ドラマダイジェスト

連続テレビ小説「カーネーション」第8回「運命を開く」【第2週】

あらすじ

糸子(尾野真千子)は、パッチ屋の店先でミシンを見つめる毎日を過ごし、家ではアッパッパを作って妹たちに着せていた。しかし、父・善作(小林薫)は「呉服屋の娘がけしからん」と洋服作りを許さない。ある日、糸子はパッチ屋の主人・桝谷(トミーズ雅)に声をかけられ、ミシンに触らせてもらう。ミシンで布が縫えたことに感動した糸子は、パッチ屋の手伝いを始める。働くことが楽しくてしかたがなく、家事も率先してやり始める。

8ネタバレ

枡谷パッチ屋

糸子「あああ~!」

<見つけてしもた。 だんじりや!>

泉川高等女学校

教室

生徒「気を付け! 礼!」

「おはようございます!」

教師「はい では教科書49ページ。」

糸子「はい! 先生!」

教師「小原さん まずは 教科書を開きましょう。」

糸子「はい そやけど ほんまに 教えてほしい事なんです。」

教師「教科書!」

糸子「はい!」

教師「はい 小原さん。」

糸子「あの きれを縫う だんじりみたいなやつの 名前は 何ていうんですか?」

教師「きれを縫う だんじり?」

糸子「はい あの ここのコマを きゅっと回して バタバタって踏んだら だ~っと縫えるやつです。」

教師「さあ?」

糸子「え? 先生 知らんのですか?」

教師「『きゅっ』やら『だ~』やらばっかりで 何の事か さっぱり分かりません。」

「先生 ミシンの事と違いますか?」

教師「ああ ミシンの事ですか?」

糸子「ミシンちゅうんですか あれ?」

教師「さあ あれがどれやら 分かりませんけど。 布を縫える機械の事やったら ミシンです。」

糸子「ありがとうございます! ミシン… ミシンか。 書いとこ。 忘れたらえらいこっちゃ。 ミシン。」

枡谷パッチ屋

<枡谷パッチ店 ごっつい店です。 ミシン置いたある。 それから うちは 毎日 学校帰りに 枡谷パッチ店に寄って。 雨の日も… 風の日も 暗なるまで ミシンを見るようになりました>

小原家

子供部屋

糸子「はあ~ 遅。」

清子「何が?」

糸子「縫うんが。」

清子「遅いないやん 速いやん。」

糸子「はあ~ あ~! うちは ほんまは もっと だ~っと縫いたいいねん! だ~っと! あ~!」

千代「糸子。」

糸子「へえ?」

千代「お父ちゃんがな もうアッパッパは 着たらあかんて。」

糸子「はあ? 何で?」

千代「呉服屋の家のもんが 洋服なんか着んのは おかしいさかいな。」

糸子「何で急に?」

千代「もう 泣かんでええ! ほら! 着替えたら お父ちゃんかて もう怒らへん。 な! ほら 清ちゃん あんたも着替えや。」

小原呉服店

糸子「お父ちゃん。 何で?」

善作「ああ?」

糸子「何で アッパッパ着たらあかんの?」

善作「何でもじゃ。」

糸子「着てもええやんか 呉服屋の娘かて アッパッパ着てもええやんか?」

善作「やかましい! わしがあかん ちゅうたら あかんのじゃ。 お前 2度と あんなもん縫うたら 承知せんど!」

台所

ハル「神宮司さんとこの にいちゃんが この秋 結婚すんやし。 神宮司ゆうたら この辺の 大地主やさかいな。 お父ちゃん てっきり こら紋付きの ごっつええのん 買うてもらえるでえちゅうて 喜んじゃったんや。 そやけどな…。」

回想

神宮司「かなんねん 相手の家が洋行帰りでなあ。」

善作「どちらですねん?」

神宮司「フランスや。 こらがまた見事に かぶれちゅうやつでのう。 何でもかんでも フランス式に やりたがりよるんや。 娘には 着物やのうて ドレス着せてやりたい。 うちのせがれにも 紋付きやのうて 燕尾服ちゅうやつで 出てほしいちゅうて 言うてきよったんや。」

善作「え えんびふく?」

神宮司「洋服や。」

善作「いやいやいや そら あかんですわ! 息子さんの大事な門出の 日ぃでっしゃろ?」

神宮司「うん。」

善作「そんなもん 旦那の口から ばしっと『男は紋付きじゃ』言うて 筋通したらよろしいねん。」

神宮司「そやねん わしも そう思たんや。 アホぬかせ! うちのせがれに 洋服みたいなスカタンなもの 着せられるか!」

善作「おう!」

神宮司「そう思うたんやけど… まあ。」

善作「は?」

神宮司「割り方 ええんや これが! 若いだけあって しゃあっとして よう映りよんねん。 ハハハハ! これからの男はなあ 日本だけやのうて 世界に出ていかなあかんやろ。 着物だけやのうて 洋服も ちゃんと着られるように ならんとあかんさかいな。 ハハハ!」

回想終了

糸子「それとアッパッパと どない関係あんねん。」

ハル「分からんか。 そないして 洋服を着るもんが 増えちゃってみい。 ますます 着物 売れんようになって お父ちゃん 商売あがったりやんか。」

糸子「分かってるわ。 分かってるけど…。」

木岡履物店

玄関

木岡「商売替え?」

奥中「ほう? 何すんな?」

木之元「電気屋や。」

一同「電気屋?」

木之元「これからは電気の時代や。 見ててみい 何でもかんでも 電気で動くようになるさかい。」

木岡「はは~ん。」

木之元「ほんまやで! 飯炊きかて 掃除かて 全部 電気がやるようになるんやて。」

善作「また どこぞで吹き込まれてよお。」

奥中「どこや?」

木之元「まあ その…。 問屋がな。 そない言うちゃったんや。」

木岡「や~めとけて。 お前 今の玉突き屋かて だまされて初めたんちゃうんけ?」

木之元「ビリヤード!」

善作「よう考えてみ。 玉突き屋 もうかってるか? お前 玉突き屋 始める時 何ちゅうた? これからは 金が嫌っちゅうほど 入ってくんでえ! ちゅうとったのう!」

木之元「ほらまあ…。 そないもうかっては… いないけどな。」

木岡「ほれみい!」

善作「だまされてるて。」

木之元「いや 電気は ほんまや。 これからは電気の時代なんやて!」

枡谷パッチ店

(ミシンの音)

<アッパッパが縫えんでも うちには ミシンがある ミシン見てたら 嫌な事なんか すぐ忘れられます>

枡谷「嬢ちゃんよ。」

糸子「へ? うわ! 大将や!」

枡谷「わしが大将て 嬢ちゃん 何で知ってんや。」

糸子「そら 毎日 見てるさかい。」

枡谷「ほうか。」

糸子「ほかの人の名前も全部 言えんで。」

枡谷「ほんまけ?」

糸子「うん。 田中さん 昨日休んでたやろ?」

枡谷「そや 風邪や。」

糸子「風邪か…。」

枡谷「嬢ちゃん あんた 毎日毎日 うちの店に何の用や?」

糸子「へ?」

枡谷「何を そないへばりついて 見てんや?」

糸子「ミシン。」

枡谷「ミシン?」

糸子「そや。」

枡谷「はあ~ ミシンかあ。 いやな そない男前もいてへんのに あの子は一体 何を見てるんやろと 思ちゃったんや。 はあ~!」

糸子「大将。」

枡谷「ん?」

糸子「枡谷パッチ店は ごっつい店やな。」

枡谷「そうか?」

糸子「ミシン置いてる。 なかなかないで。 ミシン置いてるとこは。」

枡谷「そら おおきに。」

糸子「礼は ええねん。 お世辞ちゃうさかい。」

枡谷「嬢ちゃん 名前 何ちゅうのや?」

糸子「小原糸子や。」

枡谷「いとこ… 縫う糸か?」

糸子「そや。」

枡谷「そんなとこ立たれたら 商売の邪魔や。」

糸子「え?」

枡谷「見るんやったらな 中で見い。」

糸子「ええの? おおきに!」

岡村「ちょい ちょい ちょいと。 で… ここに通してやるやろ。 ほんで… よし。」

糸子「ほう~!」

岡村「よし。 何や そないに おもろいか?」

糸子「うん。」

岡村「はい。」

糸子「うわ~ こっちから見たら こないなっちゃってんなあ。」

道中

糸子「チキチン チキチン トコトン トコトン! チキチン チキチン トコトン トコトン!」

枡谷パッチ店

岡村「そうそう そそそうそう うまい!」

糸子「お~う! わ~!」

岡村「最後までいったら よし ここ上げて よし! ちょっと こう 引っ張って 糸を切る。 はい!」

糸子「うわ~! いや~!」

枡谷「なかなか スジええがな。 最初は みんな そないうまい事 いかへんもんやで!」

岡村「ほんまや。」

糸子「縫えた! うち ミシンで縫えた。 いや~!」

山口「よかったな 糸ちゃん。 さ 置いとくで。」

糸子「うち やる!」

山口「え?」

糸子「やらして! はい お疲れさんです。」

岡村「ああ おおきに。」

糸子「はい お疲れさんです。」

坂本「おおきに!」

糸子「お疲れさんです。」

田中「おう おおきに!」

枡谷「せや 糸ちゃん 悪いけどな あとで ちいっと お使い行ってくれるか?」

糸子「へえ!」

糸子「どうぞ!」

坂本「おう 気ぃ利くなあ。」

<働くっちゅうんは なんて おもろい事なんでしょうか>

小原家

居間

糸子「ごちそうさんでした! お母ちゃん うちが皿洗うさかいな。」

千代「どないしたん?」

糸子「何が?」

千代「珍し事 言うよって。」

糸子「当たり前の事や。 うちは もう子供ちゃうしな。」

「ごちそうさまでした。」

台所

<うちが一個 働いたら 周りは一個 喜ぶ。 ほんで その度に うちは一個 大人になれるような 気ぃがします>

糸子「お母ちゃん おばあちゃん! 布団も うちが敷くさかい 休んどきな!」

<どないしよう? うち どんどん 大人になってるやん>

子供部屋

糸子「よっしゃ 明日も頑張ろ。 うちは もう ごっつい大人や!」

モバイルバージョンを終了