あらすじ
酔っ払って周防(綾野剛)におぶられて帰ったことを忘れたい糸子(尾野真千子)。紳士服の注文があったため、三浦(近藤正臣)に相談すると、なんと周防に仕立てを頼むように言われる。糸子は恥ずかしい気持ちを抑え、亡き夫の道具を使ってもらうため、店に案内する。長崎弁を話し、舶来の靴を履いている周防を、千代(麻生祐未)たちは珍しがりながらも受け入れる。一方周防は、糸子が作った水玉のワンピースに見とれていた。
83回ネタバレ
小原家
オハラ洋装店
澤田「おはようございます!」
糸子「ひい…。」
澤田「お久しぶりです 小原さん。 今日は これを持ってきました。 はい。 5月19日 東京の食糧メーデーに 25万人 参加した事は ご存じと思います。 国民の食糧不足は ここに来て 極まってるんです! 小原さんも ひと事みたいな顔してる場合や ありませんよ! お分かりですね?」
昌子「はあ~…。 あの人は あれですね。 要は あないして説教でけたら 何でも ええんですね。」
糸子「知らん… もう考えたない。」
松田「うちの近所にも いてるわ あの手の おばはん…。」
(ため息)
「こんにちは。」
糸子「はい いらっしゃい。」
「あの~ あれか? ここは 背広は 作ってもらえへんのかいな?」
糸子「あ~ すんません。 前は 主人が やってましてんけど そろ… おらんようになりまして 今は やってないんです。」
「ああ そうか…。」
糸子「紳士物やったら 栄町の吉屋洋服店さんとか 小崎洋装さんとかは?」
「いや それがな まだ どこも開いてへんやし。」
糸子「ああ ほうですかあ…。 うちも… ミシンやら 道具やらは あるんやけど いかんせん 職人が いてませんよってなあ…。」
松田「先生。」
糸子「うん?」
松田「それこそ 組合長さんに 聞いてみたら?」
糸子「うん?」
松田「逆に 今 職人は 働くとこ のうて あぶれてるよって なんぼでも ええ人 紹介してくれますわ。」
糸子「はあ~。」
泉州繊維商業組合
三浦「あんた こないだ 大丈夫やったけ?」
糸子「え?」
三浦「いや 北村のアホが もう あんた 無理やり 飲ませよったんやてな。『女相手に むちゃしちゃんなよ』言うて よう怒っといちゃったで。」
糸子「はあ… おおきに。」
三浦「ああ。」
糸子「組合長。」
三浦「ああ?」
糸子「すんません。 けど うち 女やからちゅう ご心配は いりません。」
三浦「え?」
糸子「こないだは たまたま お見苦しいとこを お見せしましたけど 女やさかい どうこうちゅう そうゆう手加減は うちには 一切 ご無用ですよって。」
三浦「ほう。 さすがな事 言うやないけ。」
三浦「おう ちょうどええ。 ちょうどええ奴が いてんで!」
糸子「ほんまですか?」
三浦「今 わしの かばん持ち やっとる男で ああ こないだ ほれ あんたの横 座ってた…。」
糸子「へ? あの人ですか…?!」
三浦「うん ああ もう 長崎弁で あれ 何を言うてんねや さっぱり分からへんけど ごっつい ええ職人や。 腕もあるし 人もええ。 ほれ 今な なんしか どこの店も 閉まっとるさかいな。 まあ とりあえずは うちで 雇ちゃってんやけどなあ。 おう 帰ってきた 周防!」
周防「はい。」
三浦「小原さんや。」
糸子「ああ… あの こないだは ほんま すんませんでした!」
周防「酔うとったとは さめたね?」
糸子「え?」
三浦「『酔いは さめたか?』て。」
糸子「ああ…。 さめました おかげさんで。」
周防「いやいや。」
小原家
玄関前
<よりによって 一番会いたなかった人に 手伝うてもらう事に なってしまいました>
糸子「あ… あの。」
周防「はい?」
糸子「うち そこです。」
須藤「ああ 知っとる。 こん前 来たけん。」
オハラ洋装店
糸子「ただいま。」
一同「お帰りなさい。」
糸子「周防さん。」
周防「はい。」
糸子「こっちです。」
周防「あ はい。」
糸子「ここで 履物 脱いで下さい。」
周防「はい。 こんにちは。」
一同「こんにちは。」
周防「お邪魔します。 あの~。」
糸子「あ すんません。 こっちです。」
2階 仕事場
千代「まあ こないだは ほんまに お世話になりました。」
周防「うんにゃ そんくらいは。」
千代「何かあったら 何でも言うて下さいな。 下に おりますさかい。
周防「ありがとうございます。」
千代「いいえ。」
糸子「あの~ 一とおり 使えるように そろえたつもりやけど ちょっと見といて下さい。 お客さん 4時に来ますよって。」
周防「分かりました。」
糸子「ほな よろしゅう。」
周防「あの~。」
糸子「はい。」
周防「あん 水玉ん服は 小原さんが 考えたとですか?」
糸子「は?」
周防「下のウインドーに 飾っとっと。」
糸子「はい そうです。」
周防「ふ~ん…。」
糸子「それが 何か?」
周防「あ いや…。」
夕方
周防「手ば 上げてくれんですか。」
「おっ。」
玄関前
(小鳥の鳴き声)
優子 直子「行ってきます!」
糸子「こらこら 待ち! あんたら これ 忘れたら あかんやろ。 はい。 あ おはようございます。」
周防「おはようございます。」
糸子「早いですね。 ほれ あんたらも『おはようさん』言わんけ!」
2人「おはようさん。」
周防「おはよう。 おはようございます。」
2人「行ってきます!」
糸子「行っちょいで~。」
2階 仕事場
糸子「失礼します。」
周防「はあ。」
糸子「お茶です。 休憩して下さい。」
周防「ああ ありがとうございます。」
糸子「あの~ ちょっと聞いて ええですか?」
周防「はい。」
糸子「靴…。」
周防「靴?」
糸子「はい。 周防さんの靴 ああゆうんは 長崎には よう売ってるんですか?」
周防「ああ あれは 舶来品の店で 買うたとです。 珍しか革の色ばってん おいは よかね~って 思うたとです。」
糸子「長崎は 異人さんが多いんですか?」
周防「昔から 長崎港は ヨーロッパとの貿易が あったですけんね。 あん靴は ピカが 落ちっちゃけた時も 嫁さんが 持って逃げてくれたけん 燃やさずに済んだとですよ。 他は 何でんかんでん 燃えしもうた…。 たった一つの財産やけん 大事に 手入れ しよっとですけど…。」
周防「フフッ… アハハハハハ…! 今の おいの話 分かったですか?」
糸子「はあ…。 はあ 多分…。」
周防「ハハハハハハ!」
糸子「はあ すんません。」
周防「いやいや おいん方こそ。」
糸子「言葉ちゅうんは 便利なようで やっかいなもんですね。」
周防「ばってん 諦むっ事も なかですよ。」
糸子「へ?」
周防「おいは こんごろ 酒の席とかには 必ず 三味線ば 持っていくごと しとっとです。 そしたら 言葉が通じんでも 結構 みんなと一緒に 楽しむっとですよ。」
糸子「はあ~ ほんで こないだ 三味線 弾いてたんですね。 フフッ。」
周防「服も… 服も そうたい。」
糸子「服?」
周防「服も やっぱい 言葉がなかったっちゃ いろんな事が 分かるけん。」
糸子「はい…。」
周防「おい… 昨日…。」
糸子「はい。」
周防「こん商店街 来て 思わず 見とれた 女の人が おったとですよ。」
糸子「はあ…。」
周防「あん戦争が終わって… やっと1年 たったばってん 正直 おいなんか まだ いっちょん 立ち直っとらんとです。 悲しかとと… 悔しかとと…。 不安ばっかいの その日暮らしです。」
周防「ばってん…。 そいばってん もう こがん服ば 着て 歩ける女 おっとね! ああ… すごかあ! おいは… あん服ば 格好よかて 思うたと。」
周防「格好よかし… きれか。」