ドラマダイジェスト

連続テレビ小説「カムカムエヴリバディ」第3話「1925―1939」

あらすじ

高等小学校を卒業し14歳になった安子(上白石萌音)は、あんことおしゃれが大好きなごく普通の女の子。家業の手伝いをしていますがまだこれといった将来の夢は見つかっていません。店番をしていると、ある青年が和菓子を買いにきました。この青年、実は安子の幼なじみ・勇(村上虹郎)の兄・雉真稔(松村北斗)でした。流ちょうに英語を話す稔の姿に安子は心を動かされます。この出会いがやがて安子の運命を大きく変えることに。

3話ネタバレ

商店街

安子「こんにちは。」

「あっ 安子ちゃん こんにちは。」

安子「こんにちは。」

荒物あかにし

安子「ごめんくださ~い。 たちばなです。 ご注文の品 お届けにあがりました。」

安子「はい。」

吉兵衛「あ~ ハハハハハッ。」

清子「うちとこは 3人きりやのに こないぎょうさん?」

吉兵衛「ケチくせえことばあ言うな。 さあ 吉右衛門 かしわ餅じゃあ なんぼでも食え。」

吉右衛門「お父ちゃん お母ちゃん ありがとうございます。 是非 このかしわ餅 隣近所の皆さんにも食べてもらおおえ。」

吉兵衛「何でじゃ 吉右衛門。 おめえのために作らせたんでえ。」

吉右衛門「よう分かっとります。 しゃあけど 僕は 元気に育ちゅうるいうことを 町の皆さんにも 知ってもらいてえんじゃ。」

吉兵衛「吉右衛門… おめえという子は…。」

<高等小学校を卒業した安子は 家業の手伝いをしています>

橘家

お菓子司たちばな

安子「ただいま 帰りました。」

きぬ「お帰り。」

安子「きぬちゃん。 お店番してくりょうったん。」

きぬ「おばちゃんが 買い物行く間 見といて言うて。」

安子「悪いなあ。」

きぬ「おだんごもらえるだけ 豆腐屋の店番よりええわ。」

安子「フフフフッ。 何ゅう読みょん? わあ~ すてき!」

きぬ「安子ちゃん かけてみたら? パーマネント。」

安子「え~ そんな…。」

きぬ「ハハハッ。 恥ずかしがるこたあねえが。 きっと似合うで。」

安子「え~。」

<安子は 甘いお菓子や おしゃれが好きな ごく普通の女の子でした>

居間

ラジオ『あんたが まんじゅうが怖いっちゅうさかい 皆 ない銭持ち寄って… まんじゅう 買うてきましたんやないかいな。 ええ? それを あんた まんじゅう 皆 食うてしもうてからに ホンマに。 あんたのホンマに怖いもんは 何だんねん』。 『はい。 今度は 熱~いお茶が1杯 怖い』。

(笑い声)

ひさ「私も 熱いお茶が怖えわ。」

杵太郎「ああ わしも わしも わしも。」

小しず「はいはい ただいま。」

金太「わしは 寝らあ。」

小しず「あっ はい じゃあ ちょっとお布団…。」

金太「いや ええ ええ。 うん。 ほんなら おやすみ。」

杵太郎「は~い おやすみ。」

安子「おやすみなさい。」

金太「(笑い声)」

安子「なあ お母ちゃん。」

小しず「うん?」

安子「パーマネントかけてええ?」

小しず「え~?」

安子「なあ ええじゃろ? お母さんから お父さんに言うて。 お願い!」

小しず「そんなら 機嫌のええ時ゅう狙うて 言うてみょうか。」

安子「本当? 絶対よ。 約束。」

小しず「はいはい。」

安子「フフフフッ。」

ラジオ『ニュースを申し上げます。 11日 午前2時半ごろ 満蒙国境 ノモンハン付近において 外蒙古兵およそ100名が越境。 不法にも 満州国軍警備隊に射撃を加えました』。

安子「何じゃあ 言よん?」

杵太郎「満州で 戦闘じゃあて。」

安子「えっ…。」

<日中戦争のさなか 満州とモンゴルの境界線を巡って 日本軍とソ連軍が衝突しました>

<その後 しばらくして パーマネントが禁止となりました>

神社

<なぜ戦争が激しくなると パーマネントがかけられないのか 安子には よく分かりませんでした>

安子「早うパーマネントがかけられる日が 来ますように。」

道中

「1 2!」

一同「1 2 3 4!」

「1 2!」

一同「1 2 3 4!」

「1 2!」

一同「1 2 3 4!」

勇「あんこ!」

安子「勇ちゃん。」

勇「久しぶりじゃなあ あんこ。」

安子「や す こ。」

勇「もうすぐ地方予選じゃあ。 あんころ餅ゅう持って応援に来えよ。」

安子「誰が あんたの応援なんか。」

勇「見とけえ。 絶対 甲子園行ってたる!」

<小学校で同級生だった勇は 中学に進学し 全国中等学校優勝野球大会出場を 目指しています。 今で言う 高校野球の全国大会です。 野球少年たちの夢は 甲子園に出場すること。 そして ゆくゆくは 六大学野球で活躍することでした>

<安子には これといって 夢と呼べるものはありません。 安子は ただ 大好きな町で 大好きな人たちと暮らす日々が いつまでも続けばいいと思っていました>

商店街

ラジオ『よ~い 始め!』。

♬~(『旧ラジオ体操第一』)

橘家

お菓子司たちばな

安子「おばあちゃん。」

きぬ「ああ?」

安子「すいか切ってあるから食べてこれえ。」

きぬ「ヘヘヘッ そうか。 ほんなら。」

(足音)

安子「いらっしゃいませ。」

稔「あっ。 はあ…。」

安子「どうぞ 涼んでください。」

稔「あ… すんません。」

安子「暑いですねえ。」

稔「いや~ 全くです。」

安子「お使いものですか?」

稔「いや 帰省してきたところなんじゃけど 慌てて汽車に乗ったもんじゃから 土産を買いそびれしもうて。」

安子「ご家族にお土産ですね。」

稔「あ~ 何がええじゃろう。」

安子「そうですねえ。 このところは わらび餅が よう出ます。」

稔「ああ 涼しげでええですね。」

安子「しゃあけど 私は おはぎがええ思います!」

稔「おう…。」

安子「あっ すんません…。」

稔「フッ そねん おいしんですか?」

安子「はい! うちのあんこは 絶品なんです。 小せえ時から ず~っと食びょって 飽きんのじゃから 間違いありません!」

稔「そんなら その… おはぎゅう もらおうかな。」

安子「ハハハ… はい。 なんぼ包みましょう。」

稔「あ~ 20あれば足るかな。」

安子「まあ ぎょうさん。 ありがとうございます。」

稔「おはぎ言うんですね。 ぼた餅かと思いよった。」

安子「春のお彼岸の頃は ぼた餅言う お店もある思いますけど うちは年中 おはぎ言うてます。」

稔「君は この店の?」

安子「はい 娘です。」

稔「そう。」

安子「口の悪い友達からは あんこ あんこって からかわりょうります。 あっ フフフ… 私… 安子っていう名前なんです。」

稔「ああ… なるほど。」

安子「フフフッ。 はい。 お待たせしました。」

稔「ああ ありがとう。 え~っ…。」

安子「1円60銭です。」

稔「じゃあ はい。」

安子「はい ありがとうございます。」

稔「それじゃ。」

安子「ありがとうございました。」

居間

ラジオ『全国中等学校優勝野球大会 決勝戦。 海草中学対 下関商業の試合は 第7回の裏 下関商業の攻撃です。 準決勝でノーヒットノーランを達成した 海草中学の嶋 清一投手。 この決勝戦も 依然 ノーヒットノーランに抑えております。 怪腕 嶋投手 どこまでノーヒットに抑えるのか。バッターボックスは 4番の打者 友浦君。 一塁ランナーは フォアボールを選んだ森山君です』。

<ラジオは爆発的に普及し 今は 橘家でも 居間と工場に 一つずつあります>

ラジオ『アウト!』。

工場

ラジオ『アウト!』。

一同「お~!」

金太「嶋 清一君 見事な投球じゃな。 敵ながら あっぱれ。」

黒鉄「下関商業にゃあ悪いけど 完封してほしいですね。」

菊井「2試合連続 ノーヒットノーランなるか。」

丹原「そねんなことになったら まさに完全優勝じゃあ。」

金太「え~ 注文の分 そろうたか?」

黒鉄「はい 皆 上がりました。」

金太「うん ほんなら 配達行ってけえ。 あとは わしが聞いといちゃる。 おう。 性根を入れえ。」

雉真家

玄関

安子「ごめんくださ~い! たちばなでございます。 ご注文の品をお届けにあがりました。 ごめんくださ~い! あ…。」

稔「あっ…。 ああ 君 配達もしょおるん?」

安子「はい 時々は。 今日は みんな ラジオから離れようと せんもんじゃから 私が。」

稔「甲子園?」

安子「そうです。」

稔「おんなじじゃあ。 うちも女中たちまで ラジオの前から動かんから しょうことなしに僕が出てきたんじゃ。」

安子「フフッ まあ。 フフフッ。 あっ。」

稔「君の言よったとおり 絶品のあんこじゃった。」

安子「でしょう?」

稔「じゃあけど 今日 注文したんは 僕じゃないんじゃ。」

安子「えっ?」

稔「父が あのおはぎゅう すごお 気に入ってね。 大事なお客様に出してえそうじゃ。」

安子「まあ うれしい。 ありがとうございます。 どうぞ。」

勇「兄さん! 嶋が8回もノーヒットノーランに抑えたぞ! いよいよ9回じゃ! あんこ。」

安子「安子じゃあてえ!」

稔「勇 おめえか 犯人は。」

勇「何じゃあ 犯人て。 ハハッ あんこが あんころを配達か。」

稔「勇!」

勇「兄さん 早う来て! 歴史的瞬間 聞き逃すで!」

稔「分かった。 うちの弟が 失敬しました。」

安子「あっ いえいえ そんな。 しゃあけど びっくりしました。 こちらの名字ゅう見て もしかしてとは思よったんですけど…。 勇たんのお兄さんじゃったんですね。」

稔「ええ 稔といいます。」

安子「稔さん…。」

『Excuse me. where‘s the stop for Okayama Station?』

安子「えっ…? あっ あっ あの…。」

稔「It‘s that way. Go straight along this street. You’ ll find it on your legt.」

「Thank you.」

「Thank you.」

稔「No problem.」

安子「英語… ですか?」

稔「ああ そうじゃ。」

安子「英語が話せるんですか?」

稔「まあ ちょびっとね。」

安子「何で…?」

稔「明日の朝 6時30分にラジオをつけてみて。」

橘家

居間

ラジオ・ハリス『Good morning everybody. 皆さん おはようございます。 「実用英語会話」の時間です。 講師の ジェームズ・バーナード・ハリスです。 Two friends meet‘ by chance’ in the street』.

<それは 英語講座でした>

ラジオ・ピンダー『Life‘s full of surprises』

ラジオ・ハリス『It is. I didn‘t expect to see you』.

<何を言ってるのか 安子には一つも分かりませんでした。 ただ 流れるような英語の調べに うっとりと耳を傾けました>

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