」
直子「きれえな映画て どんなん?」
優子「きれえな お姫様が きれえなドレス 着て 出てくるんや。」
糸子「せや。 きれえな お城に きれえな花が咲いてやな…。」
優子「うん! フフフ!」
糸子「直子 よう考えたら あんたなんか 生まれて このかた ず~っと戦争やさかい きれえなもんやら 何も見た事ないんやな。」
「待て~!」
糸子「え?」
「貴様 こら 待て!」
糸子「見な!」
(優子の泣き声)
「何や アカけ?」
「アカや。」
優子「お母ちゃん 怖い。」
直子「アカって 何?」
優子「え~ん 怖い~。」
直子「アカって 何?」
(優子の泣き声)
糸子「優子。 赤に 白 混ぜたら 何色になる?」
優子「え?」
糸子「何色になる?」
優子「桃色。」
糸子「もっと足したら?」
優子「桜色。」
糸子「ほな… ちょっと 青 足したら?」
優子「う~んと…。」
オハラ洋装店
優子「紫! 青! 緑! 黄緑! 黄色! お母ちゃん これ ほんまに 優ちゃんのん? 何で こんなん 買うてきてくれたん?」
糸子「あんたは 絵が上手やろ。 これで きれえな絵 ようさん描いて 直子と聡子に 見せちゃり。 フフッ…。」
昌子「何ぼしたんですか? あれ。」
糸子「ええやないか お金の事は。」
昌子「また そんなん言うて! 今どき あんな上等なん…。 10円は したでしょ?」
糸子「はあ~ あ~あ~! よいしょ。」
玄関前
糸子「はあ~ もうすぐ だんじりやなあ 今年も。 はれ。」
木之元「おう 糸ちゃん!」
木岡「今から 祭りの寄り合いや。」
糸子「ほうか。 頑張ってな。」
木岡「おう!」
木之元「行ってくら!」
糸子「行ってらっしゃい。」
<若い男は みんな 戦地に行ってしもて 曳き手は 年寄りばっかりに なってまいました>
糸子「ほんでも だんじりは 何があっても 曳かんならんもんや。」
<そうゆうもんや>