ドラマダイジェスト

連続テレビ小説「カーネーション」第82回「愛する力」【第15週】

あらすじ

オハラ洋装店では、新たに経理担当者を雇い入れる。やってきた松田恵(六角精児)に、名前から女性だと思っていた糸子(尾野真千子)らは驚く。恵に人脈を広げるように勧められ、糸子は泉州繊維商業組合の寄り合いに参加する。そこで組合長の三浦(近藤正臣)、組合員の北村(ほっしゃん。)、そして紳士服職人の周防(綾野剛)らと知り合う。北村に勧められ、初めての酒を豪快に飲んで見せた糸子は、酔いつぶれてしまう。

82ネタバレ

小原家

居間

(せみの鳴き声)

<静子が お嫁に行ってから 間もなく 清子の縁談も まとまりました 水玉のワンピースは ものごっつい売れ行きで この夏 うちは 朝から晩まで これしか縫うてへんちゅうても ええくらいです>

オハラ洋装店

(ミシンの音)

松田「あの…。」

糸子「はい!」

松田「こちらの店主の小原糸子さん ちゅうのは お宅ですか?」

糸子「はい そうです。」

松田「今日から ここで お世話になる 松田 恵ちゅうもんです。」

糸子「『恵』て… 松田 恵さん?!」

松田「はあ…。」

糸子「男の人やったんですか?」

松田「はい。 ハハハ。 よう言われます。『名前 見て 女や思っちゃった』って。」

居間

松田「私 松田 恵と申します。」

<妹らが嫁に行くと 縫い子が 足らんようになる事もあって そろそろ 帳場を 専門に見てくれる人を 雇う事にしました>

千代「どう。」

松田「ああ どうも。 せやから 出征前は 心斎橋の浪速洋服店に 勤めちゃったんです。」

糸子「浪速洋服店?!」

昌子「大っきいとこやないですか。」

松田「へえ。 そこでも 僕は 職人やのうて 経理や社長秘書みたいな事を しちゃあったんです。 せやから あれですわ こう見えて 人脈は 結構 あるんですよ。 頬ホホホッ。」

糸子「ほう~ ほんまですか! 何か ええ人 紹介して下さいよ!」

松田「せやなあ!」

千代「よう頼んどき。」

糸子「うん!」

千代「あの~ この子 娘3人いてるんですけど そんでも ええちゅう人が…。」

糸子「お母ちゃん!」

千代「へえ?」

糸子「縁談ちゃう。 仕事の話や。」

千代「あ~ ほうか。」

糸子「うん。」

松田「あの 先生 泉州繊維商業組合 ちゅうのは 知ってはりますか?」

糸子「うん? 泉州…。」

2人「繊維商業組合。」

松田「泉州一帯の商売人の集まりですわ。 そういうとこにも いっぺん 顔 出してみたら どないですか? 僕 紹介できますさかい。」

糸子「はあ~。」

泉州繊維商業組合

(犬のほえる声)

<ちゅうて言われて 早速 その事務所に 連絡取って 行ってみたら…>

糸子「ごめんください。」

事務員「あ~ 小原さん?」

糸子「はい。」

事務員「今日 ちょうど 月会合 やってるさかい 案内するよう 組合長に言われてます。 すぐそこの料理屋ですわ。」

糸子「はあ すんません。」

料理屋

(談笑)

<そもそも 泉州繊維商業組合 ちゅう名前から むさ苦しい おっさんらの集まりを 想像してたんやけど…>

「ああ えらい すんまへんなあ。」

(談笑)

(笑い声)

<想像以上でした>

糸子「どうも すんません。 遅なりました。」

三浦「あっ 来よった 来よった!」

一同「おっ? えっ?」

三浦「ハハハッ お宅け? 岸和田で 洋裁店の看板 ぶち上げた女傑ちゅうんは?」

糸子「はあ… あの…。 初めまして! 岸和田で洋裁店を やっています 小原糸子です! よろしゅうお願いします。」

(拍手)

三浦「わしな 三浦ちゅうて 貝塚で 紡績屋やっとる ここの組合長や。 ほんで これが 佐野でな 毛糸屋やっとんねん。 おい 名前 何や?」

「八島や。」

三浦「八島や!」

「よろしゅう!」

糸子「よろしゅうお願いします。」

三浦「ほんで これ 北村ちゅうて わしには よう分からんのやけど 皆が言うには やり手らしいで。」

「やり手!」

(笑い声)

糸子「よろしゅうお願いします!」

三浦「おいおい お前らも ちょっと 自己紹介せんかいな。」

「おい! 長瀬や よろしゅう!」

糸子「よろしゅう!」

「わしゃ 木村や。 よろしゅうね。」

糸子「よろしゅう。」

「俺は 林や。」

糸子「よろしゅうお願いします。」

三浦「ほんでな ここに おるのが これが周防ちゅうて 長崎から出てきた職人や。 今 わしの かばん持ちしてるんや。」

糸子「よろしゅうお願いします。」

周防「はあ どうも。」

三浦「今日は 顔合わせの場やさかいな 堅苦しい事は 抜きや。 さあ ゆっくり遊んでいってよ。 お~い ちょっと すまんな。 わし ちょっと 次 行かんならん さかいに ここで失礼するわ。 ああ お前は ええ。 お前は ここに おれ。 ずっと おれ。 ほな まあ 楽しみに!」

一同「おおきに!」

「まあまあ はよ いこ!」

「ぐっと いこ! ぐっと!」

「まあ ええがな ええがな。 今日は無礼講や。」

(談笑)

糸子「あの… 長崎っちゅうたら 九州の長崎ですか?」

周防「はい。」

糸子「何で また ほんなとこから?」

周防「おいは 長崎で紳士服の職人ば しよったとですばってん。 ピカドンで 何でん かんでん 燃えしもうたけん 親戚ば頼って 家族で 岸和田に来たとですよ。」

糸子「はあ?」

周防「おいは…。」

糸子「『おいは』って 自分の事ですか?」

周防「そうです。」

糸子「はあ…。」

周防「おいは 長崎で 紳士服の職人ば しよったとです。」

糸子「はあ…。」

周防「ばってん ピカで 店でん 家でん 焼けしもたけん 岸和田に来たとですよ。」

糸子「店も家も 焼けてしもたんですか?」

周防「ふんさ。」

糸子「そら 気の毒な事でした。」

周防「ほんなことねえ。 そいばってん 嫁も子供達も 命ばっかりは 助かったけん ま~だ よかったって 思っとっとですよ。」

糸子「奥さんも 子供さん 無事やったんですか?」

周防「はい そうです。」

糸子「ああ ああ…。」

周防「長崎弁は 分かりにくいですか?」

糸子「ああ… いや うち 長崎の人と しゃべんの 初めてやさかい。」

周防「おいも 最初ん頃 大阪弁は 分かりにくかったです。」

糸子「ほうですか。」

周防「はい。」

糸子「はあ~!」

北村「ああ~! 紅一点!」

糸子「はっ?」

北村「初めて 女の商売人が 交じるっちゅうさかい 楽しみにしちゃあったのに あっかい花が来る 思ちゃあったら ただの里芋じょ!」

(笑い声)

糸子「はあ?」

(笑い声)

北村「まあ 勘弁しちゃら。 ほれ!」

糸子「お酒ですか?」

北村「当たり前じゃ。 水なんか出すけ! 何や あんた。 ひょっとしたら 酒 飲んだ事ないんちゃうんけ?」

糸子「はっ! ハハハ~ なめんとい下さい。 うちは 岸和田では 有名な酒豪で とおってます。 ふん。」

北村「ふん。」

「あんた ほんまに 酒 飲めるんけ?」

「無理すなよ ねえちゃん。」

糸子「小原です! ほな 皆さん 末永う よろしゅう。」

「うわ|~!」

「ほんまかいや?」

「酒豪やな!」

「えっ?」

糸子「あ… うまい!」

「うまい?」

糸子「ハハッ! うまい! どうぞ。 頂きます。」

<うちは 自分が お酒を飲める ちゅう事を 初めて知りました>

糸子「あ~ うま!」

<そやけど 飲み過ぎたら 酔っ払うちゅう事も知りました>

周防♬『遊びに行くなら 花月か 仲の茶屋 梅園裏門 たたいて 丸山 ぶうらぶら ぶらり ぶらりと 言うたもんだいちゅう』

道中

(犬のほえる声)

<うん? どこや? うち 誰かに おぶわれてんのか?>

糸子「お父ちゃんか?」

周防「うん?」

<あれ? うち… 年 なんぼやったっけ?>

(犬のほえる声)

小原家

オハラ洋装店

「うちも あんなパーマ あてたいんや。」

「うちも あてたい!」

「なあ ええわな あれ! 外人さんみたいに なりたいわ。」

(足音)

糸子「うん? う~ん…。」

千代「まだ 寝てるんか。」

糸子「イテテテテ…。」

昌子「先生!」

(笑い声)

糸子「あ~ 頭 痛い。」

千代「あれれ 痛いんか?」

昌子「33歳… 先生は もう33歳。 どういうこっちゃ? ほんな ええ年した女が 酔い潰れて よその人に おぶわれて 帰ってくるて!」

糸子「もう どならんといてよ。 頭 痛いのよ。」

昌子「恥ずかしいやら 申し訳ないやら。 うちら どんだけ 頭下げた 思てるんです!」

千代「あ~あ!」

糸子「あ…。 うち 誰に おぶわれて 帰ってきたん?」

昌子「はあ? それも 覚えてないんですか?!」

糸子「堪忍…。」

千代「何や 背ぇの ひょろ~っと高い人や。 親切に いろいろ 説明してくれたんやけどなあ 何 言うてるんか 言葉が よう分からんで。」

(笑い声)

糸子「あ… あの人か?」

回想

糸子「お父ちゃんか?」

周防「うん?」

回想終了

糸子「あ~! あ~ 恥ずかし~!」

千代「え~? ほれ! また寝るんか? えっ?」

糸子「う~ん…。」

<あ~あ… どうか もう あの人に 金輪際 会う事が ありませんように…>

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