あらすじ
るい(深津絵里)は、時々クリーニング店にやってくる片桐という男に恋心を抱いていました。ある日、弁護士の卵だという片桐から映画に誘われたるい。生まれて初めてのデートに心が沸き立ちます。一緒に暮らす和子(濱田マリ)と平助(村田雄浩)に温かく送り出され、片桐とのデートを楽しむるいでしたが…。その後るいは、店を訪れていたちょっと変わったお客さん(オダギリジョー)の正体を知ることになります。
42話ネタバレ
映画館
「暗闇でしか 見えぬものがある。 暗闇でしか 聴こえぬ歌がある。 黍之丞 見参!」
「斬れ~!」
「てや~!」
「や~!」
「うお~!」
「くそっ!」
「や~!」
「や~!」
「あ~!」
「うわ…。」
「おりゃ! があっ! くっ… くっ…。 とりゃ~!」
竹村家
居間
平助「何や もうひとつやったなあ…。」
西山「え~? 割引券で見てて 何言うねん。」
平助「そうかて 先に『三十郎』見てしもたからなあ。」
西山「かあ~!」
和子「『椿三十郎』 あれ 面白かったなあ。」
平助「あないなもん見せられたら モモケンの殺陣が うそくそう見えるで。」
西山「よう そんな殺生なこと…。 戦前から さんざん モモケンに楽しませてもろといて。 タワシ五十郎が。」
平助「何や タワシ五十郎て。 タワシは お前やろ。」
西山「お前は ワタシや。」
平助「うまい!」
竹村クリーニング店
(足音)
るい「あっ いらっしゃいませ。」
片桐「こんにちは。」
るい「こんにちは。」
居間
西山「モモケンはやな…。 うん?」
竹村クリーニング店
るい「これ お預かりしとったシャツです。」
片桐「いつもありがとう。 今日は これ お願いします。」
るい「はい。」
片桐「今日も O・ヘンリー?」
るい「あ… はい。 なかなか読み終わらんもんじゃから。」
片桐「ああ 数が多いからなあ。」
るい「ちょっとずつ楽しみょうります。」
片桐「面白いのはあった?」
るい「私のお気に入りは 『善女のパン』です。」
片桐「『善女のパン』? どんな話やったかな…。」
るい「パン屋の女主人のミス・マーサのお話です。 いつも 安い 古いパンだけ買う お客さんのことが 気になっとるんです。」
るい『貧しい画家らしい彼は もっといいパンを買いたくても 買えないんだわ。 でも 包みに パイやマフィンを忍ばせたりしたら 彼のプライドを傷つける。 ある日 ミス・マーサは とっさに思いついて… 男性のパンに そっそりバターを塗りました』。
るい「ミス・マーサは その日 ずっとドキドキして過ごします。 男性が パンをかじって 自分の ちょっとした いたずらに 気付いた瞬間のことを想像して…。 彼は驚いて それから バターを塗った人のことを 考えてくれるかしらって。 でも…。」
『このおせっかいの老いぼれ猫! お前のせいで 何もかもが台なしだ!』
るい「彼は 建築の製図を描いている人で 古いパンは 食べるんじゃなくて その消しゴムとして使われてたんです。 3か月かけて描いた製図が 最後の最後に バターのせいで台なしになった。」
るい『そう聞かされたミス・マーサは 青い水玉のブラウスを脱ぎ また古いサージに着替えました』。
るい「おしまい。」
(拍手)
るい「あっ 嫌じゃ 私… 一人で入り込んでしもうて。」
片桐「ハハッ。 いや 面白いなあ。」
るい「はい。 本当におもしれえ お話で。」
片桐「あっ いや そうやなくて あなたが。」
るい「えっ?」
片桐「そんな皮肉な話を お気に入りやて言えるあなたが 面白いと 僕は思います。 せやけど ミス・マーサは その客に訴えられるかもしれんなあ。」
るい「えっ?」
片桐「損害賠償請求をされる可能性はある。」
るい「フフッ そねん感想を持つたあ 片桐さんの方が よっぽど おもしれえわ。」
片桐「ハハハッ そうか? そしたら これ。」
るい「ちょうど頂きます。」
片桐「ありがとう。」
るい「ありがとうございました。 いけん。 ポケットに何か入ったままじゃ…。」
和子「何か 大事なもんか?」
るい「あ… い… いいえ…。」
るいの部屋
和子「るいちゃん。 洗濯物 ここ置いとくよ。」
るい「あっ! お… おばさん…。」
和子「それ 最初に ここ来た時 着てとった ワンピースやな。 デートか? やっと出番が来たなあ!」
るい「春もんじゃけど ええじゃろうか?」
和子「大丈夫 薄手やから着られる。 アッハッ!」
竹村クリーニング店
るい「本当に これでええじゃろうか。」
和子「大丈夫。 かいらしい かいらしい。」
るい「じゃけど…。」
和子「忘れもんないか? お財布 ハンカチ ちり紙。」
るい「あっ ハンカチ ゆうべ洗うて…。」
平助「こっちや。 楽しんどいで。」
るい「ありがとうございます。」
映画館
出入口
片桐「よかった。 ミス・マーサのバターみたいに 全部ぶち壊しにしてしもうたら どないしょうかと思った。」
るい「フフフッ フフッ。」
館内
出入口
片桐「あ~ 何や まだ頭が ぼ~っとしてるわ。」
るい「私もです。 始まってすぐ 物語に引き込まれてもうて…。」
片桐「そうそう あの最初のシーン。 三十郎は ああ見えて倫理的で 弁護士やったら 優秀やったやろうなあと思うて見てたわ。」
るい「本当に お仕事熱心なんですね。」
片桐「まだ… 時間ええかな?」
るい「えっ…。」
片桐「よかったら もうちょっと話がしたいなあと思て。」
るい「私も… 私も もっと お話がしてえです 片桐さんと。」
片桐「そしたら どうしよう…。 せっかくやから 食事でもしようか。」
あっ 近くに おいしいレストランがあるんやけど。」
るい「うれしいです。 是非 連れてってください。」
(風の音)
片桐「あっ… え~っと 何やった…。 そうや レストラン。 すぐ近くやねん。 大学の先輩に教えてもろた店で 何でも おいしいんや。 オムライスも ビーフシチューも…。」
るい「すみません。 やっぱり 帰ります。 今日は ありがとうございました。 さようなら。」
<るいは惨めでした>
<勝手に浮かれて。 たたき落されて。 自分は ミス・マーサよりも惨めだと思いました>
ジャズ喫茶・Night and Day
(拍手)
<そのトランぺッターは るいが ひそかに宇宙人と名付けた 謎の男でした。 Rui discovered the trumpet player was the mysterious man she’d secretly named the “alien”>