あらすじ
安子(上白石萌音)と稔(松村北斗)の関係を知りつつも、安子への恋心を諦めることは出来ない勇(村上虹郎)。複雑な思いを抱えたまま、甲子園出場を目指してひたすらに練習に励んでいます。しかし若い男性には召集令状が届きはじめ、連日ラジオからは各国の戦況を伝える臨時ニュースが流れていました。勇にとって最後の夏にも戦争の波が襲いかかります。着実に戦争が日常を変えていくなか、安子の心も大きく揺れ動いていて…。
10話ネタバレ
河原
勇「あんこが 兄さんを好きなんは知っとった。 しゃあけど 兄さんが 本気で 相手にするたあ思うとらなんだ。 兄さんらしゅうねえよ。 分かっとるはずじゃのに。 いずれ あんこを苦しめることになるて。」
稔「ゆうべ 安子ちゃんのうちへ行ったんじゃ。 ご両親に挨拶してきた。 安子ちゃんとのつきあいを 許してほしいいうて。」
勇「それで?」
稔「娘ょう よそにゃあやれん言われたよ。 父さんや母さんにも 簡単にゃあ許してもらえんじゃろうな。 じゃけど 誠意を尽くして 分かってもらおう思ようる。 父さんや母さんにも。 安子ちゃんのご両親にも。」
勇「兄さん。」
稔「うん?」
勇「わし 今年が最後の夏なんじゃ。 諦めん。 甲子園も…。 あんこも。」
橘家
居間
(『基礎英語講座』のラジオ)
安子「ふう~。」
ラジオ『これで 「基礎英語講座」を終わります』。
河原
♬~(『旧ラジオ体操第一』)
吉兵衛「橘さんのお嬢さん! また遅刻たあ けしからん!」
安子「すみません。」
吉兵衛「ラジオ体操は ただの健康体操じゃあねんですよ! 日本全国津々浦々 この時間 この放送に合わせて 規律正しゅう 国民総動員で 挙国一致の精神を鍛えるんです!」
安子「すみません。」
吉右衛門「おとうちゃん。 そねん きつう言うたらいけんで。 安子ねえちゃんはなあ 毎朝ラジオで勉強しょうるんじゃ。 それが ラジオ体操のすぐ前の番組じゃから どうしても遅れてしまうんじゃ。 ちいたあ大目に見たげられえ。」
吉兵衛「吉右衛門… おめえいう子は…。」
安子「ありがとう 吉右衛門ちゃん。」
吉兵衛「時に 何の番組ゅう聴きょんかな?」
安子「『基礎英語講座』です。」
吉兵衛「き き… 『基礎英語講座』!? 敵性語を勉強しょうるたあ 聞き捨てなりませんな! さては あなた 米英のスパイじゃな!」
吉右衛門「お父ちゃん 聴いたらいけんもんじゃったら そもそも放送すりゃあせんじゃろ。」
吉兵衛「吉右衛門…。 何で おめえは そねん…。」
神社
勇「1 2…。」
一同「1 2 3 4!」
勇「1 2…。」
一同「1 2 3 4!」
勇「1 2…。」
一同「1 2 3 4!」
勇「1 2…。」
一同「1 2 3 4!」
勇「今年こそ 甲子園に行けますように!」
一同「うお~!」
勇「1 2…。」
一同「1 2 3 4!」
学校
監督「今年こそ! 予選を勝ち抜き 甲子園行くぞ!」
一同「はい!」
監督「そこでじゃ まずは こりょお ユニフォームにつけえ。 当局からのお達しじゃあ。 ユニフォームからローマ字は追放せえと。」
橘家
居間
♬~(ラジオ)
金太「まさかのう 砂糖を軍用機の燃料にするたあのう。」
黒鉄「そう気落ちせんでください 大将。 砂糖がのうても菓子は作れますよ。」
丹原「そうです。 芋でも何でも使うて工夫すりゃあ。」
黒鉄「知恵を絞って しのぎましょう。 なあ?」
金太「そうじゃの…。」
菊井「すいません 大将。 実は… 召集令状が来たんです。 申し訳ありません! 店が大変な時に…!」
金太「さぶ。 謝るようなことじゃなかろうが。」
杵太郎「で 入隊は いつじゃあ?」
菊井「来週の… 初めにゃあ…。」
小しず「そうしたら この週末は ごちそう作らんとおえませんね。」
ひさ「菊井さんの好物は たしか五目煮じゃったなあ?」
菊井「ありがとうございます。 ありがとうございます。」
金太「食おう! 食え。」
杵太郎「食おう 食おう。」
台所
小しず「これから若え男の人は どんどん戦争に 取られていくんじゃろうなあ。」
安子「うん…。」
小しず「算太… どこで どねんしょうるんじゃろうか。」
安子「お兄ちゃんのことじゃ たくましゅう生きとるわ。」
小しず「稔さんは? お手紙は ず~っとやり取りしょんじゃろ。」
安子「うん…。 学生は 召集されんいうて聞いとる。」
小しず「そう。」
安子「お母さん。 勝手をして ごめんなさい。 じゃけど 私 稔さんのことが…。」
小しず「分かっとる。 お父さんも それは もう 重々 分かっとる。 もうお店のために 安子に お見合いを勧めたりはせんはずじゃ。 ただ… お父さんも お母さんも 心配なんじゃ。 安子が傷つくことに なってほしゅうねえんじゃ。」
全国中等学校優勝野球大会
(歓声)
ラジオ『全国中等学校優勝野球大会 岡山県大会の結果です。 第2回戦 弓丘中学 対 岡山西商業 7対3で弓丘中学の勝利』。
橘家
工場
黒鉄「大将。」
金太「おえん。 こねえなもん たちばなの菓子じゃねえ。 やり直せ。」
黒鉄「はい。」
金太「黒。」
黒鉄「はい。」
金太「乾燥麦芽 入れてみい。 芋の甘みが引き出されるはずや。」
黒鉄「やってみます。」
丹原「こっちは どんなですか? なんきんで作りました。」
ラジオ『ニュースを申し上げます。 昨22日 現地時間未明 ドイツのヒトラー総統は ソビエト連邦に宣戦を布告 両国は 戦闘状態に入りました。 ドイツ軍は 猛烈なる…』。」
黒鉄「ドイツとソ連が戦争ですか…。」
金太「また どこで どねえな影響が出るやらなあ…。」
学校
監督「文部省より 通達があった。 本年より 全国的なスポーツの催しは 禁止じゃそうじゃ。 今年の夏の甲子園大会は 中止になった。 無念じゃ。」
神社
安子「勇ちゃん? どねんしたん? こねんとけえ 一人で。 出征された菊井さんが ご無事でありますように。 お砂糖がのうても おいしいお菓子ができますように。 それから… 勇ちゃんが甲子園に行けますように。 もう準決勝まで 進んどるんじゃもんな。 私やこが お願いせえでも きっと行けるなあ。」
勇「甲子園は中止になった。 最後の夏は終わったんじゃ。」
安子「ごめん。 ごめんなさい。 私… 何も知らなんで…。 あの… 稔さんが言うてたよ。 勇ちゃんにゃあ とても かなやせんて。 こうと決めたら曲げん 強え信念を持っとるて。 じゃあから そねえな勇ちゃんじゃったら きっと…。」
勇「何で おめえは そねん…。」
勇「わしにゃあ 野球しかなかった。 兄さんに勝てるとしたら 野球しか。」
橘家
居間
(『基礎英語講座』のラジオ)
ラジオ『これで 「基礎英語講座」を終わります』。
(ラジオの臨時ニュースのチャイム)
ラジオ『臨時ニュースを申し上げます。 臨時ニュースを申しあげます。 大本営陸海軍部 12月8日午前6時発表。 帝国陸海軍は 本8日未明 西太平洋においてアメリカ イギリス軍と 戦闘状態に入れり。 帝国陸海軍は 本8日未明 西太平洋において アメリか イギリス軍と 戦闘状態に入れり。 今朝 大本営陸海軍部から このように発表されました。 帝国陸海軍は 本8日未明 西太平洋において アメリカ イギリス軍と 戦闘状態に入れり。帝国陸海軍は 本8日未明 西太平洋において…』。
<その日を最後に 『英語講座』は ラジオから消えました>