あらすじ
安子(上白石萌音)は試行錯誤を繰り返しながら芋あめを作っていますが、そう簡単には売れません。るいを守る一心で自分はろくに食べもせず、働きづめの日々です。そんな中、安子は住宅街の民家から漏れ聞こえる英語の歌に出会います。それは平川唯一という講師の『英語会話』第一回放送でした。それから毎日仕事終わりに民家の軒先に立ち寄り『英語会話』に夢中になって聴いていました。しかしある日、空き巣に疑われてしまい…。
23話ネタバレ
町中
<塀の向こうのラジオから 聞こえてきたのは 『英語会話』という講座の 第1回放送でした>
ラジオ・平川『Good evening. Let‘s speak English, shall we? I’m delighted to meet you all on the air tonight. And now… 皆さん こんばんは。 今日から皆さんとご一緒に 毎晩 この時間に 『英語会話』のお相手をすることになりました。 どうぞ よろしく』。
<番組の講師は 平川唯一という人でした>
ラジオ・平川『英語会話のことでありますが 皆さんは 小さい赤ちゃんが だんだん 少しずつ話ができるようになる様子を よく注意して ご覧になったことが おありでしょうか? 赤ちゃんが だんだん だんだん いつの間にやら言葉を覚えて 片言交じりの話ができるようになる。 ところが 大きくなってから さあ 英語を習おうというこになると なかなか そう 楽にはいかないんですね。』
ラジオ・平川『ここは一つ 恥をしのんで 赤ちゃんに秘けつを聞いてみましょう。 Won‘t you please tell us your secret, babies? そこには 確かに秘けつがある。 すばらしい秘けつがある。 誰がやっても やりさえすれば 必ず成功する…』。
<平川さんの優しい語り口に引き込まれ 安子は 15分間の放送に聴き入りました>
ラジオ『平川先生の 「英語会話」の時間でございます』。
♬~(ラジオ『COME COME EVERYBODY』)
<安子は毎日 仕事を終えると 午後6時30分に この家に来て 窓から聴こえる ラジオの『英語会話』に耳を傾けました>
ラジオ・平川『さあ お父さんも新聞を読むのをやめて お母さんも お皿を洗うのは ちょっと 後にして 坊ちゃんも お嬢さんも お兄さんも お姉さんも みんな いらっしゃ~い。 「COME COME EVERYBODY 」 最初に 私が 一人で歌ってみますから その発音を 特に気を付けて言ってください。 曲は 皆さんご存じの 「証 証 証城寺」でしたね』。
おぐら荘
安子♬『Come, come, everybody』
回想・平川♬『Come, come, everybody How do you do, and how are you? Won‘t you have some candy? Let’s all sing a happy song Sing tra la la la la』
安子「♬『happy song Sing tra la la la la』 よいしょ。 はい。」
闇市
安子「芋アメ どうですか?」
「1個なんぼ?」
安子「1個30銭です」
「2つ頂戴。」
安子「ありがとうございます。 はい。 ありがとうございます。 すいません。」
小川家
ラジオ・平川『このごろ 盛んに進駐軍のラジオで 日本語の歌を歌ってるのを ご存じですか? 皆さんも お聞きになったことが あると思いますが こうなんです』。
(『ロンドン橋』のメロディーで)
平川♬『もしもし あのね なのね あのね』
澄子「どちらさん? あんた 毎日 ここにいてるねえ?」
安子「あっ…。」
澄子「うちに何か用?」
安子「い… いえ…。 す すいません。 あの… 仕事の帰りで…。」
澄子「仕事?」
安子「あ… あの…。 ごめんなさい。」
澄子「えっ?」
安子「これ!」
澄子「いや…。」
安子「どうも すみませんでした!」
澄子「何やの。」
(『英語会話』のラジオ)
闇市
ラジオ・平川『では 今日の英語の遊びは この辺にしましょう。 well, until tomorrow night, this is Hirakawa saying, good night, everyone』.
♬~(ラジオ『COME COME EVERYBODY』)
おぐら荘
<安子は 芋アメを少しでもおいしくするために 試行錯誤を繰り返していました>
<戦時中 亡き父 金太がそうしていたように 芋に乾燥麦芽を加えて 甘みを引き出すことにしました>
安子「おいしゅうなれ。 おいしゅうなれ。 おいしゅうなれ。」
闇市
安子「ありがとうございます。」
「ありがとう。」
<よりおいしくなった芋アメは より売れるようになりましたが 麦芽の仕入れ代は ばかにならず… 安子は るいの健康だけを考えて 自分は ろくに食べずに 働いてばかりいました>
町中
ラジオ・平川『さあ もう一度 ぐるぐるぐるぐるっと回して ポンッと出たのは…』。
<仕事を終えると 『英語会話』が流れている家を探しては そっと耳を澄ませました>
ラジオ・平川『「おじ様の会話の時間 なんて すばらしいんでしょう」』。
<驚いたことに ほとんどの家から 『英語会話』は聴こえてきました。 平川さんの温かく朗らかな講座に 誰もが夢中になっていました>
ラジオ『今日の大阪は 北よりの季節風が吹いて 寒さが戻ってまいりました。 明日は 一段と寒さが厳しくなり…』。
澄子「あれ? あんた…。」
安子「すみません! もう しません!」
澄子「ちゃうねん ちゃうねん。 こないだ もろた芋アメな あれ おいしい言うて うちの子らが えらい気に入ってるんや。 また食べたい言うて せがむさかい よそで買うんやけど どれも ちゃう言うて。 あれ まだある?」
安子「はい ここに。」
澄子「ああ! よかった。 なんぼかな?」
安子「ありがとうございます。 一つ5円…。」
澄子「ちょっと大丈夫か!? ちょっと! いや~ もう…。」
ラジオ『体調管理には くれぐれもご注意…』。
小川家
ラジオ・平川『セッキスでも シッキスでもないんです。 ちょうど セとシの間ぐらいですから これを よく聞き分ける耳を訓練して それを 口で言えるように 練習していただきます。 よろしいですか? six six 言ってみてください』。
博子 敏夫「シックス!」
ラジオ・平川『英語には こういうふうに 日本語から見ると はっきりしないような どっちともつかないような中間の音が ありますから この音を正しく発音しないと どうしても 日本人くさい英語になってしまいます。 シックスではなく six。 では 最後に もう一度 言ってみましょう。 six』。
博子 敏夫「six!」
ラジオ・平川『もう一度 six』。
博子 敏夫「six!」
ラジオ・平川『どうです? うまく言えましたか? では また 明晩。 well, until tomorrow night, this is Hirakawa saying, good night everyone』.
♬~(ラジオ『COME COME EVERYBODY』)
♬~(敏夫と博子の歌声)
澄子「あんた 気ぃ付いたんか。 びっくりするがな 急に気ぃ失うて。」
安子「あの…。」
敏夫「芋アメのおばちゃん 起きた!」
博子「おいしかった ありがとう!」
澄子「敏夫。 博子。 宿題終わったんか?」
敏夫 博子「まだ…。」
澄子「ラジオ始まる前にやりなさい 言うてるやろ!」
敏夫 博子「は~い。」
勉「ただいま。」
澄子「お帰り!」
敏夫「お父ちゃんや!」
博子「お帰りなさい!」
敏夫「芋アメのおばちゃん 来とんねん!」
勉「どうも。 そうや 何や 猫ついてきよったで。」
敏夫「猫!?」
博子「見たい!」
勉「行く?」
敏夫「どこ?」
勉「ちょ… ちょっと待て。」
安子「あ… あの…。」
澄子「何や 悪いねえ。」
安子「休ませてもろうたお礼です。」
澄子「すぐに ごはんにするさかい あんたも食べていき。」
安子「そんな。 どこのうちも 乏しい配給で やりくりしょおるのに。」
澄子「ほっそい体して 小さい子 背負うて…。」
安子「しゃあけど…。」
澄子「ええから そうしい。 子供らも うちの人も ふかしまんじゅうより あんたの芋アメの方が喜ぶねんから。 ラジオの『英語会話』聴いとったんか? うちの外で。」
安子「はい。 すみませんでした 無断で…。」
澄子「いや それは 構へん。 そやけど 毎日毎日 芋アメ売り歩いて 疲れるやろうに あないなとこ 突っ立って。」
安子「英語…。 英語の勉強は もうやめよう思うてました。 亡うなった夫との思い出が詰まっとるから つろうて…。 しゃあけど あの… 『COME COME EVERYBODY』いう曲が 流れてきた時 聴き入ってしもうた。」
安子「何か… 元気になれるんです。 あの歌 聴きょおったら。 平川先生の温けえ声 聴きょおったら。 大丈夫 どねんかなる。 明日も頑張ろう いう気になれるんです。 しゃあから…。」
澄子「毎日 来たらええ。 外やのうて ここで火鉢にあたりながら 敏夫と博子と一緒に ラジオ聴いたらええ。」
安子「じゃけど…。」
澄子「あんたのためやない。 この子のためや。」
安子「ありがとうございます。 ありがとう。 これ。 出来ました。」
澄子「あっ ありがとう。 うわ~。 わっ あんた 手早いのに 丁寧な仕事やわあ。」
<小川家のお母さんは ご近所さんたちを当たって 安子に繕い物の仕事を紹介してくれました>
町中
安子「ありがとうございます。 それと これ。 おまけの芋アメです。」
「ええの?」
安子「どうぞ。」
<安子は 繕い物を注文してくれたお客さんには 芋アメをおまけにつけました>
安子「また いつでも どうぞ。」
「また頼むわ。」
♬『How do you do, and how are you? Won‘t you have some candy? One and two and three, four, five? Let’s all sing a happy song Sing tra la la la la』
<安子が工夫を重ねた おいしい芋アメは 評判を呼び やがて 売り歩かなくても 注文だけで なんとか生活ができるようになりました>
るい♬『カム カム エヴリバディ』
安子「るい? 今…。」
るい♬『カム カム エヴリバディ』
安子「ハハッ! るい! るい! フフッ! 稔さん。 稔さん。 るいが初めてしゃべりました!」
<るいが初めてしゃべった言葉は 『カム カム エヴリバディ』でした>