あらすじ
進駐軍が来て糸子(尾野真千子)らは、最初は恐れていたが、次第に慣れていく。店で縫った肌着を手に闇市へ通い、物々交換を重ねる日々だったが、ある日、久しぶりにサエ(黒谷友香)が訪ねてきて、無事を喜びあう。サエは、男がだんじりをひかずにいられないように、女はおしゃれしなければと言う。糸子は手持ちの軍服用の布地で洋服を作る。それでも女性たちが殺到し、糸子は早くステキな布地で洋服を作りお客に着せたいと思う。
78回ネタバレ
闇市
木之元「生地なあ。 う~ん。 ないなあ。」
<せやけど 洋服用の生地なんか やっぱし そう簡単には 見つかりませんでした>
糸子「まあ やっぱし みんな まずは食べんのに必死やもんなあ。 ほんま まだまだ おしゃれなんかなあ。」
「おなか すいたなあ。」
「ほんまやなあ。」
「何か食べる?」
糸子「あ?! はあ~! あ~!」
木之元「糸ちゃん! ちょっと待ち! ちょっと待ち!」
糸子「見た? おっちゃん 見た? 今の子ら ごっつい おしゃれや! 見た?」
木之元「見た 見た 見た!」
糸子「見た?」
木之元「見た 見た せやけど あの子らは ちょっと やめとき!」
糸子「何で?」
木之元「何でて あの子ぉらは あれや パンパンちゅうやっちゃ。」
糸子「パンパン?」
木之元「うん。 パンパンガールちゅうてな その… 要は 男相手に 商売する子ぉらや。」
糸子「はあ! ああ ほうゆう事か。」
木之元「うん。」
糸子「けど どこで買うたんやろ あの服。」
<ほんでも この世に 確かに おしゃれは生きてる。 ごっつい力で 息を吹き返そうとしてるんや。 そう思えて ますます うちの心は燃えてきました>
小原家
居間
千代「『こちらは いかんせん 山奥の事で 戦争の影響も 町ほどは ありません。 清三郎さんと二人 穏やかに 暮らしているので 安心して頂戴』。」
糸子「元気にしてんやな おばあちゃんら。」
千代「ふん。」
昌子「先生。」
糸子「ん?」
昌子「八重子さんです。」
<八重子さんの顔を見るんは 泰蔵にいちゃんの葬式以来です>
珈琲店・太鼓
玄関前
糸子「あ 開いてる。」
店内
糸子「こんにちは!」
店主「お いらっしゃい!」
糸子「こんにちは! また 始められるようになったん?」
店主「コーヒーだけやけどな ええか?」
糸子「かめへん かめへん! 八重子さん あっち座ろうか。」
店主「1杯 5円やけど ええか?」
糸子「高! 5円もすんの?」
店主「堪忍やで コーヒー豆が高いさかい。」
糸子「ああ。」
八重子「あんなあ 糸ちゃん。」
糸子「うん。」
八重子「うち 実家に帰る事にしたんや。」
糸子「何で? 太郎らは?」
八重子「もちろん 一緒に連れていくよ。」
糸子「おばちゃん 1人になるちゅう事? せやけど… え…。 おばちゃん 1人にすんの?」
八重子「責めんといて 糸ちゃん。」
糸子「責めてへんけどな。」
八重子「うち うち もう無理なんや。」
(泣き声)
八重子「自分を薄情やと思う。 何ちゅう ひどい人間やと思う。 せやけど もう あの人と この先一緒にやっていく自信が 無くなってしもたんや。」
糸子「ひどなんかない。 薄情なんかとちゃう! 八重子さんが どんだけ辛抱してきたか うちかて知ってる。」
八重子「泰蔵さんが帰って来るまでは 何があっても 耐えるつもりやってん。 せやけど…。 もう帰ってきてくれへん。」
(泣き声)
八重子「お母さんなあ 糸ちゃん。 泰蔵さんが 戦死したんも うちと結婚したせいやて 言うたんや。『あんたが この家に 死神持ち込んだんや』て。」
糸子「まあ…。 正気と ちゃうんやな 今のおばちゃんは。」
八重子「もともと 神経の細い人や。 そこに こんな ひどい事が続いて ぼろぼろになって…。 うちに当たる事ぐらいしか でけへんかったやろ。 そんな事は 分かってんやけどな。 糸ちゃんみたいに 自分の 好きな仕事に打ち込めてたら もうちょっとは 辛抱きいたかもしれへんなあ。 好きな仕事ちゅうんは 力をくれるもんやろ?」
糸子「うん。」
八重子「うちには それすら 今はもう ないよって。」
(泣き声)
八重子「弱いわ…。 弱い女になってしもたわ。」
小原家
オハラ洋装店
<とっとと 戦争のことなんか 忘れて 前向きたい。 何もなかったみたいに ぱあっと おしゃれしたり お菓子食べて笑たりでけたら どんなええやろ>
糸子「いらっしゃい。」
<けど 戦争が残したんは 桁外れて重たて しんどて」
糸子「はあ~!」
昌子「はれ! 先生 戻ってる! 太郎ちゃ~ん 先生 戻って来たで!」
糸子「はあ? 太郎?」
優子 直子『離して! 離してもう!』
糸子「どないしたん?」
優子「離して もう!」
糸子「これ! やめ!」
井戸
糸子「何や。」
太郎「あの 僕…。」
糸子「ん?」
太郎「店で雇うてもらえませんか。」
糸子「はあ?」
太郎「頼んます。」
糸子「あんた まだ中学生やろ?」
太郎「やめます。」
糸子「何でまた 急に そんな事 思いついてん?」
太郎「うちのお母ちゃんが 実家帰るて 言いだしたんです。」
糸子「はあ。」
太郎「ほんでも おばあちゃん 1人なってしまうよって。 僕は残りたいて思てるんですけど。 稼ぎがないと 養えへんさかい。」
糸子「まあ。 そら そやけどな。」
(小鳥の鳴き声)
闇市
(にぎわい)
糸子「なあ こんにちは。」
「はあ?」
「何や お宅。」
糸子「なあ その髪 パーマなん?」
「それが何なん?」
糸子「いや。 ごっつい 格好ええな思てな。 どこで あてたん?」
「どこでも ええやろ?」
糸子「はあ?」
「教えへん。」
糸子「何でやねん 教えてくれても ええやんか!」
「やめときて。 田舎のおばちゃんが パーマなんか あてたかて ブチャなるだけやさかい。」
糸子「はあ?」
(笑い声)
「ほな さいなら!」
糸子「はあ? ちょっと!」
「行こ!行こ!」
糸子「ちょっと待ち あんたら! ちょっと 待ち!」
木之元「やめとき! やめとき! もう!」
糸子「何や あの子ら! あの口のきき方! けど 腹立つけど 格好ええ。」
木之元「へ?」
糸子「あの子らの おしゃれ パーマ ごっつ サマんなってる! おっちゃん!」
木之元「え?」
糸子「パーマ機って 今 どこに残ってるやろ?」
木之元「パーマ機? う~ん…。」
木之元電キ店
木之元「うん うんうんうん。 ああ ないか。 ああ やっぱし 供出でなあ。 うん。」
<木之元のおっちゃんは ほんまに片っ端から 心当たりを当たってくれました。 ほしたら>
木之元「え?! ある? あるて。」
糸子「ほんま?」
<東京に1台 中古が売られてるちゅう話が 1個 見つかりました>
木之元「何ちゅうとこ?」
珈琲店・太鼓
店内
糸子「八重子さん!」
八重子「遅なって堪忍な。 次郎の転校を手続きしてて。」
糸子「八重子さん! 東京行こ! 東京! 東京にパーマ機 買いに行こ!」
八重子「え?」
糸子「それ買うて ほんで 安岡美容室 始めよ。」
八重子「安岡美容室?」
糸子「せや。」
八重子「いや うっとこ 今 そんなお金 ないさかいに。」
糸子「うちが貸す!」
八重子「糸ちゃん お金ちゅうのは そんな簡単なもんちゃう…。」
糸子「あげる ちゅうてんちゃう! 貸すだけや! ほんでな そんなお金 すぐ返せるようになんで! 安岡美容室 絶対 繁盛する。 賭けてもええわ。 八重子さん 日本中の女が 今は これからは パーマと洋服なんや。 うちも頑張る。 どないかして 生地 仕入れて これから どんどん 洋服 こさえちゃる!」
糸子「せやから 八重子さん 頼むわ。 あともう一ふんばりしよう。 一緒に ここ乗り越えよ。 ほしたら うちら 絶対どないかなるよって。 八重子さん 言うてたやん。 好きな仕事に 打ち込めたら 強い女になれるて。 せやろ?」
八重子「いや せやけど ちょっと 待って! ちょっと ちょっと 考えさして!」
糸子「あかん! 考えたあかん! 何も考えんと 東京行こ!」
八重子「いや せやけど ちょっと待って! ちょっと 考えさせてて! 決めた事なんや 家出るて。 長い事かかって やっと 決心した事なんや。」
糸子「パーマ機やで。 安岡美容室やで。 東京行こ 東京。 安岡美容室。」
<それから1時間くらい 迷ったあげく 八重子さんは やっと 東京行きを決めました>