ドラマダイジェスト

連続テレビ小説「カムカムエヴリバディ」第27話「1948」【第6週】

あらすじ

安子(上白石萌音)は、幼なじみのきぬ(小野花梨)の力を借り、『水田屋とうふ』の一角に作ったおはぎを置かせてもらい、ささやかな商いを始めます。それはるいの額の傷の治療費を稼ぐ為でもありました。しかしある日、千吉(段田安則)からるいを連れておはぎを売り歩くことを反対されてしまいます。そうして安子は、留守の間るいの面倒を雪衣(岡田結実)に任せ、るいのため一つでも多くのおはぎを売るために奔走するのでした。

27話ネタバレ

雉真家

稔の部屋

<事故から3か月ほどがたち 安子の左腕は ようやく完治しました>

<しかし るいの額の傷は 生々しく残ったままでした>

水田屋とうふ

「木綿ちょうでえ。」

きぬ「は~い。 木綿1丁じゃね?」

「うん。 それと 油揚げも2枚。」

きぬ「は~い。」

るい「おはぎも どうですか?」

「そうじゃなあ おはぎ… おはぎ?」

安子「るい。 きぬちゃんのお仕事 邪魔したらいけんよ。」

「あんた… 確か たちばなさんの…。」

安子「あ… はい!」

「いや~ 久しぶりじゃわあ たちばなさんのおはぎ。 3つ… あっ いや 6つちょうでえ。」

安子「まあ ありがとうございます。」

るい「ありがとうございます。」

安子「まだまだ 父や祖父の味にゃあ 程遠いですけど…。」

<安子は 水田屋のとうふの片隅に おはぎを置かせてもらい ささやかな商いを始めました>

るい 安子「ありがとうございました。」

「ありがとね。」

るい「お母さん。」

安子「うん?」

るい「たちばなさんのおはぎって 何?」

安子「お母さんのお父さんや おじいちゃんが 作りょうった おはぎのことじゃ。」

るい「お母さんのお父さんや おじいちゃん?」

安子「そう。 もう… おらんように なってしもうたけど。」

きぬ「ここらの人は み~んな 大好きで食びょうったんじゃ。 るいちゃんの お父さんとお母さんの なれそめも たちばなのおはぎじゃ。」

るい「なれそめ?」

安子「きぬちゃん。」

きぬ「るいちゃんの叔父さんも 入り浸っとった。」

るい「勇叔父さんのこと?」

安子「そう。」

回想

勇「みんな入れ入れ わしのおごりじゃ!」

一同「わ~い!」

安子「勇ちゃん。」

勇「おう あんこ。」

安子「安子じゃ!」

安子「はい。」

勇「おう ありがとう。」

回想終了

安子「フフフ…。」

雉真繊維

<勇は 兄 稔亡きあと 雉真繊維の跡継ぎとして 千吉のそばで働いていました。 雉真繊維は 空襲で焼け残った工場で 足袋と学生服の生産を 再開していました。 原材料は まだ配給制で 布地はおろか 糸の入手も困難でした>

千吉「これが 今年 うちで作った学生服の生産量か。」

林「さようです。」

千吉「全国比は?」

林「岡山の全体で 17%です。」

千吉「去年と変わらんじゃねえか。」

林「はい…。 じゃけど 当分 原料統制が撤廃される見込みは…。」

千吉「そねんこたあ 百も承知じゃ。 もっと知恵を絞れ!」

林「はい。」

千吉「勇。 おめえは どねん思うんなら。 どねんすりゃあ 雉真を戦前の姿に戻せる思う?」

勇「そうじゃのう…。 父さんは もともと 足袋から雉真を始めたんじゃったのう?」

千吉「そうじゃ。」

勇「それが やがて 学生服を作るようになって 雉真の丈夫な学生服いうて 評判になった。」

千吉「おう。」

勇「戦争が始まると 軍服の生産で名をはせた。」

林「さようです。」

勇「つまり… 足袋は さしずめ1番打者じゃ。 とにかく塁に出ることが大事じゃから 思い切ってバットを振った。 打球は 三遊間を抜けてヒットとなった。 打者は 一塁へ。 続く 2番。 2番は学生服じゃ。 2番は 送りバントで 1番打者をセカンドに送るのが定石じゃ。」

勇「しゃあけど そこは俊足の誇る2番打者 滑り込んで ノーアウト ランナー 一 二塁とした。 続く3番。 3番は軍服じゃ。 いや~ 軍服は バントの指示ゅう無視して バットを振った。 力み過ぎて サードゴロ ダブルプレーに倒れた。 さあ ツーアウト ランナー 二塁。 ここで4番じゃ。 4番には どねえな強打者を送り込むべきか。 …ちゅう話じゃな?」

千吉「違う。」

雉真家

勇の部屋

雪衣「失礼します。」

(戸が開く音)

雪衣「坊ちゃん。 夕飯を召し上がらなんだでしょう? せめて お夜食でも。」

勇「ああ… ありがとう。 そけえ置いてえて。」

雪衣「はい。」

勇「本当に 雪衣さんは 気が利くのう。」

勇「まだ 何かあるんか?」

雪衣「いえ。 失礼します。」

(戸が閉まる音)

翌朝

(小鳥のさえずり)

勇「あ~…。」

台所

安子「小豆の声を聴けえ。 時計に頼るな。 目を離すな。 何ゅうしてほしいか 小豆が教えてくれる。 食べる人の 幸せそうな顔を思い浮かべえ。 おいしゅうなれ。 おいしゅうなれ。 おいしゅうなれ。」

勇「ええ匂いじゃのう。」

安子「勇ちゃん。 おはようございます。」

勇「おはよう。 あんこを作りょんか?」

安子「うん。 こねえだから きぬちゃんの店の隅で おはぎゅう売らせてもらよんじゃ。」

勇「何で そねんことをするんなら?」

安子「大阪で そねんして るいと暮らしょおったから…。 それに お義父様は 心配せんでええ言うてくれたけど るいのおでこの傷だきゃあ 私が どねんかしてやりてえ。 どねえにお金がかかるとしても 自分で治療費を稼ぎてんじゃ。 いけんじゃろうか…。」

勇「いけん言うても そねんするんじゃろうが。」

(笑い声)

安子「勇ちゃんは? 会社のお仕事 慣れた?」

勇「あ~。 わしゃあ つくづく 野球しか能のねえ人間じゃ。 4番 サード 雉真選手も 会社じゃあ ただの役立たずじゃ。」

安子「じゃけど そねえな勇ちゃんにしかできんことが あるんじゃねえかなあ。 小せえ頃から 野球ばあしてきた 野球に打ち込んできた勇ちゃんにしか できんことが。」

勇「うまそうじゃのう。 一口くれえ。」

安子「ううん。 触ったらいけん。」

勇「何でなら。」

安子「いけんのんじゃ。」

勇「ちょっとぐらいええじゃろ…。」

安子「いけん。 いけん言ようろうが。」

勇「何じゃ ケチじゃのう。」

安子「ケチじゃねえ。」

勇「…見せかけて。」

安子「あっ!」

勇「何でなら。」

安子「いけん。」

千吉「おはよう。」

安子「あっ おはようございます。」

勇「おう。」

千吉「安子さん ちょっとええか?」

安子「はい。」

リビング

千吉「商店街で おはぎゅう売りょうるそうじゃな。」

安子「はい。 いけなんだでしょうか?」

千吉「いけんたあ言わん。 おはぎゃあ あんたにとって 特別なもんじゃ。 じゃけど るいを連れていくんは やめとかれ。 家にゃあ 美都里も雪衣さんもおる。 必要ねえじゃろう。」

安子「あ… じゃけど…。」

千吉「分からんか。 長男と嫁と その幼え娘ょう 外で働かしょおるとなりゃあ 雉真のメンツに関わるんじゃ。 るいは 雉真の子として こけえ帰ってきたんじゃ。 それを忘れたらいけん。」

玄関

るい「何で? 何で? 何で私は行ったらいけんの?」

安子「お願いじゃから ええ子にして。 言うことを聞いて。」

るい「嫌じゃ。 お母さんと一緒に行く! お母さんと一緒に おはぎゅう売る!」

安子「わがままあ言うんじゃねえ! 全部売れたら すぐに帰ってくるから。 なっ?」

(足音)

安子「雪衣さん。 留守の間 るいをお願いします。」

雪衣「はい。 行ってらっしゃいませ。」

安子「行ってきます。」

(戸の開閉音)

水田屋とうふ

安子「おはぎゅあ どうですか? たちばなのおはぎです。 おはぎゅあ どうですか? 甘えですっよ。 おはぎゅあ どうですか?」

<安子は るいのために 一つでも多く おはぎを売りたいと思っていました>

安子「どうですか? たちばなのおはぎは どうですか? おはぎは どうですか?」

(ラッパの音)

力「ただいま~!」

安子「お帰りなさい。」

きぬ「お帰り。 え… もう全部売れたん?」

力「隣町に ぎょうさんお得意さんができてのう。」

きぬ「へえ~。 あんた 私と違うて 愛想がええからなあ。」

安子「力さん。 今日はもう リヤカー使わんのん?」

力「おう。」

安子「貸してちょうでえ!」

力「おう… いいけど…。 まあ ちょっ… ちょっと… 片づけるから待っとってくれ。」

安子「はい。 ありがとうございます。」

商店街

安子「おはぎゃあ どうですか? たちばなのおはぎです。 たちばなのおはぎは どうですか?」

「たちばなって あの朝丘町にあった たちばなかな?」

安子「はい!」

「懐かしいなあ。 わしゃあ 大福が好きじゃった。」

安子「ありがとうございます。 今度 大福も作ってきます。」

「ほんなら おはぎゅう3つちょうでえ。」

<町には たちばなを覚えてくれている人が 大勢いました>

「これじゃなあ これじゃ。」

安子「ありがとうございます。」

「うまそうじゃのう。」

安子「すいません。」

「申し訳ねえ。 許してちょうでえ。」

将校「No, no, no, no.」

「申し訳ねえ。」

将校「I didn‘t mean that.」

「すみません。」

将校「『スミマセン』? Why  are you apologizing, ma‘am? I just wanted to buy some flowers.」

「許してちょうでえ。 すみません すみません。」

安子「May I…。(あの…) May I help you?(なにかお困りですか?)」

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