あらすじ
糸子(尾野真千子)は前にも増して女学校が退屈になり、パッチ屋に通いつめてミシンに触れ、店の手伝いをしている。一方、善作(小林薫)は呉服店の行く末を気遣う地元の資産家・神宮司(石田太郎)から、娘の嫁入り衣装の注文を受ける。糸子はパッチ屋の主人・桝谷(トミーズ雅)の、店で働かないかという誘いに舞い上がり、女学校を辞めて働きたいと思い始める。そんな折、千代(麻生祐未)の兄・正一(田中隆三)がやってくる。
9回ネタバレ
小原家
子供部屋
(鳥の鳴き声)
<おはようございます!>
糸子「かめへん かめへん。」
<うちは もう すっかり 大人やさかい バチッと早起きして 妹達の布団かて 全部 上げちゃります>
道中
糸子「はあ~ 遅刻ちゃうっちゅうんは ええもんやなあ~。」
泉川高等女学校
教室
一同♬『アアアア アアアアア』
教師「そうそう。」
一同♬『アアアア アアアアア』
教師「もっと しっかり!」
一同♬『アアアア アアアアア』
教師「いいですよ。」
一同♬『アアアア アアアアア』
糸子「あ~!」
<うちは もう大人やのに 何で こんなとこで 歌うてなあかんのやろ。 はよ パッチ屋 行きたいなあ>
教師「小原さん!」
神宮司家
座敷
克一「小原さんとこですか?」
神宮司「何や?」
吉田「まあ こない言うたら あれやけど あっこの呉服屋 大した事ないですわ。 このごろは 品揃えも えらい悪いし やっぱり 着物は 心斎橋辺りのお店の方が よっぽど ええもん 揃えてますわ。」
神宮司「まあ そやけどな これまでの つきあいっちゅうもんも あるさかいのう。」
吉田「ほう! まあ 旦那さんみたいな 懐深いお人は そない思うんですやろなあ。 わしらみたいな 器の こんまいもんは あんな店で 買いもんしたら もう 損した気ぃに なりますわ。 アッハハハハ…。」
善作「こんばんは~! 小原でございます~。」
神宮司「おう 来た 来た!」
吉田「こんばんは。」
善作「呼んでもろたのに 遅うなりまして えらい すんまへん。」
吉田「ようお越し! さあ どうぞ どうぞ。」
神宮司「ああ そこ そこや。」
善作「ほな 失礼します。 いや~ 今日は 縁起が よろしいわ。 神宮司の旦那のお座敷に 呼ばれるやら もう 空からね 紅白の餅が 降ってくんのちゃうかとか 言うてるみたいな。」
吉田「どうぞ どうぞ ごゆっくり。 お料理 すぐ持ってきます。」
善作「あっ えらい すんまへん。」
神宮司「いや~ 呼び出したんは ほかでもないんや。 実はな うちの娘 いてるやろ?」
善作「はあ! あの別嬪はん。 どないぞしましたか?」
神宮司「あれの縁談がな 急に決まったんや。」
善作「ありゃ?! それは おめでとうございます!」
神宮司「ほんでな。」
善作「はあ…。」
神宮司「揃えちゃってほしいんや。」
善作「嫁入り支度でっか?」
神宮司「うん! 振り袖と訪問着 あと 向こうで着るもん。 とにかく 嫁入り一式 揃えちゃってくれ。」
善作「へい… おおきに! えらい すんまへん! 任せて下さい。 どこへ出しても恥ずかしない ごっつい上物を ビシ~ッと 揃えますよってに!」
神宮司「ああ 頼むで。」
善作「はい!」
神宮司「アハハハハ! はあ~ これで ちっと 気ぃ 楽なった。 この前 せがれん時 悪い事したさかいな~。」
善作「いや 何を言うてはりますねん。 かなわんな~。 そんな事 気にしてもろてたんですか?」
神宮司「そらそや!」
善作「あないな事 大した事おまへんがな。 ハハハッ。」
神宮司「そやけどな あんたとこかて 娘 4人も いてるやろ?」
善作「へえ…。 すんまへん…。 おおきに… おおきに!」
小原家
玄関前
「清ちゃん お使いか? 偉いな。」
静子「はい!」
台所
清子「ただいま!」
千代「おかえり!」
清子「はい 卵。」
清子「おおきに。」
清子「糸子姉ちゃんは?」
千代「糸子? まだ 帰ってへんで。」
ハル「あの子 このごろ 何で あない 帰りが遅いのや?」
千代「へえ。 何や 学校の勉強が 遅うまで あるそうですわ。」
玄関前
(ハミング)
清子「糸子姉ちゃん!」
糸子「ただいま。 あんた 何してんの?」
清子「姉ちゃん パッチ屋で働いてるって ほんま?」
糸子「誰に聞いたん?」
清子「卵屋のおばちゃんや。『変な噂たってるよって 気ぃ付けや』って言われた。」
糸子「変な噂?」
清子「『小原呉服店は 娘 働きに出さなあかんほど お金に困っとるらしい』って。」
糸子「はあ?」
清子「ほんまなん? 姉ちゃん。」
糸子「働いてへん! ちょこっと手伝うてるだけや。」
清子「何で パッチ屋なんか 手伝うん? お父ちゃんに 怒られんで。」
糸子「うっさい! 枡谷パッチ店は ええ店や。 うちは 何も悪い事 してへんで!」
枡谷パッチ店
山口「糸ちゃん。」
糸子「うん?」
山口「大将が呼んでるで。」
糸子「何で? 何で?!」
山口「いや さあ?」
糸子「噂がどうとか 言うてた?」
山口「噂?」
糸子「うちは 気にしてへんで! 何も悪い事 してへんやし。」
さよ「あっ 糸ちゃん! こっち こっち。 ヘヘヘッ。 おとうちゃん 糸ちゃん 来たで!」
枡谷「おう 来たか! そこ座り。」
さよ「はいはいはい。 よいしょ!」
枡谷「お前は あっち行けって 気ぃ散んねや。 邪魔や!」
さよ「はいはい。 ヒッヒッヒッヒッヒ!」
枡谷「あ~ あんなあ…。 何や? その… あんた 今 女学校 何年やったかな?」
糸子「2年や。」
枡谷「2年か…。」
糸子「うん。」
枡谷「こんな事 言うて 悪いと思うんやけどな。 あんた…。 うちへ 来えへんか?」
糸子「へっ?」
枡谷「いや 今すぐと ちゃうで。 卒業したらの話やな。」
糸子「つまり うちに…。」
枡谷「うん。」
糸子「『嫁に来い』っちゅう事?」
枡谷「何でやねん! うちには あの 肥えたおばはん いてるやんけ! そやのうて『うちの店で 働けへんか?』っちゅうこっちゃ。」
糸子「えっ! うち 雇てくれるん?!」
枡谷「うん。 あんた この仕事 好きやろ?」
糸子「好きや! そら 好きや! そやけど ええん?」
枡谷「何がや?」
糸子「うち 女やで。」
枡谷「かまへん! 男やろうが 女やろうが やる気があるんやったら わしゃ そんなん 気にせん。」
糸子「働きたい! うち ここで働けたら そら そない うれしい事あらへん。 うち ミシンかて 枡谷パッチ店かて ごっつい好きなんや!」
枡谷「ハハハハ! そやな。」
糸子「うん!」
枡谷「よっしゃ!」
安岡家
玄関前
勘助「おっ 糸や。 お~い! おろっ。 何やねん 知らん顔すんなや!」
糸子「お前かて 道で会うたら 知らん顔するやんか。」
勘助「なあ 上がってこいて。 粟おこし あんで。」
居間
糸子「こんにちは!」
玉枝「あ~れ 糸ちゃん。 久しぶりやな。」
糸子「うん。 あっ…。 奈津? あっ! あんた おばちゃんに 髪 結うてもろてんの?」
奈津「そうや。」
糸子「ぜいたくやな~! 芸妓さんみたいや。」
奈津「あんたと うちは 女としての値打ちが ちゃうねん。 比べんとって。」
糸子「ほうか。」
玉枝「糸ちゃん。 勘助 2階に いてるで。」
糸子「うん。 お邪魔します。」
玉枝「はいよ!」
勘助の部屋
糸子「女学校 やめちゃろか思てんねん。」
勘助「やめる? 何を?」
糸子「そやから 女学校や。」
勘助「女学校やめる? はあ? 何で?」
糸子「働くんや パッチ屋で。」
勘助「パッチ屋? へえ! パッチ屋で働くんけ?」
糸子「うん!」
勘助「ええなあ! 俺も やめちゃろかな 学校。」
糸子「アホか! お前は学校ぐらい出んと どないすんねん!」
勘助「はあ?」
糸子「おばちゃんがな 女手一つで 行かせてくれてんや。 やめたら うちが承知せえへんで!」
勘助「そやな… やめたらあかんやんな。」
糸子「何や?」
勘助「えっ?」
糸子「学校で 何か 嫌な事でも あんのか?」
勘助「えっ?」
糸子「誰かに いじめられてんか?」
勘助「何でやねん! 俺が いじめられる訳 ないっちゅうねん!」
糸子「ほんまか?」
勘助「ほんま ほんま。」
糸子「ふ~ん…。 言うちょいでよ。 いつでも 仕返し しちゃるさかいな。」
勘助「うん。」
居間
(カラスの鳴き声)
(ヒグラシの鳴き声)
(鼻歌『七つの子』)
勘助「おろっ! お前 まだ おったん?」
奈津「おったら悪いか?」
勘助「悪い事ないけど 何してんねん?」
奈津「別に。」
勘助「ふん!」
奈津「あっ!」
勘助「えっ?」
奈津「あんたの兄ちゃん 帰り 遅いんけ?」
勘助「兄ちゃん?」
奈津「うん。」
勘助「何で?」
奈津「『何で?』て… 何ででも ええやろ?」
泰蔵「ただいま!」
玉枝「ああ お帰り。」
勘助「お帰り!」
芸妓「はれ 泰蔵ちゃんやんか。」
泰蔵「いらっしゃい!」
芸妓「しばらく見んうちに あんた えらい ええ男になって! へえ~!」
勘助「兄ちゃんやで。」
奈津「しっ! うるさい! おばちゃん ほんなら 失礼します。 おおきに。」
玉枝「おおきに。 お母ちゃんに よろしゅうな!」
町中
<この人は 昔 神戸で うちに ドレスを見せてくれた 勇君のお父ちゃんです。 神戸のおじいちゃんは 大きい紡績会社をやってて 勇君のおっちゃんも そこを 手伝うてるんやそうです。 おっちゃんは 仕事で 岸和田へ 来る事も ようあって その際には 必ず ついでに うちを のぞいていきました>
小原家
台所
善作「出かけてくら。」
千代「えっ?」
正一『こんにちは~!』
千代「あ… お兄様。」
<お父ちゃんは おっちゃんが大の苦手です>