ドラマダイジェスト

連続テレビ小説「カムカムエヴリバディ」第19話「1943-1945」【第4週】

あらすじ

「たちばなの菓子で救われる人が、きっとおるはずじゃ」再び、菓子作りへの意欲を取り戻した金太(甲本雅裕)。戦後焼け野原となった岡山の町も、少しずつ復興に向け動きだしていました。安子(上白石萌音)は材料集めに奔走し、幼い頃からの憧れだったあんこ炊きを金太から教わります。そうして出来上がったおはぎを売りに町へ出ると、持ち逃げしようとする小さな手が…。その男の子を引き止めた金太は、とある賭けをします。

19話ネタバレ

雉真家

台所

金太「おいしゅうなれ。 おいしゅうなれ。 おいしゅうなれ。」

ダイニング

金太「よろしければ 召し上がってください。」

千吉「頂きます。」

美都里「おはぎやこ久しぶりじゃね。」

タミ「ええ。」

美都里「頂きます。」

タミ「頂きます。」

千吉「うまい。 懐かしい たちばなの味じゃ。」

金太「ありがとうございます。」

安子「ありがとうございます。」

美都里「あら るいちゃんも食べてんかな。」

金太「ほれ ちょっとな。」

安子「あ~ん おいしいよ。」

(笑い声)

縁側

金太「そうですか… 雉真さんの本社工場も…。」

千吉「じゃけど 水島の工場は無事で 足袋の生産を続けとります。 うちは 戦時中 軍の仕事を請け負うとりましたから よう思わん人もおるでしょうが…。 足袋ゅう作り続けたことを 評価してくれる人も ぎょうさん おってくれます。 いずれ 稔が帰ってきたら 足袋 学生服に加えて 何か 新しい事業を始みょう思ようります。」

金太「早う戻られるとええですな。」

千吉「算太さんも。」

<10月 焼け落ちた百貨店が再開しました。 あの空襲から僅か100日でのことでした。 これに刺激を受けた人々が 少しずつ焦土から立ち上がり がれきに埋まった商店街の復興に取りかかりました>

闇市

金太「安子。 たちばなを立て直すで。 戦時中 菓子は ぜいたく品じゃ言われて 作るな言われた。 じぇけど ホンマは 菓子は苦しい時ほど必要なもんじゃと わしゃあ思う。 たちばなの菓子で救われる人が きっと おるはずじゃ。」

安子「うん。 私も手伝います。」

<金太は 雨風のしのげる小屋を建てると そちらで暮らし始めました。 安子は 雉真家の食糧の買い出しに加えて 金太の菓子作りの材料の入手に 奔走しました。 亡き小しずの里へも行き 収穫を手伝う代わりに 小豆を分けてもらいました>

橘家

金太「何ゅうしてほしいか 小豆が教えてくれる。 食べる人の 幸せそうな顔を思い浮かべえ。 おいしゅうなれ。 おいしゅうなれ。 おいしゅうなれ。 その気持ちが 小豆に乗り移る。 うんと おいしゅうなってくれる。 甘えあんこが出来上がる。 あっ!」

安子「フフ…。 小せえ頃 私もお菓子の職人になりてえ 思よったんよ。 しゃあけど おなごの子はなれん 工場に入ったらおえん言われた。 うれしいな。 こねんして お父さんに教えてもらえるなんて。」

安子「こんなもん?」

金太「うん。 ええ形じゃ。」

安子「お芋を使うた おはぎみてえなもんです。 甘えですよ。 4つで10円です。 いらっしゃいませ。」

「4つくれ。」

金太「ありがとうございます。」

安子「ありがとうございます。 どうぞ。」

金太「ハハ…。」

安子「フフフ…。」

「わしにも1つくれ。」

<砂糖の代わりに 人口甘味料の サッカリンを使っていましたが 人々は 甘未を求めていました>

安子「ありがとうございます。」

金太「待て!」

「うめえ!」

金太「金ょう払え。」

「金やこねえ。」

金太「払え!」

「ねえもんは ねえ!」

金太「安子。」

安子「はい。」

金太「菓子 箱ごと持ってけえ。」

安子「えっ?」

金太「早うせえ。」

安子「はい。」

金太「こりょお売ってけえ。 うちじゃあ 1個2円50銭で売りょおる。 じゃけど 値段は おめえがつけりゃあええ。 おめえの才覚で売ってけえ。 売り上げの1割が おめえの稼ぎじゃ。」

金太「10円で売れりゃあ 1円。 100円で売れりゃあ 10円が おめえのもんじゃ。 そこから さっきの2円50銭 払え。」

「あほうじゃのう。 戻ってくるわけがねえが。」

「そうじゃ。 売り上ぎょう 持っていかれるか その前に 皆食われてしもうて しめえじゃ。」

金太「日が落ちたら冷えるのう。」

安子「寝泊まりだけでも うちに来たら? 体壊すよ。」

金太「帰ってこなんだのう。」

安子「えっ?」

金太「あの悪ガキじゃ。」

安子「何で あねえなことをしたん?」

金太「何か 似とったじゃろう。 算太に。 しゃあから 賭きょおしたんじゃ。」

安子「賭け?」

金太「あのガキが帰ってきたら 算太も帰ってくる。 帰ってこなんだら 算太も帰ってこん。」

(戸をたたく音)

男の子「おっちゃん おはぎのおっちゃん。」

(戸をたたく音)

金太「帰ってきたんか。 算太…!」

算太「橘 算太 無事 帰還いたしました。 ちょ… 寒い寒い…。 ああ 火ぃあたらしてもらうで。」

金太「おめえ… 無事じゃったんか。 どこで どねんしょったんなら。」

算太「そうじゃ ほれ。 ほれ。 これこれ。」

金太「どねんしたんなら それ。 まさか おめえ また あちこちで借金して…!」

算太「あ~ 何ゅう言よんなら。 言われたとおり わしの才覚で おはぎゅう売ってきたんじゃ。 金持ちが ぎょうさん おりそうな町に 行ったんじゃ。 まあ おるわ おるわ 身なりのええ紳士淑女が。」

算太「中で わしは とりわけ気ぃの優しそうな ご婦人に近づいてこねん言うた。 『母ちゃん! 母ちゃんじゃねえか 生きとったんか! おお そうか そうか…。 わしゃあ 毎日 こねんして 足を棒にして 菓子ゅう売り歩きょうるんじゃ』。 …と もっぺん ご婦人の顔を見る。 そこで はっと悲しげに 『すんません。」

算太「すんません。 空襲で死に別れた母ちゃんに生き写しじゃったもんじゃから…。 すんません』。 ほしたら おばはん こねん気取ったバッグから 札束取り出して 『全部 頂戴。 釣りは要らんで』じゃて。 じゃから 全部もろうてきたんじゃ。 しゃあけど 持っとるやつは持っとるのう。」

金太「算太! よう帰ってきてくれたのう 算太。」

算太「何じゃ… 気色悪い。」

金太「すまん。 皆 死なせてしもうた。 母ちゃんも じいちゃんも ばあちゃんも。」

算太「戦争じゃったんじゃ。 しょうがねえが。 父ちゃん。 もう そねん… 気を張るな。 こんなんじゃけど まだ わしが生きとる。 安子も生きとる。 そうじゃろ?」

金太「おめえがのう いつ帰ってくるか分からんからのう わし 待ちょったんじゃ。 ここを動かんと待ちょったんじゃ。」

算太「分かっとる。」

ラジオ・アチャコ『タッチならず セーフ セーフ』。

ラジオ・エンタツ『これ やっぱり 政府の仕事ですか?』。

アチャコ『何をしゃべってんねんな。 バッテリーの間のサイン 極めて慎重 第4球…』。

エンタツ『第4球…』。

アチャコ『投げました』。

エンタツ『投げました』。

アチャコ『打ちました』。

エンタツ『打ちました』。

アチャコ『大きな当たり』。

エンタツ『大きな当たり』。

アチャコ『ヒット ヒット』。

エンタツ『人殺しや』。

アチャコ『球は ぐんぐん のびてます』。

エンタツ『のびてます のびてます』。

アチャコ『のびてます のびてます』。

エンタツ『来年まで のびてます』。

アチャコ『なんでやねんな。 センター バック バック』。

エンタツ『オールバック』。

アチャコ『散髪屋みたいに言うな ホンマ。 ランナー 二塁から三塁』。

エンタツ『二塁から三塁』。

アチャコ『三塁を越えてホーム』。」

エンタツ『ホームを越えてレフト』。

(笑い声)

<金太が亡くなっている という知らせが入ったのは その翌朝のことでした>

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