あらすじ
勝(駿河太郎)の戦死を知った糸子(尾野真千子)だが、悲しみすら実感できないまま葬式を出す。そして炎天下の消火訓練や空襲警報の合間に、疎開先の家族に自転車で食料を届けるのだった。泰蔵(須賀貴匡)の戦死や神戸の屋敷の全焼など、つらい出来事を感情を殺してやり過ごした糸子だが、だんじり小屋を訪れた時、幸せだった時代を思い、涙がこみ上げる。疎開先の空襲で子どもたちを守った糸子は「絶対に死なない」と固く誓う。
75回ネタバレ
小原家
オハラ洋装店
(せみの鳴き声)
糸子「ほうか…。」
(せみの鳴き声)
木岡履物店
美代「勝さんのお骨 帰ってきたで。 おとうちゃん。」
木岡「うるさい! わしは 見ん。 もう…。 もう… うんざりじゃ!」
(せみの鳴き声)
小原家
オハラ洋装店
<とにかく 食べてへんのと 寝てへんのと 暑いんと うるさいんと>
(せみの鳴き声)
静子「姉ちゃん。」
糸子「うん?」
静子「行くで。」
糸子「うん…。」
千代「糸子… 糸子!」
(せみの鳴き声)
(千代の泣き声)
玄関前
<あっついなあ…>
僧侶「南無阿弥陀仏。 南無阿弥陀仏。」
<なんしか モノが考えられません>
岸和田商店街
(警戒警報)
木之元「止まれ 止まれ! 東は 危ない! 西や 西へ行け!」
<言われるがままに 逃げて>
澤田「速やかに! 迅速に!」
「はい!」
「よ~し!」
<言われるがままに 動いて… 食べ物を届ける 寝れる時に 寝る>
小原家
寝室
(警戒警報)
<でも 寝てられんと 起きる>
(警戒警報)
<そんなんで…>
オハラ洋装店
糸子「どないしたん?」
太郎「お母ちゃん いてますか?」
八重子「何や? ああ… ああ~! 嫌! 嫌や~!」
太郎「お父ちゃん…。」
(泣き声)
<太郎が 泰蔵にいちゃんの 戦死公報を持ってきた時も 何でか知らん 涙も出んのでした 気持ちちゅうもんが どっか 行ってしもたようで。 けど これはこれで 楽や。 悲しいっちゅうんは つらいし つらいんは しんどい>
山中町
糸子「昨日な 神戸のおっちゃんから 電話があってな…。」
千代「ふん…。」
糸子「みんな 無事やけど…。 工場とお屋敷 燃えてしもたて。」
千代「ほうか…。」
糸子「うん。」
優子「お母ちゃん。」
直子「お母ちゃん。 はい!」
糸子「うん?」
千代「何?」
(優子と直子の笑い声)
小原家
玄関前
回想
♬~(お囃子)
「ソーリャ ソーリャ ソーリャ ソーリャ!」
回想終了
だんじり小屋
(自転車の倒れる音)
(泣き声)
小原家
玄関前
(からすの鳴き声)
(警戒警報)
昌子「先生 これ!」
木之元「糸ちゃ~ん!」
糸子「何や?!」
木之元「山中町に 爆弾が落ちた! お母ちゃんら 見に行っちゃれ! はよ! みんな!」
山中町
(警戒警報)
糸子「優子! 直子! 聡子! お母ちゃん! おばあちゃん!」
ハル「糸子!」
千代「糸子! 糸子!」
糸子「大丈夫や! お母ちゃん 来たよってな!」
千代「あ~あ 糸子!」
(泣き声)
糸子「お母ちゃん 逃げるで!」
千代「どこへ?」
糸子「川や! みんなで 水ん中 飛び込も! 燃やされへんよって。」
(爆弾の投下音)
(悲鳴)
(爆発音)
(子供達の泣き声)
「お母ちゃ~ん。」
「お母ちゃ~ん。」
(聡子の泣き声)
(子供達の泣き声)
糸子「うちは 死ねへんで! 死ねへんで!」
道中
「わしは 空襲なんぞ 何も怖ない。 燃やされて 困るもんやら 一つも ないよってな。 お前も そやろ? 泣くなや。」
小原家
オハラ洋装店
(せみの鳴き声)
<うちは 死なへん。 …とは言うたもんの いよいよ もう あかんのちゃうか ちゅうくらい 暑い日ぃの朝>
木之元「糸ちゃん。 糸ちゃん!」
糸子「へ?」
木之元「今朝 ラジオ 聴いたけ?」
糸子「は?」
木之元「今日 正午に 重大発表があるさかい みんなで 聴けや。」
正午
(ラジオの雑音)
『朕深く 世界の大勢と 帝國の現状とに鑑み 非常の措置を以て 時局を収拾せむと欲し 茲に 忠良なる 爾 臣民に告ぐ 朕は 帝國…』。
りん「何て言うてんの?」
トメ「分からへん。」
『米英支蘇 四國に対し 其の共同宣言を受諾する旨…』。
(せみの鳴き声)
(ラジオの雑音)
昌子「え… 何て? 何ちゅうたん・」
静子「分からへん。 誰かに聞いてこうか。」
清子「うち 木岡のおっちゃんに聞いてくる。」
光子「うちも。」
木岡「あ~ 負けたんや~! 負けたんやで 日本が! 畜生! 負けてもうたんや~!」
幸子「終わったちゅう事? 戦争 終わったちゅう事?!」
(ラジオの雑音)
糸子「さあ…。 お昼に しようけ。」