ドラマダイジェスト

連続テレビ小説「カーネーション」第87回「揺れる心」【第16週】

あらすじ

昭和23年、オシャレに目覚めた女性たちでオハラ洋装店は大繁盛。糸子(尾野真千子)は娘たちに手を焼き、安岡美容室に度々行かせる。優子(野田琴乃)と直子(二宮星)はケンカが絶えず、マイペースな聡子(杉本湖凜)が加わり騒がしくて仕事にならない。糸子は恵(六角精児)に、泉州繊維商業組合の組合長・三浦(近藤正臣)から話があると聞く。料理屋で久しぶりに会った北村(ほっしゃん。)はリーゼントに柄シャツ姿だった。

87ネタバレ

小原家

居間

(小鳥の鳴き声)

<久しぶりに神戸のおっちゃんが 来てくれました。 何もかも戦争で 焼かれてしもたもんの そこは腐っても松坂家 跡地に また立派な家が建ちました>

正一「あ~ 前 岸和田 来たん いつやったんかいな? ああ 光子の祝言か。」

千代 糸子「ああ~。」

糸子「あれが去年の春やったさかい ちょうど1年ぶりや おっちゃん。」

千代「そやなあ。」

正一「ああ もう1年なるか 早いなあ。」

千代「なあ!」

正一「あ… これ。」

千代「あれ~ ええ写真 でけたなあ!」

糸子「ほんまや!」

<勇君も 先月 祝言を挙げました>

千代「ほんま よさそうな お嫁さんやったわ~!」

正一「そうか?」

糸子「別嬪さんで 優しそうな人やなあ。」

正一「しかし ここの娘らも みんな 見事に片づいて。 ようやったなあ 糸子。 大したもんや。」

糸子「ヘヘヘヘ!」

千代「そやけど お兄様。」

正一「ん?」

千代「娘が みんな いっぺんに 嫁いでしまうっちゅうんは 寂しいもんです。」

正一「ああ 糸子が おるやないか。」

千代「糸子は…。」

正一「ん?」

千代「これは 息子ですから。」

(笑い声)」

正一「ほんまや。」

千代「なあ!」

(物音)

正一「何や? お? どうした。」

千代「ほれほれ お母ちゃん。」

糸子「すんません ちょっと。 待っといてや。」

2階 座敷

優子「うちが 先や!」

直子「嫌や うちが使うんや!」

(けんかする声)

糸子「あんたら! 次 けんかしたら うちから放り出すて お母ちゃん 言わんかったか!」

優子「直子のブタ 痛い 痛い!」

直子「痛い 痛い!」

糸子「聡子 どこ行った?」

優子「痛い 痛い!」

聡子「え~?」

糸子「あんた いてたんけ?」

聡子「はい。」

糸子「さあ みんなで 神戸のおっちゃんに 挨拶 行くで。 いいかげんにせえって。」

直子「痛っ!」

糸子「行くで 聡子もおいで!」

玄関

優子「おっちゃん さいなら。」

直子「さいなら。」

聡子「さいなら。」

(笑い声)

正一「お前ら 仲良うせえや。 なあ!」

糸子「ほれ!」

優子「はい。」

聡子「はい。」

直子「はい。」

千代「お兄様 これ 荷物になるけど。」

正一「うん?」

千代「お供えして下さい お父様の ご仏前に。」

正一「うん。 分かった。」

千代「気ぃ付けて。 お母様と お姉様に よろしゅう。」

糸子「気ぃ付けて。」

正一「うん。」

<神戸のおじいちゃんは 去年の冬に 亡くなりました>

2階 寝室

<戦争からこっち お祝い事と 不幸が 入れ子になって 物事も月日も どんどん過ぎていきます。 うちも あっちゅう間に 35や。『諸行無常』っちゅうやつやなあ>

(物をぶつける音)

糸子「あんたら ほんまに 何回 言うたら 分かるんや!」

(2人の悲鳴)

糸子「ちょっと こっち来い! えい!」

(犬の遠ぼえ)

糸子「ええか あんたらの名前はな 死んだ おじいちゃんが 付けてくれたんや。 優子ちゅうんはな 優しい子て書くんや。 優しい子になれちゅうこっちゃ! せやのに何や。 直子に いけずばっかし言うて! あんたはな 素直の直で 直子や。 姉ちゃんにゴテてばっかし いちゃった あかんやで!」

優子「聡子は?」

糸子「あ? 聡子は あれや。 神戸のおばあちゃんが 付けてくれんや。 賢い子になるようにちゅうて。」

優子「賢い子?」

直子「聡子 賢ないで。」

2人「アホや!」

糸子「ええんや 聡子の事は! うちは あんたらの話をしてんや! ほんとに ゴテばっかし言うて!」

玄関

<こんな子らでも 朝んなったら 小学校へ 幼稚園へ>

3人「行ってきます!」

2人「行っちょいで~!」

<ちゃんと出かけてって くれるんは 頼もしい事です せやけど 昼過ぎたら まず 聡子が帰って来て>

オハラ洋装店

糸子「聡子! 2階 行っとき 言うたやろ!」

優子「はよ返し!」

直子「うちのや!」

優子「嘘つくな!」

直子「うちのや!」

<あとの2人が帰って来たら もう てんやわんや>

糸子「やめ!」
(2人の争う声)

糸子「やめ!」

優子 直子「痛い 痛い!」

糸子「聡子もおいで!」

安岡家

安岡美容室

(小鳥の鳴き声)

3人「こんにちは~!」

玉枝「あれ? あんたら また来たんけ?」

3人「うん!」

玉枝「せやけど 先週も来たとこやん。」

優子「お母ちゃんが『行き』ちゅうた。」

八重子「お母ちゃん あんたら おったら 仕事になれへんやな。」

玉枝「しゃあないなあ ほな 聡ちゃんからおいで。」

3人「お邪魔します~!」

玉枝「はいはい。 せやけど あんた これ以上切ったら ドングリの はかまみたいに なってしまうで。 どないする~?」

小原家

オハラ洋装店

<子供らの頭がドングリになるくらいは よしとせな>

糸子「これな うんうんうん! OK! OK! ちょっと待ってて下さい!」

<とにかく このごろの 店の忙しさちゅうたら ただ事やありません>

糸子「頼んだで! これ見て待っといて もらえますか? おおきに。 すんません! 木村さん お待たせしました。 すんません!」

<ミシンも縫い子も増やして みんなで休みなしに働いても どないも おっつかんほどの 注文の量です>

「え~ そんな待たな あかんの?」

糸子「堪忍 ほんでも できるかぎり 急ぐよって。」

「しゃあないな。」

糸子「すんません!」

「それでええわ。」

<戦争で焼けた跡の始末が やっと済んで そこに おしゃれの花が どんどん咲き始めてる ちゅうところでしょうか>

安岡家

玄関前

奈津「お帰り。 おおきに。 あんた…。 お父ちゃんに よう似てるな。」

安岡美容院

優子「おおきに おばちゃん!」

直子「おおきに!」

聡子「おおきに!」

玉枝「おおきに!」

八重子「気ぃ付けてや!」

玄関前

3人「は~い! 太郎にいちゃん! 太郎にいちゃん! お帰り!」

優子「今 帰って来たん?」

直子「うちが 荷物 持ちゃろか?」

優子「うちが 荷物 持つんや。」

直子「うちや!」

優子「うちや!」

直子「うちの方が早かった。」

優子「うちの方が早かった。」

奈津「ただいま!」

八重子「お帰り!」

太郎「自分ら はよ帰らんと おばちゃん 心配すんで。」

小原家

居間

糸子「え? 組合長? 組合長て あの組合長?」

松田「ええ 泉州繊維商業組合の。」

糸子「…が 何で うちを料理屋なんか 呼び出すんや?」

松田「何か 先生に話したい事が あるそうですわ。」

糸子「ええ~! けど ちょっと 気まずいなあ。 不義理してしもてんや。 結局 月会合かて 1回も行ってへんしな。」

松田「先生 あの 待ってくれてんやから はよ行ってきて下さいよ。」

糸子「いや 恵さん 行ってきてよ。」

松田「何 言うてるんですか。 先生に話がある言うてんのに!」

糸子「う~ん そやけど 忘年会も 新年会も1回も行ってへんしな。」

松田「ほんなもん うちが ちゃんと 謝っときましたさかい!」

糸子「え~!」

松田「ほら行ってきて下さいよ もう ちょっと ほら立って!」

糸子「しばかれたら どないすんねん!」

松田「そんな事ないですから。 立って!」

糸子「あの人 怖いんやで!」

松田「怖いからって このままにしとったら ずっと 待ってますで あの人。」

糸子「ええ~!」

松田「立たなあかんて。」

料理屋

♬~(『東京ブギウギ』)

北村「久しぶりやんけ。 分かれへんのかい? わしや わし!」

糸子「あ~! 北村さん?」

北村「すっと 出てけえへんけ?」

糸子「どうも 何ですか? その黒メガネ。」

北村「組合長 来ましたで~!」

三浦「おう!」

糸子「ご無沙汰して すんません!」

三浦「久しぶりやなあ。」

糸子「すんません。」

三浦「いや すまんな 忙しいとこ 呼び出して。」

糸子「いいえ こちらこそ すんません 組合長。 いろいろ誘ってもうてたのに。 うっとこが いかんせん その ちっこい店でして なかなか抜けられんやったりで。」

三浦「そら あんたも もう 一国一城の主や。 まあ 何なと事情はあるわな。」

糸子「すんません。」

三浦「けど 何やな 事務所の方にも まるで 顔 出さなんだんは 誰ぞ 会いとない奴でも おったんか? やっぱりそうか。」

糸子「堪忍です。」

三浦「まあ 飲み。 うん…。」

糸子「はあ。 すんません。」

三浦「こいつか?」

糸子「は? いえ~ めっそうもない!」

三浦「ほう。 ほな 何ぞ 商売敵でも おったんかいな?」

糸子「いや… ほんなんも いてないんですけど。 あ…どうぞ!」

三浦「あ~ おおきに。」

糸子「いるんですか?」

北村「当たり前やんけ!」

三浦「今日はな こんな話で 呼び出した訳やないんや。」

糸子「はあ…。」

三浦「なあ 小原はん。 この北村に… 手ぇ貸しちゃってくれんか?」

糸子「は?」

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