あらすじ
糸子(尾野真千子)は北村(ほっしゃん。)から既製服工場の手伝いを頼まれる。デザインを考えてほしいというのだが、客一人一人に合わせて洋服を作る自分のやり方との違いに、糸子は気が進まない。一方で娘たちの習いごとの間に仕事をしようと思いつくが、そのせいでピアノを買ってほしいという3人そろっての猛攻撃が始まってしまう。ようやく決心がつき、周防(綾野剛)に会うことを恐れながらも糸子は組合の事務所を訪ねる。
88回ネタバレ
料理屋
三浦「この北村に… 手ぇ 貸しちゃってくれんか。」
糸子「は?」
北村「今日あんたを 呼び出したんはな…。」
糸子「はい。」
北村「レディーメード。」
糸子「レディーメード? 何ですか? それ。」
北村「合うとるやんけ。 レディーメードや。」
糸子「そやから 何ですか? それ。」
北村「知らんのかいな? はあ! 洋服の新しい商売法や アメリカ式の。」
糸子「はあ…。」
北村「まあ あんたとこも そやけどな 今の洋裁屋が やってんのは 昔ながらの呉服屋のやり方やねん。 客から注文 受けて 生地 選んで 丈 測ってゆうて 1着ずつ 作っていくやんけ。 せやけど アメリカ式は ちゃうねん。」 もう 先に作ってまうのや。 同じ型で 何枚も何枚も作ってから 店に並べて 売るんや。 これやったらな 無駄が出にくいさかい 値段を ぐっと下げられんねん。 そやから このレディー…。」
糸子「レディーメード。」
北村「レディーメード。 これが これから 日本でも 絶対 流行る思てんねん。 そやから 見ちゃあってみい。 こらからは レディーメードの時代やでえ。」
糸子「はあ…。 ほんで?」
北村「えっ?」
糸子「うちに 話が あるっちゅうんは?」
北村「ああ そや… それや それや。 あの…。」
三浦「なあ なあ 小原さん。 要はやな… こいつは こいつなりに これからの時代を こう読んでると そういう事や。」
糸子「はあ…。」
三浦「で 既製品の店を やりたいちゅう訳や。」
糸子「はい。」
三浦「言うてる事は 一理ある。 やる気もあるし 努力もしよる。 そやから この 組合としてはな こいつを応援したいと思てるねん。」
糸子「うん。」
三浦「心斎橋にな… とゆうても まあ ちょっと こう 外れの方やけどな そこに 小さな店と工場を構えると こういう話は つけてきた。 あとは さあ 商品をどうするかや。 そこで 小原さん あんたの協力が欲しいと こういう訳や。」
糸子「はあ…。 いや… けど すんません 組合長。 今は うちも その… 自分の店で 手いっぱいですよって。」
三浦「分かってる。 うん よう分かってる。 そやさかい あんたを 工場に ピシャッと張り付けてこうて そんなふうには 思てへん。 その工場には 別に ちゃんと監督を立てちゃる。 なあ! ほんで あんたには 新しい洋服の型 これ いくつか 作ってほしいんや。 で それを 監督に 上手に教えてやってほしいんや。 それだけや。 なあ! そんだけで かめへんね。」
糸子「はあ…。」
三浦「賃金は 歩合制や。 売り上げの1割。 どうや? 悪い話やないやろ?」
糸子「はあ…。 う~ん…。」
小原家
居間
糸子「う~ん…。」
松田「受けましょ 先生。 受けな あきません。」
糸子「せやけど…。」
昌子「120円のブラウスが 300着 売れて 1割やとしたら… 3,600円! はあ~ でかい! ハハハッ! ええ商売や。」
松田「なあ!」
糸子「ほやけどなあ…。」
昌子「何が嫌なんですか? 先生。」
松田「まあ 分からんでも ないですけどもね。」
昌子「何?」
松田「ごっつい アクの強い男なんやし その北村っちゅうんが。」
糸子「はあ? ほんなん うちは どうでもええねん。」
松田「あら? ほうですか?」
糸子「ふん あんなもん ただのヒキガエルや。 やっかましいだけで どうっちゅう事ないで。」
昌子「ほな 何で?」
松田「うん!」
糸子「そやけど うちらの真逆の商売やんか。 どこの誰が着るか 知らん。『とにかく 数 こさえて 売れたらええんや』ちゅうな 何や 話が雑やん。 情っちゅうもんが ないで。 う~ん…。」
客『誰か すんませ~ん。』
昌子「は~い!」
糸子「あ~あ…。」
松田「けど ええ話です これは。」
糸子「ほやけどなあ…。」
松田「先生! 先生は こんなええ話 断れる立場じゃ ありません! やっと パーマ機代が 返ってきた思たら 今度は 美容室の改修に また ようさん貸してしもて。 おまけに 吉田さんの保証人でも あるんですよ。 万が一の事 考えたら 稼げるだけ 稼いどかなあかんの 分かりますやろ!」
糸子「う~ん。」
(ため息)
糸子「あ~あ…。」
昌子「先生1 あの ちょっと頼んます!」
糸子「うん? ふん!」
松田「ちょっと ちょっと。 先生! ちょっと!」
オハラ洋装店
糸子「ああ どうも こんにちは!」
「ハ~イ!」
(英語で)
糸子「何? 何? うん?」
(英語で)
糸子「うん? うん? ああ! 写真 持ってきてくれたん。 ああ うん うん!」
(英語で)
糸子「ディオール!」
「イエス ディオール。」
糸子「うわ~ ディオールの事やったんか。」
「イエス!」
糸子「もちろん 知ってますで。 うちも ごっつい好きや~! ディオール。」
「ディオール。」
糸子「ディオール。」
「ディオール。」
糸子「フフフッ そない言いますねんて。」
居間
八重子「糸ちゃん 新しいデザイン 載ってたよって 持ってきたで!」
糸子「へえ~ どれ どれ? ああ ほんまや ディオール! こらまた 今度のも ええなあ!」
八重子「ああ せやけど 書いてたで。今 フランスでも 戦争のせいで まだまだ 生地不足やねんて。 せやから ほんまに着れる人なんか 全然 いてへんのやて。」
糸子「そら このスカートの生地の量 ごっついもんなあ!」
八重子「あ~!」
糸子「ほう!」
八重子「え… あれ?」
糸子「うん?」
八重子「あら おチビさんらは?」
糸子「ふふ~ん!」
八重子「うん?」
糸子「ピアノや。」
八重子「ピアノ?」
糸子「うん。 今日は ピアノ 明日は習字 水曜は絵。 あと 長唄と お花と ダンスと日本舞踊。 習えるもんは 片っ端から 習わせる事に しちゃったんやし。」
八重子「はあ!」
糸子「あの子らには ためになる。 うちは 仕事に集中できる。 お客さんには 迷惑かけへん。『一石二鳥』。いや 三鳥やろ?」
八重子「なるほどな!」
<なんちゅうて のんきに笑てた うちが… 甘かった>
オハラ洋装店
優子「ただいま! お母ちゃん ピアノ 買うて!」
直子 聡子「ピアノ 買うて!」
3人「ピアノ ピアノ! ピアノ 欲しい! ピアノ 買うて ピアノ 買うて!」
優子「お母ちゃん ピアノ 買うて!」
直子 聡子「ピアノ 買うて!」
昌子「すんません。」
台所
糸子「何や?」
優子「楽器屋さんに ピアノ 売ってたんや。 うちら3人とも ごっつ欲しい! ほんまの ほんまに 欲しいんや! なあ お母ちゃん ピアノ 買うて。」
直子 聡子「ピアノ 買うて!」
糸子「ピアノ? アホか! そんなもん帰るかいな。」
3人「ピアノ 欲しい! ピアノ 買うて! ピアノ 欲しい!」
糸子「あかん!」
3人「ピアノ 買うて!」
糸子「あかん!」
3人「ピアノ 欲しい!」
糸子「うるさ~い! 買われへんちゅうてんねん!」
優子「けど… うちら ピアノ 欲しい。」
直子「ピアノ 欲しい! ピアノ 買うて!」
3人「ピアノ 欲しい! ピアノ 買うて! ピアノ 欲しい! ピアノ 買うて! ピアノ 欲しい! ピアノ 買うて!」
糸子「お母ちゃん もう どないしよう?」
千代「うちは 知らん!」
糸子「え~ お母ちゃん。 なあ 待って。」
3人「ピアノ 欲しい! ピアノ 買うて!」
糸子「お母ちゃん!」
<さあ このごんたが 3人 固まった時の恐ろしい事>
3人「ピアノ 欲しい! ピアノ 買うて!」
糸子「あ~!」
夜
(犬のほえる声)
(物音)
<何か やってる。 あ~ 見たいない 見たいない!>
(物音)
優子「ピッカピカやしなあ ピアノ。」
直子「ごっつい きれいな音 出るし!」
聡子「黒い! 白いとこもある!」
<はあ~… あんたらに ピアノなんか やらせた お母ちゃんが悪かった>
優子「絶対 買うてもらおな ピアノ。」
2人「うん!」
<悪かったから 堪忍してえ!>
泉州繊維商業組合
糸子「こんにちは!」
三浦「おう よう来たなあ! おい! まあ 座りよ。 おい お茶!」
事務員「はい!」
三浦「よい! ヘヘヘヘ!」
(ドアの開く音)」
三浦「おう! おい 小原さん 来てるでえ。」
北村「毎度。」
三浦「おい ここに座りよ。 あ ちょっと ちょっと。 うん。 こんで 役者がそろた。 やっと 話ができるでえ。 ハハハッ。」
<2年ぶりの事務所に もう 周防さんの姿は ありませんでした>
三浦「こないだ話した あの工場。 なあ あそこに ミシン 入れたんや。 行ってみたら分かるけど 中古やけど なかなか 品は ええんやでえ。」
<な~んや… うちは あの人に会えへんために 組合を避けてたんやけど もう そんな必要なかったんやな>
三浦「えっ 何や?」
糸子「あ… あの 組合長! うち また 今月から 会合 出さして下さい。」
三浦「ほ? おう おう! ええで。 おう 出え 出え!」
糸子「北村さん!」
北村「何や?」
糸子「また やりましょ 飲み比べ。」
北村「嫌じゃ。 里芋なんか潰したかて 何も おもろないちゅうねん。」
糸子「里芋 潰れるかいな!」
北村「里芋 潰したろちゅうてんねんな。」
三浦「『もう けんか すな』ちゅうねん。『けんかを すな』ちゅうとるやろ。 ええか? お前ら これから2人で 力合わして 仕事していくんやで。」
糸子「じゃがいもみたいな顔しやがって。」
北村じゃがいも言うたやろ? 今。」
糸子「じゃがいもやんか。」
北村「わい ちゃんと話 聞いてるやんけ。」
糸子「じゃがいも!」
北村「じゃがいも 今 言わんでええやろ。」
糸子「じゃがいもは 酒 弱いで。 ハハハッ。」
北村「里芋 潰したるちゅうてん! じゃがいもが 今度…。」
糸子「潰しても うまいわ!」