あらすじ
クリーニング屋での仕事が性に合ったるい(深津絵里)。時々やってくるちょっと変わったお客さん(オダギリジョー)の正体はつかめぬままでしたが、仕事にもだんだんと慣れていきました。そんなある日、るいが一人で店番をしていると、田中(徳井優)という強面(こわもて)の男が店にやってきて、預けた服に穴が空いていたとクレームをつけてきました。弁償だけじゃなく慰謝料を払えと迫られ、困ったるいでしたが…。
41話ネタバレ
竹村家x
竹村クリーニング店
<るいは クリーニングの仕事た好きでした。 シャツの汚れが落ちる度に 自分の背負ってきたもの 過去のしがらみや 悲しみが 消えてなくなっていくような 気がしました>
<そして 真っさらな自分の人生を 歩き始められる>
<そう信じることができました>
道中
「おう! 平ちゃん。」
平助「おう。」
竹村家
竹村クリーニング店
(物音)
るい「あっ いらっしゃいませ。」
片桐「こんにちは。」
るい「こんにちは。」
片桐「これ お願いします。」
るい「はい。」
片桐「キャップ開けたまま 万年筆 入れてしもうて…。」
るい「大丈夫です。 落ちますよ。」
片桐「助かります。」
るい「ここに お名前と ご住所と あれば 電話番号 お願いします。」
片桐「はい。 いつ 出来ますか?」
るい「あっ ええと 土曜にゃあ 出来とります。」
片桐「ああ よかった。 そしたら よろしくお願いします。」
るい「はい。 ありがとうございました。」
るい「(心の声)『万年筆の形が ちいとる。 いっつも ここに さしよるんじゃろうなあ。 いつでもメモ取れるようにしとんかな。 何のお仕事じゃろう。 お仕事も お人柄も 堅実なんじゃろうなあ。 キャップう 閉め忘れるくれえ 何ゅう慌てて書き留めとったんじゃろう。 片桐春彦さん。 字も きれいじゃった。 育ちが えんじゃろうなあ。 じゃけど 自分で出しに来るいうこたあ お母さんたあ 一緒に住んどらんいうこと…?』
「すいません。」
るい「わっ! あっ…。」
宇宙人「出来てます?」
るい「はい。 よかったです。 取りに来てもろうて。 お名前う 聞き忘れてしもうたから。 ひとつき以上も来とられんから どねえしようか思よったんです。」
(指で カウンターをたたく音)
るい「(心の声)『な… 何? 早うせえいうこと? こっちがイライラするんじゃけど。』お待たせしました。」
和子「るいちゃん。 後で こっち お願い。」
るい「はい。 え~ 2,040円です。」
宇宙人「はい。」
るい「(心の声)『こねえな大金を無造作に…。 何で稼いだお金じゃ? 怖んじゃけど…。』はい。」
宇宙人「これ お願いしますね。」
るい「はい…。(心の声)『またじゃ…。 一貫性のねえ服の数々。 どのシャツにも ちいとる 胸のケチャップ。 何か 今回は丸首シャツが多いなあ…。 うん?』」
るい「お客さん ポケットに何か…。 はあ…。 また 名前う聞きそびれてしもうた…。 何じゃろう…。 見るんが怖え…。」
るい「ナット?(心の声)『…にしては 妙な形じゃなあ。 何かの部品じゃろうか? やっぱり 工場で働きょおる人?』
<宇宙人の正体の手がかりは 一向につかめませんでした>
居間
てる子「ごめ~ん! 今日 もう しまい?」
和子「あら 山崎さん。 ええよ。」
てる子「うちの人の冬もん 1枚出し忘れとったんやわあ。」
和子「はいはい。 え~っと ジャケットね。」
てる子「うん。」
和子「はい。 え~… あら 中に何か…。」
てる子「えっ? 『バー あや子』? もう あのぼんくら亭主! 大した稼ぎもないのに こないなとこ!」
和子「晩ごはんのおかず 1品減らしたり。」
てる子「いや 今日は 晩ごはん抜きや。」
和子「えらい厳しいな。」
てる子「あや子に食べさせてもうたらええねや。」
平助「ハハハッ あかん。 あそこのママの 出しよるもんは 食えたもんやあれへん。」
和子「あんた。」
平助「うん?」
和子「何で知ってんねん。 あんたも晩ごはん抜きや!」
平助「そんな殺生な…。」
てる子「どこの亭主も一緒やな。 ほな 頼んます。」
和子「はい。 ほな 確かに。」
るい「本当に おもしれええ仕事ですねえ。 洗濯もんの数だけ 人生がある思うたら 何か 汚れた服も いとおしゅう思えてきます。」
平助「おおきに。 るいちゃんに そない言うてもらえたら この仕事やっとって よかった 思えるわ。」
和子「ホンマやね。」
平助「うん。」
るいの部屋
るい「『善女のパン』。 『小さなパン屋を営むミス・マーサは 40歳で独身でした』。 『近頃 ミス・マーサには 気になるお客さんがいました』。 『いつも 2つでたった5セントの 古いパンだけを買って帰る男性』。 『きっと貧しい画家なんだと ミス・マーサは推測しました』。」
るい「『ミス・マーサは その客が 屋根裏部屋で 古い かたいパンを食べながら 絵を描く様子を思い描きました』。 『きっと この店に並ぶ もっとおいしいパンを食べたいと 思っているはず』。 『私の作った このおいしい食事を 一緒に楽しめたら…。 ミス・マーサは そんな夢想をしていました』。」
るい「『そして 地味なサージを脱ぎ 青い水玉のブラウスを着て 彼の来店を待つようになりました』。
竹村クリーニング店
平助「ほな 御用聞き行ってくるわ。」
るい「行ってらっしゃい。」
(足音)
田中「どないしてくれんねん。」
るい「えっ?」
田中「こないだ ここに出した 背広なんやけどな ほれ ここ! ポケットに穴が開いてしもとんねん。」
るい「ええと… もっぺん お名前う教えてください。」
田中「田中やけど。」
るい「田中様。 ちょ… ちょっと待ちょってください。 田中様…。 お客様 こりゃあ 最初から開いてとった穴です。」
田中「何やと?」
るい「ご来店の時 店の者が 一緒に確認した思いますけど。 ほら こけえ 『右裾に穴あり』て。」
田中「言いがかりつけるんか?」
るい「とんでもねえ。 こねんしてメモが…。」
田中「あとから書き足したんやろが!」
るい「そんな…。」
田中「弁償せえ。 これはなあ ごっつう高かったんじゃ。 わしのお気に入りなんじゃ。 それを こないにしよって 服代だけやあれへん。 慰謝料払え 慰謝料!」
(カウンターを蹴る音)
田中「安心して夜道歩けんようにしたろか こらあ!」
(肩をつかむ音)
田中「な… 何じゃ お前は。」
片桐「あんたのしてることは 立派な恐喝です。」
田中「恐喝ぅ?」
片桐「それに カウンターを蹴る行為は 威力業務妨害罪にあたります。」
田中「言うてくれるやないか にいちゃん。 伝票に うそ書き足したんは この店の方やで。 詐欺や 詐欺! (大声で)この店は 詐欺働いとるで~! 痛い 痛い 痛い。」
片桐「その大声も威力業務妨害です。 最近 クリーニング店に言いがかりをつけて 金を脅し取る犯罪が多発してるらしい。 うちの弁護士事務所にも 相談があったんですよ。」
田中「ええわ!」
片桐「大丈夫ですか?」
るい「はい… ありがとうございました。」
片桐「よかった。 …で 出来てますか?」
るい「あっ はい。 弁護士さん なんですね。」
片桐「…の卵です。 正確には。 ハッタリだけは一人前ですけどね。」
るい「きれいに落ちましたよ。」
片桐「ホンマですか。 ありがとう。 週明け 先生のお供で裁判所に行くんで どうしても それまでにと思うて。 助かりました。 おいくらですか?」
るい「40円です。」
片桐「はい。 僕も好きです。 O・ヘンリー。 ほしたら。」
るい「はい…。 ありがとうございました。」
<真っ白な るいの世界が ほのかに色づき始めていました。 Rui s pure white world began to see a hint of color>