あらすじ
糸子(尾野真千子)が指導すると聞いて工場に来たという周防(綾野剛)。糸子は周防の言葉を、仕事上のことにすぎないと思い込もうとする。一方工場では、ディオールのラインの洋服が順調に出来上がる。生地代がかかりすぎると認めない北村(ほっしゃん。)を、糸子は勉強のためオハラ洋装店に連れていく。2人は言い合いになりかけるが千代(麻生祐未)らは喜んで北村を歓待する。独身の北村は感激し心ならずも癒やされてしまう。
90回ネタバレ
木之元電キ店
玄関前
木之元「よう! 糸ちゃん! お帰り。 おろ? 熱 あんちゃうんけ?」
糸子「ないわ! 熱なんかないわ!」
木之元「ん?」
井戸
<ちゃう! ちゃうちゃう! 周防さんは うちを職人として 認めてくれてるだけや。 うちの指導が 受けたかっただけや。 うちに会いたかったんとちゃう>
糸子「勘違いすな!」
小原家
台所
糸子「ただいま! はあ~。」
優子「お母ちゃん。」
直子「話あんねん。」
糸子「どき! どき!」
3人「ピアノ 買うて下さい!」
回想
糸子「話あんねん。」
善作「どけ!」
糸子「うち ええかげんな気持ちで 言うてんと ちゃうねん! ほんまに パッチ屋で働きたいねん!」
善作「くら!」
回想終了
糸子「あかん!」
優子「何で?」
直子「お母ちゃん ピアノ 買うて!」
「お母ちゃん!」
「ピアノ 買うて!」
「ピアノ! ピアノ!」
心斎橋 北村の工場
(頬をたたく音)
周防「何ばしよっとですか?」
糸子「あ…。 おはようございます!」
糸子「へえ! へえ~! う~ん! ええですね。 こないして ワンピースみたいに 着てもええし 色違いと合わしたら ブラウスとスカートにもなる。 うん! これ ほんま大丈夫ですよ。 売れますよ~! う~ん フフフ!」
周防「あとで 北村さんも 来られるそうです。」
糸子「ほうですか。」
周防「はい。」
糸子「気に入ってくれたら ええけどなあ。」
周防「うんにゃ 気に入らんっちゃ なかでしょうか。」
糸子「何で?」
周防「生地代の かかりすぎとりますけん。」
北村「アホけ! 生地代 かかりすぎじゃ! 何 笑てんや?」
周防「いや。」
北村「こんなようさん 生地使わな あかんけ! これ 丈短かしたら ええねんて! こんなもん! こんな ひだひだも こんな ぎょうさんいらん! 減らせ! 分かったか?」
糸子「できません。」
北村「ああ?」
糸子「今 スカートは 丈が長うて ギャザーが ようさん入ってんと 売れませんよって。」
北村「そんなもん 売ってみんと 分かれへんやろ!」
糸子「分かります。 絶対 売れません。」
北村「お前な 売りね120円のもん 作ろうかちゅうてんのに 何 生地代に 20円も使てんや。 どんだけ割 悪い商売さそう 思てんじゃ。 嫌がらせけ?」
糸子「北村さん。 お宅 店を流行らせたいんですやろ?」
北村「当たり前じゃ。」
糸子「ほな 人が欲しがるもん 安う売る。 それを徹底的にやらんと あきません。 特に 開店が一番 肝心なんです。 あの店は 値段以上の物を 安 売ってくれる。 そない お客に信用してもらお 思たら 最初は 多少の我慢もせんと あかんのです。」
北村「ああ やかまし! やかまし やかまし! ここの社長は 誰じゃ。 わいじゃ! 己らはな わいの言うとおりに しちゃったら ええんじゃ! 何じゃ!」
糸子「ちょっと 来ぃ!」
北村「ちょっと 来ぃ… いて! 引っ張んな こりゃ!」
糸子「ちょっと!」
北村「社長 社長…。」
糸子「ええもん 見しちゃら!」
北村「社長じゃ!」
小原家
オハラ洋装店
<こいつは とにかく 現場を見んと あきません>
千代「糸子が お世話になってます~! ゆっくりして下さいね~!」
北村「ああ おおきに。」
千代「岸和田は あれですかあ? 初めて見えたんですかあ?」
北村「ああ もう 飽きるほど。」
糸子「お母ちゃん!」
千代「へえ?」
糸子「北村さんはな 今から 婦人服の勉強すんや! 余計な話 せんといちゃって!」
千代「はあ そうか?」
糸子「ほな ここに ベルト つけよか。 ぴしっと締まるように。」
「あかんあかん! ベルトなんかで締めたら 肥えてんのが 余計 目立つし。」
糸子「ほな事ない! ベルトちゅうてもな こんぐらいの… こんぐらい太いの。 ほな ここに 目ぇいくよって ここは目立てへんようになんやし。」
「ふ~ん。」
糸子「な ええやろ?」
「うん。」
昌子「ちょっと! ちょっと のいてもうて ええですか。」
「あんな… こないだ こさえてもうた やつがなあ。」
糸子「何か まずかった?」
「あんまし似合えへん ちゅわれて。」
糸子「ほんま? 何が あかんて?」
「うち こない痩せてるよってなあ。 ここが すかすかで 貧相に見えるって。」
糸子「ああ… そら悪かったなあ! ほなまた持ってきて あれ。」
「え?」
糸子「もっかい考えるわ。 襟かなんか つけたら ええかもしれんしな。」
糸子「こんなんか?」
サエ「いや もっとや。」
糸子「もっと? ほな こんぐらいか?」
サエ「もっと!」
糸子「ええ? いや ええけど 高なんで。 生地ようけ使うさかい。」
サエ「かめへん!」
糸子「え~!」
サエ「何を どない我慢したかて うちは 今 こう わっさ~っとした スカート履きたいんや。」
糸子「はあ~ さすがや! さすがや あんた! ちょっと!」
サエ「ん?」
糸子「言うちゃって あいつに。」
サエ「どちらさん?」
糸子「はあ… さすがやなあ! うん!」
松田「ほな お疲れさんです。」
糸子「お疲れさん!」
昌子「お疲れさんです~!」
松田「お疲れさん。」
縫い子達「お疲れさんです~!」
糸子「どないでしたか?」
北村「何がじゃ?」
糸子「今日 婦人服の商売ちゅうもん 見てて。」
北村「よう~ 分かったぞう。 あれじょ 女ちゅうんは ほんまに…。 アホじょ! どいつもこいつも 我が ぶさいくなん ほったらかして 文句ばっかり言いよる。 あれやの 女相手に商売なんぞしよう 思っちゃんのが 間違っちゃあるて事やのう!」
糸子「はあ~! あんた…。 一日見てて そんなけの事しか 言われへんけ? あ~!」
千代「糸子!」
糸子「何?」
千代「もう ええやないか仕事は。 さあさ お夕飯どうぞ!」
糸子「はあ?」
北村「い… いや! わい もう帰りますよって。」
千代「ええ? そない言わんと もう準備しましたさかい。」
北村「わいも ほら もう準備 帰る準備。」
千代「いや そんな あきませんわ 昌ちゃん お客さん 帰るて言うんやけど。」
昌子「はあ? せっかく準備したんです!」
千代「なあ!」
昌子「ちょっとくらい ええやないですか! 一口だけでも!」
北村「もう帰ります!」
昌子「座るだけでも!」
北村「いやいや…。 いやいや 帰るちゅうてんのに。」
昌子「座って下さい!」
居間
北村「で わいが安いなあ 思ちゃったら 偽物やったの。」
(笑い声)
昌子「あきませんわ!」
(笑い声)
北村「そやけど あれでっか? ここは あの お客さん来た言うたら 毎回こない もてなしますんかいな?」
千代「ハハハ! 死んだ主人が よう お酒を飲む人やったんです。 せやさかい 娘婿でも お客さんでも 男の人が うちで お酒 飲んでくれるちゅうんが 好きで。 何や うれしいんです。」
(笑い声)
北村「はあ~ もしかしたら お母さん 仏さんでっか?」
千代「そんな 仏さんやて! いや 仏さんやて…。」
北村「拝んで…。」
千代「そんな やめて下さい!」
北村「わいんとこはね お母さん 男ばっかり囲まれて 育ったんですわ。 親父と兄妹6人 ほんまに 男ばっかりやったさかい 何かこう 女ばっかりの うちって もう わいにとっては 外国みたいなもんでな。」
(笑い声)
北村「何しゃべったらええか さっぱり分かれへん もう。」
千代「ああ~。」
昌子「その割には よう しゃべってるやないですか!」
(笑い声)
北村「分かってたか?」
千代「あの~!」
北村「はあ?」
千代「今 お独りなんですかあ?」
北村「はあ~ そこですわ お母さん。」
千代「はあ。」
北村「恥ずかしい話 そうですねん。」
千代「あの~ うちのこれ 娘3人 いてますんやけど どないやろ?」
糸子「お母ちゃん 余計な事 言いな!」
千代「そう ハハハ! すんません。」
北村「いや~ でも ほんまに こう 家に女がおるっちゅうのは 何ちゅうんやろな そんな 変な意味 違うてやで こう… ええもんやなあ。」
昌子「え? 泣いてる。 何で泣くんですか!」
北村「いやいや…。」
(笑い声)
北村「泣いて… 泣いてない! 泣いてないて。」
糸子「まあまあ 飲みぃな!」
北村「おおきに。」
千代「やれやれ。」
北村「泣いてない。」
(朝食の準備の音)
糸子「聡子 新聞 取っちょいで。」
聡子「は~い。」
糸子「おっちゃん 寝てるよって 起こさんようにな。」
心斎橋 北村の工場
北村「あ~!」
糸子「おはようございます!」
周防「おはようございます!」
北村「わいな… 女も服も よう分かれへん。 せやから 全部 こいつに任せら。 ほなな。」
周防「何のあったとですか?」
糸子「は… よう分かれへんけど 毒気を抜いてもうたみたいで。 お母ちゃんが。」