あらすじ
気持ちのこもった甘くておいしい「たちばな」のお菓子が大好きな安子(網本唯舞葵)。いつしか自分も杵太郎(大和田伸也)や金太(甲本雅裕)のように和菓子を作る人になりたい!と思うようになりますが、周囲からは「おなごだから…」と諭されます。一方、兄の算太(濱田岳)は、跡取りとして菓子修行を始めるも一向に身が入らず、仕事場から逃げ出しては映画を観に行ってばかり。どうやら算太には心に決めた夢があるようで…。
2話ネタバレ
橘家
居間
杵太郎「小豆の声を聴けえ。 時計に頼るな。 目を離すな。 何ゅうしてほしいか 小豆が教えてくれる。 食べる人の 幸せそうな顔を思い浮かべえ。 おいしゅうなれ。 おいしゅうなれ。 おいしゅうなれ。 その気持ちが 小豆に乗り移る。 うんと おいしゅうなってくれる。 甘えあんこが出来上がる。 ほっ! よし よし。」
安子「おはようございます。」
杵太郎「おう おはよう。」
<安子の朝は いつも小豆の香りとともに始まりました>
ラジオ・アチャコ『タッチならず セーフ セーフ』。
ラジオ・エンタツ『これ やっぱり 政府の仕事ですか?』。
アチャコ『何をしゃべってんねんな。 バッテリー間のサイン 極めて慎重 第4級…』。
エンタツ『第4級…』。
アチャコ『投げました』。
エンタツ『投げました』。
アチャコ『打ちました』。
エンタツ『打ちました』。
アチャコ『大きな当たり』。
エンタツ『大きな当たり』。
アチャコ『ヒット ヒット』。」
エンタツ『人殺しや』。
アチャコ『ぐんぐん のびてます』。
エンタツ『のびてます のびてます』。
あちゃこ『のびてます のびてます』。
エンタツ『来年まで のびてます』。
アチャコ『なんでやねんな。 センター バック バック』。
エンタツ『オールバック』。
アチャコ『散髪屋みたいに言うな ホンマ。 ランナー 二塁から三塁』。
エンタツ『二塁から三塁』。
アチャコ『三塁を越えてホーム』。
エンタツ『ホームを越えてレフト』。
アチャコ『おい ちょっと待て。 ホームへ入ったランナーが 何で レフト辺りへ行くねえ』。
安子「お待たせしました~! 今日は 大福で~す。」
丹原「ありがとうございます。」
金太「ハハハハハハッ!」
ひさ「何じゃ えろう あんこが はみ出しとるなあ。」
杵太郎「それはな 算太が作ったやつじゃ。 ハハハハッ。」
算太「口に入れたら一緒じゃろうが。」
金太「あほう。 そねえな根性で ええ菓子が作れるか!」
算太「ん~ ん~ 軍隊じゃねんじゃから そねん足並みをろえんでも。」
金太「何じゃと?」
算太「人間だって ちょっと はみ出すぐれえが 味があろうが。」
金太「そ…。」
菊井「名言なだけに始末が悪いな…。」
金太「聞こえとるど。」
アチャコ『あほう! 早慶戦に何で法政が出るんや!』。
映画館
金太「算太!」
橘家
工場
杵太郎「どけえおったんなら?」
金太「映画じゃあ。」
杵太郎「何が かかっとったんじゃ?」
算太「桃山剣之介じゃ。」
杵太郎「知らんなあ…。」
算太「新人じゃあ。 な~んか 優男でのう。 ありゃあ 阪妻やアラカンにゃあなれんわ。」
金太「あほう! 道具をおもちゃにすな!」
算太「すんません。」
杵太郎「算太。 これから活動写真は 店が休みん時にせえ。 なっ。」
算太「休みいうて 月に半日あるかねえかじゃ…。」
金太「口答よお すな。」
杵太郎「金太。 おめえも もっと ちゃんと算太を教育せえ。」
金太「親父が孫を甘やかしすぎるんじゃあ。」
杵太郎「そんなこたあ ありゃせん。」
金太「しとりゃせんことあ しとりゃせん。」
杵太郎「ありゃあせんこたあ ありゃあせんて…。」
金太「ありゃあせんこたあ ありゃあせんて…。」
黒鉄「大将! 金太さん!」
金太「あっ!?」
杵太郎「何や!?」
黒鉄「坊ちゃんが逃げました。」
杵太郎「うん? あ…。」
居間
♬~(ラジオ)
ひさ「算太の逃げ足の速えことにゃ 感心するわ。」
小しず「マラソン選手じゃったら 金メダルかもしれませんけど。」
ひさ「あほうなこと。 じゃあけど 銅メダルじゃったら?」
小しず「お義母さん そういうことじゃありません。」
2人「フフフフフッ。」
小しず「どうも あの子あ お菓子づくりに気ぃがいかんようで。」
ひさ「困ったもんじゃ。 いずれ 後を継ぐいうのに あ~ そんなら頂きましょうか。」
小しず「はい。」
安子「頂きま~す!」
小しず ひさ「頂きます。」
ひさ「う~ん!」
小しず「おいしいなあ。」
2人「うん。」
安子「私も作りてえなあ。」
小しず「うん?」
安子「泥のおだんごじゃのうて おじいちゃんとか お父さんみてえに 本物の 甘えお菓子ゅう作る人になりてえ!」
(笑い声)
ひさ「安子あ そねんこたあ せんでええんよ。」
安子「何で?」
ひさ「何でて おなごの子なんじゃから。」
お菓子司たちばな
安子「あっ いらっしゃいませ。」
きぬ「安子ちゃん。」
安子「あっ きぬちゃん。」
きぬ「あんころ餅5つちょうでえ。」
安子「は~い。 なあ きぬちゃんは将来 お豆腐作る人になるん?」
きぬ「豆腐屋のおかみさんに なるんじゃねえかなあ。 うちは おなごばあで 私ゃあ一番下じゃろ。」
安子「うん。」
きぬ「お父ちゃんも お母ちゃんも お姉ちゃんも 一番下の私に婿をもろうて 店ょを継がす魂胆らしいわ。」
安子「魂胆て…。」
きぬ「ええなあ 安子ちゃんは お兄ちゃんがおって。 好きな人のとけえ お嫁に行きゃあええんじゃから。」
安子「好きな人?」
勇「みんな入れ入れ わしのおごりじゃ!」
一同「わ~い!」
勇「おう あんこ。」
安子「安子じゃ!」
「わし あんころ!」
「草餅!」
「あっ わしも!」
勇「連勝記念じゃ。 隣の学校と試合して勝ったんじゃあ。 雉真選手 逆転のツーランホームラン!」
安子「おごりじゃ言うて 本当に払えるんじゃろうか。」
きぬ「払えるじゃろ。 勇ちゃんのお父さん 雉真繊維いう 大きい会社の社長さんなんじゃあてえ。」
安子「な~んじゃ。 自分が払ううみてえに かっこええこと言うて。」
きぬ「ええとこ見せたかったんじゃろ。」
安子「誰に?」
きぬ「はあ… 分からなんだら ええ。」
安子の部屋
安子「びっくりした。 お兄ちゃん 何? どないしたんで?」
安子「おはぎが躍りょうる! ハハッ! わあ! フフフッ。」
金太「算太! また こないなところで怠きょうって。 何ゅう無視ゅうしよんなら お前…。 あっ ちょちょちょ 貸せ。 菓子ゅう おもちゃにすな! もう…。」
算太「父ちゃん。」
金太「ああ?」
算太「わし ダンサーになる。」
金太「ダン…!?」
居間
算太「チャップリンを見たんじゃ。」
金太「また仕事抜け出して 映画に行っとったんか。」
杵太郎「まあ まあ まあ。 それで?」
算太「チャップリンが パンにダンスを躍らしょうったんじゃ。 本当に パンが躍りょうった。 わしゃあ 感動したんじゃ。 西洋のダンスを勉強して ダンサーになる。」
杵太郎「算太 ダンサーいうのは おなごの仕事じゃあ。」
算太「え… そうなん…?」
杵太郎「大阪や神戸にゃあ ダンスホールちゅうのんがあるんじゃ。」
算太「ダンスホール…。」
杵太郎「べっぴんさんが ぎょ~さん雇われとる。 そけえ 男が行って 切符を買うて 気に入った おなごと踊るんじゃ。」
金太「売れっ子のおながあ 指名が絶えんからのお。」
杵太郎「ああ。」
金太「順番待つだけで ひと苦労じゃ。」
杵太郎「ハハハハッ。」
ひさ「あんたら えろう詳しいな。」
杵太郎「とにかく 男にゃあ ダンサーいう職業はねえ!」
金太「分かったら 血迷うとらんと まじめに修業せえ。」
算太「嫌じゃ。 わしゃあ ダンサーになる。」
金太「じゃあから! 男あ ダンサーにゃあ なれんのんじゃ!」
算太「誰が決めた?」
金太「おめえは たちばなの跡継ぎじゃ。」
算太「誰が決めた!?」
金太「算太!」
安子「やめて! もう怒らんといてあげて。 私がお婿さんもらうから。 いやいや
言いよんじゃねえよ。 うちのお菓子 大好きじゃもん。 ずっと この家で 甘えお菓子に囲まれて 暮らせるんじゃったら 私ゃあ うれしい!」
小しず「ありがと 安子。 じゃけど それはおえん。」
安子「何で?」
小しず「算太。 お兄ちゃんが 妹に こねん気う遣わしたら おえんよ。」
庭
算太「安子 すまなんだな。 小せえ おめえにまで心配かけて。 はい。 おわびのしるしです。」
安子「頂きま~す。 むしゃむしゃ むしゃむしゃ。」
算太「おいしいですか?」
安子「まじいです!」
算太「えっ?」
安子「だって お兄ちゃん おだんご作りょうる時 いっこも楽しそうじゃねえもん。 作る人の気持ちが お菓子に乗り移るって おじいちゃん いっつも言いようる。 おはぎのダンスは あねん楽しそうじゃったのに。」
安子「(笑い声)」
<算太は ものにならなかったら すぐに帰ってくる約束で 大阪で ダンサー修業をすることになりました>
<更に…>
居間
♬~(ラジオ)
(腰が鳴る音)
杵太郎「ああっ!」
小しず「お義父さん?」
杵太郎「腰が… うっ…。」
小しず「どねんされたんで お義父さん!」
ひさ「えっ 何?」
<杵太郎が隠居することになり…>
金太「親父!」
<そして…>
工場
金太「小豆の声を聴けえ。 時計に頼るな。 目を離すな。 何ゅうしてほしいか 小豆が教えてくれる。 食べる人の 幸せそうな顔を思い浮かべえ。 おいしゅうなれ。 おいしゅうなれ。 おいしゅうなれ。 その気持ちが 小豆に乗り移る。 うんと おいしゅうなってくれる。 甘えあんこが出来上がる。 あっ。 あっ!」
金太「おう おはよう 安子。」
安子「おはようございます。」
一同「おはようございます。」
<安子は 14歳になりました。 Now, Yasuko is fourteen years old>