あらすじ
小原糸子(尾野真千子)は、女学校から走って帰っては、夢中で裁縫をする日々を送っていた。父・善作(小林薫)は呉服屋の客を増やすことをねらい謡の教室を始めたが、商売には結びつかない。ある日糸子は、呉服の集金の途中にあるパッチ屋の店先でミシンを見かける。布が勢いよく縫われていく様子に糸子の目がくぎ付けになる。糸子は“このミシンこそ、自分が乗れるだんじりだ”と思い、目指す物をつかんだ気持ちで有頂天になる。
7回ネタバレ
河原
「ソーリャ ソーリャ ソーリャ ソーリャ!」
糸子<なっちゃるでえ うちも 大工方に。>
小原家
小原呉服店
(たたく音)
善作「女が 男と 張り合うて どないすんじゃい!」
奈津『着物ちゅう 洋服や。 外国の着物は 洋服ちゅうんや。』
<うちが初めて作った アッパッパは ちょっと おかしなとこも あったけど うちの人らぁは 褒めてくれました。 けど うちが ほんまもんの洋服を 作れるようになんのは まだまだ ず~っと先の事です>
居間
子供部屋
昭和2年(1927)
糸子「8時?!」
道中
糸子「奈津 傘 入れて。」
奈津「はあ? 嫌や。」
糸子「何でやねん? 入れてえな。」
奈津「嫌やちゅうねん。」
糸子「入れんか この どケチ!」
奈津「嫌や! 絶対 嫌や! あっ! 糸ちゃん 傘 入り。 ぬれるで。」
糸子「泰蔵にいちゃん おはようさん!」
泰蔵「おう!」
糸子「仕事 気ぃ付けてな 雨 降ってるさかい。」
<去年の暮れに 大正天皇が お隠れになり 昭和という新しい時代が 始まりました>
奈津「あんたなんか 絶対 入れたない!」
糸子「待って~。」
奈津「嫌や!」
泉川高等女学校
<うちも いっちょまえの 女学生になりました。>
教室
<女学校は 当たり前やけど 女子ばっかしで 別嬪もおれば そうでないのも おります>
「痩せたいわ~。」
「うちも。」
「うちは 色 白になりたい。」
「ほんで 宝塚に入りたい!」
「うちは 痩せたら 坂東妻三郎様に 会いに行くわ!」
「はあ~ どないしたら 痩せんやろうなあ?」
3人「う~ん…。」
「何? 吉田さん。」
奈津「何にも。」
<吉田奈津は 女学校に 友達がいてへんみたいです そやけど うちも 人の事は 言えません>
「あれ? お芋 どこいった?」
「えっ? ん?」
<うちは 今 三角に夢中です>
「ちょっと 小原さん うちのお芋 取らんといてよ!」
教師「大事なんは 一目一目…。」
<裁縫の授業は 週に4回あります>
教師「決して 雑にやったら あきませんよ。」
<当然 うちは いっつも 大張り切りなんやけど>
糸子「はい! 先生。」
教師「はい 小原さん。」
糸子「あの アッパッパの事なんですけど…。」
教師「小原さん。 今 みんなが縫っているのは 何ですか?」
糸子「浴衣です。」
教師「そう 浴衣です。 今 アッパッパは 関係ありませんね?」
糸子「そやけど 浴衣は もう縫うてしもたんです。 あの… アッパッパの裾に こんな三角 入れたい 思てるんですけど…。」
教師「三角でも四角でも おうちで 好きなだけ入れたら よろしい! 縫い終わったら 静かに 教科書でも読んでなさい!」
<好きすぎる ちゅうもんも 具合の悪いもんで 教科書なんか 4月にもろてから もう100回は読んでるし 書いてある事 全部覚えてるしで 裁縫の授業は 眠たあて しゃあありません>
教師「小原さん!」
教師「皆さん 今日も一日 つつがなく過ごす事ができて よかったですね。 日に日に 暮れるのが 遅くなっていますが…。」
<小学校と違て 女学校は 終わんのも遅いし 宿題も ようさん出て なかなか 裁縫の時間がありません>
教師「宿題も 忘れんよに。 よろしいですね。」
一同「はい!」
「起立! さようなら!」
一同「さようなら!」
道中
<うちは いっつも 走って 家に帰ります>
糸子「あ! 勘助やんか。」
「勘助やんか。」
「誰じゃい あいつ?」
<何や知らん このごろ 勘助は 道で会うても 返事せえへんよに なりました>
小原家
子供部屋
糸子「はあ~ でけた! 光子 ちょっと 着てみ。」
一同「うわ~!」
清子「わあ このアッパッパ ええなあ。」
静子「ほんまや 何や ちょっと ちゃう。」
糸子「そやろう? 三角や。」
清子「三角?」
糸子「ここに 三角 入れたんや。 そしたら こない ふわ~っと なんねん。」
静子「ええなあ うちも こんなん欲しい。」
清子「うちも!」
糸子「よっしゃ 作ったろ!」
清子 静子「わ~い!」
静子「ええなあ。」
清子「わあ かいらしい。」
糸子「ふわ~っ!」
夜中
ハル「あんた また こんな夜中に 何してんや?」
糸子「静子のアッパッパ 縫うてんねん。」
ハル「はよ寝り! そんな事してるさかい 寝坊するんやで。」
糸子「分かってる。 これ 終わったら…。」
ハル「あ か ん!」
糸子「ほんまに あと もう ここまで。」
ハル「あかん ちゅうてるやろ。 はよ寝りて!」
糸子「あ~あ…。」
糸子「ああ…。 そや。 宿題やってへんわ。」
<はよ 大人になりたいです。 はよ 大人になって 毎日 好きなだけ 裁縫できたら どんだけ ええやろう>
小原呉服店
「こんにちは。 お邪魔します。」
ハル「いらっしゃい!」
「こんにちは。 失礼します。」
<小原呉服店 ごっつ繁盛してます! …て 言いたいとこやけど 残念ながら これは お客さんと違います>
2階 座敷
<去年から お父ちゃんが 謡の教室を始めました。 この人らは そのお弟子さんです>
♬『ざらざらざ』
善作「ああ あ~あ まあ よろしいな。 もういっぺん いってみまひょうか。」
「はあ。」
善作「いつも 同じとこやで。」
「はい。」
善作♬『あなたへ ざらりい』
♬『あなたへ』
<お弟子さんからのお月謝が 稼ぎになるんと ついでに 着物も買うてもらえるん ちゃうかちゅう お父ちゃんの算段です>
「いや 今は お金ないし また今度な…。」
善作「酒井さん これ あててみる?」
「いえいえ。 わしんとこ こないだ 作ったばっかりやさかいなあ。」
善作「さよか…。」
小原呉服店
ハル「こない売れんと どないすんのや…。 糸子の学費かて まだ半分 残ってんのに…。 あと娘3人 おるんやで うっとこは…。」
善作「え~ ブツブツ ブツブツ…。 文句が あんやったら はっきり言わんかい!」
ハル「学費や。」
善作「ああ?」
ハル「あんたな 気前よう 娘 女学校 入れたかて 学費 払えなんだら やめささな しゃあないねんで。」
善作「じゃかましい! 分かっとるわい そのくらい!」
ハル「『はっきり言え』言うさかい 言うたんやんか!」
善作「じゃかましい! おい 千代 飯や! 飯 食うど~!」
千代「へ… へえ。 す… すんません。」
玄関前
「糸ちゃん お帰り。」
糸子「ただいま!」
「お帰り。」
糸子「ただいま。 ただいま~!」
子供部屋
糸子「よいしょ。」
(物売りの声)
善作『おい 糸子 帰ったか?』
糸子「うん もう…。」
居間
糸子「何? お父ちゃん。」
善作「集金 集金。 樋之池町や。 ちょっと遠いど。」
糸子「ええ~。 うち 裁縫したいねん。」
善作「口答えすな! どの口が言うとんや! 仕事が先や。 はい。 は~ 忙しい 忙しい!」
道中
<相変わらず お父ちゃんは 集金が嫌いで このごろは うちに任せっきりです>
<知らん町に行かされる事も多いし かないません>
枡谷パッチ屋
糸子「もう はよ帰りたいんよ…。 ここを曲がって…。 白い看板… 白い看板…。 ん? 何や あれ…。」
<何でか知らん。 それが 何するもんかも 分からんうちから うちの目は それに くぎづけになりました>
糸子「ほおおおお!」
(ミシンが縫う音)
糸子「ほおおおお あああ~!」
(ミシンが縫う音)
糸子「あああ~!」
道中
(川の流れる音)
(ミシンが縫う音)
<走っちゃった… きれが 走っちゃった あの速さ。 あのコマ>
♬~(お囃子)
『ソーリャ ソーリャ ソーリャ ソーリャ!』
<だんじりや 見つけてしもた。 だんじりや>
『ソーリャ ソーリャ ソーリャ ソーリャ!』
<あれは うちが乗れる だんじりなんや!>