あらすじ
ピアノを欲しがっている三姉妹は自作の小物を店で売ろうとする。しかし、あきれた糸子(尾野真千子)が片づけてしまう。三姉妹をガッカリさせまいと千代(麻生祐未)は全部売れたのだと工作する。周防(綾野剛)に呼び出され、糸子は着ていく服を選ぼうとするが、すべてに「ピアノこうて」の紙片が付いていてあぜんとする。周防は仕事中に足にケガをし、働けなくなっていた。周防は糸子に、三浦(近藤正臣)の驚くべき提案を話す。
93回ネタバレ
泉州繊維商業組合
三浦「あいつな…。」
糸子「はい。」
三浦「あんたの事 本気で好きやて。」
三浦「うぐっ…。」
糸子「ほな組合長 うちは こんで。」
三浦「ああ そやな。 ああ そや。 き… 気ぃ付けて帰りや。」
糸子「ほな 失礼します。」
三浦「ああ ご苦労さんやったな。」
<それは ほんまに たまたまでした>
三浦「気ぃ付けて。」
糸子「はい。」
小原家
玄関前
<けど こんな ごっつい たまたまは そうない。 こら もう あれちゃうか 運命ちゅうやつちゃうか ちゅう気が… したんやけど>
(小鳥の鳴き声)
<周防さんが追いかけてきて くれるような事は ありませんでした>
千代「1円。 これも1円。 み~んな。 へえ~。」
糸子「お母ちゃん。」
千代「あ! はれ お帰り!」
糸子「何それ?」
千代「あ え~! あ… これ 見たって。 子供らがな こさえやってん。 かいらしいやろ? 売れたら そのお金ためて 自分らで ピアノ買うんやて。」
糸子「はあ?」
千代「フフフ!」
糸子「冗談ちゃうわ! みっともない!」
千代「え~ ちょっと ちょっと! 待っちゃあって そやけど 見てえな これ! 直子が縫うた バッグ よう でけてるで。」
糸子「これ え? 直子が縫うたん?!」
千代「ほんでな こっちは 優子が縫うた お人形の服や。 ほら なあ!」
糸子「これ 優子が?」
千代「なあ~!」
糸子「へえ~! いやいや あかん!」
千代「え?」
糸子「チビの遊びに 大事な店の表 貸す訳にいくかいな!」
千代「ああ~ え~!」
糸子「はい はい。 はい。 どないかしといて。」
千代「あれ~。 え~! あ~!」
優子「絶対うちのが 売れてるで!」
直子「うちのんかて 売れてる!」
優子「うちのや!」
直子「うちのや!」
優子「うち!」
直子「あ!」
居間
優子「ほんま? おばあちゃん 売れたん?」
直子「全部?」
千代「ふん。『はあ~ このお人形の服 かいらしわ~ うちの子に買うてったろ』『は~ このバッグ しゃれてるわ~ しかも安いわ』て あっちゅう間に 売り切れてなあ。」
優子「ほんま?」
直子「ほんま?!」
千代「これが 証拠や。」
2人「ほんまや~!」
千代「聡ちゃんのこさえた福笑いと 紙相撲も売れたんやで。 ハハハ!」
優子「ふわ~ これやったら ほんまに ピアノ帰るかもしれへん! 頑張ろう!」
直子「うちも頑張ろう!」
聡子「うちも頑張る!」
千代「せや 頑張り 頑張り! さあ お芋さん お食べ。 おいしいなあ!」
2階 寝室
糸子「あんたら まだ寝てへんけ? お母ちゃん 何ちゅうた? 明日も学校なんやさかいに さっさと布団敷いて 寝りちゅうたやろ! 聞いてんのか?」
優子「もう あとちょっと…。」
糸子「あかん! もうやめ ほれ! 目ぇ悪なんで! あんたら誰に似たんやろ? お母ちゃんはな はよ寝ぇ 言われたら しゃっと布団敷いて さっと寝たもんやで! あ~ 邪魔や これ 何や これ? うん…。」
優子「あ…。」
糸子「小学生はな 早寝早起き でけるちゅうんが 何より大事な事なんや。 早寝がでけへんかったら そら 早起きもでけへんちゅうのに。 聞いてんのか? 何?」
聡子「何や嘘や。」
糸子「あ?」
聡子「おばあちゃん 嘘ついた~。」
糸子「何がや? 何や?」
オハラ洋装店
「そらそやけど お母ちゃんかて 精いっぱい チビちゃんらに 気ぃ遣うたんやろにな?」
糸子「うん うちのお母ちゃんはな ごっつい気は遣うんや。 そやけど遣うたら 遣いっぱなし 遣たもんの あと片づけるて事せんよってな。」
「ああ なるほどな。」
糸子「昨日もな その子供らのん とりあえず どこ隠しとこちゅうて 布団の中 隠したと 思うんや。」
昌子「ご無沙汰してます~!」
糸子「布団の中やで! すぐ見つかんの 分かってんのにな!」
「そやなあ。」
(電話の呼び鈴)
昌子「おかげさまで うちは 元気にしてます~!」
糸子「何 のぼせてんや? 昌ちゃん。」
昌子「うっとこの先生が お世話になりました~!」
糸子「やかましなあ。」
昌子「ちょっと待ってください! 先生!」
糸子「はあ?」
昌子「周防さんです! はあ はあ!」
糸子「ごめん! おおきに。 はい 小原です。 お世話んなってます。」
2階 座敷
糸子「ん?」
珈琲店・太鼓
糸子「ココア 飲めんの? ほな ココア!」
店主「よっしゃ!」
糸子「こんにちは!」
周防「あ どうも。」
糸子「けがしたんですか?」
周防「はあ…。 まあ 大した事は なかとですけど。」
糸子「どないしたんですか?」
周防「足ん骨に ひびの入ったとです。」
糸子「ひび? 長かかるんですか?」
周防「医者には 1か月って 言われとっです。」
糸子「はあ~! 日雇いの仕事してんやて 組合長から聞きましたけど ほな それも でけへんのですか?」
周防「足の ひん曲がっても よかとなら やれって 脅されました。」
糸子「あ~。」
店主「お待たせ ココアです。」
糸子「おおきに。 いただきます。」
店主「はい どうぞ!」
糸子「何これ?! こんなん ココアちゃうで!」
周防「そいで…。」
糸子「はい。」
周防「小原さんが事務所に来とった日 おいは ちょうど あん日に けがして 病院に行く途中に 寄ったところやったとです。」
糸子「ああ そやったんですか。」
周防「やっぱい もう 組合長に 甘えるしかなかって 思たけん 頼みに行ったとです。 そしたら… 組合長が 自分じゃなくて 小原さんに雇ってもらえと。」
糸子「はあ…。 えっ 何で?」
周防「おいは 小原さんには 組合長より もっと 迷惑ば かけるけんて 言うたとばってん。」
回想
三浦「かけたったら ええやないかい 迷惑。」
周防「はっ?」
三浦「人生 そうそう ないぞ。 ほれた女子から 好きやて 言われるよな事。 周防よ…。 外れても 踏みとどまっても 人の道や。 人の道ちゅうのはな 外れんために あるもんや。 けど これ 外して 苦しむためにも あるんや。」
三浦「なんぼでも苦しんだらええ。 あがいたらええ。 悩んだらええ。 命はな 燃やすために あるんやで。 外れても 踏みとどまっても 人の道。 これ『五七五』なっとんな。『外れても 踏みとどまっても』。」
回想終了
周防「『人の道』。」
糸子「周防さん。」
周防「外れても…。」
糸子「周防さん!」
周防「あ… は…。」
糸子「ほんで 組合長 何て言うたんですか?」
周防「要は その… まあ 迷惑ば かけても よかっちゃなかかと。」
糸子「は? それだけ?」
周防「あ けど すんません。 ただ 自分が こげんして 頼みに来たとは 組合長に言われたからだけでは なかとです。」
周防「小原さんとこで 働かせてもらいたかけん。 迷惑ば かけるかもしれん ばってん。 頼むけん。 あ…。」
糸子「分かりました。 明日から来て下さい。 最初は 婦人もんの方を 手伝うてもらいながら 徐々に 紳士もんのお客さん 呼んでいけたら どないかなると思います。」
周防「ありがとうございます。」
小原家
台所
<それが ええ事なんか 悪い事なんかは さっぱり分かりませんでした ただ一つ 自分でも よう分かったんは 周防さんと おれる。 その事を この2年間 うちは 心の奥で ず~っと夢みてたんやな ちゅう事です>