あらすじ
進駐軍が来て糸子(尾野真千子)らは、最初は恐れていたが、次第に慣れていく。店で縫った肌着を手に闇市へ通い、物々交換を重ねる日々だったが、ある日、久しぶりにサエ(黒谷友香)が訪ねてきて、無事を喜びあう。サエは、男がだんじりをひかずにいられないように、女はおしゃれしなければと言う。糸子は手持ちの軍服用の布地で洋服を作る。それでも女性たちが殺到し、糸子は早くステキな布地で洋服を作りお客に着せたいと思う。
77回ネタバレ
小原家
2階 寝室
<戦争が… 終わりました>
糸子「終わったあ…。」
(せみの鳴き声)
糸子「終わったんや~!」
オハラ洋装店
靖「けど あんた まだ そんな格好せん方が ええで。」
糸子「え?」
靖「アメリカ軍が 来るよってなあ。 おっとろしいど。 何されるや 分からんど。 あ~ 恐ろしい。」
玄関前
警官「せやから アメリカ軍を刺激するな ちゅう 上からの お達しじゃ! 守らんかってみい! お前ら まとめて 逮捕やぞ!」
2階 寝室
糸子「アメリカ軍でも何でも 来るんやったら 来いっちゅうんや~!」
オハラ洋装店
縫い子達「行ってきます~!」
糸子「行っちょいで。」
木岡「進駐軍や~! 進駐軍の奴らが 来よったで~! えらいこっちゃ! おい 行くぞ!」
糸子「ラジオ 消し! お勝手 閉め! 窓も 全部 閉めや!」
(からすの鳴き声)
玄関前
『商店街って ここのこと?』
『全然 店開いてないね』
『間違えたのかな』
『さあ…』
『でも間違いない 商店街だよ』
『人もいないゴーストタウンだよ』
『まさか』
(戸をたたく音)
『何か見える?』
『いや』
『こっちの店は?』
オハラ洋装店
(聡子の泣き声)
千代「ああ… シ~ッ シ~ッ…!」
玄関前
『赤ん坊の声だ』
『やっぱり人は住んでるんだぜ』
(戸をたたく音)
『こんにちは 誰かいませんか?』
(戸をたたく音)
『だめだ』
『しょうがない 今日はもう帰ろう』
『残念だなあ 日本の絵ハガキ欲しかったのになあ』
オハラ洋装店
糸子「行った?」
昌子「行った 行った。」
優子『直子のアホ~!』
直子『アホ アホ~!』
玄関前
優子「直子のアホ!」
直子「優子のアホ!」
オハラ洋装店
糸子「優子! 直子!」
優子『アホ! や~い!』
昌子「先生!」
玄関前
優子「直子のアホ!」
直子「優子のアホ!」
優子「アホ!」
直子「アホ!」
「ワオ ワオ!」
優子「待て~!」
直子「ああっ!」
オハラ洋装店
糸子「放し! 放し!」
昌子「早まったら あかん!」
玄関前
優子「やあ! やあ! やあ!」
「ワオ! ヘイ ヘイ!」
直子「優子のアホ~!」
オハラ洋装店
糸子「子供らが死んでも ええっちゅうんか!」
玄関前
糸子「優子! 直子!」
昌子「先生~!」
木岡「放せ! 放せ!」
オハラ洋装店
(ミシンの音)
優子「なあ お母ちゃん 直子に やられたとこ 痛い。 見て!」
糸子「知らん。」
優子「見て!」
(ミシンの音)
木岡履物店
木岡「下駄や。 下駄!」
「ゲタ?」
木岡「せや! 下駄。 日本のな 履物や。 そう 履物 足に こう… 靴 そう!」
<進駐軍ちゅうんは いざ 来てみたら そない言うほど 怖いもんや のうて…>
木岡「侍? おう 侍や!」
「サムライ?」
木岡「侍が こう履くんや。」
闇市
店主「泥棒~!」
木之元「これ 牛け? 牛の肉? お~! おおきに! サンキュー! 糸ちゃん 糸ちゃん。 これ 牛やて。」
糸子「牛け。」
木之元「ほんでな これは コーヒーの急須。」
<アメリカの珍しいもんを ようさん持ち込んでくれるし 日本のもんを よう買うてくれるしで 結構 ありがたい人らでした>
「これで… どや?」
糸子「いやいや そら むちゃや。」
「えっ?」
糸子「新品やで?!」
「新品? ほんまかいな?」
<闇市では 物々交換での買い物もできます>
「こんだけ。」
糸子「話にならんわ!」
「ああ ちょっと ちょっと!」
<世の中には まだまだ 物が足りてへんよって 軍需品の残りで こさえたようなもんでも 結構 ええ値がつきます。>
小原家
オハラ洋装店
<今は この一枚が そのまんま お金っちゅう訳です>
♬~(ラジオ)
3人「ただいま~!」
糸子「お帰り! ご苦労さん!」
<うちは 他の工場からも どんどん 余りの生地を 払い下げてもうて 片っ端から 着るもんに 仕上ていきました>
サエ「こんにちは。 糸ちゃん!」
糸子「サエ… あ…。 あんた 無事やったんか?!」
サエ「無事や 無事や! よかったなあ 糸ちゃんも 元気で。 店かて そのまんまやんか!」
<ほいでも…>
(泣き声)
<サエも 弟と親戚のおにいちゃん いろんな人を亡くしてました>
糸子「大変やったなあ…。」
サエ「うん…。 けど 糸ちゃんかて…。」
糸子「まあ… お互いさんやな。」
サエ「けど… 糸ちゃんの事やさかい 早速 ジャンジャカ 洋服こさえてるか思た。」
糸子「ああ… そんなん まだまだや。」
サエ「え~ 何でやのん?」
糸子「そら… 世間は まだ おしゃれどころやないで。 みんな 今日一日の御飯かて 食べられるかどうかやのに。」
サエ「何 言うてんの?! そやからこそやん!」
糸子「そうなんか?」
サエ「当たり前やんか?! うちかて 今日 ここに しゃれたスカートでも あったら 3日くらい 御飯抜きでも 買うちゃろ思て 来たんやで?!」
糸子「ええ?! 何で?」
サエ「何でて…。 は~ 糸ちゃん。 あんたは ええ商売人かもしれんけど やっぱし 何ちゅうか 女心に疎いとこ あんなあ。」
糸子「どういう事や?」
サエ「町 よう見てみ? 増えてるやろ?」
糸子「何がや?」
サエ「男や。」
糸子「男?!」
サエ「やっと 戦争 終わって 若い男が 戻ってきだしてる。 おまけに アメリカ兵は その辺 ウロチョロしてるしな。 もう うちなんか どんだけ おしゃれの血ぃ 騒いでるか!」
糸子「はあ…。」
サエ「こないだ 五軒町かて だんじり 曳いちゃあったやろ?」
糸子「うん 曳いちゃあった。」
サエ「うっとこの町も 結局 警察のおとがめ 聞かんと 男の人ら 曳いちゃあったわ。 あれと一緒や! こんだけ 何もかんも取られて しんどい目ぇ見たあげくに 戦争 負けてしもた。 ポケ~ッと しちゃあったら 悲しいんと悔しいんとで 死んでまいそうや。 男が だんじり 曳かんならんように 女は おしゃれせんならんねん。」
<そやかて うちも 大概 探し歩いてるけど 洋服に でけそうな生地なんか まだ どっこにも ありません>
糸子「ああ あ~!」
静子「どないしたん? 姉ちゃん。」
糸子「はあ…。」
「こんにちは。」
糸子「はい?」
「はあ… まだ 洋服 置いてへんの?」
糸子「ああ… いや もうちょっとしたら すぐ置くんやけどな。」
「はあ そうか。 ほな また来るわ。」
糸子「あ 堪忍な! すぐ置くよって! ほんま すぐやさかい また来てな~! はああ~! もう ええ! とりあえず こんで こさえちゃる!」
<ズボン下の生地で こさえた ブラウスと 軍服生地のスカート。 こんなん まだまだ『おしゃれ』ちゅえる ようなもんとは ちゃうけど…>
糸子「へ?!」
「売りもん? これ 売りもん?!」
糸子「うん…。」
「頂戴! これ 頂戴!」
「うちも! うちも 頂戴!」
糸子「ちょ… ちょっと待って。」
<ほんまや。 サエの言うたとおりでした>
ヤス子「小原さん。 小原さん!」
糸子「はい。」
ヤス子「注文したよって 頼んどくわな。 はよ作ってや。」
糸子「おおきに! 頑張ります。」
<長谷さんとこは 息子が3人とも 出征したちゅうてたな…。 あの息子ら どないなったんやろ… ああ… 縫いたい! ほんまに ええ洋服を縫うて はよ この人らに着せちゃりたい>