あらすじ
安子(上白石萌音)は稔(松村北斗)から教わったラジオ英語講座を聴きはじめました。初めて触れる英語はさっぱりわかりませんでしたが稔のおかげで新しい世界に夢中になっていきました。稔は、父・千吉(段田安則)が一代で築き上げた雉真繊維の跡取り。将来欧米との取り引きをするため、英語を学んでいます。ある日、安子は稔に誘われて初めて喫茶店に行くことに。そこではマスター(世良公則)こだわりのジャズが流れていて…。
4話ネタバレ
橘家
寝室
(目覚まし時計の音)
居間
安子「おはようございます!」
ひさ「おはよう 安子。」
小しず「おはよう。 どねんしたんで バタバタと はしたねえ。」
ラジオ・ハリス『Let‘s go for a troll』.
ラジオ・ピンダー『Good idea! Where shall we go?』.
小しず「何じゃろうか? こねえだから 熱心に。」
ひさ「もう14じゃ。 急に何かに熱中することもあろうえ。」
ラジオ・ピンダー『Oh. May I stop by that little curio shop?』.
安子「キュウリ…?」
<まだ なかなか英語を 聞き取ることができません>
雉真家
稔の部屋
(『実用英語会話』のラジオ)
勇「(あくび) あ~ 夏休みまで よお そねんこと続けられるなあ。」
稔「お前の素振りと おんなじじゃ。 やらんと気持ち悪いじゃろ。」
勇「なるほど。」
ダイニング
美都里「稔。 今朝は あさりのおみそ汁にしたんよ。」
稔「ああ 僕の好物じゃ。」
美都里「下宿生活じゃあ 食べるにも不自由しとるじゃろ。 なんぼでも お変わりせられえよ。」
稔「ありがとうございます。」
勇「何でなら 兄さんばあ。」
美都里「勇は 言わなんでも 好きなだけ食べるじゃろ。」
勇「それもそうじゃ。」
(笑い声)
千吉「稔 クラブ活動は しょおるんか?」
稔「はい 商工経営研究会に 入っています。」
千吉「ほう そりゃあ 学ぶことが多いじゃろ。」
稔「はい。 何年か前 先輩方がアメリカに渡って 日本の衣料品の展示会を行い 大変な成功を収めたそうです。」
千吉「学生が そねえな企画を。 大した行動力じゃあ。 雉真に欲しいのお。 ハッハッハッハッハッ…。」
<雉真繊維は 稔の父 千吉が 一代で築き上げた会社です。 足袋の製造から始まり やがて 学生服の製造販売で 名をはせました>
<今は 軍からの発注を受け 軍服も作っています>
橘家
居間
ラジオ『そうでござんすか。 分かりやした』。
小しず「安子 悪いけど 配達行ってくれる?」
安子「え~ 浴衣 縫うてしまいたいんじゃけど。」
♬~(ラジオ)
ひさ♬『くにを出てから』
小しず「ほんなら お母さん 配達行ってくるから 安子 それ縫いながら お店番しょってくれる?」
杵太郎♬『どけえ配達つるんなら?』
(笑い声)
小しず「弓丘町の雉真さんとこ。」
ひさ「あら 雉真さんて あの雉真繊維さんじゃあろ。」
小しず「うん。」
杵太郎「こねえだも 注文してくれよったの。」
安子「あの…。」
小しず「社長さんが えろう気に入ってくれたみてえで。」
ひさ「そりゃあ ありがてえなあ。」
安子「あの… あの…。」
杵太郎♬『粗相のねえようになあ』
小しず「はい。」
安子「わ… 私が行く!」
小しず「えっ? でも 縫い物…。」
安子「えんじゃ。」
小しず「えっ?」
ひさ「あ~。」
安子「あっ あっ…。 もう嫌じゃ もう…。」
小しず「ほどかれえ はよ… 何しょんじゃ。」
ひさ「ハハハハハッ!」
安子「う~ん! もう着替えてくる!」
小しず「えっ えっ…。」
雉真家
玄関
安子「ごめんくださ~い。 たちばなでございます。」
タミ「は~い!」
(戸が開く音)
安子「ご注文の品 お届けにあがりました。」
タミ「ありがとう。 ほな ご苦労さま。」
安子「ありがとうございます 今後とも ごひいきに。」
(戸が閉まる音)
本屋
安子「あっ すんません。」
稔「あっ こちらこそ。 やあ!」
安子「こんにちは。 あっ あの! 聴きました ラジオ! 『実用英語会話』。」
稔「そう。 どうじゃった?」
安子「はい。 英語って 何か 歌ようるみてえで… 何か 音楽ぅ聴きょうるみてえで。 すてきな調べですねえ。」
稔「なるほど。 そうかもしれんなあ。」
安子「しゃあけど 何ゅう言ようるか全然分かりません。 『メヤイ スタ バーダッ リトゥー キュウリ ショッ…』。 きゅうりって英語なんですか?」
稔「きゅうり? ああ『May I stop by that Iittle curio shop?』のところだね。 これ キュウリじゃのうて キュウリオ 骨とう品のことじゃ。 『あの小さな骨とう品店に 立ち寄ってもいいですか?』。」
安子「骨とう品…?」
稔「ああ。」
安子「はあ~ 嫌じゃあ 私…。 キュ… キュウリ… キュウリオ…。」
稔「番組のテキスト 教科書じゃ。 まあ まだ難しいかもしれんけど 目で追おてみるだけでも役に立つ思うよ。」
安子「テキスト…。 こねえなんがあったんじゃなあ。 へえ~。」
安子「ありがとうございました。 さよなら。」
稔「さよなら。 乗らんのん?」
安子「乗れんのんです…。」
稔「ハハハハッ…!」
安子「そねん笑わあでも…。」
稔「いやいや… ごめん。 ごめん ごめん。 なあ よかったら 僕が教えたぎょうか。」
安子「えっ…。」
稔「ああ ごめん 忙しいかな。」
安子「あっ いえ 是非! お願いします!」
稔「じゃあ… 明日の午後 僕は 旭川まで散歩して 本を読むつもりじゃから。」
安子「はい ありがとうございます。」
稔「それじゃあ 気を付けて帰ってね 安子ちゃん。」
安子「はい。」
稔「うん。 それじゃ。」
安子「それじゃ。」
橘家
お菓子司たちばな
旭川
稔「怖おねえから。 前見て 前。 その調子。 もう少ししたら手ぇ離すよ。」
安子「あ~ いけん いけん! 離したらいけん!」
稔「離すよ。」
安子「いけん いけん いけん!」
稔「大丈夫。 顔上げて こぎ続けとったら 前 進から。 ほい!」
安子「あ~っ! あ~!」
稔「よし。」
安子「はい。」
稔「最初は ゆっくりな。」
安子「はい。」
稔「せ~の。 まっすぐ。」
安子「はい。」
喫茶店
♬~(レコード)
稔「喫茶店は初めて?」
安子「はい。」
稔「ここのコーヒーは おいしいんじゃ。」
安子「そうなんですか。」
稔「でも 安子ちゃんは ソーダ水の方がええかな。」
安子「いえ! コーヒーをお願いします。」
稔「コーヒー 2つ。」
健一「はい。」
定一「はい。 聞こえた。」
健一「はあ~。」
稔「よう ここで 入学試験の勉強しとったんじゃ。」
安子「ここで?」
稔「家におったら 勇が邪魔ばあ するから。」
安子「ああ。 フフフフッ。」
稔「それに マスターが珍しいレコードを ぎょうさん持っとるから。 外国の音楽が流れとったら 不思議と 勉強が はかどるんじゃ。」
定一「しゃあから音楽学校へ行けえ言うて あれほど…。」
健一「父さん。 稔さんは 雉真繊維の跡取りじゃから。」
定一「じゃあから 何なら。」
安子「あの… 私 よう知らんのんじゃけど 稔さんのお父さんの会社て 何を作らりょんですか?」
稔「あ… これ。」
安子「シャツ?」
稔「学生服。 詰め襟とか セーラー服もそうじゃ。」
安子「そうなんですね。 へえ~ すてき。」
稔「僕は いつか雉真の製品を 欧米と取り引きできるように したいんじゃ。 そのためにも 英語は勉強しとかにゃあ。」
健一「はい お待たせ。」
安子「あ…。 ありがとうございます。」
稔「ありがとう。 May I put sugar in your coffee?」
安子「メイ アイって… あっ 『お砂糖を入れてもいいですか?』。」
稔「正解。」
安子「あっ フフフッ。 あっ はい。 あ… イエス。 フフフッ。」
安子「おいしい…。」
稔「よかった。 安子ちゃんは?」
安子「えっ?」
稔「安子ちゃんの夢は? 何かあるん?」
安子「夢ですか?」
稔「うん。」
安子「私の夢は…。 あっ 今は 自転車に乗れるようになることです。」
稔「ハハッ そうか。」
♬~(レコード)
♬『Grab your coat, grab your hat baby Leave your worries on the doorstep just direct your feet On the sunny side of the street』
稔「『Louis Armstrong 「On the sunny Side of the Street」』. 『ひなたの道を』ってことかな…。」
♬『Life can be so sweet』
<ささやかな 甘い夢が 安子の中に芽生えようとしていました。 A sweet little dream was slowly blossoming in Yasuko‘s heart>